【劇場版】
真救世主伝説
北斗の拳
ラオウ伝 殉愛の章

ケンシロウ
北斗千八百年の歴史を有する恐るべき暗殺拳「北斗神拳」の伝承者。 核戦争後の暴力が支配する荒廃した世界で、ケンシロウは愛を取り戻し守るため、 常に戦いの中に身を置くことを宿命付けられていた。 そして、数々の強敵との熾烈(しれつ)な戦いと別離が、彼を真の救世主へと成長させていく。
ラオウ
望むものは天。 あまりの野望。 時代最強の男となり恐怖をもって、あらゆる富、権力をその掌中に収めることを欲した男。 「世紀末覇者」を名乗る。北斗三兄弟の長兄にして、 身につけた「剛」の北斗神拳を自らの野望を果たすために使う。 恐怖により覇道を推し進めた孤高の強人である。
レイナ
ラオウ軍の猛将・レイナ。 その剣技は世紀末を戦い抜いて来た屈強な兵士達を退けるほどで、 兄ソウガと共にラオウの覇道を支える。 彼女は戦い続けなければならなかった。その秘めた叶わぬ愛ゆえに。
トキ
北斗千八百年の中で最も華麗なる技を操る男。
拳法の天賦の才に恵まれ、またその心は清廉にして潔白。
北斗神拳を継ぐ資質をすべて備えながら、核戦争で体を蝕(むしば)まれてしまう。
しかし動乱の世はトキに安穏を許さなかった。
シュウ
己を犠牲にして人を救う「仁星」を宿星として持つ男。
ケンシロウの未来のために光を失った彼を、人は“盲目の闘将”と呼ぶ。
南斗の中で唯一脚を主武器として使う南斗白鷺拳の伝承者。
サウザー
将星─独裁の星を宿星として持つ男。
南斗六聖拳最強の南斗鳳凰拳の伝承者である。
乱世の統一支配をおし進める中、彼はその象徴たる聖帝十字陵を、
民衆の血と涙のもとに、建設しようとする
ストーリー 北斗神拳―――経絡秘孔を突き、内部からの破壊を極意とし、そのすさまじき破壊力ゆえ、千八百年に渡り一子相伝の掟が貫かれてきた拳法。

その伝承者ケンシロウ、そして、その兄、ラオウ、トキの三兄弟によって、北斗神拳は長き歴史上、最強の時代に突入しようとしていた。

しかし、時同じくして、世界は狂気の歴史を歩もうとしていた。大国は覇権の野望を抱き、また、民族、宗教の衝突が絶えず、争いの連鎖はついに世界を破滅へと導いた。大地は荒れ果て、海は枯れ、すべての生命体が絶滅したかに見えた。 ……だが、人類は死滅しなかった。

世界を包んだのは暴力!! 力こそすべて!!

弱きものに与えられるのは死のみ。生き地獄の中、人々はただ一心に祈った。救世主が現れることを……。

伝承者となったケンシロウは幾多の哀しみを背負い、それを強さに変えることで、 真に北斗神拳の伝承者としてふさわしき男に成長していた。 ケンシロウを助けたことで、核戦争による死の灰を浴びたトキは、 北斗神拳を医学として生かし、傷ついた人々の治療に残りの生を費やしていた。 いつしか恐怖の拳王と呼ばれるようになっていたラオウは、己の力で、 この混乱した世界の覇者として君臨すべく、殺戮(さつりく)の日々を過ごし、 そして今や覇業を成し遂げる日は、刻一刻と近づいていた。

天はこの乱世に最強の3人を生み出してしまった。 そして今まさに、兄弟達と世界とのストーリーの幕が上がる!

OP    
001 レイナ【OPナレ】 「天空に連なる七つの星のもと1800年の長きにわたり営々と受け継がれてきた北斗神拳。一拳(いっけん)に全エネルギーを集中し、肉体の経絡秘孔に衝撃を与え、内部からの破壊を極意とした一撃必殺の拳法。

凄まじき破壊力を持つ暗殺拳ゆえ門外不出を守るべく、伝承者はただ一人、一子相伝の掟を貫き続けてきた。だが先代リュウケンは男児に恵まれず、三人の子供を養子として迎えた」

  落陽の紅い太陽の光が固い石畳に落ちている。男が口から血を噴きだして吹っ飛ぶ。紅い光を受けて、男の顔が赤く染まった。

戦っているのは、まだ年若い少年だった。少年は拳をふるい、男たちを次々とうち倒していく。その戦いをじっと見つめる男たちがいた。

  サウザー 「ラオウ・・何を考えておる?小僧が強くなるのを望んでいるのか?それとも・・・邪魔になったか?・・・・ふん、小僧が負ければ生きてこの場から帰す事はできん。それが南斗十人組手の掟。北斗神拳のお前達とて例外ではないぞ」
  ラオウ 「わかっておる」
  サウザー 「ケンシロウの素質に惚れたか?」
  ラオウ 「サウザーよ、黙って見ておれ」
  サウザー 「・・・・、聞いたかシュウよ。面白いことになってきた」
  それまで黙々と戦っていたケンシロウが突然後ろを振り返りシュウを睨んだ。見つめていたサウザーとラオウがケンシロウの気に反応する。対戦相手が後ろからケンシロウに襲い掛かるが、相手は一撃のもと地面に沈んだ。

じっと睨みつけるケンシロウ。シュウがすっと立ち上がった。サウザーは意外そうにシュウに声をかける。

サウザー 「お前が相手をするというのか?」
010 シュウ 「私の放った気を受け止めた。応えねばなるまい」

「最後の十人目はこの私だ。かかって来い」

  ケンシロウはシュウに戦いを挑んでいくが、ケンシロウの拳は全く通用せず、シュウの拳によってあっという間に倒された。
  サウザー 「最後の相手が悪すぎたな」
  ラオウ 「仕方あるまい」
  力なく起き上がり、ケンシロウは『ありがとう、最後の相手があなたで良かった』とシュウに礼を述べた。

ケンシロウの口から漏れた言葉にシュウの心が動いた。

  サウザー 「他流の敗者がここから生きて出る事はかなわぬ。とどめをさせ」
  トキ 「待て!これよりこの私が相手だ」
  サウザー 「ほぅ、北斗の次男坊が現れたか。トキよ、歯向かえばお前も死ぬことになるぞ」
  トキ 「よかろう。できるものならな」
  シュウ 「この少年は殺させぬ」
020 サウザー 「南斗の掟にそむくつもりか?!」
  シュウ 「この少年は誰よりも強く、激しく光る可能性を秘めている」
  サウザー 「シュウ!たとえ貴様でも勝手な真似は許さんぞ!」
  シュウ 「ただで命をくれとは言わぬ・・替わりに・・」
  シュウは己の拳で顔を斬り付けた。鮮血がふきだしシュウの顔は血で染まり、飛び散る血は石畳を赤く染めていく。
  シュウ 「俺の光をくれてやる!・・・これで文句は無かろう」
  サウザー 「・・・・う・・うむぅ・・・・」
  シュウはケンシロウを抱きかかえると武道場を出てゆく。その後ろ姿を見送りながらサウザーは思った。
サウザー 『忘れておったわ。奴が仁星(じんせい)の男であることを。それにしてもシュウの心にひそんでいた仁星の宿星を目覚めさせるとは・・あの小僧・・・」
レイナ【ナレ】 「時が過ぎ、いずれも劣らぬ拳の使い手となったラオウ、トキ、ケンシロウの三兄弟により、北斗神拳1800年の歴史は最強の時代を迎えようとしていた。

だが、それは同時に悲劇の始まりでもあった。そして時代もまた幾度となくおごり高ぶり、多くの文明を葬り去って来た歴史を忘れ、再び戦争の時代に入ろうとしていた。

民族、宗教の衝突、大国の覇権への野望。止む事の無い人類の狂気は無限に連鎖し、ついに世界を破滅へと導いた。海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体が死滅したかに見えた。だが、人類は死滅してはいなかった。全ての文明は崩壊し、再び暴力が世界を支配した。

生き地獄の中で力無き者たちはただひたすら祈り念じた。救世主が現れることを。ただ、ひたすらに・・・・。そして、いずれは拳を交えることが避けられぬ運命の三人の男たちも、乱世にひときわ輝く北斗の星に導かれるように互いの道を踏み出していた。

伝承者となったケンシロウは、幾多の悲しみを背負いそれを強さに変える事で、真に北斗神拳の伝承者としてふさわしき男に成長していた。

死の灰を浴びたトキは、北斗神拳を医学として生かし傷ついた人々の治療に残りの生を費やしていた。

いつしか恐怖の拳王と呼ばれしラオウは、己の力でこの混乱した世界の覇者として君臨すべく殺戮の日々を過ごし、そして今や、覇業を成し遂げる日は刻一刻と近づいていた。

本編    
030 バットの村。荒廃したビルに隠れるように人々は生活をしている。
  バット 「ここでよくかくれんぼしたんだぜ・・へっ。昔とちっとも変わってねえや」
  リン 「どうして家を飛び出したの?」
  バット 「決まってんじゃねえか。こんなしけたとこいられっかよ」
  リン 「自分の故郷でしょ!」
  バット 「な・・何だよ・・」
  リン 「帰るところがあるだけで・・・幸せなんだよ・・」
  バット 「・・そっか・・・お前の村はもう・・・・あっ!!」
  石段の下に数人の死体を見つけた。
040 ケンシロウ 「ここで待っていろ」
  男が懇願しながら地面を這いずり回っている。剣を持ち、鎧兜を身にまとった騎士が男を追いつめていた。ケンシロウの姿を見つけると、マントをひるがえし、目標をケンシロウへと変えた。剣が空を切り裂きケンシロウを襲う。剣先がケンシロウの胸元を斬った。そこから見える胸の傷に鎧兜の騎士は動きを止めた。

ケンシロウの後方で、声がする。さっき逃げ出した男の頭をフライパンで殴りつけている。

  マーサ 「悪党はこいつさ。その人は私達をこいつらから助けてくれたんだ」
  その時、騎士が放った短剣が閃光を放って男の脳天を貫いた。男の手から手榴弾が転げ落ちた。騎士は馬にまたがると、どこへともなく駆け去っていった。
  マーサ 「バット!」
  バット 「・・って。ババア!とっくにくたばっちまってると思ったぜ」
  マーサ 「お前こそ今ごろノコノコ帰ってきやがって・・・」
  建物の中から飛び出してきた小さな子供たちはバットに向かって飛びついていった。
  バット 「!元気そうじゃねえか!おめえらもよ!」
     
050 崖の下に群がる冥王軍を見下ろすのは、巨馬にまたがったラオウと、それにつき従うソウガである。
  ソウガ 「冥王軍は我らに対する最後の反撃と覚悟を決め、あらんかぎりの兵を集めたようですな。所詮は見掛け倒しの張り子の虎」
  ラオウ 「それよりソウガよ。サウザーの動きは?」
  ソウガ 「今の所はなんら動きは・・」
  ラオウ 「油断ならぬぞ。あやつは己を聖帝などと称して虎視眈々と覇権をうかがっておる。いずれあやつの首をとらねば、我が覇業は危ういままよ」
  ソウガ 「承知。されど冥王軍を倒せば共に夢見た覇業は成ったも同然。この戦いのあなたの雄姿をこの眼に焼き付けておかねば、このソウガ一生の不覚。戦場で無くした右脚も泣こうというもの」
  ラオウ 「ふっ・・何をぬかす。そもそも冥王とは死者の王、あの世で王となるとほざくたわけ相手の戦だ。雄姿も糞も無いわ」

「よいか皆の者、敵を恐れ力萎える者は前に出でよ!この拳王がこの場で死を与えよう。ひとたび乱れ果てた大地に新しき秩序を生み出す者はこの、拳に込められたる力のみ!そしてその力を天は我に与えリ!大儀は我らの覇業にあり!」

  大地を揺るがすように拳王軍はときの声を上げる。その声と共に飛び出す一団がいた。
  ラオウ 「ん!・・見事だ、我が親衛隊を率いるレイナ!この崖をものともせぬとは。血がたぎるわ!黒王よ我らも行くぞ!」
     
060 バット  「はぁ〜・・よくこんなの食ってられるぜ」
  バットは言い捨てると、家の外へ出て行った。
  マーサ 「ほおっておくといいよ、さぁ、暖かいうちに食べておくれ」
  ケンシロウ 「ひとりでこの子たちの面倒を?」
  マーサ 「村の連中と協力してね」

「みんな親を殺されたり足手まといで捨てられた子なんだよ。今出て行ったあの馬鹿もね。わりを食うのはいつも子供たちさ。何が聖帝サウザーだい、自分の墓を建てるのは汚れ無き子供だとか言って馬車馬のように働かせやがって」

  リン 「そんな事のために子供狩りを?」
  マーサ 「お陰であんなハイエナどもがそこらじゅうにウヨウヨしてるよ。聖帝軍に子供を渡せば簡単に欲しいものが手に入るからね。今じゃ子供が一人も居ない町だって珍しくぁないさ。それもこれも全部あの悪魔のせい」
  ケンシロウ 「・・・・サウザー・・」
  リン 「ケン、知ってるの?」
  マーサ 「はぁ・・・おまけに南の方では拳王軍がまた戦を始めたらしくって、いつまでビクビクしながら暮らさなきゃいけないんだろうねえ」
070 家の外ではバットが、中の話を聞いていた。
  バット 「サウザーにラオウ・・何なんだあいつら・・くそ・・・」
  夜中、寝静まった頃を見計らって、家の外に出てきたケンシロウをバットが迎えた。
  バット 「頭にきてんのはあんただけじゃねえ」

「早くこいよ、おいてくぞ」

     
  冥王軍とラオウ軍との戦は続いている。
  ラオウ 「冥王よ抵抗は無駄だ」
  冥王はあくまでも抵抗をつづけようとする。レイナがラオウと冥王の間に割ってはいる。冥王の投げた槍がレイナを襲うが、ラオウが一瞬早く槍を掴んでへし折った。
  ラオウ 「レイナ、余計な手出しは無用だ」
  レイナ 「あなたこそ余計な事を!」
080 N  兜を取ったその下から美しい女の顔が現れた。
  レイナ 「冥王覚悟!」
  冥王めがけ、レイナが馬を駆る。その上を飛び越え、黒王にまたがったラオウが上空から拳を放った。
  ラオウ 「ふ・・冥王、お前の望みどおり死者の国へ行くがよい」
  ラオウの拳を受けた冥王は、体を爆発させて砕け散った。
  ラオウ 「レイナ、お前は兄ソウガと共に早々に帰城せよ」
  ソウガ 「ラオウ、レイナ、おまえ達の勇姿、しかとこの眼に焼き付けたぞ。惜しむらくは・・ここに・・・トキとケンシロウが居らぬこと・・あの二人がいれば、覇業はもっとたやすかったろうに・・・」
  ラオウの城。城のバルコニーから外を眺めながらレイナは兄ソウガに訴える。
  レイナ 「近ごろ兵の規律の緩みが目立ちます。覇業成就を目前にしてこのようなことでは・・」
  ソウガ 「ラオウは考えておる」
090 レイナ 「何を?」
  ソウガ 「心配するな、お前は信じておるのだろう、誰よりもラオウのことを」
  N【リョウ】 【せりふ】
「ソウガ様、手配整いましてございます」
  レイナ 「ん?」
  ソウガ 「うむ。・・・・・見れば判る」

「リョウ、早く皆を案内するがよい」

  N【リョウ】 【せりふ】
「かしこまりました」
  ソウガ 「兄なりの想いだ」
  レイナ 「兄さん・・?」
  城の広間では、宴がもようされている。正面の大きな椅子にラオウが座り、その周りを囲むように男たちが座って、料理を食べていた。
  ソウガ 「見事な戦勝を祝して、このソウガ、ご覧にいれたき趣向を用意しました」
100 ラオウ  「あやつらの欲は浅い。大欲なければ世は治まらぬ。人は得がたし覇業は遠しか・・・」

「ソウガ!祝いなど覇業成就の時でよい!首実験以外の趣向など無用だ!」

  ソウガ 「まあまあ、先ずはご覧下さいませ」
  合図と共に女が広間に入ってくる。透けるような衣服に身を包んだ美しい踊子である。
  ソウガ 「今宵は修羅の国よりまいった舞姫が、かの国の舞をご覧にいれます。修羅の国はこのソウガ、そして拳王様が生まれ育った国。拳王様には懐かしく心癒すものと存じます」
  ラオウ 「修羅の国か・・許す!舞、奏(かな)でよ!」
  異国の音楽と共に踊子の華麗なる舞が始まった。踊子は身軽に跳躍し舞い踊りながら次第にラオウに近づいていく。ラオウは目を閉じている。

踊子の両手にいつの間にか鋭い剣が握られていた。それを突き出し、一気にラオウめがけて襲いかかった。間一髪、レイナの繰り出した剣により、深々と胸を刺し抜かれ、踊子は絶命した。

  ラオウ 「ソウガ!何を企んだ!この俺の命を狙ったか!」
  ソウガ 「ご・・誤解だ!これは何かの手違い。この私が信じられませんか。ラオウ!いや、拳王様」
  ラオウ 「手違いなどであればなおさら許せん。覇業半ばにしてなんたる醜態」
  レイナ 「!・・待って!ラオウ!」
110 ラオウ 「その気の緩み、怠慢こそが覇業最大の敵!この罪は万死に価するわ!」
  ラオウがソウガの腹部に鋭い拳を放った。鈍い音と共に骨が砕けた。
  レイナ 「!!兄さん!」
  見ていた周りの者たちはラオウに対してより一層の恐怖と忠誠心を湧き上がらせたのだった。
  ソウガ 「ラオウ・・・覇業成就の雄姿、こ・・この眼で・・見たかった・・・・」
  ラオウ 「レイナよ。お前の働きに免じて、ソウガを弔うことは許そう。ただし、お前ひとりでだ」
  夜、湖の中ほどで、紅蓮の炎の中に眠るソウガの姿がある。その姿をレイナが一人で見つめている。そこへ、黒王にまたがったラオウが現れた。
  レイナ 「・・ラオウ・・」

「何を・・何をしに来たの。兄を弔うのは私ひとりだったはず。なぜ!刺客だと気づけなかったことは兄として死に価するほどの罪だったの?気の緩みを責めるならあなた自身を責めるべきよ。眠り込むように瞼を閉じて、刺客の刃をかわす事ができなかったあなた自身を!」

「なぜ答えないの!ラオウ!」

  ラオウ 「おまえ達が修羅の国から来てどれほどになる」
  レイナ 「話をそらさないで」

「あなたを・・あなたを信じて、兄と私はついて来た。修羅の国を故郷とするあなたなら、いつか修羅の国を救ってくれると信じて・・覇業なりし日まで待てとあなたは言った。その言葉を信じ兄はあなたに全てを捧げてきたのよ。戦いの中で兄が失い、捨てたものは片足だけじゃない。人としての道も、情も・・・なのに!」

120 ラオウ 「だから俺はここへ来た」
  レイナ 「あなたは一時の激情で兄を殺したとでも言うの!だからここへ来たとでも!」
  ラオウ 「刺すならこの左胸を刺せ。刺客が狙ったこの心臓を」

「覇業成るまでは誰もこの命を奪うことはできん。俺も全てを捨ててきたのだ」

「おまえ達と誓った。覇業のために」

  レイナの部屋。鏡の前でレイナは力なくつっぷしている。ドアがノックされる。
  レイナ 「開いているわ」
  N【リョウ】 【せりふ】
「あなたにお渡しするものがあります」
  レイナ 「これは?」
  N【リョウ】 【せりふ】
「ソウガ様から預かっていたものです。お読みになればあなたの苦しみも救われるかと」
  レイナ 「私の苦しみ?」
  N【リョウ】 【せりふ】
「今回の忠殺劇(ちゅうさつげき)はソウガ様が仕組まれたことでした。病魔に蝕まれ、余命いくばくもないことを知ったソウガ様は覇業成就まで添い遂げる事ができぬ替わりに、聖帝軍を倒す今、全軍の秩序を正すためにと一計を案じたのです。拳王様もソウガ様の意を汲み苦渋の決断でございました」
130 レイナ 「・・・兄さん・・・」
  N【リョウ】 【せりふ】
「お許しください・・ソウガ様を止める事も、事前にあなたに話すことも出来なかった」
  レイナ 「では私が殺した舞姫も・・・」
  N【リョウ】 【せりふ】
「了解しているはずです」

「最期にソウガ様は拳王様の覇業成就のために北斗三兄弟が揃われることを願っておられました」

  城の外、ラオウがひとりたたずんでいる。
  ラオウ 「黒王よ、俺は・・俺はまた友を失った・・・」
  ラオウのために、覇業成就のために兄ソウガの望んだ北斗三兄弟を探すため、レイナは荒野をひた走った。
     
  マーサ 「いつまた子供狩りがあるかもしれないってのに強情な子だねえ・・」
  リン 「水汲みくらい手伝わせてよ・・・それよりバットがあんなこと言ってごめんなさい」
140 マーサ 「・・ふ・・あの馬鹿・・余計なお荷物にならなきゃいいけど」

「あの子はね、あたしや子供らのことを思って村を出たんだよ」

  リン 「え・・・」
  マーサ 「年は上だし、体だって大きい。自分がいなくなれば食料を他の子に回せる。自分から口減らしになってくれたのさ。あの通り生意気で口は悪いけど、案外心の優しい子なんだよ・・・見捨てたりしないでおくれよ」
  リン 「バットは大切な友達だもの」
  マーサ 「出来の悪い子ほど可愛いってね・・・」
  二人が水汲み場で話している所へ、傷を負い疲れきったレイナを乗せた馬が現れた。
  リン 「トキの村・・トキならぜったい直してくれるわ」
  リンとレイナを乗せた車がトキの村へ向けて、荒野をひた走る。

トキの村。緑豊かなこの村では子供の笑い声が村中に響き渡っている。

ベッドに横たわるレイナの側でリンが軽い寝息を立てていた。

  レイナ 「・・・この子は・・・」
リン 「!・・良かった。気がついたんだね」
150 レイナ 「ここは・・どこ?」
  リン 「説明は後、だめだよまだ動いちゃ」
  リンはレイナをその場に残し、外へかけだして行く。レイナはベッドから降り、窓の外に広がる緑の大地に目を見張った。豊かな台地の恵みは人々の顔にも微笑みを与えていた。
  リン 「早く早く!もう、動いちゃ駄目って言ったのに。トキに怒られちゃうよ」
  レイナ 「・・・え・・」
  トキ 「久しぶりだな、レイナ」
  レイナ 「・・・・トキ・・!」
  トキ 「リン、レイナの体をしっかり押さえておいてくれ。・・・多少痛むぞ」
  高台に立つ大きな木の下にトキとレイナの姿がある。
  トキ 「ソウガが・・」
160 レイナ 「兄は、あなたたちが一緒に戦ってくれることを願っていました。トキ・・あなたの力を貸して欲しいの・・私は知っています。ラオウがこの世で最も心を許しているのは、あなただということを。あなたが傍に居てくれたら・・ラオウはどんなに心強いか」
  トキ 「私は既に拳の道を捨てた。もうおまえ達の力にはなれぬ身だ・・」
  レイナ 「一日も早い覇業成就のためにあなたが必要なの」
  トキ 「覇業か・・・それに何の意味がある?」
  レイナ 「意味?・・あなたはこの荒んだ世に平和を望まないの?」
  トキ 「力で覇を唱え、ひとたび平定したとしても所詮それは脆いものだ・・恐怖の支配では真の平和は望めない・・・」
  レイナ 「たとえ恐怖であっても、誰かがこの世を平定し秩序をもたらさなければ永遠に平和は訪れない」
  トキ 「それは・・・ラオウではないかもしれない」
  レイナ 「え・・?!」
  トキ 「恐怖などではなく人としての心を呼び覚まし、人々を平和へと導く者がいるとしたら・・その者こそが真の救世主・・・ゴホッ・・ゴホッ・」
170 レイナ 「・・・・あなた・・体が・・・」
  トキ 「いずれお前もわかるだろう・・・ラオウもきっとそのことを知っている」
  夜、かがり火を囲い、人々が踊り、あたりでは談笑している。傍らにレイナとリンが丸太に腰を下ろしている。
  レイナ 「わたしが生まれ育った場所は力が全てを支配し、人を殺める事だけを教えられ、それ以外に生きるすべを見いだせぬような所。それでもいつかこんな風に平和に暮らせる日が・・・」
  リン 「そのペンダント、素敵ね」
  レイナ 「これまで生き残ってこれたのも・・・変ね、あなたと居ると自分が多くの命を殺めて来た事すら忘れそうになる」
  リン 「ん?」
  レイナ 「後悔はしていない。それが私の選んだ道。だからこそもっと強くならないと」
  ペンダントを固く握りしめ、自分自身に強く言い聞かせるように目を閉じてた。

翌朝、レイナはトキの村を起つ準備をしている。

  リン 「レイナさん、本当に大丈夫なの?」
180 レイナ 「傷はもう癒えたから。これ以上のんびりはしていられないしね」

「・・・・トキ・・」

  トキ 「痛みが酷い時は、この薬を塗ればよい」
  レイナ 「ありがとう」

「いつかきっと、あなたが私たちの力になってくれると、信じているわ」

  トキ 「お前が選んだ道を止めはせぬ。それもまたお前の運命」
  レイナ 「・・・・うん・・」
  トキ 「だが、ひとつ教えておこう。今のラオウではサウザーには勝てん・・」
  レイナ 「・・え!」
  トキ 「奴には帝王の星とでも言うべき謎がある。その謎を解かぬ限りは・・いかにラオウとて・・」
  レイナ 「なぜあなたはその事をわたしに・・?」
  トキ 「お前はラオウを想うゆえに、愚かにも危険を顧みず一人で動いた。それはラオウへの愛」
190 レイナ 「・・!っは・・」
  トキ 「私は・・・その愛に応えただけだ」
     
  荒野を激走するトラックを追って、数十台のバイクに乗ったならず者たちが追走している。手に手にボウガンを持ち、執拗にトラックを狙ってくる。サウザー軍の子供狩り部隊だった。

男が投げたトマホークがトラックを運転していた男の背中に深々と突き立ち、運転手を失ったトラックは横転し、乗っていた母親と子供は車外へ放り出された。

その時、上空から無数の矢が飛来し、男たちを打ち抜いていった。次々と倒れる男たち。生き残った男たちが恐怖で目を丸くしている。反帝部隊、シュウ率いるレジスタンスが現れたのだった。

  N【ならず者】 【せりふ】
「同じ南斗六聖拳のひとりでありながら、聖帝サウザー様に逆らう裏切り者めが!返り討ちにしてやる!!」
  男は、逆に腕を切り飛ばされ、バラバラになって崩れ落ちた。
  ケンシロウ 「南斗聖拳・・」
  シュウ 「乱世に散り、己の星の宿命に生きる南斗六聖拳のひとり。人は私を盲目の闘将と呼ぶ」
  ケンシロウ 「お前も乱世に野望を賭ける男か?」
  シュウ 「南斗乱れる時、北斗現る」
200 ケンシロウ 「俺を倒そうという人間には全てこの拳で応えるのみ」
  シュウ 「ならば応えてもらおう」

「南斗白鷺拳(はくろけん)奥義、誘幻掌(ゆうげんしょう)

  ケンシロウ 「この構えは・・・気配が読めぬ・・」
  シュウ 「盲目ゆえ、私には貴様の拳に対する恐怖はない。恐怖は人の気配となり、敵に容易に間合いをつかませてしまう」
  背後からシュウの手がケンシロウを襲う。ケンシロウは両手で拝み取りをした。その手を振り解きざま、シュウの右足がケンシロウの胸を斬った。
  シュウ 「これぞ南斗六聖、白鷺拳(はくろけん)の真髄!列脚空舞(れっきゃくくうぶ)
  逆立ちの状態で、二本の脚を旋風のように回転させて、相手を襲う。ケンシロウは、蹴りを合わせシュウの脚を止めた。
  シュウ 「この拳をかわしたのは貴様が初めて。だが、どこまで逃げ延びられるかな・・」
  ケンシロウ 「お前たちは北斗神拳が何ゆえ一子相伝の最強の拳法かを知らない。それを教えてやろう」
  ケンシロウの手から気がほとばしり、地を翔けるとシュウの右の肩を切り裂いた。
210 シュウ 「これは・・・!貴様、南斗聖拳を!」
  ケンシロウ 「相手の拳を、己の分身と成す。北斗神拳奥義、水影心(すいえいしん)
  シュウ 「何!・・」
  ケンシロウ 「地面が裂ける音が眼の見えぬお前には恐怖であろう。もはや俺との間合いも掴めまい」
  ケンシロウの放った拳がシュウの顔面を捉え、シュウの体は遥か後方のコンクリートの壁に激突した。間髪を居れずケンシロウが拳を放つ。大音響とともに砂煙が舞った。
  シュウ 「甘いな・・・なぜ今の一撃で止めをささぬ」
  ケンシロウ 「ならば聞こう、なぜお前の技には殺気が無い?」
  シュウ 「さすがだ、ケンシロウ・・・・すまぬ、ただあなたの力が知りたかった」

「私は仁星のシュウ。待っていたぞケンシロウ、あなたが来るのを。聖帝を倒せる唯一の男、北斗神拳の伝承者を」

  ケンシロウ 「・・・はっ!・・・あなたは・・・」
  シュウ 「久しぶりだなケンシロウ」
220 ケンシロウ  「・・・・あの時、俺の命と引き替えにその眼を・・・」
  シュウ 「私は間違っていなかった。私が失った光よりも、あなたは強く激しく輝き始めた。気にすることは無い、眼が見えぬ代わりに心が開いた。これも仁星、未来への希望に生きる宿命」

後編へ続く

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