冬のソナタ第19話《父と子》
ヴィレッジブックス 冬のソナタ完全版4 第19話
キム・ウニ/ユン・ウンギョン 根本理恵=訳

声劇用にアレンジしております。ご了承ください。

カン・ジュンサン
チョン・ユジン
キム・サンヒョク
ジヌ(サンヒョクの父)

キム次長(ミニョンの部下であり先輩)

ミヒ(ジュンサンの母)

ユジンの母

チェリン・チンスク・ヨングク(同級生)

ユジンは、サンヒョクの母チヨンから自分がジュンサンの妹であると聞き、ジュンサンのアパートに向かう。そこでミヒからもジュンサンのことはあきらめるよう言われ、マルシアンにいたジュンサンに本当なのかと問い詰める。絶望したユジンは、ジュンサンとの別れを決意し、会社もやめることにする。一方、ジュンサンはたびたび倒れるようになり、検査の結果、事故が原因で脳内に血腫ができていることが判明、一刻も早く手術を受けないと失明の恐れがあり、命の危険もあると告げられる。

  OP(1:03) 最初(はじめ)から今まで
001 ジュンサンの家の前。ユジンがタクシーから降りて駆け出していく。エレベーターも待たずに階段を駆け上がるが、つまづいて倒れてしまう。涙があふれそうになりながらも、歯を食いしばって立ち上がり、また階段を上がっていく。

ユジンがジュンサンの家のチャイムを鳴らすが、応答がなかった。拳(こぶし)でドンドン叩いていると、急にドアが開いた。はっとしてユジンが見ると、中から現れたのはジュンサンの母、ミヒだった。

ジュンサンの家の中、ユジンが緊張しながら座っている。ミヒがお茶を持ってきてユジンの前に置いた。

  ミヒ (ユジンの前に座る)ジュンサンに会いにきたんですか?私もジュンサンに会いにきたの。何日も連絡が取れなくて・・・・」
  ユジン (震えながら)ほ、本当なんですか?本当に、ジュンサンは私の父の・・・父の息子なんですか?(目に涙を浮かべて)本当に、父の・・・息子なんですか?違いますよね?私の父の息子じゃありませんよね?違うっておっしゃってください」
  ミヒは顔をそむけて立ち上る。ユジンも涙を流しながら立ち上がった。
  ユジン 「違うって、違うっておっしゃってください」
  ミヒ (背を向けて)ジュンサンのことはあきらめてください。(つらそうに)あきらめて。何もなかったことにしてほしいの。ジュンサンのことは・・・」
  ユジンは部屋を走り出た。ミヒはその後ろ姿をやるせない表情でじっと見つめていた。

ジュンサンのオフィス。ジュンサンがぼんやり座っていると、キム次長がいきなり入ってきた。

  《せりふ:キム次長》
「いったいどこに行ってたんだ?うん?何日も連絡がつかないなんて、どういうことだ?
(顔を見て)おい、どこで何してたんだ。そんな何日も寝てないような顔して」

(気遣わしげに)・・・・どうしたんだ?」

  そこへバタンとドアを開けてユジンが走りこんできた。応対した秘書が困り果てた顔で立っていた。
010 《せりふ:キム次長》
「ユジンさん?」
  ジュンサン (秘書に)かまいません。(落ち着いた様子でキム次長に)先輩、二人きりにしてくれませんか」
  心配そうだが、言われた通りにキム次長は席を立っていった。座っているジュンサンを、ユジンは強い視線で見つめていた。
  ジュンサン (冷たく)こんなところまで、何しにきたんだ。サンヒョクに用件は伝えたはずだけど、聞かなかったのか?君とは別れるって言ったんだ。だからこんなふうに、突然訪ねてきたりしないでくれ」
  ユジン 「ジュンサン」
  ジュンサン 「それに僕はもうすぐアメリカに戻る」

「僕たちはだめなんだ。無駄な努力はしないほうがいい」

  ユジン 「どうして?どうしてだめなの?」
  ジュンサン (視線をそらせて)君を愛してない。記憶が戻ってから、その事にはっきり気づいた。僕は君を愛してなかったんだ」
  ユジン (涙を浮かべて)嘘よ」
  ジュンサン 「嘘じゃない」
020 ユジン 「嘘だわ・・・・・!」
  ジュンサンは『もしや・・・・』と、ユジンを見つめた。
  ユジン 「嘘に決まってる。愛してるじゃない。愛してるでしょ。私たち・・・ただ愛し合っていてはだめなの?」
  ジュンサン 「ユジン、君は・・・」
  ユジン 「・・・・本当なの?」

「本当?」

  ジュンサン 「ユジン・・・(目に涙が光っている)
ユジン 「・・・本当なの?」
かすかにうなずくジュンサンの目から、涙がつと流れ落ちた。ユジンはぽろぽろと涙をこぼしながら、その場に座り込んでしまった。
ジュンサン 「ユジン!(近寄ろうとするが)
ユジン 「来ないで!」
030 ジュンサンはピクリとしてその場に立ち止まった。
ユジン (涙を流しながら)来ないで・・・・来ないで」
ジュンサンはどうすることもできず、とめどなく涙を流しながら、がっくりと椅子に腰をおとした。

ジュンサンの家。ジュンサンが家に入ってくるが、突然ふらっとよろめいた。しばらくその場でめまいがおさまるのを待ってから歩を進めると、ミヒがダイニングテーブルに座って待っていた。ジュンサンは少し驚いた様子でミヒを見た。

ミヒ 「帰ってきたの?どこに行ってたの?」

(ややあって、様子をうかがうように)ユジンがここに来たわ」

「彼女、全部知ってしまったのね」

ジュンサンはぼんやりとした顔で部屋に向かうが、意識が薄れていった。壁に手をつき、そのまま座り込んでしまった。
ミヒ 「ジュンサン!ジュンサン!」
ユジンの実家の居間。ひとしきり泣いた様子のユジンは、しゃくりあげながら涙をぬぐっている。ユジンの母が心配そうにユジンの肩に手を置いてやさしく言った。
ユジンの母 「ユジン」
ユジン 「大丈夫よ、お母さん。大丈夫・・・」
ユジンの母 「どうしたっていうの?あの人と別れたの?それで泣いてるの?」

「結局は・・・お母さんとお父さんのせいで別れることになってしまったのね。(涙ぐみながら)本当にごめんね」

040 ユジン (静かに)お母さん、お父さんのこと・・・・まだ愛してる?」
ユジンの母 「もちろんよ・・・お母さんには、あなたたちとお父さんがすべてだもの」
ユジン 「お母さん、もし・・・(と言いかけるが言葉が継げない。また涙が出てきて)私、お父さんが憎い・・・お父さんが憎いの、お母さん・・・」
ユジンの母 (ユジンを引き寄せて抱きしめる)ユジン、お父さんのことを決して憎んだりしてはだめよ。お父さんも今、きっと心を痛めてると思うわ。愛する人との仲を引き裂いてしまって・・・。でも、お父さんは世界でいちばんユジンを愛していたのよ。だから憎んだりしないでね」
ユジンはただ、母の肩に顔をうずめて泣くばかりだった。

ジュンサンの家。ジュンサンがベッドの上に力なく座っている。ミヒがその横に座っていた。

ミヒ 「ジュンサン」

「ごめん」

「ごめんね・・・私、あなたがここまでユジンのことを愛してるとは知らなかったの」

「もし知ってたら、知ってたら私は・・・・」

ジュンサン 「もう帰って」
ミヒ 「ジュンサン」
ジュンサン 「帰ってよ、母さん。今は何も話したくないし・・・何も考えたくないんだ」
ミヒ 「ジュンサン・・・」
050 ジュンサンは涙をこらえながら顔をそむけた。
ミヒ 「ごめんね・・・(と言って出ていく)
ジュンサンは息を大きく吸い込み、苦しそうに目を閉じて壁に背をもたせかけた。

ジュンサンの家のチャイムが鳴りつづけている。ジュンサンは冷や汗を流しながらベッドに横になっているが、チャイムの音に目を開けた。

ようやく起き上がり、ドアに向かって大儀そうに歩いていくその足取りはおぼつかなかった。ジュンサンがドアを開けるとジヌが立っていた。ジュンサンは驚きながらも頭を下げて挨拶をした。家に入ってきたジヌの後を、ジュンサンがよろめきながらついていった。

ジヌ 「連絡もせずにいきなり訪ねてきてすまない。ちょっと気になることがあって・・・(気がついたように)・・・君、大丈夫か?」
ジュンサンが突然、ばったりと倒れた。
ジヌ 「おい!君!」
ジュンサンを乗せたストレッチャーが病院内に運ばれてくる。ジヌが心配そうに付き添っていた。
ジヌ 「大丈夫でしょうか?大丈夫でしょうか?」
ジヌの問いかけに、看護婦が患者の父親なのかと尋ねた。
ジヌ 「はい?(何かに思い当たったように)!」
060 放送局。DJとサンヒョクが廊下を歩いている。後ろからチェリンがやってくる。
チェリン 「サンヒョク!」
チェリンが椅子に座っていると、サンヒョクが紙コップのコーヒーを買って戻ってきた。
サンヒョク 「日本に行ってたって聞いたけど、いつ帰ってきたんだ?」
チェリン 「昨日よ」
サンヒョク 「そうか。で、どうしたんだ?なんの用もなく僕に会いにくるわけないだろうし」
チェリン 「ええ、そうよ。聞きたいことがあって来たの」
サンヒョク (ふっと笑って)なんだ?そんなふうに言われると、なんだか怖いな」
チェリン 「・・・・ユジンとジュンサン、何かあるんでしょ?」

「今日お店に出たら、ジンスクが心配してたわ。あの二人、本当に別れるの?」

サンヒョク (何も答えずにいると、電話が鳴る)ちょっとごめん。(電話を取る)もしもし。ああ、父さん。・・・・なんだって!?ジュンサンが病院にいるって?」
070 ジヌ 「ああ。交通事故の後遺症らしい。・・・・・ああ・もう一度検査しないといけないそうだ。今は眠ってるよ。・・・ああ」
ジヌは電話を切るとどこかへ歩いていった。

診察室。ジヌが医師と話をしている。

ジヌ 「検査は、事故にあった時に受けたと聞いていますが・・・その時にはなんの異常もなかったとか」
《せりふ:医師》
(笑って)さあ・・・そうだとしても、若い男性が理由もなくあんなふうに体調を崩すには問題があります。それに、交通事故の後遺症というのは思ったより厄介なものなんです」
ジヌ 「何か大きな問題があるわけではありませんよね?」
《せりふ:医師》
「それは検査の結果を見てみなければ、わかりません」
ジヌ 「はい・・・・(ため息)
《せりふ:医師》
「あまり心配なさらないでください、お父さん」
ジヌ (お父さんという言葉にまたどきりとする。そして決心したように)あの・・・もう一つ検査をお願いしたいことがあるのですが」
ジヌが採血している。

病室。ジヌが複雑な表情で、寝入っているジュンサンを見下ろしている。

ジュンサンがヒョンスの息子だということに疑いを生じさせるような、いくつかの回想。

080 (回想)ジヌ 『ジュンサンとユジンは年が離れてるはずだが、どうしておまえたちは同じ学年だったんだ?』
(回想)サンヒョク 『さあ、とにかくジュンサンとユジンは同い年だよ。誕生日もたしか一、二ヶ月しか違わないと思う』
(回想)ジヌ 『ジュンサンを身ごもったと言えば、ヒョンスは別れなかっただろう』
(回想)ミヒ 『愛し合うということは、相手の言葉をすべて信じてあげるってことなの。あなたはわたしを愛してくれたけど、ヒョンスは私を愛してくれなかった。それがあなたとヒョンスの違いよ』
悩んでいる様子のジヌ。またジュンサンに目をやった。ジュンサンの顔に浮かんでいる汗をぬぐってやろうとするが、触れることがためらわれて、手を戻した。そこへチェリンとサンヒョクが賭けこんできた。ジヌが振り返る。
サンヒョク 「父さん」
チェリン 「ジュンサン!(ジヌを見て会釈する)
病院の前。サンヒョクとジヌが出てくる。
ジヌ 「じゃ、行くよ。中に入りなさい」
サンヒョク 「うん・・・父さん」

「すべて解決に向かってるよ。ジュンサンとユジンは別れることになると思う。だから父さんも、これ以上、気を遣わなくても大丈夫だから」

090 ジヌ (複雑な表情)そうか・・・もうそんなことになってるのか。(サンヒョクを見て)おまえは、ジュンサンのことをどう思ってるんだ?」

「好きだったか?おまえとジュンサンはどれぐらい仲がよかったんだ?ジュンサンは・・・」

サンヒョク 「父さん・・・?」
ジヌ (言いやめて)いや、いいんだ。もう中に入りなさい」
サンヒョクはジヌを見送ってから、病院内に戻っていった。

病室ではチェリンがジュンサンの額の汗をぬぐって看病している。うめくジュンサン。

ジュンサン 「ユジン・・・・ユジン・・・・・ユジン・・・・・ユジン・・・・・」
傷ついた表情のチェリン。サンヒョクが病室に入ってきた。チェリンはサンヒョクのほうを振り向きもしない。
チェリン 「ユジンはどうして来ないの?」

(さっと振り返って)ユジンに連絡してないの?誰よりも先に駆けつけて当然の子が、どうして現れないわけ?」

「話して。二人は、本当に別れるの?」

サンヒョク 「ああ・・・そう聞いてる」
チェリン 「いったい、どうして?」
サンヒョク 「ジュンサンとユジンは・・・もう別れたんだ」
100 チェリン 「なんですって?」
サンヒョク 「お母さんの反対に耐え切れなくなったって・・・・愛してなかった気がする、今までは錯覚だったと思うって」
チェリン 「ジュンサンがそう言ったの?愛してなかったって?」
サンヒョク 「ああ」
チェリン 「嘘よ!」

「嘘言わないで。ジュンサンは、意識を失ってもユジンの名前ばかり呼んでるのよ。それなのに、愛してなかったと言うの?」

「いったい何があったの?私が知らないことはなんなの?あなた、知ってるんでしょ?」

病院の一角。サンヒョクの座っている椅子の隣にチェリンが腰をおろした。
サンヒョク 「あの二人は・・・兄妹なんだ」
チェリン (驚いて)・・・・なんですって?」

(信じられないという表情で)もう一度言って。あの二人どういう関係ですって?」

サンヒョク (自分でも混乱しているように)お父さんが一緒なんだよ。ジュンサンは、カン・ミヒさんとユジンのお父さんのあいだにできた子供なんだ」
病室。ジュンサンが目を開くと、ベッド脇で看護婦がジュンサンの点滴を調整している。ジュンサンはここをどこだろうという風に周りを見渡した。看護婦が目が覚めたんですね。と話し掛けるが、ジュンサンは寂しそうにつぶやいた。
110 ジュンサン 「はい・・・目が覚めてしまったんですね(涙を浮かべながら)二度と覚めたくなかったのに」
目を閉じるジュンサンの頬を涙が伝って落ちた。

ジュンサンが退院するために服を着ている。そこへチェリンが入ってきた。

チェリン 「検査は全部済んだの?もう帰っても大丈夫なのね?」
ジュンサン 「どうしてここに来たんだ?」
チェリン 「行きましょ。迎えにきたのよ」
ジュンサンの家の中。チェリンがジュンサンを支えて入ってくる。
ジュンサン 「ありがとう、チェリン」
チェリン 「ぐっすり休んで・・・・じゃあね」
ジュンサン 「ああ」
チェリンはそのまま部屋を出ようとするが、戻ってきてソファに座ったジュンサンの前に立った。その目には涙が浮かんでいた。
120 チェリン 「いっそのこと、ユジンに正直に話したほうがいいわ」

「そのまま逃げちゃいなさいよ。知らなかったじゃない。あなたたちは何も知らなかったじゃない。いったいどうしろっていうの?何も知らずに出会ったのに、どうしろっていうのよ!」

ジュンサン 「・・・いつ知ったんだ?」
チェリン 「とっくに知ってたわよ、バカ!」
ジュンサン 「・・・・サンヒョクから聞いたのか?」
チェリン (涙があふれそうな目でジュンサンを見ながら)私・・・あなたとユジンが普通に別れたんだと思った。でも、そんなふうに別れたら・・・私が喜べると思う?あなたがそんなふうにユジンと別れて、それで二度とあなたと会えなくなったら・・・やり直そうなんて言葉も言えなくなるじゃない!」

「どうして黙ってるの?カン・ジュンサン!どうして何も言わないのよ!」

ジュンサン (さみしそうな笑顔を作って)もう・・・ミニョンとは呼ばないんだね」
チェリン 「そうよ・・・・カン・ジュンサン(涙が頬を流れ落ちる)
ユジンの父、ヒュンスの墓。ユジンが花を持って立っている。
ユジン 「お父さん・・・・お父さん、私、夢を見たの。ジュンサンと散歩がてらにここに来て、お父さんに会って、二人で仲よくお酒も一杯ずつ飲んで・・・。そんな小さな幸せを・・・お父さんに仲のいいところを見せてあげて、二人でいつまでも・・・・(涙ぐむ)ずっとずっと・・・。あの人のことをこんなにも好きになったのは、私たちが最初から一つだったからでしょ?そうなんでしょ、お父さん?だとしたら・・・私はもう夢を見ちゃいけないわね・・・そうよね?そうなのよね、お父さん?」
ユジンはゆっくりと墓地を後にした。

ジュンサンとユジンが仲むつまじく歩いてくる光景が見える。はっとしてよく見ると、違う男女の姿だった。せつなくてユジンの目から涙がこぼれてくる。

130 ユジン 「ジュンサン・・・さよなら」

後編へ続く

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