ガラスの仮面
アルディスとオリゲルド(ふたりの王女 編)
コミック 第10章 冬の星座 25・26・27巻より

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 gU

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gW 最終話
  OP ガラスの仮面
001 SE 《教会の鐘の音》
  ゴッドフリード伯 「復讐だ・・・これは亡き王妃カタジーナの復讐だ・・」
  《せりふ》
「何をおっしゃっているのです父上」
  ゴッドフリード伯 「そうだとも、あの女が地獄からゴッドフリード家に復讐をはじめたのだ・・!」

「ゴッドフリード家の血を引くヨハン王子が死んだのだ・・ラストニア国第一王位継承者であるヨハンが・・」

「第二王位継承者は誰だ?・・エリンワルドのオリゲルドだ・・・あの先の王妃カタジーナの血をひく娘だ・・もし今、国王が亡くなればあの娘がこの国の王位を継いでしまうのだぞ。わしの立場はどうなる・・・!ゴッドフリード家は永久に闇の中だ・・!」

「何とかしなければ・・・アルディスが王位を継げるようになんとか・・・」

  ヨハン王子亡き後、第二王位継承者であるオリゲルドをエリンワルドの女王に。国民の期待は日増しに高まっていった。そんな中、ラストニア国王は重い病の床についた。

ゴッドフリード伯は、同志を集め密かに作戦を練っていた。

《せりふ》
「オリゲルド様暗殺計画・・・!」

  ゴッドフリード伯 「そうとも!今オリゲルドに味方するものも多い・・!あの戦い以来オリゲルドがこの国の次期女王だと公言してはばからぬ者もいるほどだ。オリゲルドが王位を継承すればこのラストニアはエリンワルドの思うままだ・・・。そうはさせん。そのためにもアルディスが王位につけるよう協力してもらいたい」

「国王亡きあと、我らの手でこの国を治めねばならんのだ。そのためにもアルディスを女王に・・!」

「よいか!われらは同志だ。けっして裏切らぬと誓約書を・・!これがオリゲルド暗殺計画書だ。失敗すればエリンワルドが黙っていまい。慎重に行なうのだ・・オリゲルド一人を狙ったとあっては怪しまれるもとになる。見舞い客を招き・・・・」

  ラストニア城には国王の見舞いに帰ってくるオリゲルドを迎えるため大勢の貴族達が集まっていた。

そして、オリゲルドは帰ってきた。

《せりふ》
「エリンワルド国オリゲルド様のおなりーー!」

城の中央の階段の最上部にオリゲルドの姿が現れた。その全身からあふれる気品と風格はまさに王家の女王のものだった。

  オリゲルド(亜弓) 「ラストニア国第一王女オリゲルド。ただいま戻りました」
  ゴッドフリード伯 「オリゲルドが帰ってきた。王子ヨハン亡きあと、第一王位継承者となったオリゲルドが。あの、先の王妃の娘オリゲルドが・・・!」

「今、重症の国王が亡くなればラストニア国、次期女王となるオリゲルドが・・・そうと知ってどうだろう人々のあの集まりようは・・」

010 アルディスの祖父ゴッドフリード伯は国王見舞いにことよせ、オリゲルドを呼び戻し暗殺つもりだった。だが、オリゲルドに隙が無く思うようにならなかった。そしてある夜・・・。
  ゴッドフリード伯 「お亡くなりになったか・・・こんなに早く・・・・!よいか!この事はまだ誰にも知らせるでないぞ!我らの秘密だ!オリゲルドをここへ呼べ!オリゲルドに病床の父王を見舞わせるのだ。強固な護衛もここでは引きさがらざるをえまい。オリゲルドが一人になったときに・・・」
  《せりふ》
「オリゲルド様がおこしになりました」

オリゲルドがベッドに伏す国王に近づいた。国王の姿を見たオリゲルドの顔が一瞬強張った。兵達がバラバラと走り寄りオリゲルドを取り囲んだ。

オリゲルドの顔に不敵な笑みが浮かぶ。オリゲルドは普段と変わらぬ様子で国王に挨拶する。

  オリゲルド(亜弓) 「陛下、この度は王位を賜りありがとうございます」
  ゴッドフリード伯 「負け惜しみもそれまでだなオリゲルド殿。そなたはここで死ぬのだ!」

「健康を回復した陛下に毒を盛ろうとしてそれを見つかり、陛下のお付に剣で成敗されるのだ。その騒ぎで陛下はにわかに様態が悪化。発作を起こされてお亡くなりになるという筋書きだ」

  オリゲルド(亜弓) 「ゴッドフリード伯、せっかくの狂言、上演できなくずに勿体のうございますわ」
  ゴッドフリード伯 「なに!?」
  SE 《弔いの鐘が鳴り響く》
  鐘の音が国中に鳴り響く。ゴッドフリード伯はこの鐘の音の意味を察知した。
  ゴッドフリード伯 「な・・なんだこの鐘の音は・・・!これは弔いの鐘の音ではないか!」
020 城の外で、国王崩御を声高に叫ぶ声が響き渡った。それはしだいに町じゅうに広がっていった。
  ゴッドフリード伯 「なんだ・・・!いったい誰がこんな事を・・!」
  オリゲルド(亜弓) 「国王の死を知っている者のうちの誰かが外部へもらしたんでしょう」
  オリゲルドの後ろに立つ男が振り返った。ゴッドフリード伯は驚いた。同志として決して裏切らないと誓約書を交わした男爵が内通者だった。
  オリゲルド(亜弓) 「先ほどの狂言、筋書きが変わってきたようですわね。ゴッドフリード伯。新しい筋書きを説明いたしましょうか?」

「ラストニア国乗っ取りの陰謀を企(たくら)む悪大臣は国王陛下の死を隠し、隣国の妃殿下でもある第一王位継承者次期女王の暗殺を謀(はか)ったが計画がもれていたとも知らず失敗」

  ゴッドフリード伯 「なんだと!?」
  エリンワルドの兵士達が城の中へ雪崩れ込んできた。兵士達は衛兵を打ち倒し、オリゲルドを護るように立ちはだかった。
  オリゲルド(亜弓) 「そして次期女王に味方する貴族達は皆、兵を差し出し忠誠を誓ったのです。兵は悪大臣の部下や彼の息のかかった城の軍をおさえてしまいました」

「どう?素晴らしい筋書きでしょう?」

  《せりふ》
「オリゲルド様、エリンワルド軍ただいま到着です!」
  オリゲルド(亜弓) 「どうやら勝負はあったようね伯爵。国王亡きあとわたくしがこの国の女王です。その女王を暗殺しようとしたからにはただではすみませんよ」

「ラストニア国女王に対し暗殺の陰謀を企(たくら)んだものを根こそぎ捕らえておしまい!一族の者すべて一人残らず!」

030 「凄い・・・亜弓さんすごい迫力だわ・・」
  オリゲルドは国王の亡骸の左手を掴む。手を離すと国王の手はポトンと落ちた。
  オリゲルド(亜弓) 「陛下・・・・」

「毒がよく効いたとみえる・・・時間がかかったわね」

  SE 《教会の鐘の音》
  アルディス(マヤ) 「ええっ!!お父様がお亡くなりになった!?おじい様にお母様が、オリゲルドお義姉(ねえ)様暗殺のかどで逮捕・・・!」
  アルディスもオリゲルド暗殺の企ての疑いをかけられ白の監獄へ投獄された。
  SE 《門扉が閉まる。冷たい風》
  身も心も凍えてしまいそうなほど冷たい風が白の監獄を吹き抜ける。寒さと心細さでひとりアルディスは、震えていた。
  アルディス(マヤ) 「さむ・・・い。寒いわ・・体中の血が凍りついてしまいそう。おじい様にお母様はどこにいるの・・・?同じこの白の監獄の中にいるの?お願い会わせて!お元気にしてらっしゃるの?おじい様やお母様がオリゲルドお義姉(ねえ)様を暗殺しようとしたなんて信じられない」

「ああ、そうよ。お父様がお亡くなりになったなんて・・・!あんなに優しく強かったお父様が・・!お父様に会わせて・・・!」

「お義姉(ねえ)様にお会いしてお願いしよう・・・!おじい様の事もお母様の事も・・・!ああどうか死罪だけは免れますように・・・!生きていてください。おじい様、お母様・・・」

「寒・・・い・・・」

  アルディスは階段にもたれて座り込み・・やがて泣きつかれて眠ってしまった。
040 「なんて切ない表情なんだ・・マヤ・・。こちらまで悲しくなってくる・・」
  そしてこの牢の中がアルディスの城となった。
  SE 教会の鐘の音
  朝が来た。遠くから教会の鐘の音が聞こえてくる。白の監獄にある、たった一つの窓から朝の光が差し込んでいる。アルディスは黒い喪服に身を包み手を合わせて祈っている。

《せりふ》
「おい、見ろよアルディス様を。陛下の葬儀と言うのに寺院への参列も許されず喪服を与えられたきり。今日の葬儀は全てオリゲルド様がとりしきり、集まった他国の王族や貴族にこの国の実力者である事を強く印象付けているとか・・・。100日の間は喪に服し、それがあけたらいよいよ戴冠式を行ない女王になられるのだな・・・お気の毒に。アルディス様の影が薄くなってしまわれる」

  アルディス(マヤ) 「親愛なるオリゲルドお義姉(ねえ)様、喪服を届けてくださってありがとうございます。お父様の葬儀はいかがでしたでしょうか。死に顔が安らかであったことを祈ります」

「謀反の件についての裁判はいかがなのでしょうか?おじい様やお母様がお義姉(ねえ)様にしたこと・・お義姉(ねえ)様のお怒りはごもっともです。ですが、なにとぞお慈悲をもって命ばかりはお救いください」

「わたくしにお義姉(ねえ)様のお役に立てる事があれば何でもいたします。神かけてアルディスはお義姉(ねえ)様に背く気持ちは持っておりません。ただひとりのお義姉(ねえ)様と慕う気持ちに今も変わりは無いのです。わたくしの愛と誠意をお義姉(ねえ)様にわかっていただく事だけが今のわたしの願いです」

  代わってオリゲルド。その手にはアルディスからの手紙が握られている。オリゲルドはその手紙を手で握りつぶし言い放った。
  オリゲルド(亜弓) 「無視し続けられる苦しみというものもあるのよ・・アルディス・・」
町の上空でからすの群れが飛び、不気味な泣き声を響かせている。牢獄の鉄の扉が開いた。
SE 《鉄の扉開く音》
050 アルディス(マヤ)  「オリゲルドお義姉(ねえ)様!」
  「立場の入れ替わったアルディスとオリゲルド・・・・!いったいどんな演技をやろうってんだ。マヤも亜弓さんも・・・」
  アルディス(マヤ)  「やっぱり来てくださったのねお義姉(ねえ)様・・・」
  駆け寄るアルディス。その身体を、エリンワルド国の兵が捕まえる。
  アルディス(マヤ) 「お義姉(ねえ)様・・・」
  《せりふ》
「アルディス姫、ラストニア国第一王女にしてエリンワルド国アシオ王子妃殿下オリゲルド様、暗殺未遂及び新ラストニア国女王陛下に対する謀反の容疑によりこれより取調べを行なう!」
  アルディス(マヤ) 「なんですって!し、知りません!わたしは何も!お義姉(ねえ)様を亡き者にしようなど考えた事もありません!」
  《せりふ》
「だが、そなたの祖父、ゴッドフリード伯とその息子でありそなたの伯父であるハンス、そなたの母、王妃ラグネイドの3人がオリゲルド様暗殺計画の首謀者なのだ」

「誓約書に署名した仲間の12人の貴族達はすでに自白。その目的はアルディス姫、第二王女であるそなたを女王の座につけること。当事者であるそなたがこの計画をしらぬわけはあるまい!」

「素直に白状して改心すればオリゲルド様もお慈悲を示してくださるだろう」

アルディス(マヤ) 「嘘ではありません!わたしは何も知りません!もし知っていたとしたら必死になってそれをやめさせたでしょう。お義姉(ねえ)様・・・まさかお義姉(ねえ)様はわたしがそんな事をするとお考えではないでしょう・・・?お義姉(ねえ)様を裏切るなどと・・・」
オリゲルド(亜弓) 「かつて、わたしの母もそうやって必死に無実を訴えたわ・・・でも誰も耳をかさなかった・・。そうして仕組まれた罠に落とされたのよ・・」
060 アルディス(マヤ)  「オリゲルドお義姉(ねえ)様・・・・」
  オリゲルド(亜弓) 「アルディス、わたしの義妹(いもうと)・・・半分だけ血の繋がった義妹(いもうと)・・・春の女神のように美しく誰からも愛される義妹(いもうと)・・・アルディス・・・」
  オリゲルドが一歩ずつゆっくり階段を降りてくる。その足音が乾いた音を立てて監獄内に響いていく。
  SE 《響く足音》
  オリゲルド(亜弓) 「誰にも優しくて天使の微笑みをもつ義妹・・・アルディス・・・」
  アルディス(マヤ) 「お義姉(ねえ)様・・・」
  オリゲルドはアルディスに近づくと、その胸元に光るブローチを引きちぎる。その場に押されて倒れこむアルディス。オリゲルドの手の中にアルディスのブローチが光る。
  オリゲルド(亜弓) 「囚人にこんなものは似つかわしくないわ」
「亜弓さん・・・本物の憎悪を感じるぜこりゃあ・・」
  オリゲルド(亜弓) 「さ!本当の事をおっしゃい!言えば処刑は免(まぬが)れさせてあげるわ!ゴッドフリード伯達と一緒になってわたしの命を狙っていたのでしょう!?」
070 アルディス(マヤ)  「オリゲルドお義姉(ねえ)様・・・」
  オリゲルド(亜弓) 「わたしを殺して王女の座に就くつもりだったのでしょう」
  アルディス(マヤ) 「いいえ・・・!いいえお義姉(ねえ)様!どうしてそんな!」
  オリゲルド(亜弓) 「お言いなさい!あなたがこの計画を聞いたのはいつ?」

「お父様がなくなったのを知ったのはいつ?」

「わたしの殺害計画を成功するまでお父様の死を秘密にしておこうと言ったのは誰!?」

  アルディス(マヤ) 「知りません!本当ですお義姉(ねえ)様。わたしを信じてください・・・おじい様とお母様がそんな大それた事件に加わっていた事さえ信じられないのです」

「お義姉(ねえ)様、どうかお慈悲を・・おじい様のやった事は許しがたい事でしょうが・・どうかお慈悲を・・・」

  オリゲルド(亜弓) 「慈悲・・・牢の中にいたわたしに慈悲をかけてくれる者などひとりもいやしなかったわ・・・」
  アルディス(マヤ) 「お義姉(ねえ)様・・・?」
  オリゲルドは口の端を僅かにゆがめて笑った。
オリゲルド(亜弓) 「フッ・・・残念だわアルディス。あなたなら本当の事を言ってくれるかと思ってたのに」
アルディス(マヤ) 「オリゲルドお義姉(ねえ)様!待って!お義姉(ねえ)様!」

「信じてください!アルディスは今もあなたの事をわたしのただひとりのお義姉(ねえ)様だと思っています!真実、今度の事件の事は何も知らないのです!お義姉(ねえ)様を愛しています!」

「お願いです!おじい様やお母様達にお慈悲を!」

080 オリゲルド(亜弓)  「それは無理よアルディス。彼らはラストニア国の女王陛下を暗殺しようとしたのですもの」

「裁判では有罪。ふたりは今朝、処刑されました」

アルディス(マヤ) 「処刑・・!お母様におじい様が・・・・」
  アルディスは深い悲しみの底に落ちていった。牢獄の外から不気味なからすの鳴き声がいつまでも響いていた。
  グリエル大臣 「オリゲルド様、アルディス姫が今度の事件に関わっていたと言うのはどうお考えですか?自分で言うように何も知らなかったのか・・それとも・・・」
  オリゲルド(亜弓) 「何も知らなかった・・・それが正しい答えね。あの天使は・・・・」
  グリエル大臣 「アルディス姫をどうなさるのですか?裁判で有罪判決を得るための証拠ならいくらでもでっちあげますが・・・」
  オリゲルド(亜弓) 「アルディスはまだ処刑にはしないわ。あの子は第二王女でわたしの義妹(いもうと)・・姉が次期王位継承者である姫を処刑したのでは他国への体面が悪い・・かといって自由にさせたのではあの子を利用してわたしを倒し王座を狙う者がでてこないとも限らない」

「アルディス・・・!今までわたしが暮らした牢の中で今度はあなたが暮らすのよ!来る日も来る日も壁だけを見て、あてのない吉報を待ち、窓の向こうを季節が通り過ぎて行くのを黙って見送るだけの日々・・・人恋しさと不安と苦しみで人の心は醜く曇るわ!」

「アルディス、春の女神のような義妹・・・!その時のあなたの笑顔はどんなものか、わたしは見てみたい・・・!この牢獄はあなたにとっての生きた墓場、永遠に春を迎える事はないわ。オーホホホホ・・・」

  舞台はいよいよ女王オリゲルドの戴冠式のシーンを迎える。
  オリゲルド(亜弓) 『女王の顔!オリゲルドが女王になる・・!女王に・・・!悲劇の女王に・・!」
  《せりふ》
「汝、ラストニア王となりて国のため民のため、正しく政(まつりごと)を行なう事を誓うか?」
090 オリゲルド(亜弓) 「はい」
  一斉に参列した貴族達から歓声が湧き上がる。オリゲルドは今、ラストニアの女王となった。
  「女王オリゲルドか・・・自信と誇りに満ちたあの態度、表情・・・さすがは亜弓さんだ。さっきまでのオリゲルドと顔つきが違う」
  オリゲルド(亜弓) 「ついに手に入れたわ、長い間の念願だったラストニア国の王座・・・・!お母様ごらんになっていて?あなたの苦しみの淵に沈めた者達は皆、わたしが葬(ほおむ)ってさしあげましてよ」

「ああ、夢のようだわ。あの暗く冷たい牢から抜け出て今はこの国の最高の地位にいる!最高の富と権力がわたしの手にある・・・!」

「お母様あなたはおっしゃったわ。人は野望を遂げるためには、どんな人間を犠牲にするのもいとわないと・・・誰も信じない、誰も愛さない・・そしてわたしはこの国を得たのよ。ラストニア、わたしの国・・なんて素敵な響き・・どれほどこの言葉をつぶやく日を待っていたことか・・わたしの国・・・!ラストニア」

  アルディス(マヤ) 「オリゲルドお義姉(ねえ)様・・・とうとうこの国の女王陛下におなりになった・・・亡きお父様の代わりに・・・お義姉(ねえ)様はかつてわたしのために命を投げ出して敵国へ行かれたお方よ。そのお義姉(ねえ)様を殺そうとしたなんて・・・お義姉(ねえ)様はきっとわたくしに裏切られたとお思いになったでしょうね。とても悲しく辛い思いをなさったに違いないわ・・・」
  今までオリゲルドのために策謀を巡らして来たグリエル大臣が、オリゲルドの手の者によって襲われた。
  グリエル大臣 「オリゲルド様!」
  オリゲルド(亜弓) 「グリエル大臣、今度の事であなたは知りすぎたわ。悪企(わるだく)みの相棒をなくすのは本当にわたしも辛いのよ」
  グリエル大臣 「ぬかったわい・・わしともあろう者が・・・これで天下晴れてあなたはこの国の王女に・・と言いたいところだがまだ油断は出来ませぬぞオリゲルド様」

「アルディス姫はどうなさるおつもりだ?王位継承第二位のあなたのお義妹(いもうと)御(ご)ですぞ。今のあの方に力は無くとも力を貸そうと言う人物が出てこないとはいえん・・」

「もしも、あなたに何かあった時、あの方があなたに代わって女王になられるのだ・・あなたに何か起こらないと誰が言える?」

「ええ!!いったい誰が・・・かつてあなたがしたように、あなたもいつその座を追われるかもしれんのだ・・・!」

  オリゲルド(亜弓) 「息の根を止めておしまい!」

「かつてわたしがしたように・・今度はいつわたしが追われるか・・・」

「アルディスの牢獄の警備の者を今の倍にお増やし!それから決められた人物以外はどんな人物でも決してわたしの許可なしに牢獄へ入れてはなりません!」

「窓はひとつだけにしてあとは塗りつぶしておしまい!アルディスは牢獄の塔の部屋から一歩も出してはなりません!規則を破った者は死罪です!アルディスは塔の墓場から出してはなりません永遠に・・・永遠に・・・」

100 ひとつしかない窓から僅かに差し込む光を受けて、アルディスが神父の言葉に耳を傾けている。

《せりふ》
「神は常にあなたと共にいるのです。いかなる苦境も神の与えたもうた試練とお思いなさい。神はあなたの魂の成長を見守っていらっしゃるのです。どんな時でも父なる神の愛があなたにあるという事を忘れてはなりません。アルディス姫」

オリゲルドの元に赤ユリ党の党首ディーンを殺したと知らせが入った。その報告を聞くオリゲルドのもとに夫のアシオがやってきた。

  オリゲルド(亜弓) 「アシオ様・・・な・・何のご用ですの?いったい・・・」
  アシオ王子 「ほう・・・夫が妻の部屋を訪ねるのに用が無ければいけないのか?さすがはお偉い女王陛下だ。間者や殺し屋は平気で出入りさせるくせに!」
  オリゲルド(亜弓) 「ホホホ・・・まあ、悪いご冗談を。それより酒でも持って来させましょうか」
  アシオ王子 「いいや断る!毒でも入っていては困るからな。フフ・・・上手く父上に取り入ったものだ。敵国へやって来た人質の花嫁・・それがいつのまにか敵国の王をはじめ家臣を見方につけ、その力を借りて故国に矢を放ち自分のものにするとは・・・恐ろしい女だお前は」

「念願叶ったりとみるや今まで利用した知りすぎた人物、危険な男などを使い終わった道具のように次々と抹殺していく」

  オリゲルド(亜弓) 「ずいぶん想像力が豊かですのね。もし、わたくしが本当にお話の通りでしたらどうなさるおつもり?」
  アシオ王子 「俺はお前の思い通りにはならないぞ。今やこの宮廷の3分の1はエリンワルドの人間が占めている。俺に何かあったらエリンワルドの軍隊が動き出すと言う事を忘れるな」

「まあ今の所、女王陛下の妻を持つのも悪い気分では無いがな」

  オリゲルド(亜弓) 「アシオ様、どうしてそのような事を!」
  アシオ王子 「俺もお前に利用された道具の一つだ!」
  アシオ王子は、そう言い捨てると部屋を出て行った。
110 オリゲルド(亜弓) 「馬鹿なアシオ王子がやっと自分の立場に気付いたと言うわけね。彼ひとりの知恵では無いはず・・・彼の取り巻きの重臣達・・・油断がならないわ・・・誰も彼も油断がならない。笑顔の裏で何を企んでいる事か・・・そうよ、このわたしのように・・・!」
  宮廷内のラストニア貴族とエリンワルド貴族の対立が日に日に悪化してきていた。そしてついにエリンワルド貴族達に対して不満を持つラストニア貴族達の一部でアルディスを立てようとする動きが起こった。エリンワルド貴族からアルディスを処刑するようにと声があがった。

《せりふ》
「アルディス姫は第二位王位継承者、このままにしておくのは危険です。アルディス姫に死を!」

《せりふ》
「裁判にかけて処刑台へ!理由は何とでも・・・!オリゲルド様暗殺計画に荷担していたという罪で・・!」

  オリゲルド(亜弓) 「いいえ・・・」
  《せりふ》
「毒殺・・・病気にみせかけて!」
  オリゲルド(亜弓) 「いいえ」
  《せりふ》
「腕利きの刺客を・・・!」
  オリゲルド(亜弓) 「いいえ・・・!」
  《せりふ》
「女王陛下!」
  オリゲルド(亜弓) 「いいえ、いいえ、いいえ!駄目よ!アルディスは殺せない!」

「あの子は切り札・・・!エリンワルド国に対しての・・国王陛下とアシオ王子に対しての・・・わたしのたったひとつの切り札なのよ」

「もし、アルディスが亡くなれば、それこそアシオ王子の思うつぼ・・・わたしさえ死ねばこのラストニアは簡単にアシオ王子のものになる。エリンワルドのものになる・・・」

「わたしは命を狙われるわ・・・アシオ王子とエリンワルド国から・・・!殺られる前に殺る!だけどこのわたしがアシオ王子に手を出すわけにはいかない。彼に何かあればエリンワルド国が黙ってはいないわ。」

「戦になる・・・!軍事力ではラストニアはエリンワルドに劣る・・得策ではないわ」

「アルディス・・・第二王位継承者の義妹(いもうと)アルディス・・・あの子の存在はそれだけでわたしの立場を強くしてくれる・・・!アルディス、わたしの切り札・・・!」

  アシオ王子 「オイディーンを投獄せよとは何事だ!かりにも、このアシオ王子の従兄(いとこ)だぞ!エリンワルド国の王家の血筋の者だぞ!それをこのラストニアの薄汚い牢へ入れるのだと!?」
120 オリゲルド(亜弓) 「お黙りなさい!ここではわたしが王女です!ラストニアの宮廷を混乱させる者は何人たりとも許しません!」
  SE 《北風》
  オリゲルド(亜弓) 「誰も信じられない・・・そうよ誰も信じない・・誰も愛さない・・これでいい・・気を許せば自分がやられる・・・夫に家臣に全ての敵に・・・疲れた・・・」
  椅子に腰掛け、いつしか眠ってしまうオリゲルド。その周りに、いままで謀略によって殺してきた者たちの姿が浮かび上がりオリゲルドを責めたてた。

《せりふ》
「そうともオリゲルド、誰も信じるな、誰も愛するな、それが王たる者の定め。我らのような目にあいたくなくばな」

《せりふ》
「見事なものだオリゲルド、そなたの企み。わが王家一族と国を滅ぼした」

《せりふ》
「次はあなたの番・・かつてあなたがしたように今度はあなたが裏切られる・・・」

《せりふ》
「そうともオリゲルド、誰も信じるな、誰も愛するな、我らのようになりたくないならばな」

  オリゲルド(亜弓) 「やめて・・・やめてーーーっ!」

「・・・はあ、はあ・・夢・・・?・・・誰!?」

「おばあ様!いつ北の離宮からいらしたのですか?」

  ハルドラ(月影) 「夢を見ていたようですねオリゲルド。今日はあなたに最後の忠告に来ました」

「あなたがこの国の女王になるまでに何をしてきたかを問う事はもうよしましょう。オリゲルド、これから先、あなたは地獄の中で生きる覚悟がありますか?」

  オリゲルド(亜弓) 「地獄の中で?」
  ハルドラ(月影) 「あなたがこの国の女王として生きるのは地獄を歩むに似た事。その覚悟を持ってラストニアの国を守っておくれ」
  オリゲルド(亜弓) 「皇太后・・いえ、おばあ様。なぜわたくしが地獄の中で生きるのです?地獄だったのは牢獄で暮らしていたあの日々です!辛く悲しいひとりぼっちの日々・・・!」
  ハルドラ(月影) 「ひとりぼっち・・・?オリゲルド、今がそうでないと言えるのですか?」
130 オリゲルドは皇太后ハルドラの言葉にはっとした。
  オリゲルド(亜弓) 「あ・・・・!わたしは誰も信じない・・・誰も愛さない・・・そして・・・誰もわたしを信じない・・愛さない・・」
  ハルドラ(月影) 「さようならオリゲルド、わたしがこの城へ来る事はもう二度と無いでしょう」
  オリゲルド(亜弓) 「誰もわたしを信じない・・誰もわたしを愛さない・・誰もわたしを・・・・地獄の中で生きる・・」
  SE 《北風》
  オリゲルド(亜弓) 「あれから3年・・わたしの心の中は昔と変わらず冬の風が吹いている・・・氷のつぶてが舞っている・・吹雪の音だけがわたしの音楽・・・冷え切ったメロディ・・・アルディスはあの監獄の中でどう暮らしているのか・・・?かつてわたしが暮らしていたあの監獄で・・」
  アシオ王子 「これは我が妻にして女王陛下、ご機嫌麗(うるわ)しゅう」
  オリゲルド(亜弓) 「アシオ様」
  アシオ王子 「オリゲルド、白の監獄の中のアルディスを殺す事に反対しているそうだな。何故だ?」

「俺とエリンワルドに対する切り札だと思っているのか?」

「だったら生憎(あいにく)だな。俺はラストニア王位を継承できるのならばお前でなくてもいいのだ。お前がこの世からいなくなればアルディスがこのラストニアを継ぐ、あの監獄から出てだ」

「前にちらりと見たときにはボロをまとっていたが、たいそう美しい王女だった。ええ、どうだオリゲルド、はははは・・・」

  オリゲルドの手がバシッと大きな音を立ててアシオの頬を張った。
140 アシオ王子 「オリゲルド・・・!お前のような女、もう顔も見たくない・・・!」
  オリゲルド(亜弓) 「そうだ・・・あの男の言う通りだ・・やるかもしれないあの無鉄砲な男なら・・・わたしを殺してアルディスと結婚・・・アルディスがわたしの後を継いで女王になる・・・そうはさせない・・・!させるものですか!」
  オリゲルドの足はアルディスの幽閉されている白の監獄へと向かっていた。
  オリゲルド(亜弓) 「アルディス・・・!この牢獄での3年間、さぞ苦しみと絶望と悲嘆の涙で明け暮れた事でしょう。かつてのわたしのようにあなたもその中で憎しみを育てている事でしょう」
  オリゲルドは、アルディスの牢の扉の前へやってきた。その時、牢内から明るい笑い声が響いてきた。オリゲルドは格子の隙間から中を覗いて信じられなかった。
  オリゲルド(亜弓) 「どうした事なの?これはいったい・・!あの笑顔はいったいなに・・・?初めて会ったときと同じ春の女神のような・・・アルディス・・・・3年の間、あの子はこの中で変わらなかったというの・・?
  《せりふ》
「いよいよクライマックスだな・・姫川亜弓と北島マヤがいったいどんな演技を見せるのか楽しみだ」

オリゲルドは隠し持ってきた短剣を引き抜き、身構えた。短剣の刃が鋭い光を反射していた。

  いよいよふたりの対決だ。「ふたりの王女」オリゲルドとアルディスの・・・北島マヤと姫川亜弓の・・・」
  《せりふ》
「それまで憎悪と野心の塊だったオリゲルドが初めてその弱みをさらけ出し、天使のようだったアルディスが初めて憎しみと殺意をみせるこのシーン・・二人がどう演じるか・・このクライマックスに全てがかかっている」

場内は水を打ったように、静まり返っている。二人の王女、『アルディス』と『オリゲルド』の対決が始まろうとしていた。

149 ED パープル・ライト

ガラスの仮面 アルディスとオリゲルド(ふたりの王女 編) 最終話へ続く

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