【劇場版】
真救世主伝説
北斗の拳
ラオウ伝 殉愛の章

ケンシロウ
北斗千八百年の歴史を有する恐るべき暗殺拳「北斗神拳」の伝承者。 核戦争後の暴力が支配する荒廃した世界で、ケンシロウは愛を取り戻し守るため、 常に戦いの中に身を置くことを宿命付けられていた。 そして、数々の強敵との熾烈(しれつ)な戦いと別離が、彼を真の救世主へと成長させていく。
ラオウ
望むものは天。 あまりの野望。 時代最強の男となり恐怖をもって、あらゆる富、権力をその掌中に収めることを欲した男。 「世紀末覇者」を名乗る。北斗三兄弟の長兄にして、 身につけた「剛」の北斗神拳を自らの野望を果たすために使う。 恐怖により覇道を推し進めた孤高の強人である。
レイナ
ラオウ軍の猛将・レイナ。 その剣技は世紀末を戦い抜いて来た屈強な兵士達を退けるほどで、 兄ソウガと共にラオウの覇道を支える。 彼女は戦い続けなければならなかった。その秘めた叶わぬ愛ゆえに。
トキ
北斗千八百年の中で最も華麗なる技を操る男。
拳法の天賦の才に恵まれ、またその心は清廉にして潔白。
北斗神拳を継ぐ資質をすべて備えながら、核戦争で体を蝕(むしば)まれてしまう。
しかし動乱の世はトキに安穏を許さなかった。
シュウ
己を犠牲にして人を救う「仁星」を宿星として持つ男。
ケンシロウの未来のために光を失った彼を、人は“盲目の闘将”と呼ぶ。
南斗の中で唯一脚を主武器として使う南斗白鷺拳の伝承者。
サウザー
将星─独裁の星を宿星として持つ男。
南斗六聖拳最強の南斗鳳凰拳の伝承者である。
乱世の統一支配をおし進める中、彼はその象徴たる聖帝十字陵を、
民衆の血と涙のもとに、建設しようとする
ストーリー 北斗神拳―――経絡秘孔を突き、内部からの破壊を極意とし、そのすさまじき破壊力ゆえ、千八百年に渡り一子相伝の掟が貫かれてきた拳法。

その伝承者ケンシロウ、そして、その兄、ラオウ、トキの三兄弟によって、北斗神拳は長き歴史上、最強の時代に突入しようとしていた。

しかし、時同じくして、世界は狂気の歴史を歩もうとしていた。大国は覇権の野望を抱き、また、民族、宗教の衝突が絶えず、争いの連鎖はついに世界を破滅へと導いた。大地は荒れ果て、海は枯れ、すべての生命体が絶滅したかに見えた。 ……だが、人類は死滅しなかった。

世界を包んだのは暴力!! 力こそすべて!!

弱きものに与えられるのは死のみ。生き地獄の中、人々はただ一心に祈った。救世主が現れることを……。

伝承者となったケンシロウは幾多の哀しみを背負い、それを強さに変えることで、 真に北斗神拳の伝承者としてふさわしき男に成長していた。 ケンシロウを助けたことで、核戦争による死の灰を浴びたトキは、 北斗神拳を医学として生かし、傷ついた人々の治療に残りの生を費やしていた。 いつしか恐怖の拳王と呼ばれるようになっていたラオウは、己の力で、 この混乱した世界の覇者として君臨すべく、殺戮(さつりく)の日々を過ごし、 そして今や覇業を成し遂げる日は、刻一刻と近づいていた。

天はこの乱世に最強の3人を生み出してしまった。 そして今まさに、兄弟達と世界とのストーリーの幕が上がる!

 

001 今は使われていない都市の下水溝の中にシュウたちレジスタントのアジトがあった。
  バット 「へぇ〜、こんな所をアジトに・・どぶネズミみてぇだなぁ」
  シュウが帰ってくるとたくさんの子供たちが周りを取り囲み、シュウの帰還を喜んだ。
  ケンシロウ 「・・・これが・・」
  シュウ 「そう、これが私の戦う理由だ。今より輝こうとする子供たちの光を奪い去ることは誰であろうと許さん」
  ケンシロウ 「・・シュウ・・」
  シュウ 「サウザーも私も同じ南斗六聖拳のひとつ。だが、サウザーの星は極星・・肉親も友も情けも無い。あるのは己ひとり。生れついての帝王の星なのだ」
  ケンシロウ 「帝王・・・」
シュウ 「奴の南斗鳳凰拳は北斗神拳同様、一子相伝。その強さは、我々他の五星の及ぶところではない。せめてゲリラになって抵抗するしかあの子たちを守るすべは無いのだ」
010 ひとりの子供がシュウに食事を持ってきた。バットが脇からそれを受け取ろうとする。
  バット 「うわぁ〜、やっと食いモンにありつける」
  シュウ 「お前は食べたのか?リョウ・・」
  リョウと呼ばれた子は一瞬戸惑うが、小さくはいと返事を返した。
  シュウ 「嘘をつくな。眼は見えねども私にはわかる・・・みんなで食べなさい。心配せんでいい」
  バット 「え・・あぁ・・」
  そこへ、ゲリラの仲間が大きな箱に入ったパンを担いで戻ってきた。
  N【ゲリラ】 【せりふ】
「おぅ!帰ったぞ!」

「みんなこれを見ろ!聖帝軍の小隊を襲ったら食糧が手に入ったぞ。さあ、食え。リョウ」

  バット 「やったぁ!今度こそ食えるぞォ」
  大喜びで子供たちはパンにかじりつく。ゲリラのひとりがシュウにパンを渡した。
020 シュウ 「ああ、ありがとう」
  ひと口、パンを口に入れたシュウは、はっとした。
  シュウ 「待て!食べてはいかん!毒が入っている!」
  パンを食べた子供たちは次々に血を吐き、苦しみながら死んでいった。
  シュウ 「すまぬ・・私が先に調べるべきだった・・」

「ケン・・・これがサウザーのやり方・・光を失ったこの眼でも涙だけは涸れぬ・・・・」

  バット 「許せねぇ!」
  シュウ 「サウザーを倒さぬ限りこの悲劇は永遠に繰り返される」
     
聖帝サウザーの行列が荒廃した街を進んでいく。道の両端には人々が土下座をし見送っている。露払いに進む男の手に持つ火炎放射器から出る炎の光が、不敵な笑みをたたえ玉座に座ったサウザーの顔を赤く照らし出している。

サウザー軍の行く手にケンシロウが仁王立ちし、行軍をさえぎった。

サウザー 「ほォ、でかくなったな小僧」
  ケンシロウ 「お前の大層な行進もここで終わりだ」
030 サウザー 「でかい口をきくようになったな・・小僧。どうやらラオウが惚れた素質が目覚めたようだな。だがこの俺を倒す事が出来るかな?」

「北斗神拳伝承者、聖帝十字陵の人柱に丁度よいわ」

  すっくと地面に降り立ったサウザーが両手を広げてケンシロウを迎える。
  サウザー 「小僧、かかってくるがいい」
  ケンシロウ 「なぜ構えぬ」
  サウザー 「南斗鳳凰拳に構えは無い。構えとは防御の型。我が拳にあるのはただ制圧前進のみ!」
  サウザーがケンシロウめがけて拳を振るう。皮一枚でよけたケンシロウの頬が切れ血が流れる。
  ケンシロウ 「何という早さ・・!」
  サウザーの繰り出す拳のスピードはケンシロウのそれを遥かに凌いでいた、サウザーの拳がケンシロウの胸を切り裂き血が吹きだす。
  サウザー 「俺の拳の前では貴様の動きなど止まって見えるわ」
040 ケンシロウ 「それはどうかな・・お前の拳は既に見切った」
  サウザー 「見切っただと?よかろう、ならば極星十字拳を受けてみろ」
  同時に踏み込むと互いの間合いに入り込み、一瞬早くケンシロウの拳がサウザーの体を激しく連打する。
  ケンシロウ 「秘孔の中でも最も破壊力を持つ人中極(じんちゅうきょく)突いた。サウザー、お前の命はあと三秒!」
  サウザー 「三秒?・・・ふ・・ひと〜つ、ふた〜つ!みぃ〜〜っつ!」
  ケンシロウ 「・・ん!」
  サウザー 「フフフフフ・・・」
  サウザーの不気味な笑みがケンシロウを捉える。その時、ケンシロウの胸が横一文字に斬れ大量の血がほとばしり出た。
  ケンシロウ 「!ぐぁぁ!!・・ば・・・馬鹿な・・」
  サウザー 「フハハハハハハ・・」
050 ケンシロウ 「ば・馬鹿な・・・確かに・・秘孔を突いたはず・・・」
  サウザー 「この体に北斗神拳は効かぬ!」

「俺は帝王。貴様らとは全てが違う。神は俺に不死身の肉体までも与えたのだ」

  サウザーの渾身の突きが放たれる。それを左手ではじき、再びケンシロウの拳がサウザーに炸裂する。砂煙を巻き上げながらサウザーも踏みとどまっている。
  サウザー 「フフフフフフ・・・拳の早さ、寸分狂わぬ秘孔への突き、さすがに伝承者だ。拳の勝負は貴様が勝った、だが、貴様はこの私が持つ帝王の定めに負けたのだ!」
  サウザーの拳の一撃を受け、ケンシロウは地面へうつ伏せにばったりと倒れた。

崖の上から、ケンシロウとサウザーの戦いを黒王の背中にまたがったラオウがじっと見つめている

  ラオウ 「サウザーの謎はケンシロウでも解き明かせぬか・・・だがソウガ、おまえの死は決して無駄にはせぬぞ」
  サウザー 「フフ・・フフハハハハハ・・・・」
  サウザーは高笑いを残し何事も無かったように立ち去った。
     
  サウザーの居城、その地下牢に、両腕を鎖に繋がれた格好でケンシロウが閉じ込められていた。大量の出血のせいで、ケンシロウの意識も途切れがちだった。

地下室へシュウの息子シバが忍んでやってきた。ケンシロウを救うために危険を冒してやってきたのだった。

060 ケンシロウ 「シバ・・・」
  ケンシロウを担いで荒野を歩くシバ。ケンシロウを支え歩くには少年にはあまりにも重く苦しいものだった。

岩場で休息するシバとケンシロウ。その耳に追っ手のバイクの音が響いてくる。このままでは逃げられないと、シバは囮になることをケンシロウに告げると、追っ手の前に飛び出し崖の裂け目に追っ手を導いた。

シバが右手に握っている起爆装置のボタンを押す。大音響とともに岩隗が吹っ飛び追っ手を飲み込み押しつぶしていった。

荒野にはシバの名を叫ぶケンシロウの声がこだましていた。

意識無く倒れているケンシロウの元に黒王に乗ったラオウが現れ、倒れたケンシロウを抱き上げた。

  ラオウ 「ここで死ぬのは許さぬ。お前を倒すのは我が拳をおいてのみ」
  砂塵を巻いて駆け去る黒王を見つめながらレイナは想った。
  レイナ 「ラオウ、やはりあなたはケンシロウを・・・」
     
  ベッドの上で目が覚め、むくっと体を起こすケンシロウ。バット、リンが心配そうに見つめている。
  バット 「あ・・ケン・・まだ起きちゃ駄目だよ」
  ケンシロウ 「ん?・・おまえ達がこれを?」
  バット 「いや・・・そばにでっけぇ蹄の跡があったから馬じゃねえか?」
070 ケンシロウ 「馬?・・」
  乱世の荒廃した街に夕闇が迫る。崩れかかったビル群を真っ赤に染めあげる夕陽を、その見えぬ眼で睨むようにシュウが立っている。そこへ、リンとバッドに支えられながらケンシロウがやってきた。
  ケンシロウ 「シュウ・・・」
  シュウ 「ん?・・・・まだ動いては・・・無理せず休んでいてください。」
  ケンシロウ 「すまぬシュウ・・俺には言葉が見つからぬ・・」
  シュウ 「誉めてやってください。私も今、自分の息子を誉めてやっていたところです。シバにも仁星の定めが流れていた。私はシバを誇りに思っているのです」
  ケンシロウ 「シュウ・・・」
  翌朝、ベッドに眠るケンシロウの元へシュウがやってきた。
  バット 「薬が効いたみたいでよく眠ってるよ」
  シュウ 「よかった・・明日には動けるようになるだろう」
080 突然、アジトが爆撃を受けた。あちこちで火の手が上がり、頑健な岩盤が砕け、人々の上に降り注いだ。
  N【ゲリラの男】 【せりふ】
「シュウ様大変です。聖帝の大部隊が攻めて来ました!」
  シュウ 「ついにここをかぎつけたか!」
  バット 「ケン!大変だ!起きろよ!」
  シュウ 「バット・・・頼みがある」
  シュウのアジトを大勢の聖帝軍が、蟻のはいでる隙間も無いほどにぎっしりと周りを固めていた。

その頃、シュウはケンシロウをいかだに乗せ、地下水路に立っていた。

  シュウ 「ケンが目覚めたら伝えてくれ。この拳に不幸な時代を生きる子供たちの悲願がかかっていることを・・・」

「ケン、ひと目だけでもお前の成長した顔を見たかった・・・たとえこの身は死すとも我ら親子は南斗の星となってお前を見守っている・・・さらば・・・」

  シュウが静かにいかだを押した。いかだは水の流れに乗ってゆっくり下流へと流れていく。
  バット 「シュウ、死ぬなよ!絶対死ぬんじゃねぇぞォ!」
  帝聖軍が子供たちを捕まえている。泣き叫ぶ子供たちにはお構いなく、乱暴に頭を捕まえ放り投げる。その時、遥か上空にシュウが舞い、大地に降り立ったかと思うと男の体は真っ二つに分かれ裂けた。
090 シュウ 「サウザー!」
  サウザー 「遂に出て来たか。どぶねずみの親玉が」
  シュウ 「たとえお前を倒せなくても阿修羅となって戦おう。この命、尽きるまで!」
  サウザー 「よかろう。南斗白鷺拳(はくろけん)の最後、見届けてやるわ」
  空高く舞い上がったシュウが上空から一気にサウザーの座っている玉座目がけて舞い降りる。
  シュウ 「サウザー!覚悟!」
  シュウの放った一撃は、サウザーの座っている玉座の背もたれを貫いていた。サウザーは何事も無いように不敵に笑っている。
  シュウ 「惜しいな・・」
  サウザーはシュウの手首を掴み、背もたれから引き抜いた。
  サウザー 「さぁ、もう一度突けぇ。俺は抵抗せぬ」
100 シュウ 「何・・!」
  サウザー 「だが貴様に・・・奴らの命を見捨てることが出来るかな?」
  シュウ 「ううぅ・・・!」
  サウザー 「この俺を倒すことが貴様の悲願。この俺を倒せる絶好のチャンスだぞ?」
  シュウ 「く・・くうぅ・・・」
  人質になった女、子供たちが口々にシュウの名前を呼び、サウザーを倒してと叫ぶ。
  サウザー 「己のために生きられね男に価値などない!」
  言いおわらぬうちにサウザーの放った拳がシュウの両脚を切り裂いた。地面に倒れ伏すシュウ。
  サウザー 「脚の腱を斬った。これで二度と白鷺拳(はくろけん)は使えまい」
  シュウ 「く・・・そ・・それしきの事、これで彼らが助かるのであらば・・・」
110 サウザー 「ふん・・奴らを皆殺しにしろ」
  シュウ 「待て!それでは約束が!約束が違ぁう!」
  サウザー 「俺は蟻の反逆も許さん。従わざる者、死、あるのみ。奴らを助けたくば、貴様の命をもらおう」

「仁星とは悲しい星だな、誰一人として助けることはできんのだ」

「貴様にふさわしい死にかたを用意してある。連れていけ!」

  両腕をとられ、ずるずると引きずられる盲目の闘将シュウ。
  シュウ 「ケンシロウ・・聞け・・!我が魂の叫びを・・!ケンシロウ!!!」
     
  地下水路にも聖帝軍の手は伸びていた。ケンシロウを追おうと、地下水路に入り込んだ子供たちが追っ手に見つかってしまったのだ。

水路の向こうから前進から蒸気をたぎらせながら近づいてくる人影があった。聖帝軍の男たちは恐怖で動くことができない。ケンシロウがシュウの魂の叫びに呼応するように目覚めたのだった。

  ケンシロウ 「シュウが・・・シュウが呼んでいる・・・」
  地上に現れたケンシロウ。その肉体は、頑強に数倍にふくれあがり筋肉の鎧と化している。そして、たむろする聖帝軍を瞬く間になぎ倒していった。

引っ張り出されたシュウをサウザーは玉座から見下ろしている。

  サウザー 「皮肉だなシュウ。この俺に反旗をひるがえして来た貴様の手で、この聖帝十字陵を完成させるのだ」
120 シュウの両腕に屈強な大人が三人がかりで運んできた聖帝十字陵のいただき、聖碑(せいひ)が無情にも置かれた。ぞの重量をひとりの体で支えるシュウの脚の傷から血がふきだした。
  サウザー 「さぁ!行け!南斗聖拳と極星の帝王サウザーの威を称える聖帝十字陵。その聖碑を積むのだ!」
     
  N【ラオウの部下】 【せりふ】
「拳王様、反帝部隊のシュウがサウザーに処刑されるようです。それを救出にケンシロウが単身で聖帝十字陵へ向かいました」
  ラオウ 「愚かな・・・サウザーの謎を解かねば今のケンシロウではあやつには勝てぬ・・ましてやたった一人で・・・」

「ぬ!・・・・・トキ・・。貴様どうやって・・」

  トキ 「我ら北斗の者には、いかなる城塞(じょうさい)も意味が無い」
  ラオウ 「俺に何用だ?」
  トキ 「ケンシロウに加勢を・・」
  ラオウ 「できぬ。倒す相手は同じなれどケンシロウと俺の道は交わらぬ運命。奴とて俺の助けは望むまい・・それにサウザーの謎がまだ解けてはおらぬ」
  トキ 「その謎ならば私が知っている」
130 ラオウ 「何!?ならばケンシロウもそれを・・・」
  トキ 「いや、ケンシロウはそれを拒んだ」
  ラオウ 「愚かな・・・何故に・・・」
  トキ 「ケンシロウは、あなたすら怖れた謎に挑むと・・・。ただ、あなたを越えるために」
  ラオウ 「フフフ・・俺を越えるるためにと・・」
  トキ 「北斗神拳伝承者となったケンシロウにとって、今もあなたは越えねばならぬ北斗の長兄なのだ」
  N【リョウ】 【せりふ】
「拳王様。レイナ様がケンシロウ救出のために親衛隊を率いて出陣されました」
  ラオウ 「全軍に告げよ!遂にサウザーと雌雄を決する時が来たと!」
  N【リョウ】 【せりふ】
「はは!」
  ラオウ 「よいか。これはケンシロウとレイナのためにあらず。これはシュウへの義理だ。シュウが処刑されるとあらばせめてこれを見届けてやろう。奴には南斗十人組手のおりの借りがある」
140 トキ 「借り?」
  ラオウ 「俺はあの時、この身を捨ててもケンシロウを救う気でいた。シュウには命の借りがある。今日こそ南斗の者どもを根絶やしにしてくれるわぁ!」
     
  聖帝軍との戦いは続いている。ケンシロウひとりに対し相手は数百人にのぼっている。
  バット 「こいつら、どれだけ倒してもうじ虫みたいに湧いて来やがる!」
  ケンシロウ 「バット、お前は逃げろ。俺は一人で行く」
  バット 「そうはいかねえよ!地獄まで付き合うぜ!」
  上空から無数の矢が飛来し、聖帝軍を打ち抜いて行く。ひるんだ聖帝軍の中へレイナ率いる親衛隊が突入した。右往左往する聖帝軍は次々と切り倒されていった。
  レイナ 「この馬で早く聖帝十字陵へ」
ケンシロウ 「お前はあの時の・・」
150 レイナ 「ここは私が引き受ける」
  進軍する拳王軍。
  ラオウ 「わからぬ。レイナはなぜケンシロウのために・・」
  トキ 「ケンシロウのためではない。あなたのためだ」
  ラオウ 「何?!」
  トキ 「レイナはケンシロウへのあなたの想いを見抜いたのだ・・あなたを愛するがゆえに」
     
  斬り倒した屍が累々と大地を覆い隠している。地平線の向こうからまた、新たな聖帝軍が現れた。
  レイナ 「どうやら聖帝軍の本隊が来たようね」
  N【部下】 【せりふ】
「隊長!あれを!」
160 部下の声にレイナが振りかえる。その眼に、高台に立つラオウの姿が飛び込んできた。
  レイナ 「ラオウ・・・よいか!拳王にわれら親衛隊の有能さをお見せするのだ!進めぇ!」
  レイナ率いる親衛隊は、遥かに数の多い聖帝軍へ突撃する。次々と聖帝軍を倒していく。

いつはてるとも無く続く戦闘のさなか、どこからか赤ん坊の泣き声が聞える。レイナははっとして泣き声のする方へ歩み出た。

  レイナ 「おォ・・よしよし」
  空から飛来した矢のうち数本が、無防備にさらしたレイナの背中へ突き立った。見る間に血で真っ赤に染まっていく。レイナに抱かれた赤ん坊は無邪気な笑顔を向けている。
  レイナ 「大丈夫・・」
  ラオウ 「レイナ・・愚かなことを・・」
  レイナ 「ラ・・・ラオウ・・・」
  崩れ落ちるレイナの体をラオウが抱きとめる。
  ラオウ 「!・・レイナ」
170 レイナ  「ラオウ・・・どうやら・・お別れね・・・」
  ラオウ 「これしきの矢で何を・・」
  レイナ 「でも後悔は無い・・子供なら未来がある・・我らが祖国、修羅の国の子供らにも」
  ラオウ 「うう・・・」
  レイナ 「約束のお守り・・私はいつまでも・・いつまでもあなたのそばに・・・」
  N レイナはラオウにペンダントを握らせると、がくりと首をおった。ラオウは怒りに全身を震わせ、激情して叫んだ。
  ラオウ 「ううぅ・・・・・あやつら一兵たりとも生かして残すなぁ!!」
  N 逃げ惑う聖帝軍を根こそぎ倒していく。拳王軍の凄まじい殺戮が始まった。
     
  N 聖帝十字陵のいただきへと遥かに続く長い石段を、シュウが巨大な聖碑を一人で背負い頂上めがけて担ぎ上げている。人質にされている子供や女性達は、泣きながらそれを見せつけられていた。

一歩一歩、階段を登る度に、サウザーに切り裂かれた脚から血が吹きだしている。

180 サウザー 「シュウ、その聖碑は十字陵の頂き。地に付けてはならん。もし地に落とせば、人質の命は無い!」
  シュウ 「ぐ・・ぐぅぅ・・・・・心配するな、この岩をおまえ達の命と思えば重くは無い。たとえこの命尽きようとも、この私の魂で支えてみよう」
  N 太陽が地平線に傾き、赤銅色の陽が悲しげにシュウの姿を照らし出している。
  サウザー 「どうしたシュウ。そこで力尽きても人質に情けはかけぬぞ」
  シュウ 「・・・・・か・・・感じる・・・来る、ケンシロウが・・」
  N 天も、波瀾を予感したのだろうか、さっきまで雲一つ無かった空に暗雲が垂れ込め、蒼白い稲妻を放ちはじめた。
  サウザー 「来たか・・」
  ケンシロウ 「シュウ・・今行くぞ」
  サウザー 「小僧!貴様がシュウに手を出せば人質の餓鬼どもは皆殺しだ」
  シュウ 「ケンシロウ!私はこの碑を積まねばならね!この石は人質の命、そして南斗の乱れを防げなかった私の痛みだ!」
190 N シュウは聖帝十字陵の頂きに聖碑を担ぎ立った。
  サウザー 「シュウよ、お前の南斗の血が漆喰(しっくい)となってこそ十字陵は完全な物となるのだ」
  シュウ 「・・・いいだろう!サウザー!だが、この聖帝十字陵はいずれ崩れ去る。北斗神拳の伝承者の手によって。それが南斗の宿命!南斗は天帝への星として輝かぬ!」
  N 頂きのシュウめがけて無数の矢が飛び、その体に次々と突き刺さる。
  サウザー 「フフフフフ・・・」
  ケンシロウはシュウを目指して十字陵の石段を駆け上がっていく。
  シュウ 「・・・・ケンシロウ・・・どうやらわたしの命は・・・ここまで・・」
  サウザー 「フフフフフ・・・・とどめだ!!」
  サウザーは大きな銛(もり)を構えると、シュウめがけて渾身の力で投げつけた。銛は風を切り石段を駆け上がるケンシロウの脇を抜けてシュウの胸から背中を刺し貫いた。
  ケンシロウ 「シュウ!!」
200 シュウ 「グハッ!・・ケ・・ンシロウ・・・見・・・える・・・見えるぞ。お前の顔が・・・」
  ケンシロウ 「シュウ・・」
  シュウ 「神が最期にひとつだけ願いを叶えてくれた・・私の・・仁星の血は間違っていなかった・・・もはや悔いは無い!ゆけケンシロウ・・!・・時代をひらけ・・私は・・・いつも・・お前を見ている・・さらばだ・・・・」
  シュウの支えていた力が抜け、聖碑の重みで十字陵の頂きに沈み込んでいった。ケンシロウが、心が張り裂けんばかりの声でシュウの名を呼んだ。ケンシロウの頬に涙が伝う。
  ケンシロウ 「俺の中で生きよ。仁星のシュウ」

「サウザー!貴様の髪の毛一本すらこの世には残さん!」

  サウザー 「その遠吠えが貴様の最期の遺言となる」

「人質など要らん。いまこそ南斗と北斗の決着をつける時だ」

  ケンシロウ 「この石段はシュウの悲しみ、一歩一歩噛み締めて上がってくるがいい」
  ラオウ 「この勝負、邪魔立てするものは、この北斗の長兄と次兄が許さん!」

「サウザー!貴様の野望もここまでだ!」

  サウザー 「ふん、丁度いい。三人まとめて聖帝十字陵の土台にしてやる。ケンシロウ、貴様は神が与えたこの聖帝サウザーの肉体の前に敗れ去るのだ」

「滅びるがいい、北斗神拳!」

  サウザーがケンシロウへ矢継ぎ早に拳を繰り出す。ケンシロウはバック転し、その脚でサウザーを蹴り上げる。
210 サウザー  「フフフ・・・貴様、シュウの南斗白鷺拳を」
  ケンシロウ 「せめてひと傷、お前の体にシュウの拳を浴びせたかった!だが、お前を倒すのはあくまで乱世の拳、北斗神拳!」
  サウザー 「フフフフハハハハハ!愚かな奴よ!北斗神拳は、この聖帝には通じん!さあ、突いて来いケンシロウ!突けぇ!!」
  N ケンシロウが目にもとまらぬ速さでサウザーに蹴りを入れる。
  サウザー 「フフフ・・・貴様の拳では血を流すことはできても、この帝王の定めを断ち切る事は出来ぬのだ」

「遊びはこれまでだ。ケンシロウ!」

  N サウザーが大きく飛翔し、ケンシロウめがけて飛び込んでいく。ケンシロウは両手を突き出しサウザーの両胸を突き刺した。
  サウザー 「フフフフ・・ハハハハハ・・・効かぬな・・・」
  N サウザーの強靭な筋肉はケンシロウの両手を捕らえて放さない。ケンシロウはそのまま両腕をサウザーもろとも高だかと上げた。その時、サウザーの心臓の鼓動を感じた。
  ケンシロウ 「はっ!これは・・」
  サウザー 「無駄だ死ね!ケンシロウ!!」
220 N ケンシロウはもんどりうって石段を数十段滑り落ちていく。
  サウザー 「フハハハハハ!!・・・・ぬ!」

「往生際の悪いやつめ、兄たちより先に墓に入れ!・・・・・ぐぁ!!・・・も・・もしや・・秘孔を・・」

  ケンシロウ 「お前の鼓動と血の流れが俺に謎を解かせた!」
  サウザー 「ふっ・・何を戯言(ざれごと)を・・・くっ・・か・・・!!ううおあぁぁ・・・!!!」
  ケンシロウ 「心臓の位置も逆、秘孔の位置も表裏逆、それがお前の謎。知ってしまえば他愛も無いことだ」
  サウザー 「ふっ・・・さすがは北斗神拳伝承者、良くぞ見破った。だがそれだけで俺の謎を掴んだことにはならぬ」

「南斗鳳凰拳奥義!天翔十字鳳(てんしょうじゅうじほう)」

  ケンシロウ 「南斗鳳凰拳に構えが!」
  サウザー 「帝王の拳、南斗鳳凰拳に構えは無い!敵は全て下郎!だが!対等の敵が現れた時、虚を捨て立ち向かわなければならん!帝王の誇りを賭けた不敗の拳で!」
  ケンシロウ 「ならばその礼に応えてやろう」
  ラオウ 「これは・・北斗神拳秘奥義、天破(てんは)の構え!」
230 トキ 「互いに拳の秘奥義を出した。後は二人の能力が勝敗を分けるのみ」
  ラオウ 「ふふふ・・・天も興奮しておるわ」
  サウザー 「ゆくぞ、ケンシロウ!天空に極星は二つは要らん!」
  N サウザーが飛び込むとケンシロウの肩がざっくりと裂けた。
  サウザー 「天空を舞う羽!何人にも砕くことは出来ん!」

「北斗神拳1800年の歴史もここで幕を下ろす!極星はひとつ!天に輝く天帝は南十字星、この帝聖サウザーの将星なのだ・・とどめだケンシロウ!」

  ケンシロウ 「北斗神拳奥義!天破活殺(てんはかっさつ)!!」
  N 飛び込んでくるサウザーが後方へはじき飛ばされ、背中に七つの傷が開き血が吹き出した。
  ケンシロウ 「天破活殺の奥義は触れずして闘気を持って秘孔を突くことにある。・・・将星落ちるべし!」
  サウザー 「・・・うぅ!・・たとえ我が秘孔が表裏逆といえど正確な秘孔の位置はわかるまい」
  ケンシロウ 「鎧は既に剥がれている」
240 サウザー 「・・こ・・これは!」
  ラオウ 「秘孔が露わに・・」
  サウザー 「俺は・・南斗聖拳最強の男・・・この俺を倒すことは出来ぬ!」

「羽を持つ南斗鳳凰拳に致命の拳を突き入れることはできん」

  N 飛びたとうとしたサウザーの脚が、地面にピタリと張り付き、全く動かなかった。
  サウザー 「・・あ・・・脚が・・・!!」
  ケンシロウ 「鳳凰は既に飛ばず。お前は翼をもがれたのだ」
  サウザー 「例え・・翼をもがれようとも・・・俺は聖帝サウザー・・南斗六星の帝王!・・」

「退かぬ!媚びぬ!省(かえり)みぬ!帝王は逃げはせめ!」

  N サウザーは両腕で地面を蹴り上げ、上空へ舞った。ケンシロウの拳の連打がサウザーの体を捕らえる。
  トキ 「・・あれは・・北斗有情猛翔破(ほくとうじょうもうしょうは)・・」
  ラオウ 「あやつ、お前の技を!」
250 N サウザーがケンシロウにがっくりと倒れこむ。
  サウザー 「ううぅ・・貴様・・苦痛を生まぬ有情拳(うじょうけん)を・・・・この俺の死さえ苦しみを与えず情けで送るというのか・・今こそ知った、あの日シュウが救い・・託した想いが・・・うぅ・・だが・・情けなど無用だ!俺は聖帝サウザー!北斗神拳では死なぬ!」
  N サウザーは自分の右手を胸に深々と突きたてた。
  サウザー 「・・愛ゆえに人は苦しむ・・だから俺は非情の仮面を・・だが、貴様はその苦しみも越えていくだろう・・」

「ケンシロウ・・・・最期の相手が貴様で・・・よか・・った・・・」

254 N サウザーはそのまま眠るように息を引き取った。

ケンシロウがゆっくりと十字陵を降りていく。天を突くほどに高く積み上げられた十字陵だったが、シュウを飲み込んだ聖碑の部分が、ぐらりと傾き、大きな音をあげながら崩れ落ちていった。

 劇  終 

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