冬のソナタ最終話《冬の終わり》
ヴィレッジブックス 冬のソナタ完全版4 第20話
キム・ウニ/ユン・ウンギョン 根本理恵=訳

声劇用にアレンジしております。ご了承ください。

カン・ジュンサン
チョン・ユジン
キム・サンヒョク
ジヌ(サンヒョクの父)

キム次長(ミニョンの部下であり先輩)

ミヒ(ジュンサンの母)

ユジンの母

チェリン・チンスク・ヨングク(同級生)

サンヒョクは、ジュンサンとユジンが絶対に結ばれない運命なら、自分が君を守りたいとユジンに告げる。ユジンとやり直したいと、ジヌに強力を頼むが、ジヌからジュンサンが自分の息子であることを告白される。サンヒョクは、ユジンと一緒に留学すると言い、ジュンサンにもユジンを説得するよう詰め寄る。ジュンサンはユジンを呼び出し、会うのは最後にしようと言って別れる。ジュンサンが事故の後遺症で命の危険があり、アメリカで手術を受ける事を知ったサンヒョクは、ユジンを連れて空港に急ぐ。

  OP(1:03) 最初(はじめ)から今まで
001 ジュンサンの家。荷造りが終わっている家の中で、ジュンサンが電話をかけていた。
  ジュンサン 「いえ、あとは全部先輩にお任せします」
  《せりふ:キム次長》
「おいおい・・・じゃ、俺がアメリカに行かないと会えないのか?」
  ジュンサン 「はい・・・ありがとうございました。先輩」
  《せりふ:キム次長》
「まずは体を大事にしろよ。夜の便だって?」
  ジュンサン 「はい、10時です」
  《せりふ:キム次長》
「ほんと、ひどい奴だ。空港にも行かせてくれないんだな。気をつけて行ってこいよ。な。どういう意味かわかるだろ?また戻ってこいってことだ。カム・バック」
  ジュンサン (キム次長の暖かさが胸にしみる)・・・お元気で、先輩」
  《せりふ:キム次長》
「ああ・・・・」
010 キム次長は電話を切った。そして深くため息をついて、オフィスの中を見回した。

ジュンサンが部屋の中をもう一度見回している。せつなさと同時にいとおしさを感じているようだった。ジュンサンは家を出た。

放送局の廊下、ジュンサンが廊下の先に立っている。手前の部屋から出てきたサンヒョクがふと目を上げ、ジュンサンに気付いた。にっこりと微笑むジュンサン。サンヒョクの顔が強張った。

放送局の屋上、二人が並んで立って景色を眺めている。

  ジュンサン 「・・・・もう冬の空じゃないんだな。ここは冬の空がとてもきれいだった。澄みわたっていて。それでいて不思議なほど深みがあって・・・でも、もうこの空も見られなくなるんだな」
  サンヒョク (驚いてジュンサンを見る)どういうことだ?」
  ジュンサン (サンヒョクに顔を向けて)これから空港に行くんだ」

「サンヒョク、ユジンのこと、頼んだよ。サンヒョクなら、安心してユジンを任せられると思うんだ。ユジンを大切に守ってやってくれ。さびしがらないように、苦しまないように」

  サンヒョク 「ジュンサン、本当に・・・」
  ジュンサン 「本心だよ。・・・本心から頼んでるんだ。僕はもう戻ってこない」
  ジュンサンの顔を黙って見ているサンヒョク。ジュンサンがいきなりサンヒョクの肩をつかみ、その顔を思いを込めてじっと見つめた。
  ジュンサン 「元気で。じゃあ・・・」
  立ち去るジュンサン。サンヒョクはしばらくそのままでいたが、ジュンサンのほうを向いて彼の名を叫んだ。
  サンヒョク 「ジュンサン、カン・ジュンサン!」
020 ジュンサンが振り返った。
  サンヒョク 「・・・行くな」

「僕は、おまえがうらやましくて、憎くて、それで意地を張ってただけなんだ。ユジンは兄妹でもないんだから、おまえが行ってしまう理由は無いじゃないか。行くな。ユジンのところに戻ってくれ」

  ジュンサン 「・・・いや、それはできないんだ」
  サンヒョク 「どうしてだよ!僕がおまえと兄弟だからか?僕がユジンのことを好きだから?だから譲ってくれるのか?」
  ジュンサン (悲しげに笑って)愛は譲るものじゃない。・・・今、ユジンを支えてあげられるのは僕じゃなくて君だから。君なら・・・ユジンのそばに・・・僕よりずっと長くいてあげられるから」

「・・・行くよ」

  サンヒョクは去っていくジュンサンの後ろ姿をじっと見送っていた。

サンヒョクの家の前。サンヒョクは車の中に座ってな何か考え込んでいる。さっきのジュンサンの言葉がよみがえる。

ジュンサン(声) 「君なら・・・ユジンのそばに・・・僕よりずっと長くいてあげられるから。僕はもう戻ってこない」
サンヒョクはしばらく車の中に座っていたがやがて車を降り、部屋に上がろうとすると、電話が鳴った。
サンヒョク 「もしもし・・・はい。父はいませんが、どちらさまですか?」
《せりふ:医師》
「ソンジ病院ですが、カン・ジュンサンさんに至急連絡を取ることはできますか?」
030 サンヒョク 「病院の方がどうして彼に連絡を・・・」
《せりふ:医師》
「いえ、カン・ジュンサンさんがアメリカで手術を受ける際に必要な記録が、ひとつ抜けていたもので」
サンヒョク 「! 手術ですって?」
《せりふ:医師》
「今はかろうじて持ちこたえていますが、とても危険な状態です。手術をする以外に方法はないのですが、必ず成功するという保証はありません」

サンヒョクの脳裡にジュンサンの言葉がよみがえる。

ジュンサン(声) 「僕はもう戻ってこない・・・僕はもう戻ってこない・・・」
サンヒョクは、ユジンの家の前に車を急停車すると、家の中へ走りこんでいった。ユジンが食卓に座っていると、サンヒョクがいきなりドアを開けて駆け込んできた。
サンヒョク (息せき切って)ユジン、すぐ来るんだ」
ユジン 「サンヒョク」
サンヒョク 「ジュンサンが行ってしまうんだ。行ってしまうんだよ!」
ユジン 「・・・知ってるわ。昨日、ジュンサンに会ったの。それで約束したの。・・・空港には行かないって」
040 サンヒョク 「違うんだよ、バカ!」

「ユジン・・・・すまない、ユジン。僕が悪かった。君に隠してたんだ」

「君をまた取られるのが怖くて・・・。いや・・・・ジュンサンが僕の父さんの息子だってことに耐えられなくて、僕は・・・君に何も言わなかったんだ」

ユジン 「・・・そ、それは・・・・どういうこと?」
サンヒョク 「ジュンサンは・・・僕の父さんの息子なんだ」

「僕の兄さんなんだ・・・君とはなんのつながりもない。それに・・・ジュンサンは死ぬかもしれないんだ」

息が止まるほど驚くユジン。その目から涙が溢れ出した。
サンヒョク 「今、かなり状態が悪いらしい。視力を失うかもしれないし、死んでしまうかもしれない。だから手術を受けにアメリカに行くんだ。・・・それで、君に何も言わずに行こうとしてるんだ!急ごう、ユジン、時間がない」
スーツケースを引いて、ジュンサンが空港に入ってくる。やがてサンヒョクとユジンも駆け込んできた。エスカレーターを賭けあがる二人。出国手続きをしているジュンサンと、空港の中を必死で捜しまわっているサンヒョクとユジンの姿が交差する。

サンヒョクとユジンが走ってきて空港デスクの前にたった。空港職員からニューヨーク行きの飛行機の出発を知らされサンヒョクとユジンは呆然となった。ユジンの目から涙が流れ落ちる。

明けて、ユジンの家の居間。ユジンとユジンの母がテーブルにつき、ユジンの母がしきりに目頭を押さえている。

ユジン (心が痛んで)お母さん、泣かないで。他の人が見たら、まるで私が死ににいくと思われるわ」
ユジンの母 「あなたが逃げていくような気がして、いたたまれないのよ」
ユジン 「逃げるわけないでしょう?(ほがらかに)私、勉強しにいくんだから」
ユジンの母 (涙で頬を濡らしながら)・・・ユジン、本当に大丈夫なのね?今からでも、もしつらいって思うなら、私と一緒にここにいてもいいのよ、ね?」
050 ユジン  (目頭が熱くなって)いいえ、お母さん、私、しっかり勉強してくるわ」
ユジンの母 「ユジン・・・・」
ユジン 「心配しないで、お母さん。私、(わざと元気よくご飯をパクパクと食べるが、胸が詰まる)ご飯だってよく食べて、よく寝て、それに・・・・泣いたりもしないわ」

「・・・・信じてくれるでしょ?」

「お母さんのせいで、ご飯がのどを通ってるのかもわからないわ」

ユジンの母 「・・・ごめんね、ユジン。さあ、食べましょう・・・食べなさい・・・」
ユジン 「お母さんも早く食べて」
ユジンはご飯を食べつづけるが、涙があふれて、なかなか口に入らなかった。

翌朝、ユジンの部屋。ユジンが荷造りを終え、フランス行きのチケットに目を落としていると、ドアが開いてサンヒョクが入ってきた。

ユジン 「・・・・来てくれたの?」
サンヒョクは何も言わず飛行機のチケットを差し出した。見るとそれは、ニューヨーク行きのチケットだった。
サンヒョク 「行けよ・・・ジュンサンのところに。今すぐ後を追うんだ、ユジン」
ユジンはチケットを手にすることができず、黙って立ち尽くしていた。最後に会ったときのジュンサンの言葉がよみがえって来る。
060 ジュンサン(声)  「もう、二度と会わない事にしよう。あの海辺での幸せな思い出を最後に、もう会わないで、お互いの笑顔だけを覚えていよう」
ユジンはサンヒョクを見て悲しげに笑い、サンヒョクの差し出すチケットを受け取った。

ユジンは空港でチケットをじっと見つめていた。やがてベンチから立ち上がり、その場を離れていく。ベンチの上には、ニューヨーク行きのチケットが残されていた。

サンヒョク(声) 「ジュンサンが発ってからすぐ、ユジンも発った。ニューヨークではなく、フランスへ・・・。その年の冬はそんなふうに過ぎていった」
3年の月日が流れた。

ポラリスへ久しぶりに出社したユジンは、先輩のジヨンアから以前、ユジンが設計した”不可能な家”とまったく同じ家が雑誌に載っていることを知らされた。

ユジン 「・・・先輩、この家どこにあるか調べられる?」
鬱蒼とした森の中に白い家が立っている。靴下を履いた足が、家の中をそろそろと進んでくる。床のヘリをつま先で探って立ち止まる・・それはジュンサンだった。

歩数を数えながら、家の構造を頭の中でなぞっているかのように、うれしそうに歩き回っている。壁の何かが手に触れ、にっこりと微笑んだ。

《せりふ:キム次長(声)》
「そうだ!そこに行ったら、俺が去年かけておいたプレゼントがあるよ。おまえの大好きなやつだ」
じゅんさんが顔をほころばせてパズルに手を触れていると、ピースが一つ落ちてしまう。床を手探りで探すが、近くにあるのにもかかわらず、見つけることができない。

探すのをやめて立ち上がり、ぼんやりとバルコニーの方に顔を向ける。海からの風を受けながら歩いていき、椅子に腰をおろした。ジュンサンの表情はどことなくさびしそうだった。

何も見えないジュンサンだが、鳥のさえずりや風の音、波の音など、音はよく聞こえた。ジュンサンは、テーブルの上のカップを手にして、ゆっくりと口に運んだ。

時間を少しさかのぼる。ジュンサンとキム次長がベンチに腰をかけている。

《せりふ:キム次長》
「日本の学会の結果はな、向こうの資料と一緒にすぐにアメリカに送ってくれるそうだ。だから俺たちが行ったら、すぐに見られると思うよ」
ジュンサン 「よかったですね」
070 N  《せりふ:キム次長》
(缶をジュンサンにもたせてやりながら)ちょっと待てよ、飛行機はあさってだし、それで俺はまた・・・そうだ、どうする?せっかく何年かぶりに戻ってきたんだ、どこか行きたいところはないか?俺が連れてってやるよ」
ジュンサン 「ちょうど、行きたいと思ってたところがあるんです」
《せりふ:キム次長》
「どこだ?」
不可能な家の外の森。ユジンが木々の間をゆっくりと歩いている。やがてぱっと視界が開け、海をバックに建つ不可能な家を見つけた。顔を輝かせて、家へとつづく階段を降りていく。

不可能な家へ向かっているユジン。前庭をとおり、不可能な家の前にたどりつくと、門を開け、あたりを見回しながら家へ入っていった。

家の中で、ユジンはなつかしいような言い知れぬ気持ちで見渡していると、壁にかかったパズルに気づいた。一ピースだけ欠けているパズルを見て、表情が曇った。マルシアンで、ミニョンだったジュンサンと初めて二人きりで会った時のことを思いだした。ユジンはせつない思いでパズルを眺め、床に落ちているピースを拾ってはめ込んだ。

しばらくパズルの前にたっていたが、海が見えるほうへ足を向けた。海を見ながら立っているその背後から、ジュンサンが歩数を数え、足で床を探りながら現れた。

その時、何かがガタンと音を立てた。足を止めるジュンサン。振り返るユジン。

ジュンサン 「・・・・どなた・・・・ですか?」
ジュンサンはユジンと向かい合っているが、誰だかわからない。ユジンは驚きに声も出ないが、次第に涙があふれてきた。しばらく黙ったまま向かい合っている。
ジュンサン 「どなたですか・・・?」
ユジンはただ黙って、目に涙をためながらジュンサンを見つめている。
ジュンサン 「・・・・ユジン?」
ユジン (ささやくように)ジュンサン・・・?」
080 N  ジュンサンの目がみるみるうるみだす。ユジンの目には涙があふれんばかりにたまっていた。
ジュンサン 「ユジン」
心の底から絞り出すようなユジンの名を呼ぶジュンサンの頬を、涙がひとすじ流れ落ちた。ユジンの目からも涙がこぼれだす。

黄昏に浮かぶ不可能な家のバルコニー。二人が向かい合って立っている。

ジュンサンがユジンの顔にそっと手を滑らせ、ゆっくりとユジンに口付けをした。しばらくお互いの顔を見つめるようにしてから、二人はしっかり抱き合った。固く抱き合いつづけるジュンサンとユジンを、夕日がおだやかに照らし出していた。

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劇 終

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