オリジナル台本

BLUE COSMOS

ライ 《男》特殊犯罪調査機構(SCCO)の調査員(26歳)

ダンシングマーメイドの調査に来る。その時、マーシェルに出遭う。2人は互いを意識するが運命が2人を引き裂く。調査能力はずば抜けている。だが一匹狼的性格で単独行動をとることが多い。

ユキト 《男》特殊犯罪調査機構(SCCO)の調査員(25歳)

ライと一緒に調査に来る。飄々としたつかみ所のない男

デラッド 《男》特殊犯罪調査機構(SCCO)の調査局長(58歳)

ライの上司。ロマンスグレイの紳士。一見固そうだが、なかなか冗談の通じるオジ様である。

リンカ 《女》特殊犯罪調査機構(SCCO)の調査員(22歳)

地球にいるライの恋人。ひたすら待ちつづける悲しいさだめ・・・。優しい、つくすタイプである。

マーシェル 《女》ダンシングマーメイド(19歳)

謎多い少女。彼女は人間か・・サイボーグか・・。ライを一目見て恋に落ちる(いまどき珍しい)寂しげな眼が印象的・・。

ガーバレイ 《男》(48歳)サイバーブローカーのボス・・いわゆるブラックマーケットの元締め
ルミエナ 《女》空間演舞堂イカロスのオーナー
ガーバレイの愛人(26歳)

艶やかな妖しい雰囲気を持つ女性

ナレーション  

第1話 イカロスに舞う

第1話 第2話 第3話 第4話
001 N 漆黒の闇の中に無限に広がる宇宙空間。その闇に星々が、瑠璃色の宝石のように煌めいている。やがて、そこに巨大な空間円舞堂「イカロス」が、華やかなライティングによって浮かび上がった。

《せりふ 場内アナウンス》
「お知らせいたします。ダンシングマーメイド、上演5分前です。ご来場のお客様は劇場ホールまでお戻り下さい。繰り返します・・・」

ダンシングマーメイド・・・それはこのイカロスでの最大の出し物である。宇宙空間を華麗に美しく舞い踊る、乙女たち。その幻想的で華麗な舞台を一目見ようと全宇宙から、多くの人々がここへやって来ていた。

002 ユキト 「あ〜〜あ、こいつぁ、凄い人ごみだなあ。でも、これは確かに一見の価値ありだ。なんせ、人間が宇宙空間で遮光服つけずに踊るんだからな。」
003 ライ 「つまらん。」
004 ユキト 「まあ、そう言うなって。これも仕事。仕事だ、うん!」
005 ライ 「こんなもの子供だましに決まってる。ロボットか何かをリモコンで操ってるだけさ。」
006 ユキト 「おいおい、そう夢を壊すような事、言うもんじゃないぞ。俺のこの目でその真偽の程を確かめてやるからさ。」
007 ライ 「勝手にしろ。俺は知らん。」
008 ユキト 「あいかわらず。こういう話には興味しめさないな。おまえは。」
009 ライ 「ユキト、お前が軽すぎるだけだ。こんな指令受けやがって」
010 ユキト 「俺さ、この宇宙の舞姫、ダンシングマーメイドってのを一度どうしても見てみたかったのさ。グッドタイミングだったよ」
011 ライ 「バッドタイミングだな・・おかげでこっちは休暇をとり損ねた。」
012 ユキト 「リンカには悪い事しちまったな。」
013 N 時間は6時間前にさかのぼる。ここは地球。特殊犯罪調査機構(SCCO)の調査局のオフィス。ロマンスグレイの局長、デラッドが深々と椅子に腰を降ろしている。目の前にはリンカが立っていた。そこへ慌てて駆け込むようにユキトが入ってくる。
014 ユキト 「遅くなりました、局長。」
015 デラッド 「うむ。ご苦労・・・ユキト?お前ひとりか?」
016 ユキト 「はい、おれ一人ですが・・何か?」
017 デラッド 「ライはどうした。私はふたりを呼んだはずだぞ。」
018 ユキト 「さあ・・て・・あいつ休暇がどうとか・・って言ってましたからネエ・・。」
019 N ユキトがチラッと目の前に立つリンカを見た。リンカは頬をピンクに染めてうつむいた。
020 デラッド 「うむ・・リンカ、ライの行き先を知らないのか?」
021 リンカ 「は・・はい・・私は何も聞いてませんけど・・・。」
022 デラッド 「しょうがない奴だな、リンカ、緊急回線を開いてライにコールしてくれ!急いでくるようにとな!」
023 リンカ 「わかりました。」
024 N リンカが局長室を出て行く。ひとり残ったユキトが所在無さそうにつったっている。
025 ユキト 「あの・・局長・・。」
026 デラッド 「なんだ?」
027 ユキト 「今回の調査、おれ一人じゃ駄目ですか?」
028 デラッド 「・・・・なぜだ?」
029 ユキト 「い・・いや・・なに・・・踊子の身辺調査くらいなら、おれ一人で充分だなあ〜〜って・・」
030 デラッド 「そうだな。踊子の身辺調査くらいならな」
031 ユキト 「・・・どう言う意味ですか?」
032 デラッド 「ライが来たら話そう。しばらく待て。」
033 ユキト 「・・はい・・」
034 リンカ 「局長、緊急回線を使って呼び出してますが、ライから応答がありません」
035 N リンカが扉越しに叫んだ。
036 デラッド 「仕方ない・・ユキト。今回の調査はお前に任そう。」

「今回の調査は今話題の宇宙空間に浮かぶ空間演舞堂イカロスで公演されているダンシングマーメイドの踊子の身辺調査だ。」

「宇宙空間を舞い踊るダンサーのその華麗な踊りに、ある疑惑が浮かんでいるのだ。サイボーグではないかとな。」

「2318年にバイサイバー法が施行され、病気、事故、疾病等で著しく肉体の機能損壊した場合に限り、従前の肉体の機能回復を目的としてリ・サイバネスティック療法を受ける事が出来るのだが・・その違法手術が裏で横行している事は知っているな。」

037 ユキト 「ええ、法外な値段で色々パーツをとっ替えてるやつがいるらしいですね。」
038 デラッド 「うむ。そこでだ、今回はその踊子が人間なのかサイボーグなのか、その調査を行なうのだ。」
039 ユキト 「了解しました。頑張って調査してまいりますです・・はい。」
040 N その時、ユキトの胸の携帯がけたたましい音を立てて鳴り響いた。ユキトはなぜかそれに出ようとしない。
041 デラッド 「ユキト、携帯電話が鳴っているぞ?出ないのか?」
042 ユキト 「え・・あ・・いえ・・これは、大丈夫です。はい。すぐに消しますので。」
043 デラッド 「気にするな、私は堅物のように思われてるが、個人のプライバシーにまで立ち入るつもりはない。遠慮しないで出ろ。」
044 ユキト 「え・・いえ・・ちょっと・・それは・・・。」
045 デラッド 「・・・ユキト、携帯を私にかせ。」
046 ユキト 「えっ・・!・・い・・いえ・・プライバシーが・・・・。」
047 デラッド 「ユキト・・ず〜〜っと長い休暇はいるか?」
048 ユキト 「いえ・・休暇は充分に取ってますので大丈夫です。気にしないでください。」
049 デラッド 「ユキト・・。」
050 N 携帯の呼び出し音がピタリと鳴り止んだ。ユキトはホッと胸をなでおろした。その時、局長室の扉が開いてリンカが駆け込んできた。
051 リンカ 「局長、ライから連絡が入りました。緊急回線だったのでユキトにコールしたが出なかった、なにか大変な事態になってるのか?・・だそうです。ライはこちらへ向かっているそうです。」
052 デラッド 「グッドタイミングだな・・ユキト?」
053 ユキト 「ええ・・はぁ・・まさに・・バッドタイミング・・・。」
054 再び空間演舞堂イカロス。今まさに、世紀のショウが始まろうとしていた。

《せりふ・場内アナウンス》
「皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより、当イカロス最大のショー、ダンシングマーメイドを上演いたします。銀河系最高の、夢と幻想に満ちあふれた世界へと、皆様方をお連れいたしましょう。ごゆるりとご堪能くださいませ・・・。」

照明が暗くなり、目くるめく光のシャワーが降り注ぐ。その光の粒は、あちらこちらの宇宙空間を水面のように揺らめかせ、その中から少女達が次々と踊り出してきた。しなやかなその姿はまるで妖精のように軽やかだった。

055 ユキト 「すごい・・・人間がこれほど軽やかに、宇宙空間で踊れるなんて・・・。」
056 ユキトが目をみはって宇宙空間に繰り広げられるダンスを見詰めている。ライもぼうっとその様子を見ている。ライの目にひとりのマーメイドダンサーの姿が止まった。しなやかに舞うその姿にいつしか吸い込まれるように魅入っていた。

《せりふ・場内アナウンス》
「えー、皆様、御堪能いただけたでしょうか?以上をもちまして当イカロスの全プログラムを終了いたします。本日は御来場、誠にありがとうございました。」

057 ユキト 「いやぁ、凄かった、素晴らしかった!参っちゃったなぁ・・これはファンになっちゃいそうだ。なあ、ライ・・おい・・ライ〜〜??」
058 ライ 「あ・・あぁ・・すまん・・」
059 ユキト 「ふむ、クールでダンディーなお前も、やっぱり人の子だったんだな」
060 ライ 「な・・何の事だ・・」
061 ユキト 「隠すな隠すな、仕事一辺倒のお前には刺激が強かったな。うんうん。」
062 ライ 「バカ言うな、仕事だ、仕事。」
063 ユキト 「あぁ、そうだな。仕事、仕事っと。」
064 ユキトは両手いっぱいの花束をライに見せた。
065 ライ 「な・・何だこの花束は・・いつの間に用意したんだ。」
066 ユキト 「ん〜〜、いい匂いだ。高かったんだぜ、この花。こういうのは、交渉事の必須アイテムさ」
067 ライ 「・・マメな男だな・・おまえは・・・。」
068 ユキト 「さあ、じゃ、調査に行こうか。」
069 ユキトが先導するように前を歩いていく。その後に続いてライが行く。長い通路を歩いていく二人、ライは通路の右側に開いた強化ガラスの大きな窓から外を見つめた。窓の外には漆黒の宇宙空間が広がっている。その中に蒼く輝く地球の姿が小さく映った。
070 ユキト 「おっと、ここだここだ。接客室・・間違いない。いいか、ライ、俺達はインダストリアルニューズペーパーの記者とカメラマンだからな。」
071 ライ 「インダストリアルニューズペーパー?・・聞いた事無いな・・。」
072 ユキト 「そうかぁ・・有名だぜ。おれとお前が知ってる。」
073 ユキトはそう言うとドアに手を当てた。ドアがすっと横に滑るように開いた。部屋の中には女性がひとり立っていた。体に張り付くような真っ赤なスーツに身を包んだ妖艶な美女である。
074 ルミエナ 「いらっしゃいませ。お待ちしていましたわ。インダストリアルニューズペーパーのユキトさんとライさん・・?でしたわね。私、この空間演舞堂のオーナーのルミエナと申します。よろしく。」
075 ユキト 「いやあ、お美しい・・あ・・どうも、はじめまして。インダストリアルニューズペーパーのユキトと申します。こっちが、カメラマンのライです」
076 ライ 「どうも」
077 ライの挨拶はそっけない。ルミエナと名乗った女の眼がライを見つめた。ルミエナの濡れたような唇がわずかに開き白い歯が見えた。
078 ルミエナ 「どうも、はじめまして、ライさん。」
079 ユキト 「えと、さて、今日お伺いしたのは、今話題のダンシングマーメイドの事なんですが・・。」
080 ライ 「彼女達は人間なのかい?」
081 ユキト 「ブッ!・・ば・・ばか・・何聞いてるんだよ!・・失礼。こいつ口の利き方を知らないもので。」
082 ルミエナ 「いいえ、今、人々の話題は、ダンシングマーメイドのメンバーが人かロボットか・・そこが焦点になってるようですわね」

「確かに人間以外ではあのように繊細で優雅な踊りはできませんわね。かといって、あんな肌を露出したような格好で宇宙空間にいられるはずが無いと・・。」

083 ユキト 「そうですよね。で、今日はそのダンサーの方にもインタヴューをさせていただきたいのですが。」
084 ルミエナ 「無理ですわ。」
085 ユキト 「え、そこをなんとか・・せっかくこうして花束まで用意して来てるんですから。」
086 ルミエナ 「無理って言ったのは、彼女達は今、次回公演に向けてエネルギーをチャージ中だからです。」
087 ユキト 「・・って事は?どう言う事ですか?」
088 ルミエナ 「彼女達は精巧に作られたアンドロイドです。踊るためだけに特化した特殊アンドロイドなんですの。」
089 ユキト 「これはまたあっさりと認めましたね・・じゃ、我々は騙されていたわけですね?」
090 ルミエナ 「ショービジネスの世界ですから。多少コマーシャルが誇張されていたとしても罪じゃないですわよね。」
091 ライ 「アンドロイドか・・・なぜ我々にそれをばらしたんだ?」
092 ルミエナ 「いいえ・・経営戦略を変えたんですの。『人間と見まごうばかりの精巧なアンドロイドが繰り広げる夢のショータイム』・・どのようなシチュエーションにもぴったりとマッチするアンドロイドの販売を手がけるつもりですの。」
093 ユキト 「今までは・・じゃ、製品のプレゼンテーションだったわけですか?」
094 ルミエナ 「そうですね、そう言ってしまえばそうかもしれませんわね。ですからもう、隠しておく必要も無くなったわけですわ。」
095 ライ 「そのアンドロイドを造ってるのは誰だ?」
096 ルミエナ 「それはお教えできませんわ。これほどの精巧なギミックはそう易々と造れるものではありませんから。金のなる木の全てをさらけ出すほど、私、とぼけた経営者ではありませんわ。」
097 ユキト 「そうですよね。ありがとうございました。では、またお邪魔しました。・・あ、これ、彼女達の代わりにあなたに差し上げます。素晴らしい女性、ルミエナさんに。」
098 ユキトはルミエナに花束を差し出した。ルミエナはにこっと笑い、それを受け取った。ユキトはライを急かすように部屋を出て行った。

通路を歩きながらユキトがぶつぶつ言っている。ライはそ知らぬ顔で歩いていく。

099 ユキト 「全く、寿命が100年縮まったぞ。俺達はジャーナリストなんだからな。」
100 ライ 「気に入らんな。」
101 ユキト 「あんな質問の仕方があるか。あれじゃ、最初から疑ってるみたいじゃあないか。」
102 ライ 「あの女・・・。」
103 ユキト 「だいたいな、お前が口を出すとくなことにならないんだ、いつだったか、そのときも死にかけたんだからな・・。おい・・ライ!聞いてるのか?」
104 ライ 「ユキト・・ちょっと調べたい事がある。お前ひとりで先帰ってくれ。」
105 ユキト 「おい、ライ!帰れって簡単に言うなよ。ここは遠〜い宇宙空間の真っ只中に浮かぶ空間演舞堂イカロスだぞ。」
106 ライ 「来るときに乗ってきた飛行艇があるだろ。」
107 ユキト 「あれで帰っちゃ、お前どうするんだよ。電話入れるから迎えに来い・・なんていうなよ。」
108 ライ 「心配するな。タクシーで帰る。」
109 ユキト 「おい、悪い冗談は言うなよ。」
110 ライ 「悪かった、心配するな。必ず帰る。局長への報告は頼んだぞ。」
111 ライはもと来た通路を戻っていった。ユキトはライの背中をじっと見つめていたが、しばらくして、ふ〜っとため息を吐き、肩をすぼめてライを追うように歩き始めた。
112 ユキト 「まったく、どうしようもねえ馬鹿野郎だぜ・・。」
113 通路を戻ったライの姿はダンシングマーメイドのダンサー控え室の前にいた。
114 ライ 「悪いなルミエナ・・おれはあんたの言う事を信じる事ができないんでな。自分の目で確かめさせてもらうよ。」
115 ライの姿は細く開いた扉の中に吸い込まれるように消えて行った。

部屋の中はライトが消され真っ暗だった。暗闇にチカチカと赤いダイオードの光が明滅している。ライはポケットライトを点けると暗闇に照射した。その光の輪の中に浮かび上がったのは、背中に無数の配線プラグが繋がって意識無く立ち尽くすダンサーの姿だった。まるでモルグに安置された死体のような不気味さがあった。

116 ライ 「・・こいつは・・本当にアンドロイドなのか・・・。」
117 ライがひとりのダンサーの腕に触った。柔らかいその触感がライの手に感じられた。だが、暖かい血の温もりは感じる事はできなかった。
118 ライ 「やはり、ルミエナの言うとおりなのか。」
119 ライが灯かりを部屋の周りに向けた。ダンサー達の後ろにもうひとつ、奥に繋がる扉を見つけた。ライが手を当てるとタッチセンサーによって扉がすっと横に開いた。扉の向こうには蒼いダイオードの光が充満していた。ライは通路の奥へと入っていった。

蒼い光の通路を歩いていくとやがて行き止まりの部屋についた。部屋の真中に円筒形の強化ガラスケースが立っていた。そのガラスは光を通さないのか中を見る事はできなかった。

120 ライ 「何だこいつは・・」
121 ライがガラスに手を当てた。すると黒く閉ざされていたガラスの内部に淡い光が足元から照射された。そこに照らし出されたのは、あの時、優雅に踊っていたダンサーだった。

少女の眼がライを見つめた。ライの眼が少女をとらえた。互いにじっと見つめあう。少女の眼に涙が浮かんで来た。

122 ライ 「君は・・人間なのか・・・?・・それともアンドロイドなのか・・?」
第1話 第2話 第3話 第4話
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