ベルサイユのばら

この声劇用台本は「オスカルとアンドレ」、「フェルゼンとマリー」の
4キャラに絞った構成になっているためストーリー的にかなり
端折った展開になっておりますことを予めお断りします。

全7話

オスカル アンドレ
マリー・アントワネット フェルゼン
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話
001 N パリ、オペラ座。踊りつかれてバルコニーでアントワネットは一息ついていた。
  マリー 「胸がはじけそうに苦しい。こんな楽しい世界があったなんて。ここにいると王太子妃という身分を忘れられる。宮廷の生活に比べると夢のようだわ。」
  N アントワネットにフェルゼンが声をかけ、強引にそのマスクをはずした
  フェルゼン 「想像以上だ。何という瞳、何という唇、何という肌の色。いったいこの少女は?」
  フェルゼンに気づいたオスカルが二人の間に割ってはいる。その時、ともに18歳であった若き二人のまなざしの中に一瞬煌いたものは何だったのか。

王妃の地位を約束され、ただ退屈することだけを恐れていればいいベルサイユ一の美人と、北欧の貴公子の歴史的愛の第一幕は二人自身にもそうと気づかぬうちに、始まっていたのである。

  OP挿入曲 薔薇は美しく散る
  ベルサイユ宮では貴婦人たちが、アントワネットとフェルゼン伯を囲んで談笑している。少し離れたところからオスカルとアンドレがその様子を覗っていた。
  オスカル 「これからは今まで以上に注意してアントワネット様のお傍についていてくれ。悪い噂がたってからでは遅いからな。」
  夜警中のジェローデルが人目を忍ぶようにして馬車で出かけるデュ・バリーを見つけて後をつける。

デュ・バリーとド・トルネイユ夫人はとある民家を訪れアントワネットの筆跡で偽のラブレターを書くようにと
ラザーニに命じた。偽手紙を確認したド・トルネイユ夫人は廊下にその手紙を置くが、間一髪で手紙はジャルジェ夫人によって拾われた。

次の日、フェルゼンに手紙をつきつけて問い詰めるオスカル。だがフェルゼンは訳がわからなかった。

010 オスカル 「何と言うことを、妃殿下に卑怯な振る舞いをしたあげく愚弄するつもりか!」
  フェルゼン 「待ってくれ、オスカル。」
  オスカル 「この期に及んで命乞いか、女々しいぞフェルゼン。」
  アンドレとジェローデルが馬で駆けつけてきた。そして、その手紙が偽物であることをオスカルに伝えた。

ベルサイユ宮の回廊。デュ・バリーの前にアンドレとジェローデルを従えたオスカルが立ちはだかった。

  オスカル 「昨日フォーンブルの川岸で火事がありましたがご存知ですか?」

「その場からラザーニという偽手紙専門の男が焼死体で発見されました。現場にこのようなものが落ちておりました。これと同じ物をこのベルサイユ宮で見た者がおります」

  オスカルは手紙をさしだした。惚けるデュ・バリーに対して、オスカルの声に殺気がこもった。
  オスカル 「これから先このような物がみつからないことを望みます。ただこれだけは申し上げておきます。この近衛隊長オスカルがどんな策謀からも王太子妃様をお守り申し上げます」
  アンドレとジェローデルを従えて立ち去るオスカルの後姿をデュ・バリーはじっと睨み付けていた。

東屋でハープの演奏に耳を傾けるアントワネットとフェルゼン。それを少し離れた場所からオスカルが二人を見つめていた。

  オスカル 「妃殿下、あなたはご自分の感情に正直すぎます。あまりにも美しく無邪気であられる。そのお心を利用し陥れようとする人間がいかに多いか。このまま何事もなく過ぎ去ればよいが・・・」
  アンドレ 「アントワネット様はすっかりフェルゼン伯がお気に入りだなあ。」
020 オスカル 「ご自分の感情をお隠しにならない妃殿下だけに心配だ。何事も起こらねばよいが。」
  アンドレ 「アントワネット様の事になるとああだこうだと起こらぬ先に気をもんでまるで乳母みたいだぞ、オスカル」
  乗馬服のアントワネットの前にアンドレが美しい白馬を引いてくる。王太子からアントワネットへの贈り物である。馬上ではしゃぐアントワネットにオスカルとアンドレは、はらはらした。

アントワネットが手綱を離した拍子に馬が走り出しアンドレは引き綱を掴んだまま暴走する馬に引きずられた。オスカルはアントワネットの馬へと飛び移り彼女を抱いたまま落馬した。

アントワネットは気を失ったまま目を覚まさない。アントワネットの部屋に控えるオスカルに、ジェローデルがアンドレが逮捕されたことを知らせた。

  オスカル 「アンドレ、私はお前を死なせはしない。死刑になんかさせてたまるか。」
  オスカルは国王の前へと進みでた。アンドレに罪はないと主張するオスカルに国王は眉を逆立てて激怒した。
  オスカル 「もしも、どうしてもアンドレをお咎めになるのならジャルジェ家の名において正式の裁判を要求いたします。さもなくばアンドレの責任は主人である私の責任。まずここでこのオスカル・フランソワの命を絶ってからにして下さい。」
  オスカルの言葉に国王は今度の事だけは一切咎めは無であるとし、アンドレを許した。

パリの町は久々に活気付いた。フランス王旗がはためき、ショーウィンドウにはルイ16世夫妻の肖像画が飾られ道行く人々の足取りは軽かった。華やいだ通りには新しい時代への喜びの声が飛び交っていた。国民達はルイ16世の治世に絶大な期待をよせていたのである。

アントワネットはフェルゼンと話していると気分が落ち着くのだった。フェルゼンは早く帰らなくてはと思いつつもアントワネットの魅力が彼を惹き付けて離さなかった。自分のために音楽会をすっぽかすアントワネットに危惧を覚えながらもフェルゼンはアントワネットの言うがままになるしかなかった。

オスカルはアントワネットとフェルゼンの関係に危惧を抱いていた。オスカルはパリのフェルゼン宅を訪ねた。

  オスカル 「フェルゼン、お前に忠告があってやってきた。見当がついているなら話しやすい。フェルゼン、すぐにこのフランスを出てスウェーデンへ帰られよ。」
  フェルゼン 「うすうすはわかっていた。アントワネット様が私にちょっと関心をお持ちになりすぎる。親切すぎるということにな」
  オスカル 「これまではまだよかった。比較的自由の許される王太子妃だったからな。」

「だが今は違う。フランスの王妃、王后陛下なのだ。」

030 フェルゼン 「しかし・・・アントワネット様は美しすぎる・・あまりにも美しすぎるのだ・・・」

「お前、寂しくはないのか。女の身でそのような格好をして女としての幸せも知らずに青春を送るのか?」

  オスカル 「私は父ジャルジェ将軍の跡を継ぐために生まれた時から男として育てられてきた。寂しいと感じた事もないし、今のままで幸せだと思っている。」
  フェルゼン 「オスカル、いずれまた会おう。きっと会えるな」
  その日の夜、ハンス・アクセル・フォン・フェルゼンはフランスを後にしてスウェーデンへの帰国の途についた。彼が再びフランスの地を踏むのは、4年もの長い歳月を待たなければならなかった。
  マリー 「そうですか・・・またずいぶんと突然に・・・どうしたの、私ったら、胸にぽっかりと穴があいたように・・・」

「これがさびしいという気持ちなのかしら・・・フェルゼン、なぜ一言も私に・・・私は今日からまた一人ぼっち・・・どうしたらいいの?フェルゼン・・・フェルゼン・・・」

  アントワネットの名を騙った使いに呼び出されたオスカルは得体のしれない男たちに襲われた。肩を刺されて地面に横たわるオスカルに刺客が剣を振り上げる。

賊は音高く近づいてくる馬車に気がつき、オスカルにとどめを刺さずに逃げ去った。停車した馬車から降りてきた人物、それはフェルゼン伯だった。フェルゼンは倒れているオスカルを抱き起こした。

  フェルゼン 「オスカル、やはりオスカルではないか。」
  アンドレ 「これは、フェルゼン様。」
  呼びかけにこたえてオスカルはうっすらと目をあけた。間近にフェルゼンの端正な顔がある。傷の痛みにオスカルはフェルゼンの腕の中で失神した。

ジャルジェ邸、オスカルの部屋。暖炉には赤々と火が焚かれている。寝台に横たわるオスカルの周りには医師、フェルゼン、ジャルジェ将軍、アンドレがいる。乳母は寝台に泣き伏している。

  乳母 「ううう・・・大事なオスカル様をよくもこんな目に遭わせて。殺してやる。誰が何と言ったって殺してやるう・・・うわあああ。」
040 アンドレ 「命に別状ないって先生もおっしゃってるし、ね、おばあちゃん」
  乳母 「ああ、うるさい!ええい、このでくの坊。オスカル様の身代わりに男のおまえが腕の一本や二本ちょんぎられれりゃよかったのに」

「そもそも旦那様がいけないんです!男としてお育てする事にあたしはあれほど反対申し上げたじゃありませんか。それを強情をお張りになるからこんな・・・こんな事に・・・ううう・・・」

  医師の診断によれば、オスカルの右腕の筋が半分ほど切れているということだった。2週間の安静をいいわたして医師は帰っていった。

アンドレは医師を見送るため部屋から出ていった。枕元のいすに腰を下ろしたフェルゼンはオスカルの寝顔を見つめた。苦痛に顔をゆがめる彼女の名前をフェルゼンが呼ぶと、呼びかけに応えるようにオスカルが目を開けた。

  フェルゼン 「オスカル」
  オスカル 「フェルゼン、やっぱりおまえか・・たしかに顔を見たと思ったが、夢ではなかったのだな。フェルゼン、もどってきたのか。」
  フェルゼン 「ああ、四年ぶりだ、おまえと会うのは。」
  オスカル 「礼を言う、フェルゼン。危ないところをありがとう。」
  フェルゼン 「礼など言うことはない。おまえのところに挨拶に来る途中だったのだ。」

「じゃあ私は帰るとしよう。お大事に。」

  オスカル 「フェルゼン、王侯陛下には・・アントワネット様には会わないのか?」
  フェルゼン 「父の用事で4、5日トロアまで行って来る。帰ってきたら舞踏会へ伺うつもりだ。アントワネット様はお変わりないか?」
050 オスカル 「ああ、お変わりない。だが、あの方はますますお美しくおなりだ。たとえようもなくお美しくおなりだ。今を盛りと咲き誇る花のようにな。目映いばかりの輝きと優雅さに溢れておいでだ」

「でも、決してお幸せそうではない。いつも満たされず、報われず、遊びほうけることでご自分をごまかしておいでになる。少なくとも昨日まではな。おまえが帰ってきたことでアントワネット様はどれほど喜ばれるだろうか」

「フェルゼン、四年前と少しも変わらない深い海のようなおまえの目を見てどれほどあの方は喜ばれるだろうか」

  ベルサイユ宮殿、アントワネットのサロン。
  マリー 「襲われた?で、オスカルは怪我をしたのですか?」

「そう・・早速誰か見舞いにやらなくては。ノワイユ夫人、メルシー伯に言って下さい。鴨と松露とフォアグラと最上のショコラを持ってすぐお見舞いに行ってくるようにと」

  その場にいたノワイユ夫人がオスカルを助けたのはスエーデン人で名前をフォン・フェルゼン伯爵であると言った。

片時も忘れることのできない大切な人の名前を耳にして、アントワネットは手にしていたカップとソーサーを取り落とした。

  マリー 「フェルゼン、ああフェルゼン、帰っていらしたのですね。信じていました、私は信じていました。フェルゼン、あなたが必ずフランスに戻ってくるということを」
  王妃は思った。四年前18歳の時の出会いを。それはめくるめく時の流れの中の一時の美しい淀みであった。ばらとダイヤモンドと華麗な調べとさんざめく笑い声に埋め尽くされた幾百の昼と夜を越え、遙かに隔てられた距離と空間を越えて、今よみがえる熱い胸の高鳴りに22歳の王妃マリー・アントワネットは精一杯耐えていた。

一週間がすぎた。オスカルを襲った犯人たちの糸口はまだ何ひとつつかめていなかった。王妃が主催する舞踏会に腕を包帯で吊ってオスカルは出席した。医者が安静を指示した期限にはまだ一週間あった。
  マリー 「まあオスカル、怪我はもういいのですか?」
  オスカル 「ありがとうございます。もうこの通り軍務につけそうでございます。」
  マリー 「ああ、オスカル・・どれほど心配したことか。犯人が一日も早く見つかるように今手配中なのですよ。」
  その時、ドアが開いてフェルゼンが入ってきた。
060 フェルゼン 「王后陛下、ご機嫌麗しいご様子、何よりにございます。一週間前にスウェーデンから参りました。フランスは暖こうございますね」
  マリー 「ご機嫌よう。」

「心臓がとまるかと思った。こんなに胸がドキドキして。だって・・だってあの方は、まるでイカロスのように突然私の前に舞い降りてきて・・ああ、この甘い驚きは・・ときめきは・・いったい・・何?」

062 ED挿入歌 愛の光と影

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