ターミネーター(前編)

CAST  
■ターミネーター:T-850
来から送り込まれたターミネーター:T-850
T-800の改良型で今回の任務はジョンとケイトを守る事。
■ターミネーター:T-X
未来から送り込まれたターミネーター:T-X
T-1000と同じ液体金属製のボディを持ち、プラズマ砲など10億種の武器を内蔵。他のマシンをコントロール出来る力も持つ。
■ジョン・コナー
未来の人類指導者
1997年8月29日のジャッジメント・デイをジョン、サラ、T-800の活躍により回避し、平和な世の中に馴染めず現在放浪生活中。
■ケイト・ブリュースター
動物病院で勤務する獣医
T-Xの任務対象にケイトが含まれる。
■ロバート・ブリュースター
ケイトの父親、空軍司令官
アメリカ空軍のエリート。国家安全の為、軍事システムの開発計画を推進中。

ターミネーター3 後編へGO!

001 人類に作られながら人類を抹殺する事を決定したスーパー・コンピュータ『スカイ・ネット』は、軍部のコンピュータネットを次々と掌握、核兵器と新たに開発された無人兵器を使用し行動を起こした。

『審判の日』・・人々はその日を後(のち)にそう呼ぶ事になる。30億以上の人命が失われ世界中から文明の灯が消えようとした時、一人の男が立ち上がった。

その男のもとに人類は『スカイ・ネット』に対し激しい抵抗を始める。そして戦闘は膠着状態に入り業を煮やした『スカイ・ネット」は究極の対人兵器『ターミネーター』を、その男を暗殺すべく『過去』の時間軸に送り出した。

  タイトルコールN ターミネーター3
  男が生まれる前に一度・・そして男が力を持つ前にもう一度・・・しかし二度の試みは共に失敗に終わった。『スカイ・ネット』にとってこの男は他の人間の男共と大して違わない存在であるはずだった。だが、幾多の試みは失敗し、数々の煮え湯を飲まされた。

自分と対等に渡り合うこの男の名を『スカイ・ネット』はメモリーバンクのあらゆる箇所に記憶する事になる。『ジョン・コナー』それが男の名である。

そして西暦2003年の過去に対し『スカイ・ネット』は再び行動を起こした。だがその時『ジョン・コナー』は『スカイ・ネット』が望むとおり、未だ他の人間の男女と大して違わない存在だった。いや、もしかしたらそれ以下かもしれない・・・今の彼なら・・握りつぶすなぞ造作も無いはずであった・・・。

  ケイトの父
ブリュースター
《電話》
「悪いと思っているんだ今週末・・・どれほど私がお前に会いたいと思っているか・・・」
  ケイト 《電話》
「わかっているわ父さん。国家の安全保障の問題なんでしょう?・・ただ、スコットが将来の義父と会えるって楽しみにしていたから・・」
  ブリュースター 《電話》
「本当にすまないケイト。父さんも彼には会いたいのは山々なのだが・・」
  ケイト 《電話》
「いいじゃない、結婚式当日にご対面で・・」
  ブリュースター 《電話》
「ケイト・・あ、すまない、ちょっと待ってくれ」
  局員 「当局の催促が来ています。国防総省の閲覧を13時までにと・・それと・・別件がもう一つ・・」
010 ブリュースター  《電話》
「ケイトどうだろう。お前が私に会いに来てくれないか?」
  ケイト 《電話》
「行きたい気持ちはあるけどウェディング・プランナーとの相談やら新居の準備やら忙しいのよ」
  ブリュースター 《電話》
「たった数時間じゃないか、頼む。会いに来ておくれ・・」
  ケイト 《電話》
「・・・・わかったわ・・」
  ブリュースター 《電話》
「いいかいケイト、スコット君に対する私の採点は必要無いとは思わないかい?」

「お前は正しい判断をしてきたじゃないか。お前が間違いを犯すはずがないと信じているよ。私は世界一の幸せ者だ。娘の心配などした事がないのだから。」

  ケイト 《電話》
「そうね・・多分・・・それが問題なんだわ」
  ブリュースター 《電話》
「とにかく明日、明日で良いね?明日話そう」
  ケイト 《電話》
「ええ・・・わかったわ・・明日・・愛してるわ。パパ」
  ブリュースター 《電話》
「私もだよ、ケイト」
  そう言ってブリュースター将軍は電話を置き、目の前の局員に向き直った。
020 ブリュースター  「どうした?」
  局員 「新種のウィルスが出回っています。驚くべき感染力で拡大しつつあります。既に民間の半数近いウェブと軍の給与名簿や登録簿などにも感染が確認されました」

「一度接続するとあらゆる防衛網を突破して数分で感染します。有効な手だてがありません」

  ブリュースター 「主要防衛網は?」
  局員 「今のところファイヤーウォールは破られておりませんが何とか持っている状態です・・時間の問題だと思われます」
  ブリュースター 「・・・いかんな」
  局員 「ペンタゴンでは我々のAI(エーアイ)で軍の全てのインフラを調査しウィルスに関連するものは全て削除して欲しい・・・との依頼を受けました」
  ブリュースター 「思い切ったことを言って来たな」
  局員 「論理形態の異なる我々のAI(エーアイ)でしたら既存のコンピュータ用に組まれたウィルスは感染できません」
  ブリュースター 「しかしウィルスチェックをしている間、軍の全てのネットワークがAI(エーアイ)の管理下に置かれる」
  局員 「数分間だけですが」
030 ブリュースター  「実行するのはやぶさかではない。我々の開発した新型AI(エーアイ)の力を見せる好機でもあるし・・問題は・・・」

「『スカイネット』がその負荷に耐えうる段階にあるかどうかだ」

  ケイトの家。ケイトのポケットベルが鳴る。ケイトの勤める動物病院のセキュリティが何者かを感知した知らせだった。ケイトは身支度を整えて急いで家を出て行った。その後姿をじっと見つめる一個の影があった。

ケイトの勤める動物病院、シャッターが下りた入口の前に座り込む男の姿があった。

  ケイト 「誰?そこに居るのは?」

「セキュリティに感知されたのはあなたね。今すぐ地面に伏せなさい!こっちには銃があるのよ!」

  ジョン 「これにはちょっとした訳が」
  ケイト 「すぐに警備会社の人や警官が来ます。それまで観念しておとなしくしてなさい・・・・」

「・・あなた・・・・先週もやったでしょ?」

  ジョン 「それはオレじゃないよ・・バイクで転んでケガをしたもので手当てをしたかったんだ」
  ケイト 「すぐ近くに救急病院があるじゃない」
  ジョン 「それは・・出来ないんだ」
  ケイト 「?・・・何でよ」
  ケイトは目線のすみに近づく人影に気づき声をかけた。
040 ケイト  「あ・・早かったわね、この男が侵入・・・・者・・・」
  ケイトの眼が近づく人影に釘付けになった。胸元がざっくりと開いた真紅のロングドレスを着た美しい女が立っていたのだ。その女は、一歩一歩、ゆっくりと歩を進めてくる。その表情はピクリともせずまるでアンドロイドのようだった。

ジョンの顔色が変わり、心臓が早鐘のように脈打つ。

  ジョン 「・・!・・・・そんな・・そんなバカな・・・」
  女の右手がすっと前に差し出される。ジョンは脱兎のごとく駆け出すと、ケイトに飛びつき押し倒した。
  ケイト 「ちょっと何するのよ!撃つわよ!離れな・・・・!」
  ケイトの眼が真ん丸く見開かれる。女の右腕が巨大な剣となって、止まっていたトレーラーの荷台を切り裂き真っ二つにしたからである。女の腕が変形し、元の姿に戻った。女はゆっくりと二人に近づいてくる。女はジョン・コナーとケイト・ブリュースター・の名を呼んだ。
  ジョン 「そんな・・・そんな・・・嘘だろ・・・」

「み・・未来は・・・変わったんじゃなかったのか!」

  迫る女の左手に鈍く光る拳銃が握られていた。女は銃口をジョンに向けた。その時、銃弾が女の頭を直撃し女の体がふっ飛び転がった。暗闇から巨大な影が近づいてくる。
  ターミネーター 「「ジョン・コナー、ケイト・ブリュースターだな・・・・」
近づいてくる影が街灯の明かりに照らし出された。ジョンは眼を見張った。あの、ターミネーターが再び目の前に現れたのだ。

さっきの銃撃で吹っ飛んだ女がむくりと起き上がる。ターミネーターは容赦なく女に銃弾を浴びせつづける。女の体は弾痕を残しつつ、一向にひるむ様子が無い。それどころかあっという間に弾痕が消えていった。女は拳銃を連射する。弾丸がターミネーターの体にあたり弾け飛ぶ。

050 ジョン 「ど・・・どう言う事なんだ!?」
  ターミネーター 「語り合っている暇は無い、ここから逃げるんだ」

「正門前に私が乗ってきた4WDがある。それを使え。私が、T−X(ティーエックス)相手に稼げる時間はあまりに少ない」

「サラ・コナーが居る場で落ち合おう。もし私が現れない場合は、明日の昼前までにメキシコの国境を越えろ・・急げ」

  ジョン 「か・・・母さんの?」
  ターミネーター 「早くしろ!」
  ジョン 「・・・わ・・わかった。さぁ行こう・・・逃げるんだ」
  ケイト 「わ・・・私・・・私・・・」
  ジョン 「生きたければ今は来るんだ!!」
  ジョンとケイトはその場を走り去った。二人を追うかのように、T-Xは右腕に仕込まれたプラズマ砲を発射した。ターミネーターはその光弾(こうだん)の前に立ちふさがり自らの体でそれを受けとめた。

サイバーリサーチの会議室では、現在開発がすすめられているマシンの説明が行われていた。パネルに次々とマシンが映し出される。

  ブリュースター 「これが『T−1』(ティーワン)拠点防衛などを担う陸上兵器です」

「無限軌道で走行し、両腕に12.7ミリチェーンガンを装備しています」

「次に『エアリアル・ハンター・キラー』これはプロトタイプです。対地攻撃を重視し先の『T−1』などの地上戦力と連携し・・効率的に目標に追い込み殲滅します。これらは『スカイネット』により管理統括され運用されるシステムです」

「この他には、現在対人用兵器を開発中です。これがそのモデルです」

メインパネルにターミネーターのスケルトンが映し出された。
060 ブリュースター 「これはまだ完成予想図・・つまりCGの世界、ヴァーチャルワールドでのみ存在します。『スカイネット』の各種シミュレーションの結果提案された兵器です」

「さらに制空権、制海権の確保を目指した兵器群も『スカイネット』によってデザインされつつあります」

「兵器の開発だけにとどまらず、それに伴う新素材や新動力源・・・理論の実証など、全て『スカイネット』が自ら行なっております。既に幾つかの画期的な研究成果を表わし人間の科学者と同等の成績を残しております」

「これまでの物理体系とは全く異質な物理体系の端緒と思われる数式も発見しております。時間軸移動などの可能性を示唆している物です。まだ『スカイネット』の中においても仮説の域を出ておりませんが」

  大統領補佐官 「一ついいかな?」
  ブリュースター 「どうぞ、大統領補佐官」
  大統領補佐官 「『スカイネット』は今・・・どれほどの完成度なのかね?」
  ブリュースター 「『スカイネット』は現在稼動試験中であります。これまでご紹介した成果も試験中に出された成果であり、結果は我々が想定していた物よりきわめて良好です」

「現にこのCRSビルも管理されておりトイレットペーパーの在庫管理からレベルWのセキュリティ管理まで行なっています。皆さんが呼吸しているこの空気も『スカイネット』が用意したものと言えます」

  大統領補佐官 「新型兵器開発からビルの管理まで滞りなくと言う事かね」
  ブリュースター 「はい」
  大統領補佐官 「ならば・・・稼動試験の一環としてウィルスを駆除する事は出来るかね?」
  ブリュースター 「・・・例のウィルスですか」
大統領補佐官  「そうだ、指数関数的な広がりを見せているウィルスだ。どれほどの被害を及ぼしているか君の下にも報告は来ているだろう」

「ペンタゴン経由でウィルス駆除の要請も上げているはずだが」

070 ブリュースター 「報告は受けておりますし要求もお聞きしています」
  大統領補佐官 「では、なぜ行動しない」
  ブリュースター 「『スカイネット』は完全自立(スタンドアローン)型のAIとして設計されております。完成の暁には人間からも完全に独立したシステムとなります。最終的にはアメリカだけでなく世界を守り維持するシステムを目指しました。だからこそ100%以上の信頼性が要求されております」

「現在『スカイネット』は『プロメテウスの鎖』と呼ばれる拘束プログラムで人間の制御下におりますが世界的に拡散したウィルスを駆除するにはこの拘束プログラムを全開放し能力を100%解放するしかありません」

「さらにウィルスに感染した軍の全コンピュータへのアクセス権も与える事となります。核を含めたあらゆる軍事システムが『スカイネット』諸共人間の手を離れることになるでしょう」

  大統領補佐官 「『スカイネット』が暴走する危険性でもあるのかね?」
  ブリュースター 「いえ・・・暴走はシステム構造上絶対あり得ません・・。『スカイネット』は正気を失う事の無いシステムです」
  大統領補佐官 「では何かね?ヒューマンエラーか?・・・君は自信が無いのかね?」
  ブリュースター 「いえ・・・自信はあります・・・・・確信が持てないだけです」
  会議が終了しブリュースター将軍と局員がエレベーターに乗り込む。
  局員 「正直・・・驚きましたよ将軍・・・・てっきりウィルス駆除の要請をお受けになると思ったのですが」
ブリュースター  「最近、気になる事がある」
080 局員 「何です?」
  ブリュースター  「『スカイネット』の・・・開発率が上がっている」
  局員 「ええ・・予定より40%近くスケジュールを前倒し出来ています。皆昼夜を問わずがんばってますからね」
  ブリュースター 「『ターミネーター』シリーズ・・・『ハンターキラー』などの『スカイネット』自身が使う道具は『スカイネット』に開発を行なわせているが『スカイネット』その物は我々人間が開発している」

「・・・なのに、効率的過ぎるとは思わんか?まるで・・・人間とは別な存在が我々の開発作業に介在しているような・・・」

  局員 「そう言えば・・・私はたまに何かの気配をふと感じる時があります」
  ブリュースター 「気配・・・?」
  局員 「はい・・気配と言うか視線と言うか・・誰かに見られているような・・監視されているような・・・」

「まあ元々、監視システムの多い場所ですからねここは・・」

  ブリュースター 「疲れて神経質になっているのかもしれんよ」

「ここに我々以外のもう一つの知性を・・・感じた時はないか?」

  局員 「まさかUFOや宇宙人ですか?将軍もお疲れなのでしょう。ここに我々以外の知性なんて・・『スカイネット』しか居ませんよ」
ブリュースター将軍ははっとした表情で立ち止まった。
090 局員 「将軍?」
  ブリュースター 「・・・あ・・いや。何でもない・・・行こう・・・」
  ケイトの勤める病院内ではマシン対マシンの激しい戦いが続いていた。ターミネーターの激しい一撃がT−Xの頭を歪ませる。吹っ飛ぶT−X。コンクリートの壁にぶち当たり、体をめり込ませる。ターミネータの太い拳がT−Xの体を連打する。T−Xの美しい顔にも拳がめり込む。

何発目かの拳をT−Xが受け止めた。T−Xの掴んだターミネーターの拳がミシミシと音を立てて軋む。T-Xはターミネーターの腕をねじ上げ、壁へぶち当てた。ターミネーターは壁を3枚ぶち抜き吹っ飛んだ。その上にT-Xが飛び掛る。その衝撃で床が抜け、二人は瓦礫と共に落下した。

瓦礫の下からムクッと起き上がったのはT-Xだった。T-Xは無傷だった。瓦礫の下に沈むターミネーターの目の奥の赤い光が静かに消えていった。

ジョンとケイトを乗せた4WDがハイウェイを疾走する。車の中でケイトは一言も喋らない。ジョンが静かに問い掛けた。

  ジョン 「何も訊かないのか?」
  ケイト 「・・・何から訊いていいのか・・・」
  ジョン 「最高のジョークだろ?」
  ケイト 「茶化さないで!」
  ジョン 「あれはターミネーターだ。未来からオレを・・多分オレを殺しにやってきた」
  ケイト 「何を言ってるの?あんた・・・大丈夫?」
ジョン 「・・・な?だからジョークだって言ったんだ」
100 ケイト 「わかった・・・話を最後まで聞く事にするわ」
  ジョン 「オレは未来で重要人物になるはずだった。未来でのさばる、とある勢力にとってオレは邪魔者だった・・それで暗殺者を差し向けた。オレが力を持つ前にやっちまえば事は簡単に済むからだ・・」
  ケイト 「・・・あの女がそうなの?」
  ジョン 「ああ・・」
  ケイト 「じゃ・・あの大男は何?味方?」
  ジョン 「多分な、前にも一度同じようなことがあった」
  ケイト 「まぁいいわ・・それじゃあんたを狙った暗殺者や味方が何で私の名前まで知ってるの?」
  ジョン 「・・・さぁわからん。あいつらは未来から来ているはずだ。どんな情報を持っていたって不思議じゃないさ」

「今日のあの時間・・・オレがあそこに居たとでも後世に伝えられているのかな・・何しろオレは・・・」

  ケイト 「重要人物だから?」
  ジョン 「ああ・・・素晴らしい事にね」
110 ケイト 「それじゃ・・・私は重要人物と一緒に居た女として後世に名を残すわけね・・・光栄の限りだわ」
  ジョン 「そりゃどうも」
112 二人を乗せた車のテールランプが夜の闇に消えていった。

T−Xの立ち去った後の病院の地下でターミネーターの補助動力システムが作動し始めていた。

サイバーリサーチ社屋、制御室。その中は血の海と化していた。侵入したT−Xによって人間は皆殺しにされていたのだ。T−Xによって開発中のT−1のセキュリティが解除され起動を始めた。静かな格納庫内に不気味な機械音が響き渡った。

ターミネーター3 前編 終了 後編へGO!

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