ベルサイユのばら

革命への道 編 @

33話 たそがれに弔鐘は鳴る
34話 今”テニス・コートの誓い”
35話 オスカル、今、巣離れの時
36話 合言葉は”サヨナラ”


オスカル アンドレ
マリー・アントワネット フェルゼン
革命への道 編 Aへ続く
OP挿入曲 薔薇は美しく散る
001 パリ。吟遊詩人は謳う。
何でセーヌは濁っちまったんだろう。花のパリはどこへ行っちまったんだ。一欠片のパンのために誰もが目の色を変える。花を謳い、恋を語ったあのセーヌはどこへ流れていくんだ。

1788年、冬、国政の混乱と王室の財政危機による度重なる新税の布告でフランス民衆の不満とその貧困はもはや限界に達していた。しかし、それでもなお、ベルサイユはその権威を保とうとしていた。

ベルサイユ宮
財政窮乏を打開するための会議が開かれている。高等法院の判事が発言している。
  N【判事】 【せりふ】
「もしどうしても新しい税を増やし、4億2千万リーブルの借金を強行なさりたいと思し召すならば、三部会をお開きください。第一身分の僧侶、第二身分の貴族だけでなく、新しく第三身分の平民までも含めたすべての身分の代表を集めた三部会を。陛下、それ以外に借財で膨れ上がった王室の財政危機を乗り切る手だてはありませんぞ。それならば全貴族、全僧侶そして全国民がこの度の新税を納得する可能性があります。国王としてのご決断を」
  国王は自分の意見を言うことができない。
  N【判事】 【せりふ】
「なりませんぞ、陛下。それでなくてもこのところ平民は思い上がりのさばってきております。これ以上国王陛下の権威を揺るがすことはなりません」

「200年もの長い間途絶えていた三部会を今こそ再開されるべきです」

  オルレアン公はにやりと笑うと拍手をした。それを合図に列席していた他の貴族達も拍手をする。三部会の召集が決定した。
こうしてフランス大革命の前奏曲は国民の人気を自分たちに向けることで、国王に変わってフランスを支配しようとした、一部の貴族達の造反によって始まった。

パリの街角で集会が開かれている。ベルナールが力強く演説をしている。聴衆の中にアンドレもいる。
  ベルナール 「古い体制は今まさに崩れ去らんとしている。第一身分、第二身分、第三身分という身分の差別はなくなる」
  アンドレ 「ベルナール・・・」
  ベルナール 「我々みんなが平等に暮らせる日がくるんだ。人間は生まれながらにして平等なんだ」
  聴衆はベルナールの演説を熱心に聞いている。
集会が終わり、帰宅途中のベルナールをアンドレが呼び止めた。
010 アンドレ 「ベルナール!おい、ベルナール」
  ベルナール 「アンドレ、アンドレじゃないか」
  アンドレ 「今の君の演説を聞いたよ、素晴らしかった」
  ベルナール 「いやあ、ははは・・そうだ、君に会わせたい人がいる。俺のうちへ来てくれ。すぐ近くなんだ」
  ベルナールの家には意外な人物がいた。
  ロザリー 「まあ、アンドレ。いらっしゃい」
  アンドレ 「ロザリー」
  ロザリー 「本当にお久しぶりでした」
  アンドレ 「久しぶりなんてもんじゃない。どうしていたんだ、いったい・・連絡も全然なしでとにかく・・とにかく・・ベルナールとどうしてここに?どうなっているんだ?あ、ああ・・二人は結婚したのか」
  ロザリーの肩にベルナールは腕をまわす。二人のくつろいだ様子から、アンドレは事情を理解した。
020 ロザリー 「あの黒い騎士事件のあと、しばらくして・・」
  アンドレ 「そうか、そうだったのか・・おめでとう」
  ロザリー 「あの・・オスカル様はお元気ですか?」
  アンドレ 「ああ、元気だよ。あれから近衛から衛兵隊へ移ったけど、相変わらずばんばんがんばってるよ」
  ロザリーの大きな瞳にみるみる涙が溢れた。
  アンドレ 「安心をし、ロザリー。誰もあの頃と変わっちゃいない。誰も何も・・」
自分自身に言い聞かせるようにアンドレは言った。
街頭では三部会の開催を要求する市民のデモが通り過ぎていく。
  アンドレ 「そうさ、まだ誰も何も変わっちゃいない。変わるのはこれからだ」
  ロザリー 「アンドレ、どうかゆっくりしていって下さいね。あたしはこれから仕事があるので出てしまいますけど」
  アンドレ 「ああ、そうさせてもらうよ。ありがとう、ロザリー」
030 ロザリー 「本当にオスカル様によろしく」
  アンドレ 「うん、今度必ず、みんなで会おう」
  ロザリーは出かけていった。
  ベルナール 「ロザリーは今、私と一緒にロベスピエール先生の組織で働いている。今度の集会で使う、ビラやポスターを作りに行ったところだ」
  アンドレ 「幸せそうだな、君たちは・・本当に」
  ベルナール 「アンドレ、君も俺達と一緒にやらないか。俺は君が貴族の馬丁ごときで満足している男とは思えん」
  アンドレ 「美味しいコーヒーだ。慎ましく、愛のこもった味がする」
  ベルナール 「では、なぜ私の演説を聞いた?なぜさっきの集会に顔をだしていたんだ?」
  アンドレ 「たまたま非番でね、時間があったからさ。それだけだ」
  1789年1月ルイ16世は来る5月1日にベルサイユで、三部会を召集し開会することを布告した。三部会を開くことは国王の独裁権力に制限を加えることになるのであるがもはや時代のすう勢はルイ16世にも止めようがなかったのである。

ムードン城。それは病弱な第一王子ルイ・ジョゼフのために王妃たちが移り住んだムードンにある古い城であった。

騎馬でオスカルはムードン城に到着した。
040 オスカル 「オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ准将、アントワネット様からの火急のお呼び出しにより参上。お取り次ぎを」
  知らせを受けたアントワネットが城の奥から走り出てきた。
  オスカル 「アントワネット様」
  マリーアントワネット 「オスカル・・よく来てくれました。、オスカル、ジョゼフがしきりにあなたに会いたがっています」
  オスカル 「王太子様が?」
  マリーアントワネット 「あと半年もつかどうか。背骨がでこぼこになって、肋骨まで曲がってしまって、もう、カリエスの末期の症状が出てきているんです。まだ七つになったばかりだというのに・・・」
  オスカルはアントワネットを慰める言葉を知らずに、目を伏せた。
王太子の病室から、幼い少年のわめく声が聞こえる。アントワネットとオスカルは王太子の寝台へ近づいた。
  マリーアントワネット 「ジョゼフ」
  オスカル 「王太子殿下」
  ジョゼフ(7歳) 「あ・・オスカル」
050 小間使いの抑制に暴れていた王太子はオスカルの顔を見ておとなしくなった。
  オスカル 「お久しゅうございます。ご無沙汰をしておりました」
  ジョゼフ(7歳) 「オスカル、オスカル」
  オスカル 「はい、殿下」
  ジョゼフ(7歳) 「お願い、僕を、僕を表へ連れてって。お馬に乗せてください」
  オスカル 「殿下」
  ジョゼフ(7歳) 「僕、乗りたいんだ、馬に、オスカルと一緒に」
  王太子の希望にオスカルがどうしていいのかわからないでいると、アントワネットが言った。
  マリーアントワネット 「かまいません、オスカル、どうか・・どうかこの子の願いを叶えてあげて」
  オスカル 「はい」
060 オスカルは王太子を馬に乗せて、草原を駆ける。風は冷たいが、天気のいい日だった。陽の光は柔らかくふりそそぎ、久しぶりに外の空気を吸った王子ははしゃいだ声で笑っていた。
  ジョゼフ(7歳) 「あははは、ギャロップ、ギャロップ」
  オスカル 「そんなに馬を急かせてはいけません」
  ジョゼフ(7歳) 「ああ・・いつまでも、いつまでもこうしていたい・・・」
  王子はオスカルの腕にもたれた。

オスカルは泉のほとりに馬を停めると、木立の根元に王太子を横たえた。泉の水にハンカチをひたして、少年の額にのせる。オスカルが心配そうに王太子の顔をのぞきこんだ。

  オスカル 「大丈夫でございますか、殿下・・そろそろお戻りになった方がよろしいかと・・」
  少年は瞳を開けると、オスカルを見上げた。
  ジョゼフ(7歳) 「いよいよ三部会が開かれるそうですね」
  オスカル 「はい」
  ジョゼフ(7歳) 「僕もベルサイユ宮へ帰ります。きっと我がフランスの歴史に残る日になるでしょうから。やがて・・僕が治めるはずのフランスの・・・」
070 オスカル 「そうです、やがて殿下がルイ17世となられて・・」
  そんな日が来ることがないことは、オスカルにはよくわかっていた。
オスカルの優しい嘘を聞いていた、王太子の瞳に涙が溢れた。少年の瞳がきれいな水で濡れるのを見て、オスカルは言葉をつまらせる。王太子は身を起こすと、オスカルの頬に唇を寄せた。
  ジョゼフ(7歳) 「あなたが好き。今度生まれてきたら、きっと病気なんかしないで、元気で大きくなって、立派な青年になって・・だから、その時まで待って・・・」
  礼拝堂ではアントワネットが神前にひざまづき祈りを捧げている。
  マリーアントワネット 「神様、どうかルイ・ジョゼフの命を一月、いえ一週間でも一日でも長らえさせてくださいますよう。どうか、どうかお願い致します。」
  言葉をかけようとしたフェルゼンは、近づいてくる足音に立ち止まった。それはルイ16世だった。
国王は王妃の傍らへと立つと一緒に祈りを捧げる。
その様子を見届けると、フェルゼンはそっと、その場を立ち去った。

司令官室。
オスカルは窓辺で雨を見ている。

  アンドレ 「オスカル、フェルゼン伯がスエーデンに帰国したそうだ。おまえによろしくとの伝言が陸軍から届いていた」
  返事をしないオスカルに、アンドレが訝しげに問いかける。
  アンドレ 「オスカル?」
  オスカル 「アンドレ、明日から三部会警備の特別訓練に入る。みんなに伝えておいてくれ」
080 アンドレ 「わかった・・」
  1789年5月4日。翌日に控えた三部会開会式に先立ち、ベルサイユのサン・ルイ教会ですべての議員を集め荘厳なミサがあげられることになった。教会へ向かう議員たちの行列を守るのは、フランス第一連隊であるフランス衛兵隊、そしてスイス近衛連隊であった。
オスカルは宮殿を見上げる。
  オスカル 「ご覧になっておられるはずだ。あのベルサイユ宮のどこかの窓からこの日のためにムードンから戻られた」
  王太子もまた、窓からオスカルの姿を探していた。
  ジョゼフ(7歳) 「あの辺りかしら、オスカルは・・フランス衛兵の帽子が光っている」
オスカルは自分の頬に触れた少年の柔らかな唇を思い出した。
そこへアンドレが報告する。
  アンドレ 「全員配置につきました。後は命令を待つだけです」
  オスカル 「ふふ・・アンドレ、私は王妃になりそこなった」
  アンドレ 「え?」
  王太子の傍らにはアントワネットと第二王子が寄り添っていた。
090 マリーアントワネット 「では、ジョゼフ、行ってきますね」
  ジョゼフ(7歳) 「ルイ・シャルル、行っておいで。そして、しっかりと見てくるんだよ。僕のかわりだ。もしかしたら今度は君がフランス王太子になるのだから」
  自分の運命を悟り、静かに受け止めている我が子に、アントワネットは涙を止めることができなかった。

沿道を埋め尽くした群衆の中を、サン・ルイ教会に向かって三部会の議員団が進んでいく。先頭は黒ずくめの第三身分の議員、621名。後に続く貴族議員の煌びやかさが、かえって白々しく人々の目に映った。

行進する議員の一人が、警備の指揮をとるオスカルを見た。オスカルもまた、彼の視線を受けとめる。
アルトア州代表、マクシミリアン・ド・ロベスピエール。この時31歳、フランスの未来の支配者であった。平民議員621名、しかしその中には貴族でありながら平民の支持を受けて、平民議員として当選した者もいる。もはや時代は貴族であることの特権など何の意味も持たなくなっていたのである。まして王室のための軍隊など・・。

王太子の様子が急変する。
そして翌1789年5月5日、オテル・ド・ムニュの大広間において、三部会の開会式が挙行された。
アントワネットは王太子の様態が気が気ではなかった。
  マリーアントワネット 「ムードンからの使いは?王子は、ジョゼフの具合はどうですか?」
  N【侍従】 【せりふ】
「王后陛下、開会式が始まります。三部会開会へのご出席はフランス女王の義務でございます」
  会場の一辺は舞台のように高くなっており、その中央部はさらに三段高くなっており、そこに玉座が設けられていた。
大広間にルイ16世が姿を見せると、議員席から拍手と歓声がわきあがり「国王万歳」の声は会場にどよめいた。まだ全員が王党派だった。
国王は片手をあげて応じると、着席した。

続いてアントワネットが登場したが拍手は起こらなかった。平民議員はもちろん、貴族議員席からすら拍手一つアントワネットのためにはあがらなかった。フランスの全国民が攻撃し、憎悪していたのは国王でもなく王室そのものでもなく、ただ一人、王妃マリー・アントワネットなのだということを、この時王妃はその凍り付く沈黙の中ではっきりと悟ったのであった。
  マリーアントワネット 「戦いが始まる。もはや逃げも隠れもしない。だって、私はフランスの王妃なのだから」
  衛兵隊は会議場の警備にあたっている。アンドレがアランに話しかけた。
  アンドレ 「三部会が始まって休みなしで一月、どうやら荒れているようだな」
  アラン 「僧侶、貴族の代表どもに平民議員が激しい論戦を挑んでいるという情報が入っている。入りてえな俺も、その中によお・・お・・来た」
100 正面玄関からオスカルが姿を現す。アランが話しかけると、オスカルは階段を下りながら答えた。
アラン 「隊長、どうですか、中の様子は」
  オスカル 「相変わらずだ。荒れている、この議会が終わればみんな一斉に休暇を取れる。休みなしだが、がんばってくれ」
  オスカルは酒びんが転がっているのに気がついた。
  オスカル 何だ、こんなところにあぶないじゃないか。議員たちが引き上げるときにけがでもしたら大変だ。こういうものはあらかじめかたづけておけと言ったはずだぞ」
  アンドレ 「すみません、気づかなかったもので」
  オスカル 「捨てておいてくれ」
  アンドレ 「わかりました」
  オスカルが空き瓶を投げた。受け取ろうとしたアンドレは目がかすみ、びんは落下して砕け、オスカルが目を見張った。すかさずアランが駆け寄ると、破片を片づける。
  アラン 「ああ、下手くそだな、アンドレは。いい、いい、俺が片づけるよ。」
110 オスカル 「アンドレ、まさかおまえの右目・・」
  アンドレ 「え、何がです?」
  アンドレが右目のことをオスカルに秘密にしていることを知っているアランが助け船をだした。
  アラン 「こう毎日毎日立ちっぱなしじゃ、誰だってぼけっとしちまうよな、そうだよな、アンドレ」
  アンドレ 「ああ、そうなんだ。ちょっと疲れているのかな。日差しにやられたらしい」
  オスカル 「そうか・・それならよいが・・・」
  ジャルジェ邸
夜、アンドレとオスカルはサンルームでくつろいでいる。アンドレが窓の外を眺めながら呟いた。
  アンドレ 「また雨か・・王太子のご病状はよほど悪いようだな。三部会が中断され、国王ご夫妻がムードンへ駆けつけるほどだから」
オスカル 「大丈夫だ。今までも何度もこのような事があった。今度もきっと持ち直されるに決まっている」
  アンドレ 「だと、いいが・・・」
120 オスカル 「それよりも、もうひとつ、今の私には心配事がある」
  窓の外を見つめたまま、アンドレが尋ねた。
  アンドレ 「ほう、どんなことだ?」
  オスカルは椅子から立ち上がると、アンドレの背後に近づいていく。
  オスカル 「アンドレ」
  アンドレ 「うん」
  振り返ったアンドレの顔の前に、オスカルは短剣をかざした。
  アンドレ 「どうした、目の検査か?」
  オスカル 「見えるのか?ちゃんと・・・」
アンドレ 「何を言っているんだ。見えるよ、ナイフだろう。1612年製、ジャルジェ家に代々伝わる、おまえの愛用のな」
130 オスカル 「ほんとうに目は悪くなっていないんだな」
  アンドレ 「くどいぞ、やめろよ、悪い冗談は。はははは・・」
  オスカル 「すまなかった」
  安心したオスカルの耳に微かな音が届いた。
  アンドレ 「どうした、オスカル」
  オスカル 「何か聞こえないか?」
  オスカルは窓辺へ近寄ると耳をすました。
  オスカル 「ノートルダムの鐘の音だ。」

「王太子殿下が危篤状態になられたのだ。」
  6月2日、午後10時。ノートルダム寺院の鐘が重々しく鳴り渡る。危篤状態になった王太子のための40時間の祈りが始まったのである。

ムードン城。王太子の枕もとに国王夫妻がいる。
  マリーアントワネット 「ジョゼフ」
140 ジョゼフ(7歳) 「お父様、お母様。お忙しいのに、ごめんなさい」
  マリーアントワネット 「おお、ジョゼフ・・・」
  ジョゼフ(7歳) 「三部会はまだ荒れているのですか。どうして、どうして議員たちは仲良く話し合うことができないのですか」
  マリーアントワネット 「ジョゼフ・・あなたがそんな心配しなくていいのよ・・私のジョゼフ・・・」
  ジョゼフ(7歳) 「もう一度、もう一度、ベルサイユへ帰りたい」
  マリーアントワネット 「帰れますとも」
  N【国王ルイ16世】 【せりふ】
「そうとも、帰れるよ、ジョゼフ。私とお母様と三人で馬車に乗ってベルサイユへ帰ろう。そうだ、馬車の護衛の指揮はおまえの大好きなオスカル・フランソワにとってもらおう。それがいい」
  ジョゼフ(7歳) 「ああ・・白馬に乗った人・・風を受けて・・金髪が・・」
  王太子は苦しい床で一瞬微笑むと、息をひきとった。
  マリーアントワネット 「ジョゼフ、ジョゼフ!お母様をおいていかないで。神様・・・」
150 アントワネットは王太子ジョセフの体にすがりつき号泣した。

降り続く雨を見つめながら、オスカルは呟く。
  オスカル 「わずか7歳と8ヶ月のお命とは・・・」
  6月4日午前一時、第一王子ルイ・ジョゼフは悲しい生涯を閉じた。しかし彼にとってこれから王室が迎えねばならない苦難を、知らずにすんだことはせめてもの救いであった。
  オスカル 「ムードン城にお悔やみを述べに行く」
  アンドレにそう告げるとオスカルは一人、激しい雨の中を馬を走らせた。

激しく揺れるこれからのフランスが行く道を、そして生き残った者、新しい時代に生き延びようとする者たちがとらねばならぬ道、三部会が開かれる。

1789年5月、貧困と王室への不満からわき上がった民衆の声とその勢いはついに三部会開催を勝ち取った。しかし、三部会ははじめから荒れ続け、いつまでたってもまとまりを見せようとはしなかった。新しい時代へと想いを馳せる平民議員、それでもなお旧体制を守ろうとする貴族・僧侶議員達。会議は荒れたまま休みなしに続けられていた。

会議場の屋根に雨が降る。歩哨の任務についているアランが傍らのアンドレに話しかけた。

  アラン 「今日ロベズピエールが重要演説を行うそうだ。」
  アンドレ 「ロベスピエールが、そうか・・彼ならこの事態を解決できるかもしれないな。」
  ロベスピエール 「諸君、我々は全フランスの96%を占める平民の代表だ。従って我々こそが真のフランスの代表である。そこで我々は僧侶及び貴族の代表である議員諸君に提案する。よろしいか、諸君はわずか全フランスの4%の代表権しかないのだ。もし、真にフランスの代表たらんとするならば君たちはもはや、我々平民議員と手を組む以外、道はない。」
  アンドレ 「貴族議員の中から、ラ・ファイエット候やオルレアン公のグループが平民に合流したそうだ」
  アラン 「おもしろくなってきたな。三部会を平民代表が牛耳ってしまえば、事実上フランスの政治は俺達平民のものになる、はは・・。それにしても少し疲れたな・・」
160 アンドレ 「うん、休みなしでもう一月半になる」
  アラン 「隊長、どうした?」
  アンドレ 「見回りだろう、さっき一人でベルサイユ宮の方へ歩いていったから」
  アラン 「アンドレ?」
アンドレ 「うん?」
  アラン 「おまえの、あの・・隊長さんよ、ちょっと顔色が悪いぜ」
  アンドレ 「え?」
  アラン 「ただの疲れならいいがな」
  オスカルはずぶ濡れになりながら、落ちてくる雨粒を顔に受けていた。
  オスカル 「新しいフランスが今度の三部会から生まれてくる。それが成功するよう、議会と議員達を守るのが今の私の任務だ。がんばれ、オスカル」
170 突然、オスカルは激しく咳き込んだ。白い手袋に鮮血が作った染みを見て、オスカルは戦慄した。そして彼女は震える手のひらを握りしめた。

6月17日、一部の貴族・僧侶議員の合流に力を得た平民部会は、ここに独自に国民議会と名乗ることを決議した。

アランとアンドレを従えて、オスカルはブイエ将軍の命令を受けていた。

  オスカル 「三部会の入り口を閉鎖せよ・・ですと?」
  ブイエ将軍 「うむ、ただちに全部の入り口を閉鎖するんだ。これは国王陛下のご命令だ」
  オスカル 「しかし、それでは議員達が入れないではありませんか」
  ブイエ将軍 「左様、三部会は事実上休会せねばならん」
  オスカル 「それはおかしい、三部会の開会散会は三部会の三部会による決議で行われるはずのもの。いかに国王陛下のご命令でも・・・」
  ブイエ将軍 「だから閉鎖せよと申しておる。陛下は解散せよとは申されてはおらん。命令を伝えたぞ、ジャルジェ准将。閉鎖はできるだけ頑丈に、猫の子一匹いれてはいかん」
  オスカル 「お言葉ですが、ブイエ将軍閣下、彼ら議員はフランス国民が選挙で選んだ正当な代表です。そのようなことは彼らに対する侮辱以外の何ものでもありません」
  ブイエ将軍 「陛下あっての国民だ。陛下あっての議員だ。そして我々貴族だ。違うかね、ジャルジェ准将」
  オスカル 「しかし、閣下・・・」
180 オスカルはブイエ将軍に詰め寄った。将軍は片手をあげて彼女を制止した。
  ブイエ将軍 「止めたまえ、オスカル。私は議論をするために君を呼んだのではない。命令を伝えるためだ。よいか、議場を閉鎖するのは君でも私でもない、陛下のご意志だ。さあ、もうさがりなさい。後で報告を聞く」
  オスカルは諦めて引き下がった。退出しようとした彼女に将軍が問いかけた。
  ブイエ将軍 「ジャルジェ准将、父上は元気かね?」
  オスカル 「しばらく会っておりません。」
  ブイエ将軍 「うむ・・そうか・・・」
  オスカル 「失礼します」
  オスカルはため息をついた。
  オスカル 「どうしたものかな・・アンドレ、アラン・・・」
  アラン 「考えることはねえよ隊長、命令されたんだ、仕方ねえよ」
「ただし奴らが汚い手を使えば使うほど俺たち平民は燃えるってわけさ」
190 会議場は閉鎖され、衛兵隊が警備を固めている。ロベスピエールが歩哨の兵士につめよった。
  ロベスピエール 「君たちの責任者に会わせてくれたまえ。」
  柱の陰から、オスカルが姿を見せた。
  ロベスピエール 「聞いてくれ、ここにいる議員たちはみんな馬車代を借金したり、弁当代を倹約したりして、遠い地方からやってきた者たちばかりだ。時間を無駄にできないんだ。すみやかに扉を開けて我々を中に入れてくれ。我々にはまだ討議すべき問題が山ほどあるんだ」
オスカルは一言も答えない。

議員たちはジュー・ド・ポームへと移動した。
ジュー・ド・ポーム、それはテニスの前身にあたるポームの競技場のことで、当時フランスで大流行し、各地に建設されていた。

ロベスピエールは球技場の中央におかれたテーブルの上に立ち、右手を上げて誓った。

  ロベスピエール 「我々は会議場を追い出された。これが国王とその周りに群がる貴族どもの本心だ。だが、どんな力をもってしても我らが国民議会を押しつぶすことはできない。諸君、今ここで我らの心臓を手を、そして声をひとつにして誓おう。我ら国民のための国民による国民議会は、国民のための憲法が制定されるその日まで、決して解散をしない」
  熱狂した代表は互いに抱き合い、詰めかけていた大勢の傍聴人は拍手喝采した。
1789年6月20日。これこそフランス大革命の狼煙ともなった有名なテニスコートの誓いであった。

競技場の歓声は外にいるオスカルにも聞こえた。アランがオスカルに言う。
  アラン 「言ったとおりだろう、隊長。虐げられてきた者は苦しめられれば苦しめられるほど、その分燃えるのさ。おまえさんがた貴族には、そいつがどうしてもわからねえ」
  6月23日、衛兵隊兵舎。オスカルの執務室に、見慣れぬ軍人が現れて、彼女に挨拶をした。
  ラ・ボーム 「陸軍大佐、ショワズエ・ラ・ボーム。ブイエ将軍の命により、僭越ながら、本日の議員入場の指揮をとらせていただきます」
200 国王は混乱した事態を一気に解決しようと、三つの身分の議員が再び一同に集まるように、呼びかけたのである。そして、閉鎖された会議場の正面の扉はその一枚だけが開かれ、議員は一人ずつ場内へ入ることが許された。

雨の中、議員達は正門の前で待たされている。ラ・ボーム大佐が名簿を読み上げている。
  ラ・ボーム 「次はフーシェ司教、お入りください。」
「シャトレ候、どうぞ、デュプラ伯、ル・フェーブル司教、ゴラージュ伯爵、レニエ男爵、クレール候、ロシアール子爵・・あ、ちょっとお待ちを、あなたは?」
  黒づくめの平民議員が入場しようとすると、ラ・ボーム大佐が呼び止めた。
  ラ・ボーム 「恐れ入ります。お名前を呼びますのでお待ちを。」
「次、アントワーヌ候、お入りを・・お名前を。」

「次、マイエ司教・・・」

  オスカル 「ショワズエ・ラ・ボーム大佐、なぜ・・なぜ平民議員を後回しにするんだ」
  ラ・ボーム 「命令です、正面玄関から入れるのは僧侶と貴族だけ。平民議員は裏口に廻すように言われている」
  オスカル 「何だって?」
  ラ・ボーム 「ヴィレンヌ侯爵・・」
  ラ・ボーム大佐はかまわずに名簿を読み上げる。オスカルはその手から名簿を引ったくると、議員達を示した。
  オスカル 「ラ・ボーム大佐、君には見えないのか、ずぶぬれになりながら、じっとここで待っている人たちが」
210 大佐は名簿を取り返すと、皮肉たっぷりに言い返した。
  ラ・ボーム 「私は命令されたとおりやっているだけだよ。ジャルジェ准将。君だって命令通り、この間扉を閉鎖したじゃないか。ははははは!」
  オスカルは大佐の襟を掴み上げた。
  ラ・ボーム 「うわっ!何をする!」
  ロベスピエール 「やめたまえ」
  凛とした声が響いた。ロベスピエールだった。
  ロベスピエール 「やめたまえ、ジャルジェ君。僕らは濡れることなど何とも思わないし、雨など少しも冷たくはない。それに僕らの情熱はいくら雨に打たれようとも消えはしない。国民に選ばれてここにあるという誇りは、どんな侮辱にもどんな仕打ちにも揺るぎはしない。だが、ここで一つだけはっきり言っておこう。僕らは犬でも物乞いでもない。だから決して裏口に廻ることはないだろう」
  ラ・ボーム 「あっははは、聞いたか、ジャルジェ准将。奴らは好きで雨の中にいるんだ。私の責任じゃないぞ」
  オスカルはラ・ボーム大佐を投げ飛ばすと、部下に命令を下した。
  オスカル 「衛兵諸君、すぐに正面の扉をすべて開き、議員の方々を会議場にご案内しろ」
220 扉の封印は解かれ、隊員の先導で、議員達は次々と入場する。面子をつぶされたラ・ボーム大佐がオスカルにくってかかる。
  ラ・ボーム 「ジャルジェ准将、君はブイエ将軍の命令を破るつもりなのか?」
  オスカル 「そんな気はありませんよ、ラ・ボーム大佐。落ち着いてあの群衆をよく見たまえ。これ以上雨の中に待たせたら、暴動が起こる。私は警備の責任者として、不慮の大事故がおこらないように処置をしただけだ。いいか、そうブイエ将軍に報告したまえ!」
  N【廷臣】 「およろしいですね。国王陛下」
「これは王政そのものの危機なのです」
「すでに二百名からの貴族議員が平民と合流して王室に公然と反抗しておるのです。陛下の努力と威厳によって国民議会を解散させるのです」
  廷臣たちは国王を取り囲んでいる。
廷臣たちの言葉にルイはただ頷くことしかできなかった。

三部会会議場で国王は議員たちを前に演説を始めた。
  N【国王ルイ16世】 「余は・・余は・・三部会を召集したのであって、国民議会などというものを開いた覚えはない。したがって諸君は直ちに国民議会を解散し、元の通り三部会に戻って身分別に討議されたい。」

「したがって・・したがって・・全員すぐに退場せよ!」
  国王の演説は沈黙のうちに終わった。数名の貴族が拍手しただけである。国王と王族の退場に続いて、大半の貴族と高位の僧職者はひきあげたが、僧侶の大半と少数の貴族、そして第三身分の全員がその場に残った。

ラ・ボーム大佐はベルサイユのブイエ将軍に顛末を報告した。

  ブイエ将軍 「何?謀反人めが!」
  ラ・ボーム 「居据わりましてございます。陛下の命により僧侶及び貴族議員は速やかに退場致しましたが、国民議会派はてこでも動こうとしません」
  ラ・ボーム大佐は会議場へと、とって返した。
230 ラ・ボーム 「ジャルジェ准将はおるか!衛兵隊B中隊長ジャルジェ准将はおるか!」
「ブイエ将軍の命令を伝える。兵を連れ至急ベルサイユの指令官室へ出頭せよ!」
  オスカルは部下を連れて、ベルサイユ宮へと馬を走らせた。内庭で馬を下りると、兵士たちに指示を与えた。
  オスカル 「みんなここで待機するよう」
  アラン 「隊長、ちょっと」
  アランが司令官室へと向かうオスカルを呼び止めた。
  アラン 「俺たちは会議場を警備しなけりゃなんねえのに、何だって一緒に呼ばれたんです?」
  オスカル 「それは、私にも判らない」
  アラン 「何か嫌な予感がするなあ」
  それはオスカルも同じだった。彼女の後ろ姿を見送りながらアランはアンドレに言った。
  アラン 「おい、アンドレ」
240 アンドレ 「ん?」
  アラン 「おまえ、一緒にくっついて行って様子を見てきな」
  アンドレ 「よし」
  アンドレは廊下でオスカルに追いついた。
  オスカル 「何だ?」
  アンドレ 「一緒に・・」
  オスカルは答えずにすたすたと歩いていく。その後をアンドレも追った。
司令官室の前でアンドレはラ・ボームに押しとどめられた。
  ラ・ボーム 「君はここにいたまえ。さあ、ジャルジェ准将、中へ」
  アンドレの目の前で扉は重く閉ざされた。

ラ・ボーム大佐に促されてオスカルは司令官室へと入ると、ブイエ将軍はオスカルに告げた。
  ブイエ将軍 「君と君の率いる衛兵隊B中隊の現在の任務、議場警備の任を解く」
250 オスカル 「訳をおっしゃって下さい」
  ブイエ将軍 「訳?本来ならば会議場の正面の扉を独断で開けた行為は私への命令違反だ。逮捕して軍事法廷にかける処なんだよ。それを警備の任を解くだけで許してやろうというんだ
  オスカル 「私は軍事法廷など怖くはありません」
  ブイエ将軍 「君の父上は私の古くからの友人だ。今の言葉は聞こえなかったよ。ふははは・・・」
  手心を加えてやったのだと言われて、オスカルの胸にちりりと痛みが走った。
  オスカル 「お話が済んだのなら帰らせて頂きます。部下を待たせてありますから」
  ブイエ将軍 「いや、新たな任務がある。いいか、聞きたまえ。衛兵隊B中隊はこれより直ちに完全武装、議場へ取って返し、居据わる国民議会派の連中を一人残らず排除せよ。理由の如何を問わず抵抗する者には強行手段をとれ。場合によっては発砲し、死に至らしめても止むを得ん」
  ブイエ将軍の命令にオスカルの心臓が締め上げられた。軍人としてはともかく、一人の人間としてそれはオスカルにとって受け入れることのできない命令であった。
彼女は拳を空中に誇示すると叫んだ。
  オスカル 「発砲・・死に至らしめても・・何ということを、閣下。彼らはフランス国民の選んだ代表です。その彼らに銃を向けろというのですか」
  ブイエ将軍 「もはや彼らは国民の代表でも何でもない!陛下にたてつくただの謀反人だ。ジャルジェ准将、速やかに隊員たちに装備をさせ、会議場に向かいたまえ」
260 オスカル お断りします」
  ブイエ将軍 「では止むを得んな。反逆罪で君を逮捕する」
  同じ部屋に控えていた将軍の部下たちが彼女を取り囲むとピストルをつきつけた。
  ブイエ将軍 「それでは私が直接君の隊員に命令を与えよう。よいか、沙汰があるまでこの部屋から一歩も出してはならん」
  外套と帽子を身につけ、部下の兵士たちを従えたブイエ将軍は内庭へと向かった。事情を知らないアンドレは、その隊列を見送ると、オスカルがいるはずの司令官室の扉の前に立った。内部の様子は全くわからない。仕方なく、アンドレは窓側の壁にもたれて閉ざされた扉を見つめた。

オスカルは自分に向けられた銃口を気にもとめずに窓の側へと歩みよった。
窓わくは床から天井まであり一面にガラスがはめ込まれていて、眼下に中庭を望むことができた。
  ラ・ボーム 「動くな!窓側から離れろ。こっちを向いていろ」
  オスカル 「抵抗はしない。窓の外を見るくらいいいだろう、ラ・ボーム大佐」
  ラ・ボーム 「ようし、では両手を高くあげろ」
  オスカル 「わかった」
  オスカルは言われるままに、両手を掲げた。ラ・ボームは彼女から剣を取り去った。
270 オスカル 「見たいんだ。私の部下たちがブイエ将軍の命令をどう受け止めるか」
  中庭に待機していたアランたちはオスカルではなく、一個小隊を率いたブイエ将軍が現れたことに気がついた。

将軍が号令をかけると、兵たちは整列した。
  ブイエ将軍 「よろしい、では、命令を伝える。B中隊はこれより全員戦闘装備を整え、三部会会議場に突入、不法占拠したものを排除する」

「では兵舎へ戻り戦闘装備を整え十分後に再びここに集合する。何をしとるか!さっさと行かんか!駆け足!」

  躊躇していた兵士たちも、ばらばらと兵舎へと向かい始める。その時、アランが大きな声で言った。
  アラン 「待てよ、みんな!」

「俺たちはここでオスカル隊長を待っていると約束したんだぜ。隊長が戻って来るまでここを動くんじゃねえ!」

  ブイエ将軍 「何をしとる!貴様ら、陸軍最高指令官の命令が聞けんというのか!」
  アラン 「最高指令官だか何だか知らねえが、こんな奴の言う事を聞く必要はねえ!俺たちに命令できるのは俺たちの隊長だけだ!」
  ラサールが真っ先にここに残ると言った。他の兵たちも、次々とラサールに倣った。
兵たちはアランの周囲に集まった。
  アラン 「見ての通りだ指令官殿。アラン・ド・ソワソン以下十一名はここに正式に命令を拒否致すこととなりました」
  ブイエ将軍は怒りのあまり青ざめている。
280 ブイエ将軍 「よろしい。では、貴様らに軍の規律がどんなものか教えてやる」
  オスカルは無抵抗のアランたちが、ブイエの部下によって殴り倒される様子を目の当たりにする。彼らは縄でくくられ、銃をつきつけられて連行された。

司令官室へともどった将軍は苦々しげにオスカルに言った。
  ブイエ将軍 「隊長も隊長なら部下も部下だ。全くよく仕込んであるものだわ」
  オスカル 「どこへ連れて行ったのです、私の部下を?」
  ブイエ将軍 「アベイ牢獄だ。私は軍事法廷で十二名全員に銃殺を求刑するつもりだ」
  オスカル 「銃殺?」
  ブイエ将軍 「ジャルジェ准将、自分の身が危ない時に部下の心配もないだろう。君については、国王陛下からの処分の申渡しがあるまで軍務証書を取り上げ、陸軍特別房に拘置する。連行しろ」
  オスカル 「ブイエ閣下・・」
  ブイエ将軍 「うん?」
  オスカル 「私への処分さえあれば、部下十二名の銃殺は重大な間違いです」
290 ブイエ将軍 「いや、奴らは今後への見せしめになってもらう。これ以上軍紀が乱れてはフランス全軍の危機だからな」
  オスカル 「それと、もう一つ。会議場への武力介入は、フランス史上許されざる汚点となりますぞ」
  ブイエ将軍 「私は国民議会派の居据わりの方が余程汚点だと思うがね。心配無用、謀反人の排除は近衛隊がやる」
  オスカル 「近衛が?」
  オスカルの脳裏にジェローデルが浮かんだ。
将軍はオスカルの顔を二度と見ようとはしなかった。後ろ手に扉を閉めるとその場から立ち去った。

オスカルは自分に向けられた銃を無造作に掴んだ。
ピストルをたたき落とすと扉めがけて走り出したが、すぐに取り押さえられた。床に組み伏せられたオスカルはアンドレの名を呼んだ。
  オスカル 「アンドレ!」
  アンドレ 「オスカル!」
  アンドレが部屋へ飛び込んでくる。彼の助けを借りて、オスカルはラ・ボームたちを振りほどくと、三部会会議場へと向かった。

時を同じくして、国民議会派を排除せよとの命を受けた近衛隊が騎兵隊旗を掲げ、会議場へと向かっていた。指揮をとるのはジェローデル隊長である。警備の衛兵隊が立ち去った会議場の正面玄関には、ロベスピエールたち平民議員が強い決意のもとに立っていた。

オスカルとアンドレは会議場へと馬を走らせる。
  オスカル 「急げ、アンドレ。近衛連隊が会議場へ突入する。防ぐんだ、何としても・・何としても!」
299 1789年6月23日、フランス国王ルイ16世の解散の命令を無視して、三部会会議場を占拠した国民議会派の議員たち。そして、その排除命令を受けたのは、最初オスカル率いるフランス衛兵隊B中隊であったが、オスカルはその命令を拒否、またアランをはじめとして部下12名もオスカルに同調、命令を拒否、捕われの身となった。そして今、オスカルは衛兵隊に代り出動命令を受けた近衛連隊の、会議場突入を阻むために三部会会議場へと向かう。
ED挿入歌 愛の光と影

ベルサイユのばら 革命への道 編 @ 

革命への道 編 Aへ続く

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