ラストサムライ

主演 トム・クルーズ 渡辺 謙

あらすじ

19世紀末。南北戦争の英雄、オールグレンは、原住民討伐戦に失望し、酒に溺れる日々を送っていた。

そんな彼が、近代化を目指す日本政府に軍隊の教官として招かれる。

初めて侍と戦いを交えた日、負傷したオールグレンは捕えられ、勝元の村へ運ばれた。

勝元は、天皇に忠義を捧げながら、武士の根絶を目論む官軍に反旗を翻していた。

異国の村で、侍の生活を目の当たりにしたオールグレンは、やがて、その静かで強い精神に心を動かされていく。

gV(8名)
「台本中の(M)はモノローグの意」

001 出立しようとするオールグレンに飛源が手習いで書いた紙を渡す。勝元を先頭に侍たちを乗せた馬が進んでいく。それを見送る人の中に、たかの姿はなかった。

東京。グレアムが写真機を抱えて街行く人々を撮っている。

  グレアム 「じっとして・・・。じ〜〜っとして・・・。」
  その時、人々が悲鳴をあげた。街じゅう騒然となってみな右往左往と逃げ惑った。
  グレアム 「どした・・?」
  振り向いたグレアムの目に馬にまたがり、威風堂々と街中を進軍する侍の一団が目に入った。勝元率いる一団だった。勝元は右手を掲げ、馬を止めた。

オールグレンは馬を下り、馬上の勝元を見上げる。勝元が黙ってうなづき、再び馬を進めた。

オールグレンは軍の練習場へと向かった。バグリー大佐が見つけて歩み寄ってきた。

  バグリー大佐 「オールグレン?・・生きてたのか!」

「君には驚かされる。

  オールグレン 「榴弾砲(りゅうだんほう)か」

※用語説明〔 弾体内に炸薬(さくやく)を充填(じゆうてん)した砲弾。爆風と弾体の破片とで破壊・殺傷する。〕

  バグリー大佐 「その通り、天皇が協定にサインしてめでたく納品だ。」

「ガトリング砲もな。毎分200連射、弾詰まりも少ない。

  オールグレン 「風呂を・・。」
010 バグリー大佐 「蛮人には風呂は無縁だからな。」

「よく戻った、大尉。」

  皇居の庭。天皇と勝元が話している。
  天皇 「勝元は朕に弓を引くか。」
  勝元(かつもと) 「滅相もない。お上の敵と戦こうておるのです。」
  天皇 「あの者たちも・・お前と同じ相談役だ。」
  勝元(かつもと) 「彼らの事は全て己がためのもの。」
  天皇 「朕には海の向こうの事を知るものの助けがいる。」
  勝元(かつもと) 「この勝元を要らざる時は、”死”を賜りますよう。」
  天皇 「いや、元老院にはお前の声がいる。」
  勝元(かつもと) 「陛下は現人神(あらひとがみ)ではござりませぬか。正しいと思うことをおやりになればよい。」
020 天皇 「あの者たちの望む事をしている限り・・朕は・・・神かも知れぬな・・。」
  勝元(かつもと) 「恐れながら・・なんと言う情けなきお言葉。・・陛下は民の思いをお忘れか・・?」
  天皇 「どうすればよい?・・・・・・教えてくれ・・。」
  突然、勝元はその場にひれ伏して言った。
  勝元(かつもと) 「お上(かみ)。お上は一天万乗(いってんばんじょう)の天子様であらせられます。お上のお言葉こそ、この国に道をつけるのです。」
  大村の執務室。アメリカ大使とバグリー大佐、オールグレンが入ってきた。
  大村 「君らか。入りたまえ。オールグレン大尉、虜囚(りょしゅう)の身であったわりには元気そうだ。」
  オールグレン 「丁重な扱いだった。」
  N(大使) 「兵器の取引契約の草案ですが・・。」
  大村 「オールグレン大尉、勝元に与(くみ)した侍の総勢はいくらだ?」
030 オールグレン 「存じません。」
  バグリー大佐 「一冬過ごしたのに知らないのか?」
  オールグレン 「捕虜でしたから。」
  バグリー大佐 「軍備の状況はどうだ?見たことを話せ。」
  オールグレン 「大佐の言われた通り、弓と矢だけの蛮人です。」
  N(大使) 「契約書は・・。」
  大村 「書類は何も問題ないだろう。ご苦労、大使。そこに置いてくれ。後で目を通す。」
  N(大使) 「お言葉ですが、大統領はしびれを切らし、あなた以外の方と話せと言っています。」
  大村 「お言葉だが、こっちにもほかに話す相手がいるのだ。フランス、あるいは英国。・・隣の部屋で待っている。」
  N(大使) 「では・・ご連絡をお待ちしています・・・。」
040 大村 「では、これで。」
  3人が大村の執務室を出ようとした時、オールグレンが呼び止められた。
  大村 「オールグレン大尉。君と二人きりで話をしたい。掛けたまえ。」

「ウイスキーは?」

  オールグレン 「結構です。」
  大村 「勝元は大した人物だろ?」
  オールグレン 「一部族の長です。珍しくはない。」
  大村 「侍は初めてのはず。武士道は魅力的だ。」
  オールグレン 「私に関係があるとでも?」
  大村 「大ありでね。君が言ったように昨年、我が軍は力不足だった。バグリー大佐は誤った。だが、今は違う。勝元に服する侍が増えると10年の内乱に発展する。それは避けたい。今日、元老院で彼を抑えるか君が武力で彼を潰すか・・新しい兵器を用いれば容易なはずだ。」
  オールグレン 「お申し出に感謝を・・。」
050 大村 「”申し出”ではない・・・。」
  オールグレン 「兵の育成が私の任務のはずです。」
  大村 「契約を書き直そう。天皇への君の多大な貢献を認めるものにね。・・お分かりかな?」
  オールグレン 「・・・・よく分かりました。」
  大村 「よかった。」
  オールグレンが部屋を出て行った。それを見送る大村が、付き人に言った。
  大村 「後をつけろ。・・・勝元に近づくようなら斬れ・・。」
  外へ出てきたオールグレンをグレアムが待ち構えていた。
  グレアム 「何があったんだ?外交官連中が慌ててるぞ・・。大村が”廃刀令”を公布したんだ。」
  オールグレン 「酒が欲しいな・・。」
060 グレアム 「勝元は今日、元老議会と対決する気なのか?」
  オールグレンが道を隔てた向こう側で、憲兵に詰め寄られる信忠の姿を見つめた。
  N(憲兵) 「どういうつもりだ?・・まげを斬れ!勅令を知らんのか!」
  グレアム 「始まったぞ・・。」
  N(憲兵) 「若造、聞いてるのか!いつまで侍面(さむらいづら)してるんだ。そんな頭をしてるから!異人たちに馬鹿にされるのだ!膝まづけ!」
  オールグレンは銃を構える憲兵の中に飛び込んだ。
  N(憲兵) 「何だ貴様は!」
  オールグレン 「オールグレン大尉だ・・。」
  憲兵はいきなりオールグレンを殴り倒した。信忠が腰の刀を抜こうとする。
  オールグレン 「やめろ!・・やめろ・・・。」
070 憲兵は信忠の刀を取り上げると、彼のまげを鷲掴みにした。
  N(憲兵) 「座らんか!」
  憲兵の持つサーベルで信忠のまげを切り落としていく。
  信忠(のぶただ) 「や・・やめろ〜〜〜〜!!!」
  憲兵は切り取ったまげを地面に放り投げ信忠を足蹴にすると、馬鹿にしたように笑いながらその場を去っていった。まげを切られ、ざんばら髪の信忠は呆然としている。
  オールグレン 「つれて・・いこう。」
  信忠 「好きにしろ・・。」
  元老議会。大村が演説を行なっている。
  大村 「学校教育の充実を図ることは急務です。かろうじて列強の侵略を阻んでいるのはアジアでは我国だけであり・・。」
  勝元がやってくる。まわりは皆、洋装をしている中で、唯一、着物に袴姿だった。勝元は入口で一礼し入ってくる。
080 大村 「勝元参議。光栄です。」
  勝元(かつもと) 「わしもこの元老院に戻れる事、光栄に思う。」
  大村 「”廃刀令”をご存知ないようですな。」
  勝元(かつもと) 「勅令(ちょくれい)は全て吟味してある。」
  大村 「敢えて破るおつもりか?」
  勝元がまわりの議員達の顔を一人一人見つめる。皆、一様に、目を伏せ、勝元の顔を見ようとしなかった。
  勝元(かつもと) 「よいか、この刀が新政府を作り、守り・・。」
  大村 「時代が違います。今は我が国は法治国家であることをお忘れなく。」
  勝元(かつもと) 「西洋に身を売った愚かな国がか?」
  大村 「愚かな国にしたのはあなた方、侍でしょう!国民が餓えているのは誰の責任だと思っているんだ!」
090 勝元(かつもと)  「大村財閥とやらが民に施しをしたか?金はどこに消えた?貴様の懐か!?」
  大村 「・・・・勝元参議!重ねてお願いする!勅令どおり、刀を廃棄して頂きたい。」
  勝元は部屋の中央に歩みより、部屋の奥に鎮座する天皇へ向かって刀を拝(はい)した。
  勝元(かつもと) 「畏れながら。お上の御意志であれば。」
  天皇はじっとその刀を見ていたが、目をそらし、うつむいてしまった。大村はにやりと笑って勝元に言った。
  大村 「陛下の神聖なお言葉をこのような場で賜るわけにはいけません。」
  勝元(かつもと) 「残念ながら、この刀をお渡しするわけにはまいらん。」
  大村 「いたし方ありませんな、警護の者に送らせます。沙汰があるまで”東京”のご自宅にて謹慎願いたい。」
  勝元は部屋を出て行った。

オールグレンの部屋。バグリー大佐が部屋に入ってくる。

  バグリー大佐 「帰るそうだな?」

「お陰でクビがつながった。・・感謝する。月額500ドルに捕虜の間の分を足した・・・給料だ。酒浸りの一生が送れるな。満足だろ?」

「・・・これで一件落着だ。勝元は捕らえられ、今夜にも大村が片づける。彼が死ねば君なしでも反乱軍の残党は始末できる。・・むしろ、やりやすい。」

「一つ知りたい。・・なぜ自分の国の人間を嫌うんだ?」

100 N  勝元の東京の自宅。見張りの目が厳しい。勝元は部屋の中央に正座して瞑想している。障子が開いて男が顔を覗かせる。男は部屋に入り込み脇差を抜くと勝元の前に置いた。
  N(男) 「腹をめされたければ・・これを・・。」
  オールグレンが夜の街に飛び出した。その後を、暴漢を装った刺客があとをつける。道の真中で、男4人に囲まれた。男たちは黙って刀を抜き身構える。

先に動いたのはオールグレンだった。左にいた男の懐に飛び込むと、腕を掴み、右の男の腹を蹴り上げた。刀を奪ったオールグレンは上段から打ち込んでくる刀を受け、弾くと一気に横へ薙ぎ払った。あっという間に3人が血飛沫を上げて倒れた。男が後ろから襲いかかろうとする。オールグレンはくるりと身を翻し、男の首を斬り飛ばした。

勝元の屋敷。憲兵が立ち番をしている。そこへ人力車を引いた男たちがやってきた。乗っているのはオールグレンとグレアムだった。

  N(憲兵) 「止まれ!ここに入ってはならん!」
  オールグレン 「止まるな、歩き続けろ」(小声)
  グレアム 「大村大臣が、我々に反逆者の写真を撮れと仰せになられた。」
  N(憲兵) 「・・と・・止まれ!・・誰か!」
  グレアム 「早く器材を持って来い!早くしろ!」
  N(憲兵) 「・・貴様ら!!止まれ!!」
  グレアム 「無礼者!!なぜ剣を抜く!役立たずのうすのろ・・この人を誰だと思っているんだ!アメリカ合衆国大統領だぞ・・!反乱軍をやっつけるために、わざわざお越しになられたなんだ!」
110 N(憲兵)  「・・・し・・しかし・・・私の一存では・・・。」
  グレアム 「手伝え!早くしろ!!器材を運べ!!」
  N(憲兵) 「・・・・・・はっ・・おい!器材を運べ・・・。」
  オールグレン 「合衆国大統領?」(小声)
  グレアム 「すまん・・吐き気がしてきた・・・・」(小声)
  N(憲兵) 「フォトグラフだ。写真をとるんだ。」
  部屋の中に立つ憲兵に上官が言った。憲兵は部屋の障子を開ける。中に勝元がじっと座っていた。
  オールグレン 「歌はできたか?」
  勝元(かつもと) 「結びの句が難しい・・。」
  オールグレン 「グレアム君だ、”写真を撮りたい”とここまでやってきた。」
120 グレアム  「光栄です・・。」
  勝元(かつもと) 「もう発ったものと思っていた。」
  オールグレン 「気が変わった。あなたを逃したい。」
  勝元(かつもと) 「一体どうやって?」
  その時、物音がして憲兵が血を流して倒れた。そこには氏尾が立っていた。勝元が立ち上がる。
  勝元(かつもと) 「グレアム殿、わしの村の写真を撮らんか?」
  グレアム  「はい、喜んで。」
  部屋を抜け出た時、憲兵に見つかった。憲兵は発砲しながら詰め寄ってくる。どこから音もなく矢が飛来し、次々と憲兵の喉を射抜いていく。信忠が走ってきた。
  信忠(のぶただ) 「早くこちらへ!」
  銃を撃つ憲兵、信忠も矢をうち応戦する。庭の池にまたがる橋の欄干に身を隠すようにかがめて、オーグレン、勝元、グレアム、氏尾の順で走る。欄干に弾がめり込み、木屑が飛び散る。

走り去ったのを見届けた信忠が橋を駆け抜けてくる。橋の中ほどまで来た時、憲兵の撃った弾が信忠を撃ち抜いた。倒れる信忠。勝元が戻ろうとするのを氏尾がかかえこむ。発砲の音に混じって勝元の我が子を呼ぶ悲痛な叫び声が響く。

130 勝元(かつもと)  「信忠!!」
  信忠は橋を腹ばいになり必死に這い寄って来る。憲兵の攻撃は止むことが無かった。オールグレンが意を決して信忠の元へ走り抱え起こすと、一気に橋を渡りきる。
  信忠(のぶただ) 「・・・ち・・父上・・・こ・・こはわたしが・・・。わたしはもう・・・」
  勝元は信忠を抱え起こし、見つめる。目を真っ赤に充血させて、悲しみに耐えていた。勝元と信忠の今生の別れであった。信忠は最後の力を振り絞り、弓を構え、走ってくる憲兵へ矢を引いた。

一歩、また一歩・・信忠は、弓を引きながら橋を前へ進んでいく。憲兵の銃が一斉に火を吹いた。信忠は全身を撃ち抜かれ、絶命した。壮絶な最期だった。

  勝元(かつもと) 「お上はわしを退けた・・。官軍がやってくる・・・それで終わりだ。800年もの間、祖先が守り続けた民を、わしが滅ぼすことになろうとは・・。」
  オールグレン 「だから命を絶つのか?恥じて?・・・それでいいのか?生涯、主に仕え、己を律し、民に情をかけたのに?」
  勝元(かつもと) 「武士道はもう必要ではないのだ。」
  オールグレン 「必要でない?・・・なによりも必要なものだ。」
  勝元(かつもと) 「わしの命は刀が奪う・・。我が刀か・・・敵の刀か・・。」
139 オールグレン 「ならば敵の刀に倒れ、共にあなたの声を天皇の耳に届かせよう。」

gWへ続く

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