ベルサイユのばら

この声劇用台本は「オスカルとアンドレ」、「フェルゼンとマリー」の
4キャラに絞った構成になっているためストーリー的にかなり
端折った展開になっておりますことを予めお断りします。

全7話

オスカル アンドレ
マリー・アントワネット フェルゼン
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話
001 N ジャルジェ邸、窓の外は豪雨、雷が鳴っている。赤ん坊の産声が響く。
  ジャルジェ将軍 「男だ、今度こそ男だな」
  乳母 「いいえ、このとおりお美しいお姫様でございます」
  ジャルジェ将軍 「そ・・・そんな馬鹿な」

「王家をお守りし、軍を指揮する将軍の家に女などいらぬわ」

  わなわな震えるジャルジェ。立ち去ろうとしたその瞳がきらりと光ると踵を返してくる。
  乳母 「な、何をなさいます」
  乳母の手から赤ん坊を取り上げると高く差し上げて言った。
  ジャルジェ将軍 「よし、決めた。おまえは男だ。おまえの名はオスカル、私の息子だ」
  OP挿入曲 薔薇は美しく散る
010 1762年オスカルが生まれて14年の歳月が流れていた。
ベルサイユ宮では民衆の貧しい生活をよそに、今日も華やかな舞踏会が開かれていた。
20年後にあのフランス革命が起こることも知らずに。
ジャルジェ家の庭、オスカルとアンドレが剣を交えている。
  オスカル 「そーら、そらそら。どうした!」
  アンドレ 「オスカル、ベルサイユへ行かなくていいのか?」
  オスカル 「誰があんなところへ」

「アンドレ、腕が落ちたな」

  乳母 「オスカル様、それにアンドレ、いつまでそんな危ないものふりまわしてるんです」
  アンドレ 「いけね、おばあちゃんだ、オスカル」
  乳母 「こら、オスカル様とおっしゃい。オスカル様と」
  オスカル 「いいじゃないか、ばあや」
  乳母 「いいえ、けじめはけじめです。おまえは召使の身なんです。あー!危ない!」

「本来ならこのドレスをお召しになって社交界へデビューなさるお年頃なのに・・・いいえ、あきらめるものですか。きっとこのドレスをオスカル様に着せてみせますとも」

  N 18世紀、ヨーロッパは絶え間無い戦乱に明け暮れていた。
ことに強大な軍事力をもつフランスとオーストリアは、事あるごとに衝突を繰り返していた。しかし、それが他の諸国を喜ばせるだけだと悟ったオーストリアの女帝マリア・テレジアが両国の和平を提案。ここに歴史的な同盟が結ばれることになった。

その確かな証しとして、テレジアの末娘マリー・アントワネットとフランス王太子との婚約が決められたのである

020 ジャルジェ将軍 「どうだ、オスカル。誉あるフランス近衛隊にとっても、今度ほど重要な任務はない。マリー様はお前がお守りするのだ」

「ん、どうした?」

  オスカル 「私は女のお守などしたくありません」
  N 自室で母親の肖像画に見入るオスカル。ドアをノックする音がする。
  オスカル 「アンドレか、入れ」
  N ノックの音に絵の前を離れ、オスカルは肘掛け付きの椅子に腰を下ろして歴史の本をめくっている
  オスカル 「今日はいよいよ百年戦争の件だったな」
  アンドレ 「ああ・・」
  N 開かれた窓から吹き込む風がカーテンを揺らす。雷が鳴り雨が降りはじめる
  アンドレ 「春の嵐か・・・」
  オスカル 「夢中で走っている時はいい。だが急に立ち止まって足元を見たとき、ふと自分はどこに行こうとしているのかと思う。そんなことはないか。気になるんだろう。俺が軍服を着けないことが。」

「くそう!いやだ、女のお守などできるか!」

030 アンドレ 「それだけが理由か、もしかしてお前の本心は・・」
  オスカル 「行け!行ってくれ!」
  N オスカルの苦悩をアンドレはどうすることもできない。彼女の青ざめた横顔にアンドレはそっと呟いた。
  アンドレ 「おやすみ、オスカル」
  N 明けて早朝、雨は上がっている。オスカルが厩の扉を開けるとアンドレがいる。
  アンドレ 「やあ、おはよう」
  オスカル 「ああ、早いな」
  アンドレ 「久しぶりだ遠乗りにいかないか」
  N 池のほとりにならんで腰をおろすふたり。
  アンドレ 「おぼえているか?ここで溺れそうになったろう」
040 オスカル 「忘れるものか、お前が6歳俺が5歳の時だった」
  アンドレ 「ああ、ふたり懸命になって泳ぎきったっけな」
  オスカル 「俺に何か言うことはないのか」
  アンドレ 「別に」
  オスカル 「はっきり言ったらどうだ。軍服を着ろと」
  アンドレ 「着たくないものを無理に着るな」
  オスカル 「それがお前の手か。着るなと言えば天邪鬼のオスカルはきっと着る。そう思っているんだろう」
  アンドレ 「貴様!」
  N オスカルは自分の襟元をつかむアンドレの手を払いのけた。
かっとしたアンドレはオスカルを殴りつけ、彼女は地面に倒れ込む。オスカルの頬は怒りのために紅潮している。彼女は立ち上がるとアンドレに拳を叩きつけ、今度はアンドレが倒れ込んだ。

朝日が池の向こうの森から昇ると、水面がきらきらと輝いた。

  アンドレ 「そうだ、その目だ。オスカル、殴って来い。思いきり殴って来い」
050 N 地面に倒れるふたり。どちらからともなく手を握り合う。
  アンドレ 「はじめてだ、こんな殴り合い。」
  オスカル 「ゆうべ・・聞いてしまった・・おまえと父上が話しているのを・・」
  アンドレ 「オスカル・・」
  オスカル 「さあ、言ってくれ、アンドレ」
  アンドレ 「おやじさんの気持ちはよくわかる。けれどそのためにオスカル、お前の生き方を規制したくなかったんだ。だから何も言うまいと心に決めたんだ。」
  N オスカルは黙って立ち上がると愛馬に騎乗した。アンドレは馬に乗って走り去るオスカルに呼びかけた。
  アンドレ 「オスカル、これだけは言わしてくれ。そのかわり、もう二度と口にはしない。」

「オスカル!今ならまだ遅くはない。女にもどるなら、いまだぞ。」

  N この日オスカルは女に決別した。そして新たなる大人の世界へ第一歩を踏み出した。

彼方に愛と死の怒涛の運命が待ち構えていることを知る由も無いオスカル、14歳の春であった。

1770年、輿入れのためにフランスに入国するマリー・アントワネットを迎えるのはフランスとオーストリアの間を流れるライン河の中州と決められた。両国の面目や細かい儀礼のため婚礼の取り決めに1年と言う歳月がかけられ、その引き渡し場所もわざわざ中立地帯が選ばれたのだ。

ライン河花嫁引き渡し殿にアントワネットが到着する。

  侍女 「マリー様、いよいよお引き渡しの儀式が始まります。どうぞお召し替えを」
060 マリー 「ええ?この服を脱ぐのですか?」
  侍女 「はい、オーストリア製のものはすべて、一本の糸すら身につけていくことは許されないのです。全部フランス製のものに着替えていただきます。」
  マリー 「何もかも、すべて?」
  侍女 「はい、レースもリボンも十字架も下着も指輪もでございます。」
  マリー 「指輪も?この指輪もですか?」

「いやです。ドレスだって脱ぎません。」

  侍女 「マリー様、これはしきたりなのでございます。お召し替えを。」
  マリー 「帰ります。もうお嫁に行くのはやめました。」
  侍女 「マリー様」

「アントワネット様」

  N 大勢の侍女たちが右往左往しながらマリー皇女を探している。その様子を扉の陰から面白そうに眺めていたマリーだが、物陰から自分の名を呼ばれて肩をすくめた。
070 侍女 「マリー様・・ああ、マリー様、いったいどこに隠れて・・」
  右往左往している侍女の前に、マリーに化けたジャンが現れた。
  侍女 「もう!マリー様、おからかいにならないでくださいまし。さ、早くお召し替えを。」
  侍女はマリー王女が偽者に入れ替わったことには全く気づかずに、ジャンの手を引く。その様子を小間使いの姿に扮したマリーが衝立の陰から見守っていた。

誰もジャンとマリー王女が入れ替わったことに気がつかない。花嫁引き渡しの儀式は滞りなく進行した。小間使い姿に身をやつしたマリー王女は引き渡し殿を抜け出した。

  オスカル 「あれは、さっきの小間使いとは違う。」
  目ざとくに気がついたオスカルが、林の中に消えたマリーを単身で追った。林の中の洞窟へとやってきたマリーは声をかけた。
  マリー 「誰かいるの?」
  迎えに来たと男は言いながらマリーのに腕に手をかけた。
  マリー 「無礼者!」
  マリーはその手を振り払うと、ぱちんと男の顔を叩いた。男はマリーを捕まえて縛り上げようとする。
080 マリー 「何をするのです!無礼者!」
  オスカル 「待て!」
  洞窟へ飛び込んできたオスカルがあっという間に暴漢を殴り倒した。
  オスカル 「アントワネット様ですね。」
  マリー 「あなたは誰?」
  オスカル 「フランス近衛隊隊長、オスカル。」
  複数の暴漢を相手に、オスカルは余裕で剣を交える。マリーはオスカルの勇姿に見惚れた。
  マリー 「とても素敵よ、オスカル!」
  ジェローデルが指揮をとり行列は出発する。華やかな花嫁行列が進んで行く。美しい馬車に乗っているのはジャンであった。

マリー皇女に成りすましたジャンはルイ15世の前に進み出た。誰もジャンの変装に気づく者はいない。ジャンはフランス国王に優雅にお辞儀をした。
  オスカル 「お待ちください。その者は偽者でございます。真のマリー・アントワネット姫はこちらです。」
090 オスカルの言葉に誘われて、マリー皇女が広間に姿を現した。小間使いの姿をしていても、その美しさと気品は隠しようがない。広間の誰もが、彼女こそがマリー皇女であることを一瞬にして認めた。マリーは天使のようににっこりと微笑んだ。

人々の注目はマリー皇女に集中している。こっそりと広間を抜け出そうとしたジャンをオスカルが追った。逃げるジャンの前にオルレアン公が立ちふさがった。オルレアン公は剣を抜くと、一刀のもとにジャンを斬り殺した。

  オスカル 「オルレアン公、この男は無抵抗だった。なぜ殺さねばならないのです」
  時刻はすでに夕刻だった。窓の外を太陽がオレンジ色に染めている。マリーは豪華な衣装を身につけた小太りの王太子をぽかんと見つめた。
  マリー 「この人がわたくしの夫に?」
  国王に促されて、ルイは差し出されたマリーの頬に口づけた。
  マリー 「こんなものなの?夫になる人からのはじめてのキスを受けても何の胸のときめきもない。」
  行列はベルサイユへ向けて出発した。マリーの馬車の傍を騎馬で従うオスカル。馬車の中からマリーはオスカルを見つめた。 

夕陽を背に受け輝くばかりに美しいオスカルに見惚れるアントワネットの表情は、ルイの口付けを受けた時とは別人のように紅潮していた。

その行列を丘の上からフェルゼンとその従者が見ていた。

オスカル、アントワネットそしてフェルゼン。3人が運命的なめぐり合いをする日は近い。やがて起こるフランス革命の中でオスカル、アントワネット、フェルゼンの3人が複雑に織り成す運命に向かって、そして退廃と陰謀がうずまくベルサイユ宮殿に向かって、行列は静かに厳かに進んでいく。

1770年5月16日、王太子ルイ・オーギュストとマリー・アントワネットの結婚式はベルサイユ宮殿内の礼拝堂で貴族、僧侶6000人の列席のもとに執り行われた。

097 ED挿入歌 愛の光と影

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