ラストサムライ

主演 トム・クルーズ 渡辺 謙

あらすじ

19世紀末。南北戦争の英雄、オールグレンは、原住民討伐戦に失望し、酒に溺れる日々を送っていた。

そんな彼が、近代化を目指す日本政府に軍隊の教官として招かれる。

初めて侍と戦いを交えた日、負傷したオールグレンは捕えられ、勝元の村へ運ばれた。

勝元は、天皇に忠義を捧げながら、武士の根絶を目論む官軍に反旗を翻していた。

異国の村で、侍の生活を目の当たりにしたオールグレンは、やがて、その静かで強い精神に心を動かされていく。

gW(9名)
「台本中の(M)はモノローグの意」

001 里へと戻った勝元、オールグレンたち。残っていた女達が嬉しそうに家から出てくる。そんな中にたかの姿もあった。

たかの家。たかを前に、オールグレンが、信忠の最期を話していた。

  オールグレン 「彼は・・いい人でした・・・。」
  飛源(子供8歳) 「お前も白人と戦うのか?」
  オールグレン 「そうです。もし来れば戦う・・・。」
  飛源は悲しそうにオールグレンを見た。
  オールグレン 「・・・愛する・・・人を・・・殺すから・・・。」
  飛源はその場所から飛び出していった。その後ろ姿をじっと見つめてたかが言った。
  たか 「武士道は、子供には分かりにくいものなのです・・。ましてあの子は・・父を失ったのですから・・。」
  オールグレン 「飛源の父は・・・自分が・・殺した・・。だから怒ってる・・。」
010 たか 「・・・いいえ・・あの子は、あなたが死ぬのが恐いのです。」
  縁側に一人ぽつんと飛源が座っている。外は真っ暗である。ときおりフクロウの泣き声が暗闇の中にこだまする。
  飛源(子供8歳) 「父上が、戦で死ぬのは名誉だと言って・・。」
  オールグレン 「彼は・・そう信じていた。」
  飛源(子供8歳) 「戦で死ぬのが恐いよ・・。」
  オールグレン 「自分も・・。」
  飛源(子供8歳) 「でも・・たくさん戦をしてきたんだろ?」
  オールグレン 「いつも・・恐かった・・・。」
  見つめる飛源の目にみるみる涙が浮かんでくる。
  飛源(子供8歳) 「・・・・・行かないで・・・。」
020 N(侍) 「アルグレン、敵の軍勢がやってくる。」
  ただじっと目に涙を一杯ため見つめる飛源の肩に手を回しオールグレンは優しく包み込んだ。

朝、里へ向かう山裾の広場に敵軍全の姿があった。

  オールグレン 「敵は2連隊、1000人単位で波状攻撃に出る。榴弾砲もある・・。」
  勝元(かつもと) 「来るがいい、こっちは一歩も退かんぞ。」
  オールグレン 「見方の軍勢は何人だ?」
  勝元(かつもと) 「500ほど・・カスター将軍と同じだ?・・違うか?」
  オールグレン 「昔、テルモピュライの戦いでギリシャ軍は300人の軍勢で100万のペルシャ軍と戦った。100万の数が分かるか?」
  勝元(かつもと) 「ああ、分かる。」
  オールグレン 「ギリシャ軍は2日間にわたって敵に大打撃を与え、ついに退却させた。」
  勝元(かつもと) 「どう出る?」
030 オールグレン 「”銃があるから”と過信してる奴らをおびき寄せて、接近戦に出る。」
  勝元(かつもと) 「”運命(さだめ)を変えられる”と思っているのか?」
  オールグレン 「運命(さだめ)が明かされるまで、自分の最善を尽くす。」
  オールグレン(M) 「1877年5月25日、この日記も今日が最後だろう。見たこと行なったことを正直に記してきた。この人生はなんだったのか・・・だがこの機会を得たことに、心から感謝したい。」
  里では侍たちが戦に向けて準備に余念が無い。

そしていよいよ戦の始まりの朝を迎えた。たかがオールグレンを部屋へ呼んだ。

  たか 「アルグレンさん、どうぞこちらへ。」

「これを着ていただけたら、嬉しゅうございます。」

  たかは亡き夫、広太郎(ひろたろう)が着ていた赤い鎧兜をオールグレンに着るように勧めた。たかがすっと立ち、オールグレンの着物の帯を解く。そして、着物を脱がせ、真新しい着物を着せる。

オールグレンはそんなたかをじっと見つめる。たかがオールグレンを見た。どちらからとも無く二人は唇をかさねた。

出陣の時が来た。オールグレンが勝元のもとに鎧姿で現れる。勝元が、刀を手渡した。

  勝元(かつもと) 「これを持て。」
  オールグレン 「この銘は。」
  勝元(かつもと) 「”我は古きと新しきに和をもたらせし者の刀なり”」
040 N  勝元が自らの刀を引き抜き、大きな声で出陣の号令をかける。侍たちから一斉にときの声が上がった。もう二度と踏む事の出来ない古里を後にして、侍たちが決戦の場へと馬を走らせる。その姿をたかが淋しげに見送っていた。

決戦の場に着いた。互いの陣地から馬を走らせ中央でにらみ合う。バグリー大佐がオールグレンの姿を見つけてた。

  バグリー大佐 「驚いたな・・・。」

「・・・勝元殿、日本帝国軍に降伏せよ。そうすれば危害は加えぬ。」

  勝元(かつもと) 「それはできぬ。大村氏はご承知のはず。」
  バグリー大佐 「オールグレン大尉。君にも容赦はせん。反乱者の仲間と見なすぞ。」
  オールグレン 「戦場で会おう。」
  互いに分かれ、陣へと戻っていく。
  グレアム 「オールグレン大尉。」
  オールグレン 「グレアム君。君の本に役立ててくれ。」
  オールグレンは今まで書きとめた日記帳を手渡した。
  グレアム 「ああ、必ずな・・。大尉!ご武運を!」
050 オールグレン  「ありがとう。グレアム君。」
  勝元(かつもと) 「敵は我らにはひざまづく気は無いそうだ。」

「さてと・・・やるか。」

  ときの声をあげ、皆一斉に、配置についていく。その様子を、丘の上から双眼鏡で大村とバグリー大佐が見つめている。

日本帝国軍の榴弾砲が号令いっか、放たれる。轟音と共に、白煙を上げて弾が飛んでいく。弾は侍たちの構える陣の少し前方に着弾する。侍たちに被害は無かった。号令のもと、榴弾砲の角度が変えられる。再び白煙を上げ弾が放たれる。

弾は、陣地内に着弾し、侍たちの陣は総崩れとなった。その様子を見ている大村とバグリー。

  バグリー大佐 「敗走を始めました。」
  大村 「どうだ、侍といえども榴弾砲には勝てんのだ。・・総攻撃を!」
  バグリー大佐 「先ず小隊を出します。」
  大村 「バカ言うな!総攻撃だ!」
  丘と丘の小道を走り抜けてくる侍たち。その後から、日本帝国軍の一大隊が、隊列を整えて進軍してくる。侍たちは地面に掘られた壕の中に身を隠し、日本帝国軍が迫ってくるのをじっと待った。
  オールグレン 「来るぞ・・。」

「一斉射撃だ。」

  丸太で組んだ塀に銃剣の弾が次々とめり込む。
060 オールグレン  「2回目・・。」
  再び銃が火を吹く。撃ちながらじりじりと進んでくる日本帝国軍。オールグレンの合図で、采配が振られ、一本の火矢が帝国軍の後方に飛んだ。一斉に火の手が上がり進軍している兵達を飲み込んでいった。兵は総崩れとなった。
  バグリー大佐 「あれは?」
  大村 「何事だ?」
  浮き足立つ兵の上空から何百もの矢が雨のように降り注ぐ。
  バグリー大佐 「進軍が止まった・・・。」
  大村 「全軍投入しろ!」
  勝元(かつもと) 「・・・あのギリシャ軍の最後は?」
  オールグレン 「・・全員、戦死した。」
  にやりと笑う勝元とオールグレン。勝元が刀を抜き駆け出す。侍たちも一斉に刀を抜き後に続いた。

刀を振り回す侍に銃で応戦する帝国軍兵士達。侍たちは次々に撃たれて倒れていく。帝国軍兵士と侍たちの凄絶な殺し合いが始まった。次々と血を吹き倒れる。そこへ、新たに兵が投入される。その時、丘の上から馬に乗った侍の一団が戦いの輪の中に突入していく。兵たちにも多数の死者が出た。侍たちの攻防は続いている。

070 バグリー大佐  「勝つ気でいるぞ。」
  兵たちが一時撤退をする。戦場は凄惨を極めた。累々と死体が転がり、足の踏み場も無いほどだった。
  オールグレン 「敵は更に二連隊を投入する。次は立ち向かえまい。」
  勝元(かつもと) 「お前が死ぬことはない・・。」
  オールグレン 「何度も捨てた命だ・。」
  勝元(かつもと) 「まだ生きている。」
  オールグレン 「ああ・・。」
  勝元(かつもと) 「今がその時だと?」
  オールグレン 「最後まで戦う。」
  勝元とオールグレンは互いに見つめうなずきあう。

硝煙たなびく中を勝元を先頭に馬に乗った数十人の侍たちが一列に整列する。

080 大村  「何だと・・・?・・砲撃用意!」

「・・・・信じられん、まだ戦う気か?負けを認めないつもりか!」

「殺せ・・皆殺しにしろ・・。やれ!」

  バグリー大佐 「馬を用意しろ!」
  勝元が刀をかざして馬をゆっくりと進ませる。それに従うように他の侍たちも進み始めた。

侍たちの死を賭けた最期の戦いだった。侍たちを乗せた馬が平原を疾走する。それを迎えうつ日本帝国軍隊の先頭に馬にまたがったバグリー大佐の姿があった。

  大村 「撃て!」
  大村の合図で榴弾砲が次々と火を吹き侍たちを砲撃する。次々と攻撃の的になり侍たちが散っていく。しかし、進撃の勢いは全くおさまらなかった。地響きを立てながら侍たちは突っ込んでくる。

バグリー大佐の撃った弾丸が勝元の腕に当たった。オールグレンは刀をバグリー大佐へ投げる。刀は真っ直ぐに心臓を刺し貫いた。侍たちは前衛の兵士をなぎ倒し、続々と突き進んでくる。

  大村 「新式銃を用意しろ!」
  毎分200連発するというガトリング砲が丘の上に配備された。
  大村 「撃て!」
  実戦で使用していないため、弾の装填作業に手間取っている。その間にも、どんどん侍たちの一団が迫ってくる。大村は慌てた。
  大村 「撃て!撃て!・・撃ち始めろ!撃て!!」
090 N  準備の完了したガトリング砲が弾を連射する。鉛の雨が侍たちに降り注ぐ。弾は容赦なく侍たちを撃ちぬいていく。あっという間に死体の山がきづかれていった。死んでいく侍たちになおも容赦なくガトリング砲が打ち込まれていく。

弾に撃ち抜かれた勝元が力無く立ち上がろうとしている。その傍に、オールグレンが這い寄ってくる。

  N(仕官) 「撃ち方やめ!」
  大村 「バカモン!やめるな!!撃て!撃ちつづけろ!!」
  挿入曲 1分56秒 2−1
  N(仕官) 「撃つな!やめい!」
  ガトリング砲のハンドルを回している砲手の手が止まった。射撃音がぴたりと止まり、あたりが静寂に満ちた。

倒れても、なおも立ち上がろうとする勝元の手をオールグレンが掴んだ。

  オールグレン 「やめろ・・。」
  大村 「勝元を撃て!メリケンを殺せ!殺せ!!撃て!!」
  勝元(かつもと) 「お前は名誉を取り戻した・・。わしにも名誉の死を・・・・。」

「・・・・手を貸せ・・・。」

  オールグレンが勝元の体を抱えおこす。勝元は脇差をオールグレンに差し出しじっと見つめた。
  オールグレン 「いいか?・・」
100 N  勝元が目を見開いたまま小さくうなずいた。
  オールグレン 「もう会話も・・・できなくなるな・・・。」
  勝元はオールグレンの腕を掴むと、脇差を自分の腹に突き立てた。
  勝元(かつもと) 「ぅぐっ!!・・あぁ・・・・。」
  死に逝く勝元の目に、風に舞う桜の花が見えた。
  勝元(かつもと) 「見事だ・・・すべてが・・・見事だ・・・。」
  勝元は崩れ落ちる。丘の上では兵たちが帽子を取り、全員その場に膝まづいてその最期を見送っていた。ただ一人、大村を除いて・・。

天皇の謁見場。

  N(大使) 「合衆国を代表し申し上げます。この協定は両国にかつてないほどの繁栄と実りある友好関係をもたらすでしょう。」
  大村 「天皇陛下に代わり、この協定が見事、結ばれたことに・・・喜びの意を・・・。」
  そこへオールグレンがこの場へやってきたことが告げられた。
110 天皇  「オルグレンがここに?」
  オールグレンがアメリカ合衆国の軍服に身を包み、手には勝元の刀を持ち、静かに部屋へ入ってきた。そして、天皇の前でひざまづいた。
  大村 「陛下、この期に及んで御躊躇はなりません。」
  オールグレンは包みから刀を出し両手で掲げた。
  オールグレン 「これは勝元の刀です。”陛下にお納めいただき・・武士の力を守りとされたし”と・・。」
  大村 「勝元の死をいたむ気持ちは皆、同じです。しかしながら・・・!」
  オールグレン 「勝元は、いまわの際に”祖先が何のために戦い死んだかを・・おわすれなきように”と。」
  天皇が膝を折り、その刀を受け取ろうとする。
  大村 「陛下!」
  天皇 「見届けたのか?最期を・・。」
120 オールグレン  「・・・・はい・・。」
  大村 「陛下・・この男は反徒ですぞ!」
  オールグレン 「陛下・・私を反徒と思われるなら死のご下命を。喜んで命を断ちます。」
  天皇は、意を決したようにすくっとたちあがる。
  天皇 「朕の望みは日本国の統一だ。強力にして独立を誇る・・近代国家を確立したい。我々は、鉄道や大砲や西欧の衣服は手に入れた。しかし・・日本人たることを忘れてはならぬ。この国の・・歴史と伝統を。」

「スワンベック大使、この協定が我が民にとって最善のものであるとは思われぬ。」

  大村 「陛下・・しかしながら・・。」
  天皇 「申し訳ない、もう何も言うな。」
  N(大使) 「これは・・・遺憾千万です!」
  スワンベック大使は身を翻して部屋を出て行った。
  大村 「陛下・・・この件に関しましては・・・。」
130 天皇  「大村!・・もうよい、十分だ。
  大村 「わたくしは国家のために全てを投げ打ってきたつもりです。」
  天皇 「それが真琴(まこと)であれば、お前の資産は没収し民に分け与える。」
  大村 「陛下・・屈辱を賜りなさる!」
  天皇 「その屈辱に耐えられんなら!・・・・この刀を与えよう・・。」
  大村はよろよろとよろめきながら後退した。そして、再びオールグレンの前に膝を折った。
  天皇 「・・・死に様を聞きたい。」
  オールグレン 「生き様を・・お話しましょう・・。」
  ED 2分34秒
138 グレアム(M) 「こうして侍の時代は終わりを告げた。国家にも人と同様、運命(さだめ)があるという。米国人大尉のその後は知られていない。負傷が原因で世を去ったとか・・故郷に戻ったという噂も聞かれた。だが、私は思いたい。彼はついに・・心の安らぎを見いだしたと。人が皆、求めながらも得ることの稀な安らぎを見出したのだと。

劇 終

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