ガラスの仮面
アルディスとオリゲルド(ふたりの王女 編)
コミック 第10章 冬の星座 25・26・27巻より

国王(1言) ウーロフ王と被りOK
アシオ王子(3言) ユリジェスと被りOK

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gW 最終話
  OP ガラスの仮面
001 舞台袖より月影扮する皇太后ハルドラが登場する。皇太后ハルドラの全身から発する重厚な雰囲気に、舞台上の出演者、観客を含め皆、固唾を飲んでいた。

場内が水を打ったようにシーンと静まり返る。その異様な雰囲気の中、皇太后ハルドラは正面の椅子へと進んでいく。ハルドラの打つ杖の音だけが響き渡っている。そして椅子の前に立ち厳かに言った。

  ハルドラ(月影) 「待たせましたね、そなた達・・皇太后ハルドラです」
  《せりふ》
「さすがは月影千草だな。立っているだけで観客の注目を集める・・いや、たいした存在感だ・・」
  オリゲルド(亜弓) 『月影先生・・・』
  アルディス(マヤ) 『おばあさま・・・』
  オリゲルド(亜弓) 「お久しゅうございます皇太后様。オリゲルドでございます」
  ハルドラ(月影) 「オリゲルド・・・!あの娘か・・黒髪の・・!」
  オリゲルド(亜弓) 「はい、8年ぶりでございます。おなつかしゅうございます」
  ハルドラ(月影) 「オリゲルド・・・8年もの長い間、本当に可哀相なことをしました。わたしの力が及ばなかったのです。許しておくれ」
010 オリゲルド(亜弓) 「いいえ、滅相もございません・・」
  亜弓は顔を上げた。その視線の先にマヤの顔が見えた。
  オリゲルド(亜弓) 『マヤ・・・!』

『なんて表情をしてわたしを見ているの!?マヤ、あなたは・・・!』

『紅潮した頬、期待に見開かれた瞳、話しかけたげな口元・・初めてオリゲルドと会った感激が全身から感じられる・・・!さっきからそんな表情をしていたの・・・!?』

「あれがアルディス・・・!おお、義妹(いもうと)アルディス・・!噂にたがわずなんて美しい。確かに春の光のように輝いている・・・!」

  「亜弓さん・・・さっきから後ろを向いたきり動かない・・いったいどんな表情をしているんだ・・。だけど、オリゲルドの肩を見ているだけでその気持ちがわかる」

「正面向いているアルディスよりもオリゲルドのほうがなぜか気になる・・・姫川亜弓・・たいした存在感だ・・」

  アルディス(マヤ) 「あれがオリゲルドお義姉(ねえ)様・・お綺麗な方・・・何年も牢獄でお暮らしになったというのに、ひ弱そうな所は少しもみられない。立派で気高くていらっしゃる・・!わたしの代わりに命を投げ出して隣国へ・・・!わたしのために!なんて勇気のある優しい方なのかしら・・・!」

「ああ、わたしは恥ずかしい。隣国へ嫁がねばならないかもしれないと聞いた時、悲しさと恐ろしさで泣いてしまったというのに・・・!」

  国王 「皆の者!ラストニア家第1王女オリゲルドはこの度、隣国エリンワルドのアシオ王子殿のもとへ嫁ぐ事にあいなった・・・!知っての通りエリンワルドは、古き昔より我が国といさかいの多い仲であったが、この度の婚儀をきっかけに、いわば縁戚同士となるわけである。今後は争いを無くし、平和かつ友好の絆で結ばれたいと願うものである」

「この度の婚儀を祝いオリゲルドにはラストニア国王家の家宝、黄金の翼竜の宝剣と首飾りを授ける」

  《せりふ》
「王家の宝、翼竜の宝剣と首飾りをオリゲルド様に・・・!王だけが持てることになっていた宝を・・・!あれをお手にされるということは、オリゲルド様はまさに王家の一員。失礼な態度をとってはならぬ」
  オリゲルド(亜弓) 「ありがとうございます陛下」
  オリゲルドは国王より翼竜の宝剣と首飾りを受け取ると、すくっと立ち上がりクルリと振り返った。

《せりふ》
「なんて自信に満ちた表情だ・・宝物を手に入れて、これで堂々と王家の一員となった。そんな自信を得たオリゲルドの初めて見せる表情だ・・・。後ろ姿だけの演技から表への急な変化。一瞬、観客が目にする事のできるオリゲルドの内面・・・この呼吸、タイミング・・さすが亜弓さんだ」

  ハルドラ(月影) 「オリゲルド・・この度の婚儀、そなたが自分で申し入れたと聞きましたが本当ですか?」
020 オリゲルド(亜弓) 「は・・はい皇太后様」
  ハルドラ(月影) 「何故ですか?人は誰でも自分が一番大事なもの。特にそなたは王家に対して良い思いを抱いていまい。それなのにわざわざ敵国へ単身乗り込もうと言うのはいったいどのような気持ちからなのです?」

「これから先どうなるかはいざ知らず、エリンワルドは昨日までは確かに敵であった国・・さあ!オリゲルド!!」

  オリゲルド(亜弓) 「どうしよう・・なんと答えよう・・エリンワルドの大使もいる・・うかつな事は言えないわ・・」

「・・・わたくしが嫁ぎます事でエリンワルドと友好を結べると聞きました・・わたくしがお役にたてるのなら、それだけでオリゲルドは喜びでございます・・・」

  アルディス(マヤ) 「オリゲルドお義姉(ねえ)様はこのアルディスの身替りになってくださったのよ!」

「オリゲルドお義姉(ねえ)様はこのアルディスがまだ幼くて可哀相だからご自分が行くとおっしゃってくださったのよ!神父様も将軍もそう話していたわ!」

  アルディスは制止を振り切り、オリゲルドのもとへ走った。そしてオリゲルドの胸の中へ飛び込むと頬にそっとキスをした。
  アルディス(マヤ) 「初めましてオリゲルドお義姉(ねえ)様」
  オリゲルド(亜弓) 「アルディス・・・」
  アルディス(マヤ) 「このアルディスの事をそこまで考えてくださったなんて、感激の言葉をどう表わしていいのかわかりませんわ」
  オリゲルド(亜弓) 『まるで警戒心の無い顔だわ・・・!なんて表情するのかしら・・!』

『・・・はっ!・・観ている・・・!観客はこの子を観ている・・・!』

  アルディス(マヤ) 「おばあ様、わたくしお義姉(ねえ)様を誇りに思いますわ。なんて立派な方!このラストニアのためにご自分を犠牲になさるなんて・・・!そしてわたくしのためにも・・・!」
030 オリゲルド(亜弓) 「神父様は自分の運命を受け入れよとおっしゃいました。これからもその運命に従うつもりです」
  ハルドラ(月影) 「オリゲルド・・・そなたの運命・・敵国エリンワルドの后になる事か」
  オリゲルド(亜弓) 「はい・・もしも生きながらえましたなら・・・今はただアシオ王子の花嫁になるだけでございます」
  ハルドラ(月影) 「オリゲルドがエリンワルドへ嫁ぐ・・・!デンマークと同盟を結んでより強敵になったエリンワルドへ・・花嫁という名の人質・・・!ラストニアの第1王女。2番目の継承者・・・・!」

「なぜか心の黒雲が晴れぬ・・・!」

  ライトが消え、皇太后ハルドラが退場する。
  オリゲルド(亜弓) 「見透かされている?わたしの心を・・!皇太后・・油断がならないわ・・・」
  アルディス(マヤ) 「敵国の花嫁・・・なんて悲しい言葉なのでしょう」
  オリゲルド(亜弓) 「アルディス、あなたはいい方ね・・・何度も素晴らしい贈り物をありがとう。どれほどあなたにお会いしたいと思った事か・・」

「それに噂通りの美しい方・・・春の女神のようだと聞いていたけれど本当そうだわ。あなたという光の前ではわたしは闇色をした影・・・」

  アルディス(マヤ) 「そんな・・・お義姉(ねえ)様・・・!」
  オリゲルド(亜弓) 「本当よアルディス、あなたのような方がわたしの義妹(いもうと)なんて誇らしい気持ちです」

「アルディス・・・これから先どんな事があってもわたくしを信じてくださる?」

040 アルディス(マヤ) 「もちろんですわオリゲルドお義姉(ねえ)様。たとえラストニアとエリンワルドがどんな事になろうと、わたくしお義姉(ねえ)様を信じます」
  オリゲルド(亜弓) 「ありがとうアルディス、これで勇気を持ってエリンワルドへ行けます」
  アルディス(マヤ) 「ただひとつ約束していただきたいのお義姉(ねえ)様」
  オリゲルド(亜弓) 「まあ、どんなこと?アルディス」
  アルディス(マヤ) 「けっして死なないで・・・!」
  アルディスは華奢(きゃしゃ)な両手でオリゲルドの左手をぎゅっと握ってつぶやいた。
  オリゲルド(亜弓) 『マヤ・・なんて力・・!真剣な目・・・!』
  オリゲルドも強く手を握り返す。
  オリゲルド(亜弓) 「ええ、きっと」

『マヤ、この舞台は闘いよ。やり合いましょう存分に・・!」

舞台は暗転し、敵国エリンワルドのシーンとなった。
050 アシオ王子 「敵国ラストニアのオリゲルド王女だと!?わたしの后になると言うのは・・・・・!」

「聞いた話では陰気な痩せ細った女と言うではないか!美人だという噂はかけらも聞こえてこない・・!ええィ・・!父上や母上がいなければ、こんな会見の場などすっぽかして恋しい女達のもとへ行くのに・・・!」

  ウーロフ王 「仮に后という名になってもだ、ラストニアと次の戦がおきるまでの話。命のある間は労(いた)わってやるが良かろう」

「ラストニアは今、内政が混乱しておるそうじゃ。我が国がデンマークと同盟を結んだ今、争っても勝ち目は無いと見たのだろう」

  アシオ王子 「いまいましい・・・!評判の美少女アルディス姫ならまだ我慢できるものを・・・!」

「おれは敵国の姫に寝首をかかれんよう気をつけなきゃならないってわけだ」

  《せりふ》
「ラストニア国王女オリゲルド様、用意が整ったご様子。おみえになります」

オリゲルドがラストニアからついてきた6人の侍女とともに現れた。国王の前で、うやうやしく礼をする。

  オリゲルド(亜弓) 「初めてお目にかかります。ラストニア国第1王女オリゲルドでございます。後(あと)の者はラストニアよりわたしについてまいりました侍女達でございます」
  《せりふ》
「オリゲルドがこの敵国でどうするのか・・ドキドキするなあ・・」
  アルディス(マヤ) 『亜弓さん・・ステキだわ・・本当にあなたはステキ・・・暗い瞳のオリゲルド・・でもその瞳の中に知性と野心を光らせている。観客をひきつける・・・ステキなオリゲルドだわ・・』
  ウーロフ王 「わしがエリンワルドのウーロフ王だ。よく来られたのオリゲルド姫」
  オリゲルド(亜弓) 「初めましてオリゲルドでございます。お会いできて嬉しゅうございます」
《せりふ》
「わたくしはこの国の宰相オクセンシェーナ。オリゲルド様の良きご相談相手になりたいと思っております。なにかご用があればいつでもわたくしに・・」
060 オリゲルド(亜弓)  「ありがとうオクセンシェーナ、早速ですが頼みたい事があります」

「ここにいるラストニアから来たわたくしの侍女たちを、ばあやを残して皆、控えの間へ去らせてくださいませ」

  ウーロフ王 「よろしい、その侍女たちをさがらせるように」

「さて、後(あと)は何だ、申してみよ。オリゲルド姫」

  オリゲルド(亜弓) 「今・・・去らせました侍女たちを牢に繋ぎ、わたくしに陛下と王妃様のお選びになったこのエリンワルドの侍女を付けていただきとうございます」
  ウーロフ王 「ほう・・・それは何故だ?」
  オリゲルド(亜弓) 「あの者達はラストニアの女達でございます。この国の内情を探ろうとするスパイがいるかもしれません。隙を見て、陛下や王家の方々に毒を盛るよう申し付けられた者がいるかもしれません。油断なさらない方がよろしかろうと存じます」
  ウーロフ王 「ほう・・・!そなたはラストニアの王女でありながらこの国の心配をしてくれているのか」

「そなた、この度の自分の身をどう思っている?」

  オリゲルド(亜弓) 「エリンワルド国の人質だと思っております」
  ウーロフ王 「では聞くが、そなたは人質としての自分をどう思う?悲しいか?悔しいか?それとも?」
  オリゲルド(亜弓) 「わたくしは陛下、長い間、牢の中で暮らしてまいりました。どんな所でも牢の中よりはましでございます」

「陛下、わたくしは人質としての価値はございません」

ウーロフ王 「それはどういう意味だ?」
070 オリゲルド(亜弓)  「陛下・・・!ここへ来る道すがら青空を見ながら馬にゆられわたくしは考えておりました。わたしはエリンワルドで死ぬ事は無い・・・と」
  ウーロフ王 「それは何故だ?」
  オリゲルド(亜弓) 「陛下はとても聡明な方だと思っております。わたくしがこちらへ参りましたのもラストニアが軍備を整えるまでの単なる時間稼ぎに過ぎない事はとうにお察しでしょう」

「時が来ればラストニアはわてくしなど構わず、この国へ攻め入るでしょう。ラストニアに脅威を与えるおつもりならば、今ここでわたくしを切り殺しその遺体をつきつけて宣戦布告をなさいませ。今、内政不安なラストニアはそれだけで大きく動揺するでしょう」

  ウーロフ王 「で、わしがそうすると考えているのか?」
  オリゲルド(亜弓) 「いいえ」

「聡明な陛下はそうはなさらないでしょう。同盟国デンマークの後ろ盾があるとはいえ、今は間近にそのデンマークを助け、東国(とうごく)への遠征を控えている身、今、ラストニアと事を構えるのは兵力の分散になるはず。エリンワルドとしても和平の状態のまま時を稼ぎたい。そうではありませんか?」

「そしてもう一つ、わたくしはラストニア国第1王女であるという事です。わたくしはラストニア王家の宝、翼竜の宝剣と首飾りを持っております。すなわち、正式な王位継承者であると言うことです。わたくしはラストニア国第2王位継承者であるということです」

  皆、オリゲルドの放つ不思議な貫禄と誇り高さに、圧倒された。
  ウーロフ王 「ラストニアのヨハン王子は病弱だと聞いているが・・・・」

「ワハハハハ・・オリゲルド・・・!そなたという女!ラストニアにはもったいない姫じゃ!よくエリンワルドへ来られた」

「アシオ、いやぁこの姫はお前には最高の后となるかもしれんぞ!」

  アシオ王子 「父上・・・!」
  ウーロフ王 「さあ、オリゲルド殿、長旅疲れたであろう。早速、最高の侍女達をそなたのために用意しよう・・・!気に入らぬ事があればいつでもこの宰相に申すが良い。婚礼の儀は盛大に催す事にしよう!」
オリゲルド(亜弓) 「ありがとうございます陛下」
080 N  上機嫌のウーロフ王はオリゲルドを連れて去っていった。婚礼の相手、アシオ王子をそのまま残して・・。会場に笑いがこぼれる。
  「驚いたなこれは・・・オリゲルドの印象が強すぎる・・・。マヤの出番が早く欲しいな・・」
  ユリジェス 「オリゲルド王女が敵国エリンワルドへ嫁いで半年が経った。王女が身を犠牲にして敵国へ嫁いだということで貴族達はおろか国民の間でもオリゲルドの評判はすこぶる良かった」

「民達はこの国の事を本当に考えているのはオリゲルド王妃様だけだと口々に囁き合うほどだった。こうして、エリンワルド国との緊張は解けたがラストニアはまた新たな展開を迎えていた。・・それは小国ハ−ランドとの銅山をめぐっての争いだった」

  《せりふ》
「ええい!生ぬるい!先手を打つのだ!」
  ユリジェス 「甘く見ているのはあなた方の方だ。ハーランドは簡単には落ちませんよ」

「最近のハーランドの軍事力をご存知ないのか」

  《せりふ》
「このラストニアがハーランドに負けると言うのか!あのちっぽけな国に・・・!」
  ユリジェス 「負けるとは言っていません。ですが苦戦を強いられるでしょう。今年、このラストニアは農作物の実りが少なく商業も伸びてはいない。失業者の多くは戦のための兵士になりたがる。硬いパンとひきかえに」

「軍事費はどこから出るのです?国民へ重税の負担がかかるだけです。今は内政をかためるときではありませんか」

  《せりふ》
「ハーランドが手に入ったら国民の税の事など忘れさせてやる・・・!ラストニアは必ず勝つ。一時の辛抱だ。行け!若者」
  ユリジェス 「きっと後悔しますよ」
アルディス(マヤ) 「ハーランドと戦・・・!お父様・・」

「なぜ人と人が戦うの・・?殺しあうの・・?わたしは何も出来ないの?何をすればいいの?・・ただ待ってるだけ?この国の王女なのに・・・!

090 SE  《吹雪の音》
  ユリジェス 「一年が過ぎた・・まだ戦は終わらない・・・国王は戦場で傷つかれ、今は不安な思いに苦しめられながら養生の日々を送られている・・・この一年の間、国は荒れた・・長引く戦の犠牲になるのはいつも民達だった・・・」
  舞台中央に立つユリジェスの後ろにスポットが当たる。そこにアルディスの姿が浮かぶ。
  アルディス(マヤ) 「一年・・・まだ戦は終わらない。お父様は傷ついてずっとここに臥(ふ)せられたまま。他の傷ついた者も多くいると聞く。重税に苦しむ民の中には王家に反する者も多いとか・・」
  アルディスの後ろの階段の上部にスポットが当たり、オリゲルドの姿が浮かぶ。
  オリゲルド(亜弓) 「一年・・ラストニアの戦はまだ終わらない・・・もう、あと1年か2年長引けばいい・・・そうすればラストニアは自ら滅びる・・」
  アルディス(マヤ) 「どうすれば戦を終わらせる事が出来るかしら?」
  オリゲルド(亜弓) 「どうすれば戦を長引かせる事が出来るか・・・」
  アルディス(マヤ) 「やらなければ・・!わたしはラストニア国の王女だもの・・・!」
オリゲルド(亜弓) 「やらなければ・・・!今こそラストニアを倒すとき・・!」
100 SE  《吹雪の音》
  《せりふ》
「面白くなってきたな、天使のようなアルディスと悪魔のようなオリゲルドの戦いが始まるって感じだぜ・・」
  オリゲルド(亜弓) 「オリゲルドとアルディスの戦い・・そう・・・!これはわたしとマヤ・・・あなたとの戦い・・・!」

「わたしは今オリゲルド・・・!ラストニア国の第1王女。隣国エリンワルドへ嫁いだ人質の花嫁。野望と憎しみをエネルギーに中世の陰謀渦巻く王宮の中で生きる女・・・!」

「わたしの中にオリゲルドが宿る・・・!オリゲルドの魂をわたしが語り、わたしが動く・・わたしの中にオリゲルドが生きている」

  「オリゲルド・・・初め聞いたときはミス・キャストかと思ったが・・なかなかのもんだよこれ・・合ってるよこの役・・・さすがだよ・・」
  アルディス(マヤ) 「亜弓さん・・・オリゲルドがそこにいる・・・わたしはアルディス。天使の心を持ち春の女神のように美しく輝いているアルディス・・・。次はわたしアルディスの出番・・!王宮の中と貴族の人々しか知らなかったアルディスがユリジェスに連れられて初めて現実の民の姿を見るシーン・・初めて町の中へ出るアルディス・・・!初めて町へ・・・!」
  ラストニアの町、うち続く戦禍のため、人々は疲れ果て、傷つき、路上に座り込んでいる。ユリジェスに手をとられアルディスが現れる。アルディスは町の様子と人々の惨状に絶句した。
  ユリジェス 「さあ!アルディス姫」
  アルディス(マヤ) 「ユリジェス、これがラストニアの国の民なの・・?」
  ユリジェス 「ええ、そうですよ。これが真実の姿です。城の人間や王家の人々は見ようとしなかっただけです」

「乞食に浮浪者、行き場の無い病人・・・戦で負傷して働く事もできない男達。昼間から盗人が横行し人々はそれに何も感じない。重すぎる税に誰もが貧しくなっていく・・・ごらんなさい、毎日のように処刑台へと人が消えて行く」

「休戦や減税の願いを訴えた国民の代表が罪人としてみせしめのように処刑されていくのです」

  アルディス(マヤ) 「こんな・・・」
110 《せりふ》
「なにかお恵みを・・・」

貧しい身なりの男がアルディスに近づいてきた。男の手がアルディスの腕を掴もうとする。咄嗟にアルディスは顔をしかめ。男の手を叩いた。アルディスは眼を見開らき、じっと自分の手を見つめた。

  オリゲルド(亜弓) 『マヤ・・・!この表情・・・・!アルディスの戸惑いが伝わってくる・・!』
  《せりふ》
「ふ〜む、あのアルディス・・・北島マヤのさっきの演技、乞食に触れられて咄嗟に払いのける・・・天使のような笑顔を持つアルディスが初めて嫌悪の表情を見せた。・・・とても印象的だ。しかも、そのすぐあとに罪悪感がぱっと表面に浮かんだ。瞬間的に自分の中に生まれた罪悪感に驚き、それに対する罪悪感を感じた。いくら天使のように優しい少女であっても王宮育ちのアルディスならきっとそう反応しただろう。嫌悪の直後に来る罪悪感・・・あの一瞬の間と表情・・・とても演技には見えない。・・おそらく全身でアルディスを理解しているんだろう・・」
  ユリジェス 「戦で傷ついた兵士達だ・・・ろくな治療も受けられないまま、ただ痛みにうめき声を上げるだけだ・・戦で負傷した者は病院には収容しきれず教会や自宅で薬も無いままに捨て置かれています」

「戦が終わらない限り負傷者は増える一方だからな・・」

  人々の苦しみが、痛みが、嘆きがアルディスの心に突き刺さった。アルディスの顔から血の気が引き呆然と立ち尽くしていた。
  ユリジェス 「姫!」
  アルディス(マヤ) 「ユリジェス・・・!ああ、ユリジェス・・!もういいわ!もういいの!わたしを連れて帰って・・・!」
  アルディスは泣きじゃくり、ユリジェスにしがみついた。
  ユリジェス 「アルディス」
  ライトが消え、場内は真っ暗になる。再びライトが点くとそこに地下牢に鎖で繋がれた男がいる。男は赤ユリ党の党首ディーンだった。ディーンは、ラストニアで再び赤ユリ党を結成し、暴れる事を約束し牢から逃げ出す事になる。それがオリゲルドの策謀とも知らず。それに荷担したのはグリエル大臣である。
120 オリゲルド(亜弓)  「グリエル大臣・・・たいへんなタヌキだわ・・この男は信用できない・・気を許してはならないわ」

「そうよオリゲルド・・誰を信じてもならない・・誰を愛してもならない・・・どんな事があっても・・!この世に信じる者など誰もいやしない・・・!無くても良い。なまじ人を信じるとこの身が危ない・・・」

「ふっ・・アルディス・・・何があってもわたしを信じると言った義妹(いもうと)・・アルディス・・・どうしてだろう、今、あの子を思い出した・・・」

「今にその言葉を後悔する時が来るわ・・・アルディス・・・」

  オリゲルドは俯き、身をかがめて、階段を一歩、一歩、のぼっていった。

《せりふ》
「誰も信じないと言いながら・・なんて淋しそうな表情なんだ・・オリゲルド・・・なんだか憎めない・・」

一転してラストニア城、大広間。

  ユリジェス 「お許を、アルディス姫。あなたに望まれるまま町へなどお連れしなければ良かった。ですが、あれがこのラストニアの現実なのです。国民の大きな不満がいつ王家を押し潰すかもしれないという事をあなたに見ていただきたかったのです」
  アルディス(マヤ) 「ユリジェス・・・わたしは戦おうと思います」
  ユリジェス 「え?」
  アルディス(マヤ) 「ユリジェス、わたしの武器はいったい何かしら?わたしにあるのは人を愛する心と信じる心・・そして微笑みだけ・・・!」

「わたしの武器はそれだけ。戦をやめさせ国民の心を取り戻すため戦わなければ」

  ユリジェス 「アルディス姫、あなたはいったい・・・」
  アルディス(マヤ) 「北の離宮へ!おばあ様の所へ行きます!支度を・・!」

『どうしたんだろうこの思い・・・胸を突き上げてくるようなこの熱い思いは・・・』

128 アルディスの熱い思いが、マヤの心に同化していく。

《せりふ》
「とても演技とは思えないぜ・・あの表情・・」

暗転、ライトが点る。北の離宮、皇太后ハルドラの前にアルディスが座っていた。

  ED パープル・ライト

ガラスの仮面 アルディスとオリゲルド(ふたりの王女 編) Vへ続く

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