ラストサムライ

主演 トム・クルーズ 渡辺 謙

あらすじ

19世紀末。南北戦争の英雄、オールグレンは、原住民討伐戦に失望し、酒に溺れる日々を送っていた。

そんな彼が、近代化を目指す日本政府に軍隊の教官として招かれる。

初めて侍と戦いを交えた日、負傷したオールグレンは捕えられ、勝元の村へ運ばれた。

勝元は、天皇に忠義を捧げながら、武士の根絶を目論む官軍に反旗を翻していた。

異国の村で、侍の生活を目の当たりにしたオールグレンは、やがて、その静かで強い精神に心を動かされていく。

gU(6名)
「台本中の(M)はモノローグの意」

001 侍の刀が倒れたガントの胸を刺し貫いた。馬上から振り落とされたオールグレンが槍を振り回し侍と戦っている。

次々襲いかかる侍たち。侍の刀がオールグレンの左の肩を貫いた。

侍たちに囲まれたオールグレンはふらふらになりながらも、槍を振り回して抵抗している。だが、とうとう疲れ果てその場に倒れ付してしまった。赤い鎧兜に身を包んだ侍が歩みより、止めを討ちに刀を振るった。油断した侍の喉を、オールグレンの持つ槍が貫いた。血を吹き出し、侍が倒れ込んだ。

侍たちが一斉に襲いかかった。

  勝元(かつもと) 「やめい!」
  一人の武将がオールグレンのもとに歩み寄った。勝元である。
  勝元(かつもと) 「この者を運べ。」
  侍たちは、傷つき気を失ったオールグレンの腕をつかみ、ずるずると引きずっていった。

林の中、長谷川を囲むように立つ侍の中心で、彼は正座し、脇差を腹に当てた。連行される馬上でオールグレンがその光景を見つめている。

長谷川が脇差を自分の腹に差し込み真横に引いた。間髪をいれず、太刀が振り下ろされ首が転がった。侍たちは頭(こうべ)をたれ、長谷川を見送った。

侍たちを乗せた馬の行列が里の道を行く。里の広場でオールグレンは馬上からひきずりおろされる。

  勝元(かつもと) 「名は何と申す?」
  オールグレンはうっすらと開いた目で勝元を睨み、口を開こうとしなかった。
  氏尾(うじお) 「無礼者答えろ!!」
  部下の氏尾が刀を引き抜き、オールグレンの首筋めがけて振り降ろす。その刃は首の皮一枚を掠めてピタリと止まった。
010 勝元(かつもと) 「よせ。」

「ここはせがれの村だ。見ての通り山奥で冬も近い。逃げられはせん。」

  信忠(のぶただ) 「わかったか。」
  勝元と信忠がその場を離れると、オールグレンが気を失いその場に仰向けに倒れた。

家の中、オールグレンの左肩の傷を勝元の妹”たか”が縫っている。その様子をじっと見つめる勝元。ふと、足元にある皮袋の中にある一冊の日記帳を見つけた。

雨が振りしきる。意識なく倒れこむオールグレン。彼がうっすらと目を開けた。オールグレンは開いた戸の向こう側にいる女と子供2人を目に留めた。その視線を感じたたかが部屋の戸を静かに閉めた。

勝元の菩提寺の本堂。氏尾と勝元がいる。氏尾はオールグレンの存在が気に入らないらしい。

  氏尾(うじお) 「なぜ、あの蛮人を生かしておくのですか?負け戦の辱めを受けたからには、あ奴は腹を切るべきです。」
  勝元(かつもと) 「蛮人のしきたりに切腹はない。」
  氏尾(うじお) 「では、わたしが切りましょう。」
  信忠(のぶただ) 「父上、わたしは・・。」
  勝元(かつもと) 「氏尾、切らねばならぬ奴はまだ大勢おる・・・先ず、敵を知ることだ。」

「生かしておけ。」

  夕暮れ、たかの家。信忠がオールグレンの傷を見てたかに話している。
  信忠(のぶただ) 「酷くやられているな。」
020 オールグレン 「・・・・さ・・け・・・・・。」
  信忠(のぶただ) 「酒?・・ははは・・。」
  オールグレン 「・・・・さ・・け・・・・・。」
  信忠がたかに目配せする。たかはすっと立ち部屋を出て行った。オールグレンはうわ言のようにつぶやき、”酒”を欲しがった。
  信忠(のぶただ) 「たかが面倒みてくれますよ。」
  たかが酒を持って入ってくる。オールグレンの体を支え酒の入った”ぐい飲み”を口に添える。オールグレンはむさぼるようにそれを飲んだ。そして、徳利をその手にもつと、あおるように飲んだ。

翌朝、オールグレンの体に変化が出ていた。彼は過去のシャイアン族抹殺の時の罪悪感に苛まれ、アルコール依存症に陥っていたのだ。アルコールの切れた彼の体は、ブルブルと震えていた。

  オールグレン 「酒・・・・さ・・け・・・・さけ・・・・。」
  信忠(のぶただ) 「おばうえ、酒を飲ませてやれ。」
  たか 「それはできません。」
  信忠(のぶただ) 「ここは俺の村だ!」
030 たか 「ここは・・私の家です。」
  オールグレン 「頼む・・・・酒を・・・・。」
  たかはだまって戸を閉めた。恐怖に怯えるオールグレンの叫び声が夜中中、響き渡っていた。

静かに夜が開ける。アルコールを断ち、正気を取り戻したオールグレンが軍服姿で家の外へ出てきた。家の外には年老いた侍が一人立っていた。

  オールグレン 「おはよう・・。」
  侍は寡黙だった。オールグレンが家を出る、その後を、着かず離れずその侍がついてくる。

里は穏やかだった。その先の広場で、氏尾を先頭に刀の訓練をしている。里の様子を見てまわったオールグレンが家の中へ土足で帰ってきた。その後を、たかが何も言わず拭き取っている。

  信忠(のぶただ) 「あちらです、あっち!」
  信忠が家の外へ導く。うしろから寡黙な侍が着いて来る。
  オールグレン 「名前は?名前はあるんだろう?・・・・通じないのか・・まて・・わかったぞ・・スカートをはかされて腹を立ててるんだな。」

「・・・・邪魔な奴だ・・。」

  勝元の菩提寺の本堂。読経が鳴り響いている。侍が無言でオールグレンを先導する。その先に勝元が手を合わせて般若心経を詠んでいた。
  勝元(かつもと) 「わしの先祖が千年前に建てた寺だ。」

「わしの名は勝元だ。お前は何と申す?」

040 オールグレンは一言も発しない。
  勝元(かつもと) 「英語が間違っているか?・・お前を相手に学ぼう。お前がよければ。」
  オールグレン 「そのために殺さずに?・・目的は?」
  勝元(かつもと) 「敵を知るため・・。」
  オールグレン 「敵に容赦ないのでは?」
  勝元(かつもと) 「国では敵を殺さんのか?」
  オールグレン 「敗者の首は、はねない。」
  勝元(かつもと) 「長谷川大将はわしに介錯を頼んだ。・・・敗れて生きるは侍の恥辱。名誉な役目だった。」

「異国のしきたりは奇妙に見える。互いにな・・。例えば・・・敵であれ、名を名乗らぬことは極めて無礼なこと。」

  オールグレン 「・・ネイサン・オールグレンだ。」
  勝元(かつもと) 「会えて光栄だ。英語の会話は楽しかった。」
050 立ち去ろうとする勝元をオールグレンが呼び止めた。
  オールグレン 「質問が・・・。」
  勝元(かつもと) 「わしが名乗り、お前も名乗った。・・いい会話だった。」
  オールグレン 「質問だ!」
  勝元(かつもと) 「後にしろ・・。」
  オールグレン 「あの赤い鎧の男は?」
  勝元(かつもと) 「義理の弟、広太郎(ひろたろう)だ。」
  オールグレン 「あの女性は?」
  勝元(かつもと) 「わしの妹で広太郎の妻。名前はたか。」
  オールグレン 「俺が夫を・・・・。」
060 勝元(かつもと) 「見事な最期だった。」
  勝元は去っていく。オールグレンは呆然とその場に立ち尽くしていた。

たかの家。靴を脱ぎ家に入る。そのオールグレンを、信忠が招き入れた。

  信忠(のぶただ) 「こちらへ。・・どうぞ。こちらへ・・こちらへ・・どうぞ。」
  部屋の中では食事の真っ最中だった。たかがオールグレンの分を用意する。
  オールグレン 「ありがとう・・。」
  信忠(のぶただ) 「どうぞ・・。」
  たか 「耐えられない・・この獣のような臭い・・。兄上に言ってください。」
  信忠(のぶただ) 「ご自分で言ったらどうです?」
  たか 「でも・・せめてお風呂くらい・・。」
  信忠(のぶただ) 「ふふ・・はっ・・・はは・・。」
070 オールグレンがふたりを見つめる。たかもにこっと愛想笑いを返した。

遠雷が鳴り響く里の夕暮れ。オールグレンと信忠が歩いている。目の前で子供達が木刀で遊んでいる。やがて雨が降り始めた。一人の子供の木刀が弾き落とされる。オールグレンは木刀を拾って立った。

  オールグレン 「上手いな。」
  信忠(のぶただ) 「小さいがなかなか筋がいい。・・あなたもどうです?さあ!」
  その時、声がした。後ろを振り返ると氏尾が立っていた。氏尾は木刀を構えてオールグレンに言った。
  氏尾(うじお) 「刀をおろせ。・・おろせ!!」
  雨が強く降り始め、雷も近くでなり始めた。嵐になりそうだった。オールグレンは氏尾と正面になるように向き直り、木刀を構えた。

それは一瞬だった。氏尾の木刀がオールグレンのわき腹を強打する。打たれたオールグレンは仰向けにひっくり返った。なおも構えようとするオールグレンに2度3度と木刀が打ち据えられ、降りしきる雨の中、オールグレンはボロ雑巾のように突っ伏した。

翌日、林道を歩くオールグレンと寡黙な侍。

  オールグレン 「そうだ、礼を言うのを忘れていた。昨日はよくぞ助けてくれた。俺の身を守ることがお前の務めだろ?・・礼を言う、ボブ。・・”ボブ”でいいだろ?」

「昔知ってたボブは醜い奴でね・・。女にモテるか?」

  菩提寺で待つ勝元。オールグレンの姿を見るなり言った。
  勝元(かつもと) 「氏尾が剣の指南をしたそうだな。」
  オールグレン 「・・たっぷりと・・。」
080 勝元(かつもと)  「先住民と戦ったのか?」
  オールグレン 「ああ・・。」
  勝元(かつもと)  「任務の内容は?」
  オールグレン 「なぜだ?」
  勝元(かつもと)  「学びたい。」
  オールグレン 「本を読め。」
  勝元(かつもと)  「会話する方が楽しい。」
  オールグレン 「なぜ?」
  勝元(かつもと) 「共に戦いを学ぶ者だからだ。・・どうだ?・・・・それで、お前は大将だったのか?」
  オールグレン 「いいや・・俺は・・・大尉だった。」
090 勝元(かつもと)  「低い位なのか?」
  オールグレン 「中間の位だ。」
  勝元(かつもと) 「大将は誰だ?」
  オールグレン 「・・・・・・・反乱の指揮でもしてろ。」
  勝元の問いをはぐらかし、立ち上がるオールグレンに勝元が問うた。
  勝元(かつもと) 「お前たちは会話が嫌いなのか?」
  オールグレン 「指揮官は当時、中佐で、カスターという奴だ。」
  勝元(かつもと) 「知っている。”大勢の戦士を殺した”と。」
  オールグレン 「そう・・大勢が死んだ。」
  勝元(かつもと) 「優れた指揮官だからだ。」
100 オールグレン  「それは違う、尊大で無謀な奴さ。一大隊で2000人のインディアンと戦い、全滅した。」
  勝元(かつもと) 「2000を相手にか?彼の軍勢は?」
  オールグレン 「211人・・。」
  勝元(かつもと) 「カスターが気に入った。」
  オールグレン 「自分の名声に酔いしれた汚い人殺しだぞ。・・部下はその犠牲者だ。」
  勝元(かつもと) 「だが栄えある死だ。」
  オールグレン 「では死ねばいいさ。」
  勝元(かつもと) 「それが運命(さだめ)ならば・・。」
  勝元はクルリと向きを変えて去っていく。その背中にオールグレンは叫んだ。
  オールグレン 「俺をどうする!」
110 勝元(かつもと)  「自分で考えろ。」
  オールグレン 「なぜだ?何のために”会話”を?・・・なぜここに置く!」
  勝元(かつもと) 「春が来れば雪も解け峠の道が開かれる。それまでここにいるのだ。・・・では、これで、大尉。」
  里に土砂降りの雨がふる。そして静かに時が流れていく。
  オールグレン(M) 「1876年、月も日も、もう分からない。不思議な人々との暮らしが続く。俺はしょせん捕らわれ人で、あたかも野良犬か招かれざる客のように見すごされている。皆、礼儀正しく笑顔を見せる。だが、その下には複雑な感情が隠されている。」

「驚かされる人々だ。朝、目覚めた時から自分の務めに全力で励む。そして常に自分に厳しい。”侍”とは”主君に仕える者”という意味で、反乱が天皇への”忠”だと勝元は信じていた。」

  侍たちに混じってオールグレンも剣術の稽古をしている。そこへ氏尾が近づいてくる。皆、神経をぴりぴりさせた。その様子を通りの道から眺める勝元。氏尾は勝元に小さくうなづき、オールグレンに指南をつける。
  氏尾(うじお) 「構えろ!始め!!」
  氏尾の木刀がオールグレンを打つ。しかし、以前のような叩きのめすという感じではなく、あくまでも指南の範囲での打ちこみだった。

たかの家。部屋に赤い兜と鎧が飾られている。戦いでオールグレンに敗れた夫、広太郎が着用していたものだった。その鎧をオールグレンはじっと見つめた。

部屋に戻ると、着物と帯が用意されていた。オールグレンは早速、見よう見真似で着物と袴を身につけた。

オールグレンが再び剣術の指南を受けている。しかし、侍には全く歯が立たなかった。信忠が思わず走り寄ってくる。

  信忠(のぶただ) 「失礼だが雑念が多い。」
  オールグレン 「雑念が多い?」
120 信忠(のぶただ)  「太刀の流れ、人々の目、相手の動きを気にしている。・・・心を”無”に。」
  オールグレン 「”無”か・・・。」
  夜、たかの家で夕食を食べている。オールグレンはじっとたかを見つめ、茶碗を差し出した。
  オールグレン 「・・あ・・りがとぅ・・お・・かわり?・・」
  信忠(のぶただ) 「はは・・・・たか、おい聞いたか!もっと食わしてやってくれ!さあ、喰え!遠慮するな、米はいくらでもある。」
  オールグレン 「もっとゆっくり・・これは?」
  信忠(のぶただ) 「箸。」
  オールグレン 「ハシ・・。」
  信忠(のぶただ) 「は・・はい、はい。箸。」
  オールグレンと信忠・・そして、小さな子供達は少しずつ気持ちを通わせていった。たかは動揺が隠せなかった。
130 オールグレン  「オールグレンだ。」
  信忠(のぶただ) 「あぁ・・・。」
  オールグレン 「オールグレン。」
  信忠(のぶただ) 「アル・・グレン?」

「信忠。・・孫二郎、飛源(ひげん)・・。」

  オールグレン 「ノブタダ・・マゴジロウ・・ヒゲン・・・・。」

「たか・・。」

  翌日。たかが勝元に訴えている。
  たか 「兄上。出て行ってもらってください。もう耐えられません。」
  勝元(かつもと) 「嫌か?」
  たか 「これ以上に辱めを受けるのなら、死なせてください。」
  勝元(かつもと) 「言うとおりに出来んか?・・・・・仇を討てば気が済むのか?」
140 たか  「・・・はい・・・。」
  勝元(かつもと) 「・・・・広太郎は戦で死んだ。運命だ。」
  たか 「わかってます・・・・。」
  勝元がじっとたかを見つめる。たかは、次の言葉を飲み込んだ。
  たか 「・・・・・・・すみません・・・。」
  勝元(かつもと) 「わしもな、たか。やつが何故ここにいるのかようわからんのだ。これもまた、何かのおぼし召しかもしれん・・・。」
  オールグレンの姿を見つけたたかは、小さく頭を下げるとその場を逃げるように立ち去った。
  オールグレン 「親切な女(かた)だ。」
  勝元(かつもと) 「わしの客人を預かることが光栄なのだ。」
  里に冬が来た。真っ白に野や山が雪化粧する。
150 オールグレン(M)  「1877年、冬。侍であることとは?定められた掟に全てを捧げることとは?心に静けさを求め、剣を究めることとは?」
  たかが荷物を持って、廊下を歩いている。その荷物をすっと手にとるオールグレン。
  たか 「い〜え、結構です・・。日本の男はこのような事はいたしません。」
  オールグレン 「日本人・・ではない・。」
  たかは囲炉裏の火をおこす。赤々と火が燃え上がり、たかの美しい顔を照らし出す。
  オールグレン 「許してくれ・・・。ゴ・・ゴメンナサイ・・。あなたのご主人・・広太郎を・・。」
  たか 「あの人は・・侍として本懐をとげました。・・・あなたも・・・あなたのすべき事をしただけです。・・・お気持ちだけは・・・。」
  オールグレン(M) 「1877年、春。一処(ひとところ)で暮らすのは17で故郷(くに)を出て以来だ。理解を超えるこの国・・・本来、教会とは無縁の人間で戦場での体験から”神の意志”に疑問を持った。だが、ここでは・・神聖なるものを感じる。それは不可解ではあるが、静かな”力”を感じるのだ。ここに来て、久しぶりに安眠も得た。」
  氏尾とオールグレンの太刀数を掛けながら侍たちが見ている。1番目は、氏尾がとった。2番目も氏尾だった。3番目、オールグレンは氏尾の太刀筋を読み取り、初めて氏尾に引き分けに持ち込んだ。

その夜、里は祭りだった。中央の舞台では狂言が演じられていた。演じているのは勝元である。皆、その舞台に集中している。

見張りの侍が突然、後ろから首を絞められ、骨を折られ殺された。黒い影が続々と里へ侵入していった。影は、屋根伝いに中央の舞台目指して進んでいく。オールグレンが屋根の黒い影に気付いた。

  オールグレン 「勝元!」
160 N  振り向いた勝元の脇を矢が過ぎる。それに続いて次々と矢が放たれた。集まっていた里人たちはパニックとなった。侍たちは自分の体を盾にして勝元を囲むように、屋敷の中へと誘導する。侍たちが次々と凶刃に倒れていく。

部屋の中へ逃げ込んだ勝元、オールグレン、たかたち。黒装束の忍びたちが彼らを襲う。勝元、オールグレンは剣を振りあげ、襲い来る忍びを討ち倒していった。

一夜明けた菩提寺の庭。勝元は桜を眺めていた。そこへオールグレンがやってくる。

  勝元(かつもと) 「完璧な桜は稀なものだ。たとえ、一生かけても探す価値は十分にある。」
  オールグレン 「黒幕は誰だ?」
  勝元(かつもと) 「夢を見た。それを読みたい。」

「”荒海(うみ)越えし、もののふ魂(ごころ)よ、汝(な)が虎眼(こがん)。」

  オールグレン 「黒幕は天皇か?・・・大村か?」
  勝元(かつもと) 「この命は、お上に捧げたも同然。」
  オールグレン 「では大村か。」
  勝元(かつもと) 「歌の結びの句が浮かばん。何か案はないか?」
  オールグレン 「歌人ではない。」
  勝元(かつもと) 「だが何かを書きつづっているとか。」
170 オールグレン  「ほかには?」
  勝元(かつもと) 「悪夢を見るのか?」
オールグレン   「兵士の常だ。」
  勝元(かつもと) 「恥じるところがあればな。」
  オールグレン 「お前に分かるとでも?」
  勝元(かつもと) 「あれを持て。」
  侍が勝元に命じられてその場を走り去った。
  勝元(かつもと) 「いろいろ見たのだろう?死を恐れず、むしろ時にはそれを望む。違うか?」
  オールグレン 「ああ。」
  勝元(かつもと) 「わしもだ。戦場を見た者は皆、そう思う。そのような時、わしは先祖の建てたこの寺に来る。そして思い出す。”人も桜も・・いつか散る”と。」

「吐息のひとつにも、一杯の茶にも一人の敵にも生命(いのち)がある。それが侍の生き様だ。」

180 オールグレン 「吐息にも生命(いのち)が・・・。」
  勝元(かつもと) 「それが・・・”武士道”だ。」

「お上が東京へ上(のぼ)るようにと。・・・・明日、発つ。」

  オールグレン 「そうか・・。」
  勝元(かつもと) 「よし。」
  その時、足音がし、侍が、皮袋に入ったノートを持ってきた。勝元はそれを受け取り、オールグレンに差し出した。
  勝元(かつもと) 「預かっていた。お前は・・・敵だったので・・。」
  勝元は去っていった。菩提寺での帰り道、オールグレンはたかが、山から流れ落ちる水で髪を洗っている所に出くわした。
  オールグレン 「・・シツレイ・・。」
  たか 「いえ・・もう終わりましたので・・。」
  オールグレン 「行きます・・・。」
190 たか 「はい・・。」
  通り過ぎようとするたかにオールグレンが優しく話し掛ける。
  オールグレン 「・・・忘れ・・マセン・・・。」
193 たかはオールグレンに深く頭を下げて去っていった。

翌朝、出立しようとするオールグレンに飛源が手習いで書いた紙を渡す。勝元を先頭に侍たちを乗せた馬が進んでいく。それを見送る人の中に、たかの姿はなかった。

gVへ続く

inserted by FC2 system