ベルサイユのばら

この声劇用台本は「オスカルとアンドレ」、「フェルゼンとマリー」の
4キャラに絞った構成になっているためストーリー的にかなり
端折った展開になっておりますことを予めお断りします。

全7話

オスカル アンドレ
マリー・アントワネット フェルゼン
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話
001 舞踏会の喧噪を抜けて、オスカルはフェルゼンと二人きりで話をしている。
  オスカル 「結婚?」
  フェルゼン 「そうだ、今度フランスへ来たのは父の言いつけで結婚相手を捜すためだ」
  オスカル 「では、トロアに行ったのも?」
  フェルゼン 「ああ、ディーゼル嬢というイギリス婦人の話をきくためだった。家柄もいいし、国の父も気に入りそうだ」
  オスカル 「愛してもいないのに結婚するのか、フェルゼン?」
  フェルゼン 「ならばオスカル、愛していれば、愛してさえいれば結婚できるのか?どうなんだオスカル!愛さえあれば結婚できるというのか?」
  OP挿入曲 薔薇は美しく散る
  アントワネットを囲んで貴婦人たちが談笑している。そこへ青と白の軍服に身を包んだフェルゼンがやって来た。
010 マリー 「まあ、すてき・・何てすてきなんでしょう」
  フェルゼン 「王后陛下、これがスエーデン軽竜騎兵の正装です」
  マリー 「一度お見せ下さいと申し上げた私のお願いをやっと聞き届けてくださいましたのね」
  フェルゼン 「はい」
  マリー 「本当によくお似合いですわ。でもどうして以前のように度々訪ねてくださらないのですか?心配してたのですよ。何か気を悪くしていられるのではないかと」
  フェルゼン 「王后陛下、わたくし事で恐れ入りますが実はただいま結婚話がすすんでおりまして」
  マリー 「結婚・・・結婚ですって?そうでしたの・・それは・・おめでとうございます・・相手の方は・・相手の方は・・きっと、すばらしい・・すばらしい・・」
  アントワネットの目にはみるみる涙が溢れた。堪えきれずに走り出した彼女はオスカルの前で足を止め、その顔を見上げた。アントワネットの泣き顔にオスカルは胸を突かれた。
  マリー 「フェルゼンが・・フェルゼンが結婚する・・年頃になれば誰だって結婚する。あたりまえのことじゃないの。何を驚くことがあって?何を泣くことがあって?泣いてやしないわ・・そうよ・・涙が・・涙が勝手に流れてくるだけ・・・」
  林の中、フェルゼンは木の幹に体をあずけるようにして立っていた。
020 オスカル 「なぜ言った?アントワネット様に・・なぜ言ったんだ、なぜだ、フェルゼン?」
  フェルゼン 「王后陛下を愛してしまったと、どうして言える。王后陛下だぞ、フランスの国王陛下のお后様なんだぞ。こんな不遜な気持ちをもつなど私はどうかしている。だから言ってしまった。言わなければならなかった。私の思いをアントワネット様から引き離すためにな」
  オスカル 「フェルゼン・・」

 「明日のオペラ会には出席するだろうな?」

  ジャルジェ邸、 オスカルの部屋。彼女は一人でワインを飲みながら昼間のフェルゼンの言葉を反芻していた。
  フェルゼン 「愛し合うことが許されるとしたら、どんなにかすばらしい恋人どうしになられることだろう。だがおまえは・・それでいいのか、オスカル?」
  オペラ会当日の夜。ベルサイユ宮には貴族たちの馬車が次々と到着していた。
  フェルゼン 「だめだ・・宮殿には入れん・・」
  オスカル 「フェルゼン・・」
  フェルゼン 「国王主催のオペラだというのでしかたなく出てきたが・・すまん・・一人で行ってくれ・・」

「わかってくれ・・オスカル」

  鬱蒼とした木立の中、幹にもたれかかってフェルゼンは夜空を見上げている。物音がして首を巡らせると、木立の陰から現れた人影があった。供もつけずにたった一人でアントワネットが現れたのだ。お互いを認めて二人は驚いた。
030 フェルゼン 「王后・・陛下・・」
  マリー 「フェルゼン・・」
  フェルゼン 「さ・・昨日は失礼いたしました」
  マリー 「もうあんまりお目にかかれませんね・・ご結婚なさると・・」
  フェルゼン 「はい・・父ももう歳ですから。私が国に落ち着くのを望んでおります」
  マリー 「そう、そうでしょうね。国務大臣に言いつけて、お祝いを贈らせますわ」
  フェルゼン 「ありがたき幸せに存じます、陛下」
  マリー 「ではどうぞお幸せに」
  堪らずアントワネットは走り去った。
  マリー 「フェルゼン・・これでお別れなの?どこのどなたを・・その広い胸の中に・・あなたのその力強い腕の中に抱くというの?いやよ・・いやよ、そんなの・・いやいや・・あなたが余所の女の方と結婚するなんて・・余所の方を妻にするなんて・・」
040 アントワネットは木の根に足を取られて転んだ。フェルゼンが抱き起こすと、その瞳には涙が溢れていた。間近で見る愛する男の顔にアントワネットの恋が堰を切って放たれた。
  マリー 「フェルゼン・・・わたくしの・・フェルゼン・・」
  アントワネットがフェルゼンに抱きつくと、フェルゼンも王妃の体を抱きしめた。四年前のあの仮装舞踏会の夜から二人の魂は密かに呼び合い、求めあい、竪琴の銀の糸のように打ち震えていた。神に定められたこの時をいつか来るのを予感しながら・・。
  フェルゼン 「陛下・・」
  マリー 「忘れて下さい、今は・・私が王妃であることを・・ああ・・フェルゼン・・愛しています・・」
  二人は熱い抱擁と口づけをかわした。

フェルゼンの屋敷、雨が降り続いている。物思いに耽るフェルゼン。

フェルゼンの脳裏をアントワネットの春風のような笑顔が過ぎる。

  フェルゼン 「オスカル・フランソワ・・君はどう思う・・私はこれからどうすればよい・・」
  フェルゼンは沈んでいる。執事が国もとからの知らせを告げた。
  執事 「フェルゼン様、ただ今お国もとより知らせが参りました」
  フェルゼン 「知らせ?」
050 執事 「王立ストックホルム大学当時のご学友ヒンディスベリ伯爵様が亡くなられたそうです。戦死だそうでございます」
  フェルゼン 「戦死?」
  執事 「アメリカの独立戦争に参戦なされていたそうでございます」
  雨が降り続いている。アンドレが車庫で馬車の車輪を調整していると、オスカルが声をかけた。
  オスカル 「アンドレ、馬車の用意はしなくてもよい。私は今宵の舞踏会には出ない。熱をだして寝込んでいるということにしておく」
  アンドレ 「オスカル!」
  オスカル 「大声をだすな、馬がびっくりする」
  アンドレ 「今夜の舞踏会は主だった諸侯がほとんど集まるおおがかりなものだ。近衛連隊長で、しかもジャルジェ家の跡取り、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェが出席しなければ、おかしなことになると俺は思うな」
  オスカル 「大がかりだからこそ、耐えられない。そんな中で人々の下品な視線と陰口を浴びせられるアントワネット様を見るに忍びない」
  アンドレ 「だからさ、だからこそ、出なければいけないんじゃないのかい。アントワネット様はおまえだけが頼りだ。そして、フェルゼンだっておそらく」
060 オスカル 「お二人はお二人、私は私だ。私に何をしろというのだ。陰口を叩くものたちを切れというのか。下品な視線を送る者たちの目を潰せというのか」
  アンドレ 「あっはははは。そいつはいいや。やってみようか」
  オスカルは握りしめた拳をおろした。胸にわだかまっていた塊が溶けて流れていくようで、オスカルはようやく笑うことができた。

青で縁取られた白い礼服に身を包んだオスカルが大広間に足を踏み入れると、人々の関心はオスカルの上に集中した。

  マリー 「オスカル、今宵はどういう風のふきまわしでしょう。ダンスなどしたことのないあなたが」
  オスカル 「恐れながら、風は西からも東からも吹きそよぐものでございます」
  マリー 「まあ、うふふ・・あなたのお相手は男の方かしら?それとも女の方?」
  オスカル 「お望みのままでございます。王后陛下」
  マリー 「ただし、今宵のお相手は私一人に」
  オスカル 「わかりました」
  大広間の真ん中で軽やかに踊るオスカルとアントワネット。フェルゼンは二人にグラスを掲げると酒を飲み干して去って行った。オスカルは大切な二人をスキャンダルから守ることに成功したのである。 

舞踏会の帰り道、雨は止んでいた。夜は終わりに近づき、朝靄がたちこめている。アンドレが操る馬車の車中、オスカルは目を閉じて座っている。馬車の前方に人影が現われた。フェルゼン伯だった。彼はアンドレに合図して馬車を停車させた。

070 フェルゼン 「ありがとう、オスカル。君があの礼装で現れなかったら、私は間違いなくアントワネット様と踊り明かしてしまったろう。お姿を見てしまえば、当然踊りたいと思う。踊ればきっと隠している感情も、他人には露わに見えるにちがいない。すんでのところであの方をまた途方もないスキャンダルに巻き込んでしまうところだった」

「出るべきではないと思いつつ出てしまった舞踏会。この私の思慮のなさがすべていけない。私に本当に人を愛す心があるのなら、愛する人の立場をもっと考えるべきであった」

「愛は抱いて決して恋に陥るべきではなかった。あの方を苦しませてしまった。深く、たとえようもなく深く。今、私にできることはただひとつだ、敢えてあの方に対して卑怯者になることだ」

「オスカル、私は逃げる、すまないが逃げるぞ。遠く、数千マイルの彼方へ」

「アントワネット様の事を頼む」

  オスカル 「フェルゼン、どこへ?」
  オスカルは追いすがるがフェルゼンは答えず、馬車は走り去ってしまった。

サンルームは光に満ちている。アンドレが窓辺に立つオスカルに話しかけた。

  アンドレ 「アメリカか・・思い切ったな・・フェルゼンも・・送りにいかなくてもいいのか?遠征軍の出発は今日だぞ」
  ベルサイユ宮殿ではアントワネットが、スエーデン軽竜騎兵大佐、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン伯爵がアメリカ遠征軍に志願し、ラ・ファイエット候の副官として、本日ブレストの港より軍艦ジャゾウ号に乗り込み出発の予定であると報告をうけていた。
  マリー 「もし間に合うのでしたら伝えてください。戦場にては勇敢に戦い勝利をおさめることを。そして、どうかご無事でご帰還をと」
  サンルームの窓辺に立つオスカルは一言も語らない。
  アンドレ 「いけない、今日は馬の蹄鉄を代えてやる日だ」
  アンドレは部屋をでていった。
  オスカル 「死ぬな、フェルゼン」
080 オスカルの頬を涙が濡らすのを知る者は誰もいない。

野原でオスカルはアンドレを助手に短銃の練習をしていた

  アンドレ 「今日はこのへんにしておこう。もう標的の瓶がなくなった」
  オスカル 「うん。わたしは馬を連れてこよう」
  アンドレ 「オッケー」

「おーい、オスカル、りんご囓るかい?」

  オスカル 「もらおう」
  アンドレの投げたりんごは銃声とともに空中で粉々になった。
  オスカル 「だ、誰だ?」
  夕陽に黒いシルエットが浮かんでいた。馬上の人物は陽気に二人に話しかけた。
  フェルゼン 「はははは、申し訳ない、せっかくのりんごを。実は私の腕前もお二人に見せたくてね」

「変わりはないか、オスカル・フランソワ、相変わらず元気そうじゃないか、アンドレ。はははは、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン、たった今アメリカ大陸より帰還いたしました」

  オスカル 「フェルゼン」
090 オスカルは喜びのあまり一目散にフェルゼンの下へと走り寄った。馬上の人物が帽子を取ると、その顔は紛れもないフェルゼン伯であった。オスカルの表情は少女のように輝いている。銃のケースを小脇に抱えて、アンドレはその場に立ちつくしていた。
  オスカル 「独立戦争が終わってからもう二年だ。みんなすぐに戻ってきたのに、どこでどうしていた」
  フェルゼン 「心配をかけてすまなかった。帰国間際になって熱病を患ってしまってね。それで一人でアメリカに残って・・寝たり起きたり・・思ったより治るまで時間がかかってしまった」
  オスカル 「そうだったのか」
  フェルゼン 「ああ、美味しい。本当に久しぶりだこんな本格的なフランス料理は。帰ってきたんだなフランスへと、つくづくそう思う」
  オスカル 「本当に無事でよかった」
  乳母が2階の客間に部屋の準備ができたことをオスカルに知らせた。
  フェルゼン 「いや、オスカル、私は自分の屋敷へ・・」
  オスカル 「あなたの屋敷へは明日使いをだそう。我がジャルジェ邸が責任をもってフェルゼン伯の旅の疲れを癒してさしあげますと。一週間でも一月でもどうぞごゆっくり」
  フェルゼン 「オスカル・・・」
100 アンドレ 「本当にそうしてください。だって七年ぶりではないですか。ぼくもできたらお聞きしたい。アメリカでのお話など」
  フェルゼン 「ありがとう、こんなに素晴らしい友に囲まれてありがとう。何もかも命すらも捨てていいと思って行った戦場だったが、生きていて・・よかった」
  アンドレ 「もう一度乾杯しよう。フェルゼン伯爵の数千マイルの旅からの帰還に」
  オスカル 「よし、乾杯」
  アンドレ 「乾杯」
  フェルゼン 「ありがとう」
  翌朝、フェルゼンが早朝の庭を散策しているのを自室の窓から見かけたオスカルは早速自分も後を追った。フェルゼンは噴水の辺に腰を下ろして風景を眺めていた。
  オスカル 「ずいぶんと早起きだが、よく眠れたのか、フェルゼン」
  フェルゼン 「ああ、たっぷり。早起きは戦場での癖でね、どうにもまだ・・」
  オスカル 「そうか、それならよかった・・できるだけ早く、帰還のあいさつに行ったほうがよい。ご心配なさっているはずだ・・王妃様も・・」
110 フェルゼン 「いずれ・・とは思ってはいるが、お会いせずにスエーデンへ帰るつもりだ。七年前、私は逃げたのだ、アントワネット様から。卑怯にも一方的に。そして終わったんだ、終わってよかった恋だった。フランスへはその事を自分自身しっかりと確認するために立ち寄っただけだ。もう燃えない、もう燃え上がらないということを」

「お言葉に甘えて私は一、二週間このお屋敷にご厄介になることに決めたよ。自分の屋敷に戻れば私が戻ったことが公になってしまう。頼むオスカル、絶対に王妃様には私が戻ったことを知らせないでほしい」

  オスカル 「わかった・・」

「思ってもみなかったことだけど、フェルゼンの心にもうアントワネット様はいない。本当だろうか、そんな事って。でももし、もしそれが本当なら、今ここにいるフェルゼンは、私がこの世でたった一人、愛してもよいと思った人・・ハンス・アクセル・フェルゼン・・」

  オスカルとフェルゼン、アンドレは貧しい身なりに身をやつして人々の声を知るために、街へ出た。裏通りでは集会が開かれていた。

フェルゼンは壁に貼られた王妃の肖像画に、ナイフが突き立てられているのを目にして愕然とした。彼は馬から下りると、ナイフを抜いた。

  フェルゼン 「変わった、確かにフランスは変わった。私がいるころはたとえ悪口はあったにしろ、それでも王室は慕われていた。王妃様はまだ国民に愛されておられた」
  ジャルジェ邸へ戻ったフェルゼンは暖炉の炎を見つめながら言った。
  フェルゼン 「オスカル、やはり私はベルサイユへ行こうと思う。今や王室は危機を迎えようとしている」

「こんな時私にできることといえば、忘れようとしても忘れられない愛する人のためにできることといえば、側にいてさしあげることぐらいしかない」

「誰になんと言われようと、愛する人の不幸を私は黙ってみてはいられない」

  トリアノン離宮、王妃の御前にフェルゼンが跪いていた。
  マリー 「よく・・よくもご無事で・・」
  フェルゼン 「陛下もお変わりなく。」

「新しく起こるものの力には、燃え上がる火に似た勢いがあります。私はアメリカで身をもってそれを知りました。このフランスでも小さな火がいくつか燃え始めています。その火の粉が王室に降りかかる前に消し止めねばなりません。もし、お許しがいただけますならば、私はこれからの半生アントワネット様のお側にお仕えする覚悟でございます」

「七年の時を経て私は知りました。激しく心を燃やすことの愚かさを。そしてその危険を。もはや激しくは燃やしません。その代わり、静かにセーヌの流れのごとく永久に、あなたへの思いをこの胸に灯し続けるつもりでございます」

  マリー 「セーヌの流れのごとく・・・」
120 フェルゼン 「はい」
  王妃は椅子から立ち上がるとフェルゼンの前へと歩み寄った。フェルゼンは跪いたまま王妃の手に口付けをした。
  フェルゼン 「王后陛下、このフェルゼン、陛下の忠実な家臣として申し上げねばならないことがあります」

「この離宮より出て、ベルサイユ宮へお戻り下さい。陛下がここにお移りなさったために、多くの貴族たちが王室より心離れていったと聞き及びます。すみやかにベルサイユにお戻りになり、貴族たちを呼び戻すのです。今はせめて貴族たちだけでもお味方につけておかねばなりません」

「そしてポリニャック夫人やそのお仲間たちとも手をお切りください。一国の王妃がおとり巻きの意見のみを重要視され、お取り上げなさることは、国の民はもちろん王宮の中でも波風のもととなります。そのかわり、このハンス・アクセル・フォン・フェルゼン、故国スエーデンを捨てます」

「王妃様の御ため、このフランスに我が身全てをお捧げ致します」

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