ベルサイユのばら

この声劇用台本は「オスカルとアンドレ」、「フェルゼンとマリー」の
4キャラに絞った構成になっているためストーリー的にかなり
端折った展開になっておりますことを予めお断りします。

全7話

オスカル アンドレ
マリー・アントワネット フェルゼン
第1話 第2話 第3話 第4話 第5話 第6話 第7話
001 ジャルジェ邸、 階段を降りかけていたアンドレが突然立ち止まった。
  アンドレ 「あ、あ・・」
  オスカル 「どうした、アンドレ?」
  アンドレ 「たいしたことはない・・左目が・・少し・・」
  オスカル 「アンドレ?」
  医師がろうそくを手にアンドレの目を診察している。
  医師 「あれほど勝手に包帯を外してはいかんと言ったのに。気の毒じゃが、あんたの左目はもうだめじゃ」
  OP挿入曲 薔薇は美しく散る
  バルコニーで考え込むオスカルにアンドレが言った。
010 アンドレ 「オスカル、俺にはまだ右目がある。俺にはまだ陽の光も木々の緑も見える」

「俺は実際にはまだ何も失っちゃいないよ。オスカル、どうしてもあの男を当局に引き渡すつもりかい?」

  オスカル 「なに?」
  アンドレ 「今飢えているのは貴族ではない、民衆だ。我々には何もできないが、彼ならば民衆のために何かをする。きっとこれからも・・」
  オスカル 「アンドレ、おまえ何を言いだすんだ!おまえの片目を奪った男を助けようというのか?許すというのか?奴は盗人だぞ!」
  アンドレ 「そうだったな・・ははは・・俺は片目を潰したり、偽の黒い騎士をやったりで頭がどうかしちまったらしい・・・ははは・・・すまない、貴族に雇われているということを、時々忘れてしまうんだ」
  N ジャルジェ邸の尖塔からアンドレが風景を眺めている。目が霞みはっきりと見ることができない。アンドレは頭を抱えて座り込んだ。下の庭ではオスカルが馬を引きながらアンドレを探していた。
  オスカル 「アンドレ、アンドレ、どこだ・・おかしいな、自分で遠乗りに行こうと誘っておいて、どこへ行ったんだ、いったい。アンドレ!」
  アンドレ 「ちょっと・・ちょっと待ってくれ・・オスカル・・今右目が霞んでいるんだ・・たったひとつ残った俺の右目が・・大丈夫・・すぐに治まる・・見えるようになったらすぐにおまえのところへ行く・・ほんの少し・・待っていてくれ・・」
  N ベルサイユ宮殿では小間使いたちが慌ただしく宮殿の中を走りまわっていた。

高熱に苦しむジョセフの寝台のまわりに人が集まっていた。アントワネットが必死に我が子に呼びかける

  マリー 「ジョセフ、お母様はここにいます、しっかりなさい。ジョセフ・・王太子・・」
020 N ジョセフは高熱でうなされながら、うわ言のように父親の名を呼んだ。
  マリー 「おお・・ジョセフ・・大丈夫、何も心配いりませんよ・・お父様もすぐに参ります・・すぐに・・」
  N アントワネットは礼拝堂へ行くと、キリストの像の前で神に祈った。
  マリー 「神様、あの子が寂しげに陛下の名を・・ほとんど毎日私とすごしているあの子が・・私ではなく陛下に助けを・・おお・・お許し下さいませ・・罪深い私をどうか・・お許し下さい・・」

「もし、もしあの子の苦しみが私が犯した罪への戒めならば、私は今ここでフェルゼンとはもう会わないと誓いをたてても構いません。ですから・・ですから、どうぞお許し下さい」

  N アントワネットの頬を滂沱の涙が流れ落ちる。物陰からアントワネットを見守っていたフェルゼンは敢えて言葉をかけることはせずに、敬礼してその場を立ち去った。

ジャルジェ邸、噴水のきわに フェルゼンが立っていた。
  オスカル 「フェルゼン」
  フェルゼン 「久しぶりだね、オスカル」
  オスカル 「本当に、しばらくだった」
  フェルゼン 「同じベルサイユにいても私は陸軍、君は近衛。本当に、まったく顔を合わす機会がなかったなあ」
  オスカル 「うん」
030 フェルゼン 「いったい、いつ以来だ?覚えているかい」
  オスカル 「うん、いつからだったかな・・」
  フェルゼン 「ま、ともかく、元気そうじゃないか。いろいろと噂に聞いたよ。例の黒い騎士騒ぎの事とかね」
  オスカル 「あれは失敗だった。遂に犯人はわからずじまいだった」
  フェルゼン 「世の中、なかなか上手くはいかないものだ」
  オスカル 「フェルゼン、あなたの方はどうだった?どうしていた?」
  フェルゼン 「私?私には別にこれといったこともない。特別嬉しいことも、悲しいことも」
  オスカル 「そうか・・・」
  フェルゼン 「そう言えば一月ほど前の舞踏会で不思議なことがあった。君とそっくりな女性に出会った。外国のある伯爵夫人だそうだが、あの舞踏会一度だけ、それきりもうどの舞踏会へ行ってもお目にかかれなかった」
  N オスカルは素知らぬ顔でブランデーを飲み干した。オスカルがグラスをコーヒーテーブルに置くとその手首をいきなりフェルゼンが握った。

舞踏会で転び掛けたオスカルの手首を握って抱き寄せた時のように。驚いたオスカルは咄嗟に掴まれた腕を引き寄せた。

040 フェルゼン 「やはりオスカル、君だったのか・・あの伯爵夫人は・・どんなに隠そうとしても、瞬間的な身のこなしは隠しようがない」
  N あまりのことにオスカルはフェルゼンから顔をそらすと、その場から逃げ出した。

コーヒーテーブルが倒れて、グラスの破片が床に散った。フェルゼンは庭に出るとオスカルを探した。

オスカルはフェルゼンの顔を見ようとしない。その背中にフェルゼンは語りかける。

  フェルゼン 「オスカル、はじめて会ったときから、君が女性だとわかっていたら」
  オスカル 「何も言うなフェルゼン、私に何も言ってはいけない。私の気持ちはもう、とっくに整理がついているんだ」

「この世に愛はふたつある、喜びの愛とそして・・そして・・苦しみの愛だ」

  フェルゼン 「いいや、オスカル、この世の愛はたったひとつ、苦しみの愛だけだ」
  オスカル 「いつかは・・こんな日が来ると思っていた。これで終わりだフェルゼン、お別れです」
  N 風が冷たく二人の周りを吹き抜けていく。
  フェルゼン 「忘れないでくれ、オスカル。君は私の最高の友人であったことを。そして私もまた君の最高の友人であろうと精一杯努めてきたことを」
  オスカル 「忘れません・・決して・・」
  フェルゼン 「さようなら、元気で・・」
050 オスカル 「神よ・・フェルゼンにご加護を・・そしていつか喜びの愛を彼にお与え下さい」
  N オスカルは部屋へ戻ると床に散らばったグラスの破片を片づけ始めた。
  アンドレ 「手伝おうか、オスカル」
  オスカル 「いや、いい・・」
  N オスカルを部屋に残して暗い廊下に出た途端にアンドレの視界が暗くなった。壁掛け燭台のろうそくの明かりにすがるようにして、アンドレは声にならない悲鳴をあげた。
  アンドレ 「オスカル・・助けてくれ・・」
  N アンドレは厩舎に行くと馬を引きだした。アンドレが向かったパリの安酒場ではフランス衛兵隊の兵士たちが大騒ぎをしていた。

どんちゃん騒ぎは続いている。アランと名乗る男はアンドレに話かけた。

  アラン 「今日は衛兵隊の給料日でな、ちょっとした憂さ晴らしだ。フランス衛兵隊なんて格好いいこと言ったってな、パン屋の息子や百姓のせがれの集まりだ。毛並みのいい近衛連隊や正式な陸軍なんかと違ってな、寄せ集めの厄介者さ。やべえ仕事はみんな俺たちに。今だってこの物騒なパリ市内の警備を押しつけられるしな」

「おっといけねえ、俺たちの愚痴ばかり話しちまった。若いの、おめえも腹の中のもの出しちまえよ。それが一番だ。まあ、いいや。話せねえんなら、ひたすら飲むこった」

  N 夜が終わろうとしている。空には明けの明星が輝いている。アンドレは馬上で慟哭した。
  アンドレ 「オスカル、駄目だよ。いくら飲んだって、騒いだって、きっといつか俺は右目からも光を失うんだ」

「オスカル、何よりおまえの姿を見ることができなくなるのが辛い」

060 N ベルサイユ宮、 オスカルはアントワネットの御前に伺候している。
  マリー 「オスカル、今何と言ったのですか。」
  オスカル 「近衛連隊長の任を解いて頂きたいのです。何とぞアントワネット様から辞令を」
  マリー 「どういうことですか、訳を・・訳を、オスカル」
  オスカル 「近衛隊以外ならば国境警備隊でも、海軍でもどこへでも参ります。何とぞ」
  マリー 「訳をおっしゃいな、オスカル」
  オスカル 「オスカル・フランソワ、最初にして最後のわがままでございます。どうか、お聞きとどけを」
  マリー 「オスカル、あなたが望むならすぐにでも将軍の地位を用意します。ですから、訳を。近衛を辞めたいというその訳を」
  オスカル 「お許し下さい。どうしても訳は申し上げられません。ただ、これだけは信じて下さい。たとえ、近衛を退いてもアントワネット様への思いはこのオスカル、変わろうはずはございません」
  マリー 「仕方のないオスカル。わかりました、考えてみましょう」
070 オスカル 「ありがとうございます王后陛下、オスカル、心より感謝いたします」
  N 夕刻、川縁(かわべり)の草原でオスカルが馬を操っている。アンドレは彼女を見つめながら思った。
  アンドレ 「なぜだオスカル、なぜ近衛を辞める。フェルゼンとの決別の辛さに耐えきれずにか。フェルゼンの愛する人、アントワネット様のお側から逃れたいためか」

「逃げて逃げ切れるものならオスカル、俺だってとうにおまえのそばから逃げ出していたぞ」

「おまえがもがけばもがくほど、俺は、俺は・・」

  N 二人は馬を引いて厩舎へと戻ってきた。
  オスカル 「アンドレ、この壁の傷を覚えているか」
  アンドレ 「ああ、覚えている。俺がはじめてこのお屋敷に来たころ、二人で背丈を測りあった跡だ」
  オスカル 「23年前だ。私がまだ自分をてっきり男だと思いこんでいたころだ。まだ愛することも恋することも知らなかった。男として育てられた私だ」

「これからの一生、より男としての人生を送ったとしても何の不思議もあるまい。だから私は近衛を辞める」

  アンドレ 「オスカル」
  オスカル 「男として生きたい。女も甘えも忘れさせるほど男でなければできない任務につきたい。一兵卒でもよい。銃を持ち、川を渡り敵と戦う。恋も愛もないぎりぎり命を懸けたそんな日々を送りたい」

「私はより男として生きたい。私は自分を男だと信じていたあの頃に戻る・・戻ってみせる・・」

  N 厩舎を出ていくオスカルを見送るアンドレの右目が突然見えなくなった。彼は思わずオスカルの名前を呼んだ。
080 アンドレ 「オスカル!」
  N オスカルが踵を返して戻ってきた。
  オスカル 「どうした、アンドレ?」
  アンドレ 「いや、別にどうもしないが」
  オスカル 「おかしいな・・今たしかに私の名を呼んだ」
  アンドレ 「俺は・・何も言わん」
  オスカル 「そうか・・空耳か・・」
  N その夜、オスカルは自室でピアノを弾いている。サンルームの椅子でアンドレはまどろんでいた。
  乳母 「アンドレ、アンドレ」

「おまえ今日の昼間、ラソンヌ先生のところへ行ったんだって」

  アンドレ 「ああ、左目をやられたときいろいろ世話になったからね。その時のお礼に花を届けたんだ」
090 乳母 「そうかい、それならいいんだけど。最近おまえ、なんか様子が変だから・・どっか悪くしたんじゃないかと思って」
  アンドレ 「いやだな、そんなことないよ。あははは」
  N アンドレはラソンヌ医師を訪ねた時のことを思い出していた。
  医師 「で、いつからかね、右目が霞みだしたのは?」
  アンドレ 「はい、一週間ほど前から」
  医師 「ふーん、そうか・・」
  アンドレ 「だめなんですか、やっぱり」
  医師 「いや、はっきりとは言えんが、残った右目にかなりの負担がかかっているようだ」
  アンドレ 「はっきり言って下さい、先生!」
  医師 「いや・・う、うん・・」
100 N アンドレは立ち上がると、キャビネットから酒を取り出した。
  乳母 「アンドレ、飲んだくれる暇があったら、ちょっと手伝っとくれよ。お嬢様にね、お茶を頼むよ」
  アンドレ 「はいはい、かしこまりました」
  N アンドレがティーセットを運ぶと、オスカルはピアノを弾きながら礼を言った。
  オスカル 「ありがとう」
  アンドレ 「じゃあ、お休み」
  オスカル 「アンドレ、より男として生きるためには、いつまでもおまえの力を借りるわけにはいかない。まだどこの隊へ行くと決まったわけではないが、私が近衛を辞めたらもう私の供はしなくてもよい」

「自分の好きなようにしてくれ。私はまず、一人で生きることから始めてみたい。お休み」

  アンドレ 「オスカル、これだけは言っておきたい。赤く咲いても白く咲いてもバラはバラだ」

バラはライラックになれるはずがない」

  N オスカルはきっと立ち上がり、踵を床に突き込むようにしてアンドレに歩み寄った。
  オスカル 「アンドレ、それは女は所詮、女だということか」

「答えろ、アンドレ!答えろ、その答えによっては・・」

110 N オスカルはアンドレの襟を握りしめた。アンドレは自分の襟を掴んだオスカルの手首を逆に握り返す。
  オスカル 「あ・・離せ、アンドレ」
  N 思いも寄らないアンドレの反撃にオスカルは驚くが、次の瞬間には強引に唇を奪われていた。手首を握られたまま、彼女は寝台に押し倒される。アンドレの体重がそのまま自分の身体にのしかかってきて、オスカルは恐怖した。
  オスカル 「離せ、アンドレ、人を呼ぶぞ!」
  N アンドレは力任せにオスカルのシャツを引き裂いた。肌が露わになる。
  オスカル 「それで・・私をどうしようというのだ・・アンドレ・・」
  アンドレ 「すまなかった。もう二度とこんなことはしないと神にかけて誓う」
  N アンドレは露わになったオスカルの肩にシーツを掛けてやると、部屋を去り際に呟いた。
  アンドレ 「バラはライラックにはなれはしない。オスカルがオスカルじゃなくなることなんてできはしない。20年間、おれはおまえだけを見て、おまえだけを思ってきた。愛しているよ・・いや・・愛してしまった。たとえようもないほど、深く・・」
  N オスカルは寝台に横たわり、泣きながら、アンドレの告白を聞いていた。フェルゼンとの別れを経験し、オスカルは生まれ変わろうとしていた。何よりも、より男として生きることを決意したのだ。

近衛隊で王宮の飾り人形でいるよりも、オスカルは一武官としてより激しい勤務への転属をアントワネットに願い出ていたのである。

120 N 「オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ准将、4月1日付けをもちフランス衛兵隊B部隊、部隊長を命じる」
  オスカル 「衛兵隊B部隊・・・」
  N 「なお、アントワネット様よりのご伝言です。現在、衛兵隊にしか空きが無く、もし異存があればすぐに申し出よ。くれぐれもご自愛をとのことであります」
  オスカル 「アントワネット様にお伝え下さい。オスカル・フランソワ如きもののわがままをお許しいただき、深く、心よりのお礼を申し上げます。そして、何卒、王妃様こそご自愛をと・・」
  N オスカルが外へ出ると、アンドレが彼女の馬をひいて待っていた。
  オスカル 「アンドレ」
  アンドレ 「はい」
  オスカル 「私の衛兵隊いりは一週間後だ。それまでノルマンディーの別荘へ行って来る。今日から私の供はしなくてもよい」
  アンドレ 「はい」
  オスカル 「この間のこと私は別に怒ってはいない。だが、記憶にも留めない」
130 N オスカルは思う。愛の形は様々だ。愛し合う愛。自分からひたすら求める愛。そして思いもかけなかった者から一方的に求められた愛。一緒にいながら愛されていることに気づかなかった愛。アンドレの自分に対する愛。かつてオスカル自身がフェルゼンに向けた愛と同じであった。

それだけにアンドレの苦しさは痛いほどわかる。しかし、だからできるだけ顔を合わせまいとオスカルは思った。すまないがアンドレ・・と、オスカルは思った。

ジャルジェ邸、 オスカルは出仕前に紅茶を飲んでいる。

  乳母 「お嬢様、今日からいよいよ衛兵隊でございますね。それであの・・・ちょっと、あの・・・」
  オスカル 「ん、何だ?」
  乳母 「実はアンドレのことなんですが、三日ほど前から全く姿を見せないんですよ。お嬢様、何かご存じではないかと・・」
  オスカル 「当分帰っては来ないと思う。アンドレは兵舎で寝泊まりをしているからな」
  乳母 「ええ?それはいったいどういうことで?」
  オスカル 「心配はない、ばあや、アンドレはアンドレ。私は私。いつまでも子供じゃない」
  乳母 「は、はあ・・」
  N 衛兵隊練兵場へとやって来たオスカルはそこで信じられない光景を目にした。ただ一人、銃を手に正装したアンドレしかいなかった。
  オスカル 「アンドレ・・・」
140 アンドレ 「B中隊全員、新隊長の閲兵を拒否するそうだ」
  オスカル 「なぜだ、理由を言え」
  アンドレ 「女の隊長の命令は受けたくないそうだ。閲兵式が中止なら、俺も兵舎へ戻りたいが」
  N アンドレは敬礼すると立ち去った。

兵舎の扉をオスカルが開けた。

  オスカル 「さあ、みんな服装を整えて練兵場へ来い!閲兵式をやる!」
  アラン 「みんな嫌だって言ってるんですよ」

「近衛にもどっちゃいかがですか?ここには女隊長の命令で動くような上品な奴はいませんぜ」

  オスカル 「言いたいことがあるのならベッドから出て、堂々と言え。ここは病院ではないぞ」
  アラン 「おおっと、こいつは失礼」

「それでここは特に荒っぽいのが売り物のB中隊だ。怪我させちゃいけないからってみんながね」

  オスカル 「断っておくが、私も荒っぽいのは嫌いじゃない。どのくらい諸君が荒っぽいのか見せてもらいたいものだな」
  アラン 「へええ・・・」
150 オスカル 「よし、じゃあ話は決まりだ。腕に自信のある者は練兵場へ来い。銃でも剣でもかまわんぞ」
  N そう言い捨てるとオスカルは身を翻した。彼女は廊下で見守っていたアンドレには一瞥もくれずに練兵場へと向かった。 隊員達はアランを取り囲むと、サーベルを差し出した。
  アラン 「いや、悪いが俺は今回は降りる。女は相手にしねえ主義なんだ。おまえがやれ!」
  オスカル 「いいか、私が勝ったら閲兵式を行う。もし負けたら今すぐ衛兵隊を去る」
  N 隊員たちから歓声が上がる。

オスカルは男の突きを身軽にかわすと、切りかかった。オスカルの剣先が男の手の甲を掠める。血が噴き出し、男は剣を取り落とした。剣を収めて立ち去ろうとしたオスカルの背中に男が襲いかかる。オスカルは剣の鞘で男を倒した。男の巨体が地面に沈むと、他の隊員達が気色ばんだ。

練兵場は騒然とする。アランが大きな声をあげて隊員達を制止した。

  アラン 「待て、みんな待て待て。約束は約束だ。俺達は負けたんだ。閲兵式だけはやってやろうじゃないか」

「ただしなあ、隊長さんよ、みんながあんたを許したんだなんて思い上がってもらっちゃ困る」

  オスカル 「わかっている」
  アラン 「それからもうひとつ、これは基本的なことだが俺達は決して貴族やまして王宮を守るために軍隊にいるわけじゃねえ。はっきり言って給料のためさ、食うためさ。ここんとこをよくわきまえておいてくれ」
158 ED挿入歌 愛の光と影

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