冬のソナタ　第１６話

冬のソナタ第１６話《父の影》
ヴィレッジブックス　冬のソナタ完全版４　第１６話
キム･ウニ／ユン・ウンギョン　根本理恵＝訳

声劇用にアレンジしております。ご了承ください。

カン・ジュンサン

チョン・ユジン

キム・サンヒョク

ジヌ（サンヒョクの父）

キム次長（ミニョンの部下であり先輩）

ミヒ（ジュンサンの母）

ユジンの母

チェリン・ジンスク・ヨングク（ユジンの同級生）

１６話あらすじ

高校時代の記憶をほぼ取り戻したジュンサン。しかし、まだ思い出せない記憶に、不吉な予感を感じていた。明日が自分の誕生日であることを思い出したジュンサンは、１０年分のお祝いをしようと大量に材料を買い込む。お祝いには、キム次長だけがくることになっていたが、ユジンがチンスクを誘うと、ジュンサンとユジンを祝福しに中間達が集る。その頃ミヒは、ユジンの父が自分の高校時代の同級生ヒョンスであることを知り、ジヌも、ジュンサンとミニョンが同一人物で、その母がミヒであることをサンヒョクから聞く。

ジュンサン♂ ジヌ♂ ユジン♀ ミヒ♀ ユジンの母♀ ナレーション

	OP（１：０３）	最初（はじめ）から今まで
001	Ｎ	公演企画室。ジヌがデスクで職員と話をしている。
	Ｎ	《せりふ：職員》「カン・ミヒさんは日本でのスケジュールが延びた関係で、戻るのは明後日になると思います」
	ジヌ	「あの、急ぎの用事なんですが、今すぐ連絡を取れる方法はないでしょうか？」
	Ｎ	日本。ミヒが打ち合わせしている所に秘書が近寄ってきて、韓国からだと電話を渡した。
	ミヒ	「誰かしら？」「もしもし？（表情がこわばって）あなた・・・・・どうしたの？」
	ジヌ	「君の息子がジュンサンだということ、どうして私に隠してたんだ？」
	ミヒ	「！・・・・わざわざあなたに話す必要なないからよ」
	ジヌ	「あの子が・・・・ひょっとして・・・・・私の子だから、だから隠してたのか？」
	ミヒ	「な、何を言い出すの？」
010	ジヌ	「あの子は私の子なのか？そうなのか？」
	ミヒ	「（動揺し、あわてて）違うわ、あの子はあなたと関係ないわ」
	ジヌ	「じゃあ、誰の子だ？誰の子なんだ？」
	ミヒ	「あなたに答える必要なんてないでしょ。忙しいから、もう切るわ」
	Ｎ	ジヌが企画室から出て階段をおりていくと、ジュンサンと鉢合わせした。ジヌもジュンサンも驚いた表情で互いを見た。ジュンサンが丁寧にお辞儀をする。
	ジュンサン	「（笑って）母に会いにいらしたんですね？」
	Ｎ	ジヌの顔がこわばった。ジヌとジュンサンが喫茶店で向き合って座っている。
	ジュンサン	「サンヒョクから聞きました。僕の母とは高校の同級生だと」
	ジヌ	「君が、本当にカン・ジュンサンなのか？」
	ジュンサン	「はい、僕がカン・ジュンサンです」
020	ジヌ	「こんなことが・・・」
	ジュンサン	「ちょうど、一度お会いしたいと思ってたんです。気になることもあって」
	ジヌ	「・・・気になること？」
	ジュンサン	「以前、スキー場で僕におっしゃいましたよね？僕が研究室に訪ねてきたって」
	ジヌ	「ああ、そ、そうだったな」
	ジュンサン	「その時、もしかして僕は父のことを話したりしませんでしたか？」
	ジヌ	「（驚いた表情）お父さんのこと？」
	ジュンサン	「はい、父のことです。先生が僕の母と親しかったと聞いて、たぶん父のことをうかがうために研究室を訪ねたと思うんですが・・・・僕の父は誰なのか、ご存じですか？」
	ジヌ	「（動揺して）さあ、私が知ってる人かもしれないが・・・」
	ジュンサン	「ご存じないんですね」
030	ジヌ	「父親が誰なのか、知りたいのかね？」
	ジュンサン	「少し。今になって急に父のことを知りたいと思うなんて、おかしなことですが」
	ジヌ	「君のお母さんは、父親のことをまったく話してくれなかったみたいだな？」
	ジュンサン	「はい。聞いてはみたんですが、あまり話したくないみたいで、もっとも、亡くなったそうなので、今さら捜したところで、どうなるわけでもないんですが」
	ジヌ	「今、亡くなったと言ったのか？」
	ジュンサン	「はい、そう聞きましたけど」
	Ｎ	ジヌはヒョンスが死んだと話した時の、ミヒが驚き動揺した様子を思い出した。
	ジヌ	「君のお父さんは、すでに亡くなったということだね？」
	ジュンサン	「ひょっとして、お知り合いの中に心当たりのある方は？」
	ジヌ	「いや。私の知っている人だということも、もちろんありうると思うが・・・よくわからんな」
040	ジュンサン	「そうですか」
	ジヌ	「私がこんなことを言っていいのかどうかわからないが、お母さんが話してくれないのならば、無理に知ろうとしないほうがいいだろう。お母さんを傷つけることになるかもしれないから。もっと時間がたてば、きっと話してくれるだろう」
	ジュンサン	「（苦い表情で）はい」
	Ｎ	ジュンサンは何か心にひっかかっている様子だった。そんなジュンサンをジヌはじっと見つめていた。ジュンサンのオフィス。ジュンサンが窓際に立って外を見ながら、ジヌの言葉を思い返していた。
	ジヌ（声）	『お母さんが話してくれないのならば、無理に知ろうとしないほうがいいだろう。お母さんを傷つけることになるかもしれないから」
	Ｎ	その時、ノックの音がしてジュンサンが振り返ると、キム次長が入ってきた。
	Ｎ	《せりふ：キム次長》「西に東に駆けまわるホン・ギルトン（朝鮮時代の小説の主人公。金持ちから奪った財を貧民に分け与えた義賊として知られている）のお帰りか」「笑ってる場合じゃないぞ。おい、仕事するのか、しないのか？まったく」
	ジュンサン	「すみません、先輩」
	Ｎ	《せりふ：キム次長》「あのな、おまえのその複雑な心理が理解できないわけじゃないけど、ひとつだけ教えてくれ。知りたいんだ。記憶は取り戻した、恋人も取り戻した・・・なのに今度は、いったい何を探してさまよってるんだ？」
	ジュンサン	「・・・・・父です」
050	Ｎ	《せりふ：キム次長》「なんだって？」
	ジュンサン	「思春期の少年でもないのに、どうして急に父のことが知りたくなったんだろう。何か重たいものに（胸を押して）ここを押さえつけられているような気がするんです」
	Ｎ	《せりふ：キム次長》「（被りを振りながら）その胸の重たいやつ、治し方を教えてやろうか？」《せりふ：キム次長》「おまえが父親になれば、たちどころに治るよ。（からかうように）つまり結婚したいから、そんなことが気になるんだ」
	ジュンサン	「（少しにらんで）先輩」
	Ｎ	《せりふ：キム次長》「（真面目になってクールに）わかったよ。とにかく、父をたずねて３千里なんてイ・ミニョンには似合わない。わかったな？そうだ、チョン・ユジンさんから何度も電話があったぞ。持ち歩かない携帯なんて、ただのお飾りか？彼女、心配してたぞ。連絡してやれ」
	Ｎ	キム次長は、ジュンサンをぽんぽんと叩いて出て行った。ジュンサンはまた考えに沈んでいるような表情に戻った。空港。飛行機が着陸した。ミヒがソウルに帰国した。
	Ｎ	《せりふ：秘書》「（後部座席を振り返って）先生、息子さんがオフィスに立ち寄られたそうです。お戻りになりしだい、連絡がほしいとおっしゃってたそうですが」《せりふ：秘書》「これからホテルまでお送りいたしましょうか？」
	ミヒ	「（心を決めたように）いえ、このままチュンチョン（春川）に向かってください」
	Ｎ	ユジンの家の前。ユジンが慌てて出てくる。周りをきょろきょろ見回すと、前方にジュンサンが見える。二人は目を見交わして笑った。ユジンがそばに寄っていき、ジュンサンの前に立つなり、にらんでいきなり一発叩いた。ジュンサンはびっくりした。
	ジュンサン	「なんだよ」
060	ユジン	「何よ、電話も出ないし会社にもいないし・・・どれほど心配したかわかってるの？」
	ジュンサン	「（笑って）だからこうして来たんじゃないか」
	ユジン	「（かわいくにらんで）何してたの？」
	ジュンサン	「（ユジンの手をとって）少し歩こう」
	Ｎ	ユジンとジュンサンが手をつなぎながら誰もいない路地を歩いている。突然、ユジンが思い出し笑いをした。
	ジュンサン	「どうして笑ってるの？」
	ユジン	「父と母のことを思い出して。私の両親もこんなふうにデートしたんだって」
	ジュンサン	「（ユジンを見て）こんなふうに、ただ歩いたって？」
	ユジン	「うん。その頃はお金もないけど離れるのはいやで、ただこうやってずっと家の近くをぐるぐる歩きまわってたんだって。たぶん、距離にしたら地球を１０周もしたんじゃないかしら（二人、笑う）」
	ジュンサン	「・・・・・お父さんはどんな人だった？」
070	ユジン	「そうね（考えて）やさしい人だった。あなたみたいに」
	ジュンサン	「僕ってやさしい？」
	ユジン	「（うなずいて）私が１１歳の時、初雪が降った日を思い出すわ。あれはたしか明け方だったと思う。雪道を歩いてたんだけど。ヒジンは母におぶってもらって、私は父におぶってもらったの。父の背中がそんなにもあたたくて広いってことを、その時初めて知ったわ」
	ジュンサン	「（苦い口調で）父親っていう存在は、そういうものなんだね」
	ユジン	「（ジュンサンを見る）・・・・お父さんのことだったのね？」「それで最近、つらそうだったのね？そうでしょ？」
	ジュンサン	「いや。君がこうしてそばにいてくれるのに、つらいことなんてないよ。（どこからかオルガンの音が聞えてくる）いい音だね。行ってみようか？」
	Ｎ	ユジンとジュンサンが聖堂の階段を上がっていく。聖堂の中。ろうそくが灯り、ほのかな照明がついているおごそかな聖堂である。結婚式を明日に控える新郎新婦とその友人たちが、予行演習している。ジュンサンとユジンがちょっと見ていこうかというふうに、そっと一番後ろの椅子に腰かけた。
	ユジン	「明日、結婚する人たちなのね」
	ジュンサン	「うらやましいな」
	Ｎ	ユジンはジュンサンを肘でつついた。新郎新婦が一生懸命、結婚式の練習をつづけている。新郎新婦の友人たちが拍手して歓声をあげた。ユジンとジュンサンもつられてつい拍手をしてしまった。友人たちと新郎新婦がそれに気づいて、ジュンサンとユジンを不思議そうに振り返った。ユジンとジュンサンが我に返って拍手を止め、恥ずかしそうにうつむくが、ぷっと噴き出して肘でつつきあった。時間が経ち、結婚式の練習していた人は出ていき聖堂の中には誰もいなくなった。誓約書の内容をジュンサンが微笑みながら読んでいる。
080	ジュンサン	『私、・・・・は、あなたを妻として迎え、喜びの時も悲しみの時も、健やかなる時も病める時も、命ある限り愛し敬い、堅く節操を守ることを誓います』『私、・・・・は、あなたを夫として迎え、喜びの時も悲しみの時も、健やかなる時も病める時も、命ある限り愛し敬い、堅く節操を守ることを誓います』
	Ｎ	ジュンサンが読み終わってユジンを見た。ユジンは目を閉じて手を組んで、何かを一心に祈っていた。
	ジュンサン	「ユジン、何してるの？」
	ユジン	「お祈りしてるの」
	ジュンサン	「なんのお祈り？」
	ユジン	「今日一日、ありがとうございました。それから・・・今こうしてあなたと一緒にいられることを心から感謝しますって（目をそっと開いてまたつむり）あなたも早くお祈りして」
	Ｎ	ジュンサンは笑いながらユジンに言われるがまま、横に座って手を組んだ。
	ユジン	「何してるの？お祈りして」
	ジュンサン	「（目を閉じたまま）心の中で祈ってるよ」
	Ｎ	笑ってユジンもまた目を閉じる。
090	ジュンサン	「（まじめな声で）一人の女性を愛しています」「その女性と白髪の老人になるまで一緒に生きたいと思います。その女性と目が似ている子供たちを授かって、父親になりたいと思います。愛する女性と子供たちにとってあたたかい手となり、丈夫な脚となってあげたいのです」
	Ｎ	祈っているジュンサンの横顔を見るユジンの目に、涙が光った。ユジンの視線を感じて目を開けたジュンサンはユジンをじっと見つめて言った。
	ジュンサン	「・・・・愛しています」
	Ｎ	チュンチョン（春川）のユジンの実家の前、車が止まり、ミヒが降りてきた。ユジンの家に向かい、チャイムを鳴らす。しばらくして出てくるユジンの母。「どちらさまですか」と言いながら門を開けるが、ミヒを見て顔色を変えた。
	ミヒ	「こんばんは」
	Ｎ	ユジンの母がキッチンでお茶を用意している。ミヒは居間に座ってヒョンスの遺影をじっと見ている。ユジンの母がそこへお茶を持って入ってくる。
	ミヒ	「お気遣いいただかなくても結構ですのに・・・」
	ユジンの母	「いいえ、ユジンの父親のお客様ですから、そんなことはできませんわ。お茶をどうぞ」
	ミヒ	「ありがとうございます」「・・・・私がなぜ訪ねてきたか、おわかりになりますか？」
	ユジンの母	「さあ・・・・」
100	ミヒ	「娘さんのお名前、チョン・ユジン・・・・ですよね？」
	ユジンの母	「ええ」
	ミヒ	「では、カン・ジュンサンという名前もお聞きになってますね」「（冷たい口調で）ジュンサンは・・・私の息子です」
	Ｎ	聖堂の中。予行演習していた新郎新婦と同じ場所に立っているユジンとジュンサン。ジュンサンがおごそかにユジンの首にネックレスをかけ、ポラリスの部分を直す。二人はじっと見つめ合っている。
	ジュンサン	「僕と・・・・結婚してくれる？」
105	Ｎ	ユジンは静かにうなずいた。ジュンサンがゆっくりとユジンにキスをする。二人の横顔をほのかな光が包んでいった。

第１６話劇終