ストーリー
人魚のお城の六人姉妹の末娘マリーナは誰よりも可愛らしい容姿と誰よりもきれいな声を持っていました。15歳になり真珠の髪飾りを貰わないと海の上の人間の世界を見ることが許されない掟があったのですが、好奇心を抑えられないマリーナはクジラのデュークの口の中に隠れ、こっそりと城を抜け出しました。姫が胸を躍らせながら初めてみた人間とは船上で誕生パーティーを催している美しい王子様でした。突然の嵐に、海に投げ出された王子を救うマリーナ。美しい王子に恋をしたマリーナは自分の美しい声と引き替えに海の魔女から人間になる薬を貰い、人間となったのでした。声を失ったものの王子と一緒の幸せな生活を送るマリーナ。だが、その幸せに影を差す出来事が…。果たして、マリーナと王子の恋は成就するのでしょうか。

アンデルセン童話 にんぎょ姫
東映動画 1975年公開





















ナレーション はるか、沖合の海の水は、美しいやぐるまぎくの花びらのように青く、深く透き通ったガラスのように澄みきっています。
その深い深い海の底に、人魚の仲間、このお話の主人公マリーナたちは住んでいるのです。
オープニング あこがれ
ナレーション 海の底をイルカのフリッツと優雅に泳いでいる人魚姫マリーナ。
すると、突然、激しい海流が起こり、マリーナたちは海底の岩に身を寄せました。
マリーナ 「やっぱり魔女の仕業だわ」
フリッツ 「・・なろう!みんなの海だというのにあの気まぐれ魔女め!」
ナレーション どこからともなく海の魔女の声が響いてきました。
海の魔女 「ははははは・・・何が気まぐれなのさ、小魚どもめが。私がこの海で一番恐ろしい魔女様さ。海の事で私の思いのままにならない物は無いんだ。さあ、海よ暴れろ!波よさかまけ!」
ナレーション マリーナたちは必死で、荒れ狂う海の底を城まで帰ってきました。
マリーナ 「はぁ、はぁ・・・フリッツ、やっとお城へ帰れたわ」
フリッツ 「じゃあ、またな!マリーナ」
10 マリーナ 「バイバイ!フリッツ」
フリッツ 「バイバ〜〜イ!」
マリーナ 「ただいま〜」
マリーナの姉 「マリーナ。末っ子のチビなのに遠出《とおで》してきたのね・・・外は魔女嵐なのに」」
マリーナ 「フリッツと一緒だったもん、平気よ」
マリーナの姉 「腕白坊主のフリッツと遊んでちゃ、いつまでも大人になれないわよ」
「おばあさまから、いつまでたっても真珠のヘアピンを頂けないわよ」
マリーナ 「・・・真珠のヘアピンがもらえないとしたらショックだわ・・・ねえ。ねえ、お姉様たち、私の帰りが遅かったこと、おばあさまには内緒よ」
マリーナの姉 「うふふふふふふ・・・」
老妃 「マリーナ・・・」
マリーナ 「あ・・はぁい・・・」
20 老妃 「姉姫達もみんな揃っていたら、こっちへ来ておくれ」
マリーナの姉 「・・・は〜い。おばあさま」
マリーナ達は、大きな扉をくぐり抜け、父王とおばあさまのいる部屋へやってきました。
マリーナの姉 「なあに、おばあさま、お父様」
「嵐の時にいつまでも起きていては物騒だ。今日は早く寝なさい」
マリーナの姉 「はい、お父様、おばあさまお休みなさい」
マリーナ 「うふ・・・お休みなさ〜〜い」
ナレーション 翌朝は、嵐もおさまり良い天気でした。
マリーナ 「海の上までお散歩?」
マリーナの姉 「そうよ」
30 マリーナ 「こっそりついてっちゃおうっと・・・」
老妃 「駄目です。マリーナはまだ子供でしょ」
マリーナ 「お姉さん達より泳ぎは上手いわ」
老妃 「でもまだ小さいから氷山に押し潰されます」
マリーナの姉 「海辺には怖い動物も来るのよ・・・ワンワン・・ってほえるのよ」
「人間の悪い子が石をぶつけるのよ」
マリーナ 「でも・・・海の上は楽しいって、いつも喋ってるくせに」
マリーナの姉 「おばあさま、行ってまいりま〜す」
マリーナ 「あ・・あぁ・・・」
ナレーション 姉たちはマリーナを置いて、海の上へ泳いでいき、マリーナは一人、ぽつんと残されてしまいました。
老妃 「マリーナ」
40 マリーナ 「・・・ん・・・もぅ・・・おばあさまぁ」
老妃 「もう少し待つの。そうしたら一緒に行けますからね」
ナレーション マリーナは、姉たちが海の上へ昇っていく様子を岩陰に隠れて見ていました。
姉達は真珠のヘアピンを門番達に見せて、楽しそうに海の上へ泳いでいきました。
マリーナ 「・・・やっぱり通行証が無いとだめなんだわ・・・」
フリッツ 「マリーナ!がっかりすんなよ。面白いもん見つけたんだ」
マリーナ 「面白いもの?」
ナレーション マリーナはフリッツのあとを泳いでいきました。
フィリッツ 「あそこだよ」
マリーナ 「また魔女が沈没させた船じゃない?」
ナレーション マリーナは船の中に転がっていた長靴を手にすると不思議そうに眺めていました。
50 マリーナ 「判った!きっと陸の王様の冠よ」
フリッツ 「ああ、マリーナのお父さんみたいだ」
マリーナ 「ふふふふ・・・えへん!」
ナレーション マリーナはパイプを口にくわえ、勢いよく吹いて見ました。
フリッツ 「笛か?」
マリーナ 「・・・でも、鳴らないわ・・・壊れてるのね」
「よし!中を探ってみよう」
ナレーション 船の底へもぐっていくと、一番奥の部屋に人間の形をした像をみつけました。
マリーナ 「まぁ・・・」
フリッツ 「人間の化石かな・・・」
ナレーション それはまっ白にすきとおる大理石を刻んだ、美しい青年の像でした。
60 マリーナ 「素敵だわ。海にはこんなに凛々しい男の子はいないわ、陸にはきっといるのね」
フリッツ 「チェ!おいらだって凛々しい男の子だぜ。人魚じゃないけどよ・・・いつまでぼうっとしてるんだよ」
マリーナ 「やっぱり海の上に行きたいわ。海の上はお姉様のお話よりもっともっと素晴らしいのよ、きっと」
フリッツ 「おいらも行きてぇなぁ・・・」
マリーナ 「・・・でも、通行証がないと・・・」
フリッツ 「・・・あっ!名案がある!」
マリーナ 「どうするの?」
フリッツ 「お城を抜けといでよ。昆布も眠る丑三つ時にさ」
ナレーション 真夜中、海の中が深い藍色に染まり、みんな眠りについています。
マリーナはフリッツと連れ立って、鯨のデュークの所へやってきました。
フリッツ 「じいちゃん」
70 鯨のデューク 「・・く・・くく・・くすぐったい・・・こら、腕白フィリッツめ」
マリーナ 「起こして御免ねデューク」
鯨のデューク 「おや人魚城の末っ子姫も一緒かい」
マリーナ 「お願いがあるの」
鯨のデューク 「なんじゃい?」
ナレーション マリーナはデュークの耳もとで、何ごとか囁きました。
鯨のデューク 「何!脱走?!そりゃいかん。そんないたずらには手を貸せん」
フリッツ 「ケチ!」
鯨のデューク 「はは・・ん、フリッツがそそのかしておるんじゃな」
マリーナ 「私、本当に早く海の上に観光旅行がしたいんです」
80 鯨のデューク 「早すぎるの」
フリッツ 「おいらは知ってるぜ」
鯨のデューク 「何をだ!?」
フリッツ 「デュークが七つの海に出発するときに人魚城の屋根の真珠を一つ失敬したってね。あれ、恋人のおばあさん鯨のお土産にしたんだよな」
鯨のデューク 「ん・・、く・・・ああ・・・仕方ない。入れ。ほら」
ナレーション デュークは大きな口をあけ、マリーナをその中へ隠すと門番のいる関所へ泳いでいきました。
鯨のデューク 「七つの海のデューク様だぞ。居眠りは許さん」
「ご苦労!」
ナレーション 海の上へ出るための通行関所をデュークは、悠然と通り抜けていきました。
フリッツ 「ひゃっほ〜〜わっは〜〜〜!海の上に行くんだぞ〜〜〜!」
鯨のデューク 「何だ、フリッツも初めてか?おあ〜〜ぉ、お前は人魚姫より5つも弟だから無理も無いの」
90 フリッツ 「5つも弟じゃないよぉ、3つちっちゃいだけだよ」
鯨のデューク 「おぉ、そうかそうか」
「さて、そろそろ海の上じゃ、もう、追手もかかるまい」
「ほ〜〜〜ら」
マリーナ 「ありがとうデューク」
ナレーション デュークの大きな口の中からマリーナが出て、続いて笛奴とハリセンボンが出てきました。
フリッツ 「あ・・・笛奴《ふえやっこ》とハリセンボン・・」
鯨のデューク 「無断侵入とはけしからん」
笛奴 「堪忍へ・・・」
ハリセンボン 「スンマヘン」
マリーナ 「ハリセンボンも笛奴《ふえやっこ》も秘密を守るって約束してくれたの」
フリッツ 「おしゃべりコンビだもん、信用できるか!」
100 ハリセンボン 「心配おまへんて」
笛奴 「へぇ、ほなさいならぁ」
鯨のデューク 「フリッツ!人魚姫をしっかり護衛して早めにお城へ戻るんだぞ」
マリーナ 「あら・・・デュークは?」
鯨のデューク 「わしがおると捕鯨船に狙われる。じゃぁ、気をつけてな!」
マリーナ 「行くわよ、フリッツ!」
ナレーション マリーナが、海の上に初めて顔をだしました。海の上には半分に欠けた月が光っていました。
フリッツ 「やぁ、真珠貝の潰れちゃったようなのが上にぶら下がってるよ」
マリーナ 「いやぁね、あれはお月様よ。昼間のお日様より偉いのよ。おばあさまが教えてくださったわ」
フリッツ 「ふ〜ん、兵隊の位にすると昼の大将がお日様で、夜の大将がお月様か」
110 マリーナ 「う〜ん、やっぱり素敵だわ・・・髪を揺さぶるのが、これが風さんね」
フリッツ 「ちぇ!詰まんないの。真っ黒で何にも無いじゃないか」
マリーナ 「でも、デュークのお口の中の暗さとは違うわ。甘い地上の匂いがする」、
フリッツ 「もっと面白い所へ場所換えしようよ。カニの門番をだまくらかしてきたかいがないもん」
ナレーション 突然、大きな音とともに夜空に大きな花火が何発もうち上がりました。マリーナはその美しさにしばらくぼうっとしていました。
フリッツ 「でっかい船だなあ・・・」
マリーナ 「綺麗だわ・・・」
ナレーション 空気はなごやかに澄んでいて、海はすっかり凪いでいました。
三本マストの大きな船が軽やかに走っています。マリーナ達の耳に音楽と歌声がして来ました。
マリーナ 「何かが始まったのかしら」
フリッツ 「ここからじゃよく見えないなあ・・・ねえ、あそこがいいよ」
120 マリーナ 「あっ!フリッツ。まって!」
ナレーション フリッツとマリーナは海の上に突き出た氷山に上がって様子を見ることにしました。


船の上には、大勢、美しい服で着かざった人がいました。
マリーナの目に船べりに立つ美しい青年の姿が目にとまりました。大きな黒い瞳の若い王子でした。

マリーナは王子をじっと見つめました。
マリーナ 「あの方は大理石の像とそっくり・・・こんなことってあるかしら・・・」
フィヨルド王子 「あ・・・あれは!」
ナレーション (執事)
「何で御座います?」
フィヨルド王子 「人魚だ。ほら、氷山の上に!」
ナレーション (執事)
「まさか・・・」
「王子様は誕生パーティーのワインにお酔いになられたのです」
ナレーション やがて波が高くなって来て、大きな黒雲がわきだしました。遠くで稲妻が、光りはじめました。恐ろしい嵐になりそうです。水夫たちは驚いて、帆をまき上げました。
海の底では、海の魔女が海蛇に怒りをあらわにしていました。そのムチの一振り一振りが海上で稲妻となり嵐となって荒れ狂っていたのでした。
海の魔女 「この間抜けめ!いつになったら美味い生き血料理をつくれるんだい!ぐだぐだととぐろばかりまいついて!」
ナレーション 大きな船は、荒れる海の上をゆられ,波が大きな黒山のように高くなって、マストの上にのしかかろうとしました。けれど、船は高い波と波の間を、深くくぐるかと思うと、またもりあがリ高潮の上につき上げられてでて来ました。
130 マリーナ 「王子様の船が沈みそうだわフリッツ。あの船から離れないようにしましょう」
フリッツ 「そんな事いたって、こんな嵐じゃ、こっちだって危ないよ」
ナレーション 船は大きな音をたてて軋みました。さしもの頑丈な船板も、横腹を当てられて曲り、稲妻が空を切り裂きマストは真ん中からぽっきりと折れました。
大波に揺られ船は横倒しになり、波が所かまわず船に流れ込みました。
マリーナ 「フリッツ、このままでは王子様が死んでしまうわ」
フリッツ 「マリーナそっちいっちゃ危ないよ!」
ナレーション マリーナも、水の上に押し流された船のはりや板きれにぶつからないよう用心しなければなりませんでした。
皆も恐怖でパニックになっていました。荒れ狂う海の上で若い王子の姿を、マリーナは探し求めました。

マリーナの目に王子の姿が目にはいったとたん、船とともに、王子は海の底深く沈んで行きました。
マリーナ 「王子様!」
フリッツ 「マリーナ!!」
ナレーション マリーナは沈む船の中を、力の限り王子を探し回りました。
マリーナ 「王子様〜!!」
140 フリッツ 「マリーナ!!」
ナレーション 船の中に王子の姿はありませんでした。
マリーナは荒れ狂う高い波のあいだに木切れにつかまり漂う王子の姿を見つけました。
その時、大波が王子を飲み込み、波が過ぎた後に王子の姿はありませんでした。
マリーナは王子の姿を求めて海中へ潜りました。

海中を、王子が力なく沈んで行くのが見えました。
マリーナ 「王子様!」
ナレーション マリーナは、王子の頭を水の上に高くささげて、あとは、波が、自分と王子とを、好きな所へ運ぶままにまかせました。
マリーナ 「王子様、しっかり・・・王子様・・・」
ナレーション 王子が、目を開け、マリーナの顔を見つめました。しかし、直ぐに気絶してしまいました。

明け方になり酷い嵐もやみました。船のものは、殆ど残ってはいませんでした。
岸辺に泳ぎ着くと王子を優しく白い砂の上に横たえ、泳ぎ疲れたマリーナは、王子の体の上にその体を預けました。

倒れたまま動かない王子の顔をマリーナはじっと覗き込みました。
マリーナ 「王子様・・・」
ナレーション マリーナは愛しそうに王子の唇にそっと手の指で触れ、悲しそうに王子の体に抱きつきました。
マリーナ 「死んじゃいや。王子様・・・死んじゃいや・・・」
フィヨルド王子 「ん・・・ん・・・・」
150 マリーナ 「生きてる・・・生きてるわ。王子様・・・私の命と引き替えても必ず・・・必ずお助けします」
ナレーション マリーナはひれのうろこを一枚取ると、王子の肩の傷にあてました。
朝日が黄金色の光とともに昇ってきました。マリーナは王子の額にそっと口づけしました。

修道院の鐘の音が鳴り響きました。
鐘の音に王子が気がついたのでしょうか?王子がうっすらと目を開けました。しかし、また意識をなくしてしまいました。
マリーナ 「王子様・・王子様・・・」
ナレーション 修道院の中から若い少女たちが大勢、外へで出て来ました。
マリーナは、慌てて海の中へ潜りました。
スオミの姫 「まあ、人が倒れているわ」

「しっかりして・・・しっかりして!」

「・・・気付いたわ・・・良かった・・・」
ナレーション 様子をじっとマリーナが見詰めていました。
フリッツ 「マリーナが助けたんじゃないか。王子様が気付くまで一緒にいてあげればよかったんだ」
マリーナ 「だって・・・私の尻尾を見たら王子様はきっと驚いてしまうわ」
ナレーション 海底では消えたマリーナを探すため大騒ぎになっていました。

(カニ門番)
「マリーナ姫特捜本部が設置された。お前たちは全力をあげて姫を探し出せ。なおそそのかし犯のフリッツは見つけ次第、海底警視庁に引っ立てろ」
フリッツ 「おいらが難破船を探してる間に、マりーナは居なくなってしまうんだもん。ひやっとしたよ」
160 マリーナ 「フリッツ、御免ね。でも、今日の王子様のこと誰にも秘密にしといて頂戴」
フリッツ 「うん」
ナレーション 突然、マリーナとフリッツは海底パトロール隊に囲まれてしまいました。

(海底パトロール対)
「不良こわっぱフリッツ!来い!」
マリーナ 「何をするの?フリッツは悪くないの。私が悪いの」
ナレーション (海底警察官)
「姫は直ぐにお城にお帰りください」
「心配をかけおって!この親不孝者が。人魚は300年の間、死なないといっても、事故にあえば死ぬんだ」
「船に巻き込まれて亡くなったお前のお母さんのように」
マリーナ 「ごめんなさい・・・」
「以後、一人泳ぎは絶対に許さん」
「フリッツを家来にするのもいかん」
老妃 「あんまり厳しすぎるとかえってヤンチャになってしまうもんですよ」

「パトロール隊に捕まったフリッツの話では、マリーナは魔女嵐で溺れた人間を助けたとの事。もう姉姫たちの仲間に入れても良いと思います」

「15歳の成人式にはちょっと早いが、明日、成人式を開くことにしましょう」
マリーナ 「おばあさま・・・」
170 「う〜〜む・・・まあ、おばあさまの命令なら・・・それではマリーナ。明日は成人式だ」
マリーナ 「まぁ!嬉しいィ!!」
「おばあさまありがとう」
「お父様ありがとう」
笛吹 「さすがはウミセンのおばあさん人魚や」
ハリセンボン 「へー、物分りよろししおすなぁ」
成人式の日、居並ぶ姉姫の前で父王から真珠のヘアピンを髪につけてもらいました。
「さあ、この真珠が成人のしるし。海底王国出入り口のパスポートだ。外に出ても恥ずかしくない立派な人魚になるんだぞ」
マリーナ 「はい。お父様」
「さて、記念の音楽会だ、他に並びないマリーナの歌声が、今日はまたひとしお美しく弾むであろう」
挿入歌 待っていた人
成人式は終わり、マリーナは沈没船の中の王子の石造に寄り添いしっかりと体を寄せうっとりしていました。
フリッツ 「マリ〜〜ナ〜〜マリ〜〜ナ〜〜!」
「マリーナ!やっぱり王子様の像を見てたんだね。グッドニュースがあるんだよ」
180 マリーナ 「なぁにフリッツ?」
笛吹 「ニュースはわてらが掴んできたんや」
ハリセンボン 「嵐のときの王子様はな、フィヨルドのほとりのマリン離宮のお方です」
マリーナ 「フィヨルドのほとりの?」
笛吹 「やっぱり恋してはんにやぁ」
ハリセンボン 「顔あこぅなった。ひゃはははは」
フリッツ 「おしゃべりコンビはもう、消えちゃえ」
笛吹 「ほなさいなら」
ハリセンボン 「バイバイさん」
ナレーション マリーナの心は王子に会いたい気持ちで一杯でした。
190 マリーナ 「私、行くわ」
フリッツ 「フィヨルドのマリン離宮にかい?」
マリーナ 「そう・・・でも、この姿じゃ王子様にお会いできないかしら・・・」
フリッツ 「氷山の上から眺められるよ」
マリーナ 「私・・・魔女に頼みに行くわ!」
フリッツ 「魔女に・・・!?」
マリーナ 「魔女の魔力があれば、きっと人間に変身できるわ」
フリッツ 「人間に変身?」
マリーナ 「王子様にお会いするにはそれしか・・」
フリッツ 「マリーナの馬鹿!魔女の館に行くには、おっかない魔女の森があるんだよ!」
200 マリーナ 「知ってる」
フリッツ 「し・・し・・知ってる?!そんな事したら殺されちゃうよ!」
マリーナ 「でも、行かなくちゃいけないの・・・」
フリッツ 「マ・・マ・・・マリ〜〜ナ!あぅ・・・どうしよう・・・マリーナの危機一髪・・・」
マリーナはおどろおどろしい、海の魔女の館の入口にいました。マリーナは意を決して中へ入ろうとしたその時でした。
フリッツ 「駄目!絶対駄目!」
マリーナ 「止めないで決心したの!」
フリッツ 「やだ!王様にいいつける!」
マリーナ 「そんな事したら絶交よ!」
フリッツ 「・・・ぜ・・・絶交・・・?・・・酷いよ絶交なんて・・・」
210 マリーナ 「だったらどいて!」
フリッツ アリーナーー!」
ナレーション マリーナはフリッツの止めるのも聞かず、海の魔女の館へ入って行きました。途中、巨大イカやうつぼに襲われましたが、フリッツの活躍でなんとか脱出することが出来ました。
フリッツ 「魔女の館だ、どうしても入るのかい?」
マリーナ 「ええ」
フリッツ 「じゃ、おいらも」
マリーナ 「いいえ、これ以上フリッツまで危ない目には・・・」
フリッツ 「嫌だ!ヤダヤダヤダヤダ!行くったら、行くんだ!」
マリーナ 「しっ・・・魔女が目を覚まして怒ったら大変よ」
ナレーション マリーナが扉をノックしました。すると、大きな扉がギギギギと軋みながらゆっくりと開きました。マリーナが一歩中へ入ったとたん扉は勢いよく閉じてしまいました。
220 海の魔女 「来たね、人魚のチビ姫さん」
マリーナ 「きゃ!・・・魔女様・・・」
海の魔女 「驚くことは無いさ。お前が何で来たのかくらい、この私にはちゃんとわかっているんだから」
マリーナ 「ま・・ま・・・魔女様・・・あ・・・あの・・・私・・・」
海の魔女 「恋をすると馬鹿になるって本当だねえ・・・お前さん魚の尻尾を取っちまって、その代わり人間が歩くときに使う2本のつっかい棒が欲しいんだろ」
マリーナ 「はい・・・そうなのです。魔女様・・・」
海の魔女 「よかろう。その願い叶えてやろう・・・但し・・・」
マリーナ 「但し・・・?」
海の魔女 「一度人間になっちまえば、お前はもう二度と人魚の姫には戻れないんだよ?」
マリーナ 「はい・・・」
230 海の魔女 「したがって、二度と水を潜って人魚の城にも帰れない。5人の娘や父やおばあさんにも会えないってわけさ」
マリーナ 「はい・・・」
海の魔女 「それに、いくらお前が王子に惚れたって駄目なのさ。王子の方もお前を死ぬほど好きにならなきゃ始まらない。もしも王子が誰か他の女とでも結婚しようものなら、次の朝にはお前の心臓は破裂して死に、水の泡となってしまう」

「そして肝心の3つ目だけどね。どうだい?お前の声をこの私におくれでないかい」
マリーナ 「声を・・・?」
海の魔女 「そうとも。人魚王国第一とうたわれるお前の素敵な綺麗な声を!」
マリーナ 「こ・・・声をあげてしまっては王子様とお話ができません」
海の魔女 「ハハハハハ・・・お前にはそんな可愛らしい目があるじゃないか」
マリーナ 「目!?」
海の魔女 「もしも声が出なくたって、男の心を揺さぶる事はできるのさ。な〜に、声なんかなくっても、明日の朝には素晴らしい踊りのおどれる素敵な足が2本、尻尾の替わりに生えてくるんだ」
マリーナ 「・・・・」
240 海の魔女 「お〜や、やっぱり皆に会えなくなるのが辛いのかい?それとも水の泡となっちまうのが怖いんだね?」
マリーナ 「・・・いいえ・・・それでも構いません、魔女様。どうぞ私を人間に・・・!」
海の魔女 「ハハハハハハ・・・・・いいかい、この薬は明日の日の出までに飲まないと効かなくなるよ」
ナレーション しばらくして、マリーナが海の魔女の館から出てきました。虚ろな表情のマリーナにフリッツがそっと近づきました。
フリッツ 「・・・マリーナ・・・聞いちゃったよ・・・もう、声が出ないんだね・・・」
ナレーション マリーナは蒼白い顔で黙ってうなづきました。
フリッツ 「おいら、もう二度とマリーナの、あの優しい声が聞けないんだね・・・嫌だぁ!おいらマリーナが人間なんかになるの嫌だぁ!」
マリーナ 『お父様、おばあさま・・・お姉様、さようなら・・・私は明日の朝までにフィヨルドまで行かなきゃならないの。そらからフリッツ・・・」
フリッツ 「おいら、マリン離宮まで送るよ」
マリーナ 『いいえ、別れが益々辛くなるもの、これでさよならするわフリッツ」
250 フリッツ 「あっ!マリーナ・・マリーナ!!」
ナレーション マリーナは後ろを一度、振り返り、フリッツを見るとそのまま、海の彼方へ泳いでいきました。後には悲しげに見送るフリッツの姿が残りました。

泳ぐマリーナの顔には悲しさよりも、愛しい王子に会える喜びが湧き上がっていました。
翌朝、日の出前、マリーナはフィヨルドのマリン離宮に着きました。岸辺に上がるとマリーナは海の魔女からもらった薬を取り出し、一気のそれを飲み干しました。

突然、刺すような痛みがマリーナを襲いました。マリーナは息が出来なくなりもがき苦しみ気絶してしまいました。朝日が海の彼方からゆっくりと昇り始め、その光がマリーナを照らしました。

マリーナの魚の尻尾は海の魔女が言ったように、2本の足に変わっていました。マリン離宮の尖塔の窓に王子が現れました。
フィヨルド王子 「・・・はっ!」
ナレーション 「王子は一目散に城の階段をかけおり、岸辺に倒れているマリーナの元へ走りました。
フィヨルド王子 「どうしたんだ、君、ねえ、君!」
「しっかりしなさい」

「気がついたんだね。よかった」
ナレーション マリーナは足を見ました。足を動かしてみました。
フィヨルド王子 「大丈夫のようだね」
「よし、起こしてやろう」
ナレーション 「マリーナが立ち上がると力なくよろよろとよろけて、王子にすがり付いてしまいました」
フィヨルド王子 「あ・・・」
「お〜〜い、誰かいないか!」
ナレーション 城から出てきた女中が、マリーナの体にシーツを巻きつけ城の中へ連れて行きました。
260 フィヨルド王子 「どこから来たんだろう・・・」
女中 「これでよし、王子様のタイツもぴったり。あんたの足は長いんだねえ」
「ま、凄いんだ。こんな大きな真珠見たこと無いよ」
「あんた・・・あ・・いや・・・あなた、どっかのお姫様じゃないんですか?」
「いえ・・・だってねぇ・・・王子様のお母様だってそんな真珠は持っちゃいませんよ」
ナレーション 「マリーナは真珠のヘアピンを外すと、女中に差し出しました。
女中 「あれ・・・こ・・これ下さるってのか?・・め、滅相も無い。恐ろしいこった。それにしても一体全体、どこから来なすった・・・ん〜〜〜・・・まさか、気が変になってる・・てんじゃないだろうけど・・・」
「恐ろしく気前がいい事といい、おっとりしてることといい、箱入り中の箱入り娘に違いない」
「きっと海賊かなんかにさらわれちまったんだね・・・可哀想に・・・うううう・・」
ナレーション 正装をしたマリーナが王子の待つ部屋へ入ってきました。
フィヨルド王子 「髪の毛が短ければ、僕の弟みたいだ」
「君はどうしてこの城の前で倒れていたの?・・・そうか、判らないの?・・・じゃ、名前はなんて言うの?」
「そうか・・・君は口がきけないのか・・・あ、そうだ・・・字なら書けるだろ?何でもいい書いてごらん」

「君の顔を見ていると、いつかどっかで見たような気がする。不思議だなあ・・・」
ナレーション マリーナは悲しげな顔で口を動かして、王子に話しかけました。
フィヨルド王子 「え?何ていってるの?」
ナレーション マリーナは一生懸命、身振り手振りで王子に話そうとしましたが、王子にはマリーナの伝えたいことが判りませんでした。
それから一ヶ月、月日は流れました。マリーナは王子の側でハープを弾いていました。とtrも美しい音色でした。
フィヨルド王子 「君のハープは、まるで波の音のようだ」
「晴れた日のさざなみ。嵐の竜巻。優しくそして激しく僕の心を揺さぶる」
「君は海から来た。だからこれから人魚姫って呼ぶよ。・・・・ね、人魚姫」
270 ナレーション マリーナは目を輝かせて嬉しそうに頷きました。
フィヨルド王子 「人魚姫は優しくて綺麗な子だから、小鳥のチュンも判るんだね」
ナレーション その時、窓から子供の声がして王子が窓辺に走り寄りました。
フィヨルド王子 「あ、イルカだ」

「あ、人魚姫!」
ナレーション マリーナは慌てて城の外へ走って行きました。長い階段を走っていきます。その後を王子も追いかけました。
岸から子供たちがイルカに石を投げて遊んでいました。子供たちを掻き分けて、マリーナが海の中へ入っていきました。
フィヨルド王子 「生き物を苛めるんじゃない」
フリッツ 「マリーナ・・・」
マリーナ 『来てくれたのね・・・。危ない目にあいながら」
フリtッツ 「幸せかい?僕の力が要る時は真珠のヘアピンをかざすんだ。僕、いつでも来るからね。じゃ!」
マリーナ 『フリッツ・・・』
『フリッツ・・・まだ、私の事、思ってくれるのね・・・』
280 フィヨルド王子 「人魚姫・・・イルカも君の友達みたいだ」
「本当に優しい子だね。人魚姫は」

「さ・・・明日は遠乗りに連れてってあげよう」
ナレーション 王子と人魚姫は馬を駆って、森の中を走っていきました。
フィヨルド王子 「人魚姫、もう直ぐ湖だ。競争しよう」
「人魚姫、なかなかやるな。それ!」

「よし、左の道だ」
ナレーション 王子の馬は先に走っていきました。後を追うマリーナは、馬が暴れて振り落とされてしまいました。落馬したマリーナに狼の群れが狙いをつけました。
逃げるマリーナを狼達は執拗に追っていきます。狼に気付いた王子が馬を駆って戻ってきました。
飛び掛る狼の背中に矢が刺さり、狼は倒れました。王子は襲い掛かる狼に次々矢を打って行きます。
王子が剣をふるって狼を倒していきました。

ある日のこと。マリン離宮に早馬が到着しました。
フィヨルド王子 「何をそんなに慌てているのだ」
ナレーション (侍従長)
「私は王様に呼び出されました」
「大事な用事とは王子様にお見合いをせよとの事でございます」
フィヨルド王子 「お見合い?」
ナレーション (侍従長)
「お見合いのお相手はスオミの国の王女様です」
フィヨルド王子 「スオミの国?」
ナレーション (侍従長)
「その王女様は外国へも留学なされた美しいお方です」
290 フィヨルド王子 「悪いけどその話、断ってくれ」
ナレーション (侍従長)
「断るですと?とんでもありません。王様と王妃様のご命令は絶対です。王子様といわれてもわがままは許されません」
小鳥(チュン) 「人魚姫、そんな悲しい顔しないで。王子様は人魚姫がお好きなのよ。きっとお見合いしてもお気に召すはずが無いわ」
ナレーション 夜、マリン離宮の外。岸辺の岩の上でマリーナが悲しくうなだれている。
フィヨルド王子 「人魚姫。僕にお見合いの話があるんだ。・・・でも、僕が思い続けているのは白い砂の浜辺で出会った人さ」
「嵐が起きて船が沈んでね。僕は気を失って浜に打ち上げられたことがある。その時助けてくれた黒い髪の女の子なんだ」
マリーナ 『黒い髪の女・・・」
フィヨルド王子 「その人の名も、居所も判らない。だから会えっこないのさ」
「無理に見合いの相手を選ぶくらいなら、人魚姫、僕は君を選ぶよ」
ナレーション (侍従長)
「う〜〜む、王子様の心を捉えているのはあの女だな・・・けしからん・・・」
フィヨルド王子 「何!お母様がご病気!」
ナレーション (侍従)
「どうぞ、お迎えの船で大宮殿までお帰りください」
300 フィヨルド王子 「判った。人魚姫、直ぐ出発だ」
ナレーション (侍従)
「あ、その姫はなりません!」
フィヨルド王子 「どうしてだ?」
ナレーション (侍従)
「それは・・・その・・・」
フィヨルド王子 「この姫は僕が妹のように可愛がってる姫だ」
女中 「それは心の優しいお姫様です」
ナレーション (侍従長)
「さあ、お仕度、お仕度。船がたちますぞ」
フィヨルド王子 「人魚姫。僕と一緒に祈ってくれ。お母様のご病気が少しでも楽になるように」
ナレーション (王)
「その必要は無い」
フィヨルド王子 「お父様・・・お母様も!」
310 王子の母 「心配をかけたけれど私の病気は治りました」
ナレーション (王)
「この船はこのままスオミの国へ行く」
フィヨルド王子 「スオミの国?」
王子の母 「スオミの国の王女とお見合いをさせます」
フィヨルド王子 「騙したのですね!」
ナレーション (王)
「それより他に方法が無かったのじゃ。それ!」
ナレーション 王の命令で人魚姫は船倉に閉じ込めらてしまいました。
フィヨルド王子 「人魚姫!!」
ナレーション マリーナは海を眺めながら、王子の言葉を思い出し信じようと思いました。
フィヨルド王子 『無理に見合いの相手を選ぶくらいなら、人魚姫、僕は君を選ぶよ』
320 ナレーション スオミの国。王子を乗せた馬車が城へ到着しました。王と王妃の待つ部屋で王子はスオミの姫を紹介されました。
スオミの姫 「ようこそ、フィヨルド王子様」
フィヨルド王子 「あ!・・・あなたは!!」
スオミの姫 「まぁ・・・あの時の・・・」
ナレーション あの時の姫が、もう会うことは出来ないと思い諦めていた姫が、王子の目の前に現れたのです。王子の胸は高鳴りました。
フィヨルド王子 「夢のようです・・・」
スオミの姫 「私も・・・」
ナレーション フィヨルド国の王子とスオミの国の王女の結婚が決まりました。
マリーナは城の一室でドキドキしながら王子の来るのを待っていました。
フィヨルド王子 「人魚姫!

「人魚姫!喜んでおくれ。スオミの姫は僕が憧れていた人だったんだ」
「さっそく婚礼のお祝いだよ」
ナレーション スオミの国は喜びに沸きかえっていました。
マリーナは一人岩場に佇み、真珠のヘアピンを海にかざしました。その光は、海の底まで届きました。
330 マリーナ 『フリッツ・・・』
フリッツ 「マリーナ・・・そんな顔して・・王子が他所の人をお嫁さんにするのかい?」
「そいじゃ、マリーナは結婚式の次の朝、あぶくになっちゃう・・・魔女がそう言ったじゃないか。諦めるつもりなんだね」
「マリーナ!」
「悔しい!悔しいよ!悔しいよぉ!」

「さよならなんて嫌だよ!」
ナレーション マリーナの唇がさ・よ・な・ら、とフリッツに伝えました。
マリーナの瞳から涙が零れ落ちてきます。
フリッツ 「いやだ!いやだ!いやだよお!」
ナレーション 甲板の後尾でマリーナが海を見詰めていました。
マリーナ 『結婚式もとうとう終わったわ。もう直ぐ朝。お日様が昇れば魔女は私の命を取りに来る」
マリーナの姉 「マリーナー、マリーナー!っこよ!ここよ!」
マリーナ 「お姉様たち・・・髪が・・・」
マリーナの姉 「マリーナ、私達、魔女の助けを借りに言ったのよ」
「あなたが死なないですむように」
「魔女に髪の毛を切られたの。でも、代わりに魔法のナイフをくれたわ。フリッツ!」
「ナイフを受け取って!」
「マリーナ!良いわね。それで王子の心臓を突き刺すの。王子の血がマリーナの足にかかると足は縮んで魚の尻尾が生えるのよ」
「人魚に戻れるのよ!」
「マリーナは助かるのよ!」
「王子を殺せば助かるのよ!」
「早くなさい!お父様も、おばあさまも心配してるわ!」
「早く、もうじきお日様が昇るわ」
フリッツ 「マリーナ!早く帰ってよ!」
340 ナレーション マリーナは足音を忍ばせて、王子が寝ている寝室へ向かいました。そこには王子とスオミの姫が並んで眠っています。マリーナは剣を構えて王子の心臓を狙いました。マリーナは王子をじっと見詰めました。
マリーナ 『やっぱり駄目。王子様の幸せは私の幸せなんだもの・・・』
ナレーション マリーナは力なく甲板に上がると海を見詰めました。
マリーナ 『そうだ、この青く澄んだ海へ還ろう。海で生まれたのだから海で死ぬことにしよう。私が死んで泡になれば王子様やみんなの役にたつこともあるでしょう。それが私に出来る唯一の愛の証です。愛されることには失敗したけど愛することなら上手く行くかもしれない。そう、きっと小さくとも素晴らしい泡になっていつまでも、いつもでもあの人の近くに浮かんでいたい」
「さようなら、王子様、さようならお姉様たち・・・お父様、おばあさま」
「さようならフリッツ、さようなら私の海の仲間たち・・そして私の人生」
ナレーション マリーナが魔法のナイフを海に投げ入れると、それは真赤な光を放って輝きました。その光は王子の眠っている寝室にも届きました。
フィヨルド王子 「ん・・っは!!」
ナレーション 王子は起き上がると慌てて船の上にあがりました。その目に、船の縁に立つマリーナの姿を見つけました。
フィヨルド王子 「人魚姫!」
348 ナレーション マリーナは応じの声を振り切るように頭を振りました。そして、王子の目の前で海の中へと飛び込みました。後に真珠のヘアピンと人魚のうろこが一枚残されていました。手元に残った真珠のヘアピンとうろこを見て王子は全てを悟りました。

朝日が昇り始め、海に沈んだマリーナの体も明るく照らし出しました。マリーナの体は次第に解け、海の泡となって空高く上っていきました。

劇 終

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