風の谷のナウシカ

挿入曲:【風の谷のナウシカ イメージアルバム 鳥の人・・】より


風の谷のナウシカ

001 巨大産業文明が崩壊してから1000年、錆(さび)とセラミック片におおわれた荒れた大地に、腐った海・・腐海(ふかい)と呼ばれる有毒の瘴気(しょうき)を発する菌類の森が広がり、衰退した人間の生存を脅かしていた。
  【風の谷のナウシカ】
  挿入曲01 OP

風の伝説
〔3:09〕

  メーヴェが大空を舞っている。それを巧みに操っている少女がいる。少女の名はナウシカ。彼女はメーヴェを降りると、地上に出来上がった、鬱蒼(うっそう)とした腐海へ入っていった。

異形の植物が群生し、蟲たちが生息する腐海。ナウシカはその中を奥へと進んでいく。

森の中ほどに大きく開いた道があった。王蟲(おうむ)の道である。まだ新しいその道を踏んで進んでいくと、目の前に巨大な王蟲の抜け殻を見つけた。とてつもなく巨大な王蟲である。

  ナウシカ 「すごい・・・!完全な抜け殻なんて初めて・・」
  ナウシカはその巨大な王蟲の抜け殻をよじ登っていく。ナウシカは小型のセラミック刀を王蟲の抜け殻へ突き立てる。キーンと澄んだ硬い音が腐海にこだまする。
  ナウシカ 「うふ・・いい音・・・・ふふ・・・・セラミック刀が欠けちゃった・・」

「谷の人が喜ぶわ。道具作りの材料にずーーっと困らなくてすむもの」

  ナウシカは更に上へよじ登り王蟲の眼をのぞき込む。
  ナウシカ 「すごい眼・・・・これひとつならもって飛べるかな・・・」
010 ナウシカは銃の薬きょうから火薬を抜き取り、眼の回りへまくと、火薬に火をつけた。ボンッ!と火が走る。セラミック刀でしばらく眼のふちを削っていく。
  ナウシカ 「ああ・・とれた・・。わあ・・!!なんて軽いんだろう・・・うふふふ」

「・・・・あ・・・ムシゴヤシが午後の胞子を飛ばしている・・」

「きれい・・・マスクをしなければ五分で肺が腐ってしまう死の森なのに・・・」

  ムシゴヤシの胞子が王蟲の抜け殻の上に、雪のように降り積もっていく。ナウシカは時間の経つのも忘れてひとりじっと座っていた。
  ナウシカ 「あ・・・!?だれ!?・・・何かしら・・・胸がドキドキする」
  その時、腐海の外から小さく銃の音が聞こえた。
  ナウシカ 「ああっ!!蟲封じの銃だ!誰かが蟲に襲われてる」
  ナウシカは腐海の木を駆け上がり、外を見た。
  ナウシカ 「あそこだ!すごい胞子の煙・・・王蟲!!・・きっと、あの抜け殻の主だわ」
  ナウシカは腐海を飛び出しメーヴェに飛び乗ると、一気に砂煙(すなけむり)を巻いて上空へ舞い上がった。巨大な王蟲が、怒りで眼を真っ赤に光らせ、あたりにあるものをなぎ倒し突進してくる。
  ナウシカ 「なんて立派な王蟲・・」

「王蟲、森へお帰り。この先はお前の世界じゃないのよ・・・ねえ、いい子だから」

「だめッ・・・・怒りに我を忘れてる・・静めなきゃ・・」

020 ナウシカは王蟲の鼻先に光弾(ひかりだま)を破裂させた。王蟲は、目を回しその場に停止した。

ナウシカは蟲笛を鳴らし、王蟲を森へと誘導する。

  ナウシカ 「王蟲・・目を覚まして・・森へ帰ろう・・・・・あっ、気がついたわ!」
  ユパ 「おお・・・!王蟲が森へ帰って行く・・・・光弾(ひかりだま)と蟲笛だけで王蟲を静めてしまうとは・・」
  しばらくして、ナウシカを乗せたメーヴェが帰ってくる。ナウシカはメーヴェから飛び降りると一目散に、さっき王蟲から救った旅人の元へ走り飛びついた。
  ナウシカ 「ユパさまーーー!!」
  ユパ 「オオッ!」
  ナウシカ 「アハハハ・・」
  ユパ 「ハッハッハ・・・ナウシカ、見まちがえたぞ」
  ナウシカ 「一年半ぶりですもの!・・・父がよろこびます」
  ユパ 「礼を言わねばならん・・・よい風使いになったな」
030 ナウシカ 「イイエ・・父はまだまだだって・・」
  ナウシカは不思議そうな顔をしてユパのベルトの前にさげられた袋を見つめた。
  ナウシカ 「ん?」
  ユパ 「おぉ・・そうそう・・こいつのことをすっかり忘れておった・・」
  ユパが袋の口を開けると中からひょっこりと小さな顔が突き出てきた。
  ナウシカ 「まあ!キツネリス、わたし初めて!」
  ユパ 「こいつが翅蟲(はむし)にさらわれたのを人の子と間違えてな・・・つい銃を使ってしまったのだ」
  ナウシカ 「それで、あんなに王蟲が怒ったのね」
  ユパ 「気絶しておったので毒を吸わなかったようだ・・・・」
  警戒しキイキイと牙をむいて威嚇をするキツネリス。ナウシカはやさしい顔でそっと手を差し出す。
040 ユパ 「いや・・手は出さん方がいい。チビでも強暴だ」
  ナウシカ 「おいで・・・さあ・・・」
  ユパ 「オ・・オイ!」
  キツネリスは袋から飛び出しナウシカの左腕を伝って右肩へ回った。
  ナウシカ 「ホラ・・こわくない・・・こわくない・・」
  ナウシカは左手の手袋をはずし指をキツネリスの目の前に出した。ガブッとナウシカの指に、キツネリスの小さな牙が食い込む。ナウシカの指から赤い血の玉が流れた。
  ナウシカ 「ホラネ・・・こわくない・・・ねっ・・」
  キツネリスは警戒心を解き、噛んだナウシカの指をペロペロとなめた。
  ナウシカ 「怯えていただけなんだよね・・・ウフ・・・ウフフフ・・・」

「ユパさま、この子わたしに下さいな」

  ユパ 「あ・・ああ・・構わんが・・」
050 ナウシカ 「ワアッ・・ありがとう!」

「カイにクイ!私をおぼえてる?」

  ユパ 「不思議な力だ・・・・」
  ナウシカ 「アハハ・・・ウフ、疲れたでしょう?いっぱい走って!・・アハ!・・」
  ユパ 「皆に変わりはないかな?・・・・・どうした・・」
  ナウシカ 「父が・・・・・・・!父はもう・・飛べません・・・」
  ユパ 「ジルが・・・!森の毒がもうそんなに・・」
  ナウシカ 「ハイ・・・腐海のほとりに生きるものの定めとか・・・」
  ユパ 「もっと早くに訪れるべきであった・・・」
  ナウシカ 「イイエ・・・・ほんとによく来て下さいました・・・」

「先生!あとでぜひ見ていただきたいものがあるんです。わたしの秘密の部屋!」

  ユパ 「ホオ・・・・」
060 ナウシカ 「みんなには内緒・・恐がるといけないから・・・わたし先に知らせに行きます」

「先生も急いでー!」

「ユパさまーーー!!これ、運んで下さるー?気流が乱れてうまく飛べないのー!」

  それはナウシカが腐海の中で切り取った、王蟲の抜け殻の眼だった。

ナウシカはメーヴェを頭上に掲げると助走をし、崖から飛び出すと、風をつかんで舞い上がる。

  ユパ 「ハハハハハ・・それにしてもよく風を読む・・・・さ、もう少しだ」
  両側にそびえる断崖絶壁の隙間を、海からの風が吹き抜ける。その風を受けて巨大な風車が回っている。久しぶりに風の谷を訪れたユパを村の人たちは温かく迎えた。

屋根の上でナウシカが風車の羽を調節している。

  ミト 「姫さま!お着きになりましたぞ!」
  ナウシカ 「もうちょっと・・」
  ミト 「ユパさまーーーっ!!」
  ユパ 「ミトおじ!精がでるなぁ」
  ミト 「今宵はまた異国の話を聞かして下されい!」
  ナウシカ 「いいわ回して」
070 風車が風を受けゆっくりと回り始めた。
  ミト 「いいようですな」
  ナウシカ 「ウン!」
  ナウシカの父、ジルの部屋。病のためベッドに横になっているジルの周りにユパ、ナウシカ、そして大ババさまがいる。
  ジル 「フフフフフ・・負うた子に助けられたか・・」
  ユパ 「この谷はいい・・いつ来ても心が和む」
  ジル 「今度の旅はどうじゃった」
  ユパ 「ウム・・・・ひどいものだ・・・南でまた二つの国が腐海にのみこまれてしまった・・・・」

「腐海は着実に広がっている・・・なのにどこへ行っても戦に飢え・・不吉な影ばかりだ・・」

「・・・・なぜ、この谷のように暮らせぬのか・・・」

  大ババ 「ここは海から吹く風さまに守られておるからの・・腐海の毒も谷へは届かぬ・・」
  ジル 「どうだユパ、そろそろこの谷に腰をすえぬか・・・わしはこのザマだ・・・皆も喜ぶが・・・」
080 ユパ 「ウム・・・・」
  大ババ 「ヒッヒ・・無駄じゃよ・・ユパは探しつづけるよう定められた男じゃ」
  ユパ 「定めか・・・」
  ナウシカ 「大ババさま、探すってなあに?」
  大ババ 「オヤ・・・ナウシカは知らなかったのかい?ホレ、あの壁の旗にあるじゃろ・・・・わしにはもう見えぬが左の隅にいるお方じゃよ」

「その者、青き衣をまといて金色(こんじき)の野に降り立つべし。失われた大地との絆を結び・・・ついに人々を青き清浄の地に導かん・・・・」

  ナウシカ 「ユパさま、わたし古い言い伝えだとばかり思ってました」
  ユパ 「ババさま、からかわれては困る!」
  大ババ 「ヒッヒッヒ・・・おんなじことじゃろが」
  ユパ 「私はただ腐海の謎を解きたいと願っているだけだよ・・・」

「我々人間はこのまま腐海にのみこまれて滅びるよう定められた種族なのか・・それを見極めたいのだ」

  自室でナウシカは外の景色を眺めながら考え事をしている。
090 ナウシカ 「わたしにユパさまのお手伝いができればいいのに・・・」
  そこへミトがやってくる。ドアをノックしてナウシカに告げる。
  ミト 「姫さま・・・姫さま!」
  ナウシカ 「なあに、ミト」
  ミト 「ゴルが風がにおうと言うとります」
  ナウシカ 「もうすぐ夜明けね・・・すぐ行くわ」
  見張り台の上に立つナウシカとミト。ギッと夜空を見上げる。ナウシカが夜空に瞬くものを見つけて、空を指差した。
  ナウシカ 「・・あそこ!・・ホラッ!また!・・・船だわ!」
  ミト 「なぜ、このような辺境に船が・・・」
  そこへユパもかけつけてくる。
100 ユパ 「何事かね!」
  ミト 「ユパさま!船です」
  ユパ 「船!?」
  ナウシカ 「来るわ!」
  ミト 「大きい!」
  巨大な船が風の谷の上空をゆっくりと飛行していく。
  ユパ 「トルメキアの大型船だ」
  ナウシカ 「飛び方がおかしい・・・!・・不時着しようとしている・・海岸に誘導するわ!」
  ナウシカはメーヴェに飛び乗り夜空高く舞い上がった。トルメキアの大型船へ近づいていくナウシカ。・・無数の蟲たちが船に張り付き装甲をかじっていた。
  ナウシカ 「なんてことを・・・!!腐海に降りて蟲を殺したんだわ」
110 前方に切り立つ崖がそびえたっている。
  ナウシカ 「舵をひけーーーっ!ぶつかるぞーっ!舵をひけえーーーーっ!」
  船窓(せんそう)に、赤い服の異国の少女が両手を鎖につながれているのが見えた。船は舵を失ったまま、巨体を岩肌に打ち付け、ひしゃげ、爆発、炎上し、船は火の玉と化していた。
  ユパ 「落ちた・・・・」
  ミト 「姫さま・・・」

「海ぎわの崖だ!行こう!」

  メーヴェを飛び降り、ナウシカは燃え盛る炎のなかへ飛び込んでいく。船の残骸の下にさっき見た異国の少女がいた。ナウシカは残骸をとり除くと少女を火のないところまで運んだ。少女はベジテのラステルと名乗り、積荷を燃やしてほしいと言い残すと息を引き取った。
  ミト 「姫さまぁ!・・・あっ・・・この方は・・・!ペジテ市の王族の姫さまですな」
  ナウシカは、ラステルの両手にはめられた鎖を切り、その手を組んだ。

船に張り付いていたウシアブが傷つき、暴れ出そうとしている。人々は手に手に銃を持ちウシアブを殺そうとしていた。

  ナウシカ 「まって!・・・ミト、メーヴェを持ってきて」

「森へお帰り・・・大丈夫!飛べるわ」

  ナウシカは蟲笛を取り出してクルクルと回すと上空高く放り投げた。それにつられるようにウシアブが飛び上がる。ナウシカもメーヴェに飛び乗るとあとを追うように舞い上がった。
120 ミト 「よかった・・・たった一匹殺しただけでも何が起こるかわかりませんからなあ・・」
  夜明け前の薄明かりの中、メーヴェを追うようにウシアブが飛んでいる。ウシアブはメーヴェを追い越して飛んでいった。

夜が明けて風の谷では、昨夜の大型船と一緒に飛んできた胞子の後始末で人々が走り回っていた。その焼け跡には、不気味な巨大な塊が燃え残っていた。

  ミト 「さあ、みんな、こいつの詮索は後回しだ。胞子を焼く手伝いに行ってくれ・・念入りに頼むぞ」

「まったく、厄介な物を持ち込みおって」

  ユパ 「ミト・・ここを見ろ」
  ミト 「はあ!」

「動いとる・・・まるで生きとるようだ・・・ユパさま、これは・・・!」

  ユパ 「旅の途中で不吉な噂を聞いた・・・ペジテ市の地下に眠っていた旧世界の怪物が掘り出されたというのだ」
  ミト 「旧世界の怪物?」
  ユパ 「巨神兵だ」
  ミト 「巨神兵!?・・あの、火の七日間で世界を焼き尽くしたという・・・・こいつが・・・!」
  ユパ 「巨神兵はすべて化石となったはずだった・・だが地下で千年も眠り続けていたやつがいたのだ」
130 ミト 「あぁ・・・!そういえばこいつも人の形にも見えます」
  ユパ 「トルメキアははるか西方の強暴な軍事国家・・・死んだペジテの虜囚といい・・気になる・・」
  死者を埋葬しているナウシカ達。トルメキアの戦艦が風の谷へ向かっていた。戦艦は風車をなぎ倒し、次々と風の谷へ接地する。
  ナウシカ 「みんなを城へ!みんな!城へーーーっ!!みんな城へ集まれーーーっ!!」
  トルメキアの兵たちが城を急襲する。
  ナウシカ 「父上!!」
  ジル 「ババさまは隠れておれ」
  大ババ 「わたしゃここにいるよ」
  ジルはベッドの上で剣を構える。そこへトルメキア兵が銃を構えて入って来た。銃声が城にこだまする。ナウシカはジルの部屋へ駆け上がり、ドアを押し開いて中へ入った。そこには、銃で撃たれて既にこときれ、床に横たわるジルの姿があった。ナウシカの心の中で何かが弾けた。
  ナウシカ 「おのれェ!!」
140 ナウシカは持っていたステッキを振り回し、その場にいたトルメキア兵をあたりかまわず叩きのめしていく。ナウシカは怒りに身を任せ、次々に兵を倒していく。その姿はまさに鬼神だった。ナウシカは床に落ちていたジルの剣を拾い上げると、裂ぱくの気合とともに突きを繰り出した。剣が間を割って入ったユパの左腕に深々と突き立った。
  ナウシカ 「うっつ・・!ああっ・・・・!!」
  ユパ 「双方、動くな!!動けば王蟲の皮より削り出したこの剣がセラミック装甲をも貫くぞ」

「トルメキア兵に聞く・・・この谷の者は昨夜、そなた達の舟を救わんと必死に働いた。今もまた、死者を丁重に葬ったばかりだ。小なりとはいえ、その国に対するこれがトルメキアの礼儀か!」

「戦をしかけるならばそれなりの理由があるはず。まず使者をたて口上を述べるべきであろう」

  ユパの腕から滴り落ちる赤い血を見て、ナウシカは顔から血の気が引いていった。
  ユパ 「ナウシカ・・・落ち着けナウシカ!・・・今戦えば、谷の者は皆殺しになろう・・・生きのびて機会を待つのだ」
  クロトワ 「エエ・・・イ・・・クソォ・・小娘が!」
  クシャナ 「やめろクロトワ」
  クロトワ 「しかし・・・あ・・あぁ〜〜あ、なんて奴だよ。み〜〜んな殺しちまいやがった・・・」
  クシャナ 「諌言(かんげん)耳が痛い・・・辺境一の剣士、ユパ・ミラルダとは、そなたのことか?」

「我等の目的は殺戮(さつりく)ではない。話がしたい、剣を収められよ」

  ユパの腕からナウシカの剣がズルリと抜ける。ユパはマントでその腕を隠した。ナウシカはフッと意識が遠のき、そのままユパに抱かれるように倒れこんだ。

トルメキアの戦車が城の広場に止まっている。広場には風の谷の人々が集められている。その前に武器が山のように積まれていた。ナウシカが現れる。ナウシカの顔はうつろで寂しげである。

150 クロトワ 「聞け!!トルメキア帝国辺境派遣軍司令官クシャナ殿下のお言葉だ」
  クシャナ 「我等は辺境の国々を統合し、この地に王道楽土を建設するために来た!そなた達は腐海のために滅びに瀕している。我等に従い我が事業に参加せよ!腐海を焼き払い、再びこの大地を蘇らせるのだ!」

「かつて人間をして、この大地の主となした奇跡の技と力を我等は復活させた。わたしに従う者には、もはや森の毒や蟲どもにおびえぬ暮らしを約束しよう」

  大ババ 「待ちなされ!・・・・・腐海に手を出してはならぬ!」
  クロトワ 「なんだ?このババァ。オイ!連れて行けェ」
  クシャナ 「言わせてやれ・・・」
  大ババ 「腐海が生まれてより千年・・・・幾度も人は腐海を焼こうと試みて来た・・・」

「・・・・が、その度に王蟲の群れが怒りに狂い、地を埋め尽くす大波となっておしよせて来た・・・」

「国を滅ぼし、町をのみこみ・・・自らの命が飢餓で果てるまで王蟲は走り続けた・・・やがて、王蟲の骸(むくろ)を苗床にして胞子が大地に根を張り・・広大な大地が腐海に没したのじゃ・・・。」

「腐海に手を出してはならぬ・・・」

  クロトワ 「だまれ!そのような世迷いごと許さんぞ!」
  大ババ 「オヤ・・どうするんじゃ?わしも殺すのか?」
  クロトワ 「くっ!きさま!」
  大ババ 「殺すがいい!盲(めしい)の年よりさ、簡単なものだよ」

「ジルを殺したようにな・・・」

160 ミト 「ジルさまが!!」
  広場に集められた風の谷の人々が、口々に騒ぎ始める。
  クロトワ 「だまらせろ!逆らう奴は容赦するな」
  ナウシカ 「みんな待って!わたしの話を聞いて・・・!」

「これ以上、犠牲を出したくないの・・・お願い・・・・」

「大ババさまもわかって・・・この人達に従いましょう・・・」

  風の谷はトルメキアによって完全制圧された。
  クシャナ 「なかなかいい谷ではないか・・・」
  クロトワ 「私は反対です・・本国では一刻も早く巨神兵を運べと命令しています」
  クシャナ 「命令は実行不可能だ。大型船ですらあいつの重さに耐え切れず墜落してしまった」
  クロトワ 「しかし・・まさか本心でこの地に国家を建設するなどと・・・・・」
  クシャナ 「だとしたらどうなのだ・・・お前は、あの化物を本国のバカ共のオモチャにしろというのか?」
170 クロトワ 「そりゃまあ・・わかりますがね・・・・あ・・・」

「私は一軍人にすぎません!そのような判断は分をこえます」

  クシャナ 「・・・・フン!たぬきめ・・・」

「わたしはペジテに戻る。留守中、巨神兵の復活に全力を注げ」

  クロトワ 「ハッ!」
  クシャナ 「このガンシップは使えるのか?」
  クロトワ 「ハイ、拾いもンです」
  クシャナのいる部屋にナウシカとミトが呼びつけられていた。用件はペジテへ人質を連れて行くという話だった。
  クシャナ 「まちがえるな!私は相談しているのではない」
  ミト 「しかし!・・姫さまをペジテへ連れて行くなど・・しかも人質5人にガンシップに食糧とは・・・」
  クシャナ 「人選は任せる。明朝の出発までに準備を完了しろ」
  ミトおじ達が、ガンシップに食糧を運び込んでいる。そこへ闇にまぎれてユパが現れた。
180 ユパ 「人質ごくろう・・・」
  ミト 「わしらはともかく・・・・見て下さい・・やつら何もかも持ってっちまうつもりですぜ」
  ユパ 「わしは一度この地を離れ・・・密かに戻って機会を待つ」

「なんとしても、あの化物の復活をやめさせねばならん・・」

  ミト 「ハイ・・・」
  ナウシカの部屋をノックし、中へ入るユパ。しかし、中にナウシカの姿はなかった。ふと、目を落とした先に、キツネリスのテトが、壁の端をガリガリと引っかいていた。
  ユパ 「テト・・・・お前の主はどこにいるのだ・・」
  テトのひっかいている壁に手をかけると、壁の一部がギッと音を立て開いた。テトが中へ入っていく。テトに導かれるように、ユパも中へ入っていく。地下へのびる暗い石の階段を降りていく。しばらく歩くと扉があった。その先から光が漏れている。ユパは中をのぞいて驚いた。
  ユパ 「ナウシカ!・・これはどういうことだ・・・・腐海の植物ではないか!」
  ナウシカ 「わたしが胞子を集めて育てたんです。大丈夫、瘴気(しょうき)は出していません」
  ユパ 「毒を出さぬ・・・!?」

「確かに、ここの空気は清浄だが・・・なぜだ!・・猛毒のヒソクサリが花をつけておるのに・・」

190 ナウシカ 「ここの水は、城の大風車で地下500メテルから上げている水です・・・・砂は同じ井戸の底から集めました。」

「きれいな水と土では腐海の木々も毒を出さないとわかったの・・・よごれているのは土なんです!この谷の土ですらよごれているんです。」

「なぜ・・・!誰が・・・・世界を・・・こんなふうにしてしまったのでしょう・・・」

  ユパ 「そなた・・それを自分で・・・!」
  ナウシカ 「エエ・・・父やみんなの病気を治したくて・・・でも・・・・もう、ここも閉めます」

「さっき水を止めたから・・やがてみんな枯れるでしょう・・・・」

「・・・うっ・・うっ・・わたし・・自分がこわい・・憎しみにかられて何をするかわからない・・」

「もう・・誰も殺したくないのに・・・・!」

  夜が明けた、トルメキアの戦艦が離陸のためのエンジンチェックを行っている。そこへ人質となってペジテヘ向かうナウシカ達がやってくる。風の谷の人々は、皆、涙を浮かべ、その行く末を心配していた。

飛行を続けるトルメキアの戦艦。その後方から追尾してくるガンシップがあった。

  ミト 「何でこんなに密集して飛ぶんじゃ・・・・いや、まるで、襲撃におびえているようだ・・」
  艦橋の窓から外を見ているナウシカ。上空にキラリと光る飛行物体を見つけた。
  ナウシカ 「ガンシップ!!」
  挿入曲08

戦闘
〔3:46〕

  戦艦の上空からガンシップが攻撃をしかけてきた。さっきのガンシップだった。小型のガンシップはその、機動性を生かし、上下左右から攻撃を仕掛けてくる。次々とトルメキアの戦艦は撃墜されていく。残った戦艦にも執拗に攻撃が繰り返される。

ナウシカの乗っている旗艦にも攻撃が加えられ、艦は被弾し炎を吹き上げた。

  ミト 「だめじゃ・・これも落ちる!」
200 エンジンに引火し、艦全体が業火に包まれ急降下をはじめた。艦の中ではナウシカが必死に逃げ場を探していた。
  ナウシカ 「急いで!ミト!」
  ミト 「うわーーアチチチ・・ひ・・姫さま!もうだめじゃい!」
  燃え盛る炎の中に、風の谷から乗せられたガンシップが見えた。
  ナウシカ 「飛べるかもしれない!」
  ミト 「なんですとーー!!」
  ナウシカ 「ミト!早く!!」
  ナウシカは炎に包まれるガンシップに飛び乗った。それにミトも続く。
  ナウシカ 「エンジン始動!砲で扉を破る!!」
  ミト 「ウ・・・・!ハイ!」
210 ナウシカの見上げた先に、クシャナの姿が見えた。互いに見詰め合う。一瞬ためらった後、ナウシカがクシャナを呼んだ。
  ナウシカ 「来い!早く!!」
  ガンシップヘ飛び移るクシャナ。その間にも炎はさらに勢いを強めて燃え広がる。
  ナウシカ 「早く中へ!ミト!行ける?」
  ミト 「どうにかーー!!」
  ナウシカ 「発砲と同時にエンジン全開!!」
  ミト 「了解!」
  ナウシカ 「ヨーイ!・・テェッ!!」
  轟音と共に船倉の装甲が吹っ飛んだ。爆炎と煙を突っ切って、ガンシップが飛び出した。次の瞬間、今まで乗っていた旗艦が大爆発を起こし、粉々に吹き飛んだ。
  ナウシカ 「瘴気(しょうき)マスクをつけろ!雲下(うんか)に降りてバージを救出する」
220 瘴気渦巻く中をガンシップは、人質となった城おじたちを乗せたバージを探していた。さっきの攻撃で、戦艦にくくりつけられていたフックが壊れて流されてきていたのだ。
  ミト 「なんという世界だ・・・こんな濃い瘴気は初めてだ・」
  ナウシカ 「後席(こうせき)、右後方に注意!近くにいる!」
  ミト 「エッ!」
  ナウシカ 「まだ飛んでる!」
  ミト 「あっ!!ほんとだ!・・ほんとにいた!!」
  ガンシップは加速しバージの横に並ぶように飛行する。
  ナウシカ 「みんな!がんばって!!今、ロープをのばすわ!」
  城おじたちは、恐怖でパニックとなり、ナウシカの言葉が耳に入らない。
  ミト 「落ち着けーーい!!荷物を捨てるんじゃーーー!!」

「言う事を聞け!!荷物を捨てろーーー!!」

230 ナウシカ 「後席(こうせき)!エンジンを切れ!!」
  ミト 「な・・・!なんと!?」
  ナウシカ 「エンジン音がジャマだ!急げ!!」
  ミト 「ハ・・ハイ!」
  ナウシカはたちこめる瘴気の中で、マスクをはずした。それを見た城おじたちは慌てふためいた。
  ナウシカ 「みんな!必ず助ける!!私を信じて荷を捨てなさい!!」
  ナウシカは皆を安心させるようにニコッと笑うと、ガンシップをバージから遠ざけた。ガンシップの中ではナウシカが苦しそうに顔を歪ませている。
  ミト 「機首が落ちてるーー!!」
  ナウシカ 「エンジン・・・点火!・・・・・・不時着地を探す・・・・!」

「・・・少し・・・肺に・・・入った・・・」

  ガンシップとバージはどんどん降下し、腐海の底へと降りていく。降りた先に湖が広がっていた。

ガンシップとバージは湖へ着水し、ナウシカと城おじたちは無事を喜んだ。それをクシャナが黙って見つめている。

240 クシャナ 「動くな!」
  クシャナの手には拳銃が握られていた。
  クシャナ 「先程はご苦労・・・・」
  ミト 「姫さま!なぜ、こんなやつを・・・!」
  クシャナ 「甘いな・・私がはいつくばって礼を言うとでも思ったのか」
  ナウシカ 「あなたは腐海を何もわかっていない・・・ここは人間の世界じゃないわ・・・銃を使うだけで何が起こるかわからない所よ」

「さっきの戦闘で、船がたくさん森に落ちて蟲達が怒っている」

「見なさい上を・・・大王ヤンマは森の見張りよ。すぐ、他の蟲を呼び集めるわ」

「すぐ脱出する!予備のロープを早く!・・ミト!フックを直して!」

  ミト 「ハイ!」
  クシャナが銃を撃った。弾がバージの翼にあたって跳ねる。
  クシャナ 「動くな!命令は私が下す!」
  ナウシカ 「あなたは何をおびえているの?まるで迷子のキツネリスのように・・・」
250 クシャナ 「ナニイ!!」
  ナウシカ 「怖がらないで・・わたしは、ただ、あなたに自分の国へ帰ってもらいたいだけ・・・・」
  クシャナ 「きさま!・・うっ!・・・」
  静かだった湖面に突然、波が立った、ガンシップとバージが波を受けてユラユラと揺れた。
  ナウシカ 「来た・・・」
  挿入曲06

王蟲(短縮)
〔0:39〕

  王蟲が湖底からガンシップとバージを取り囲むように浮上して来た。驚くクシャナ。それをさえぎってナウシカが言った。
  ナウシカ 「静かに!!怒らせてはだめ!私たちを調べている・・・。」

「王蟲!ごめんなさい!あなたたちの巣をさわがして・・・でも、わかって!わたし達、あなたがたの敵じゃないの」

  無数の触毛(しょくもう)が王蟲からのびてくる。それは、ナウシカを幾重にも取り巻いていった。ナウシカの心の中にある青空とたくましくのびる巨大な木々たち・・しばらくしてふと我に返るナウシカ。
  ナウシカ 「エッ!?・・・あの人が生きてるの?・・・待って!王蟲!!」
260 蟲達が騒ぎ始めた。王蟲が湖面を渡っていく。続々と蟲達が続く。ナウシカはバージからメーヴェを取り出した。
  ナウシカ 「水が静まったら、すぐ離水して上空に待機!一時間して戻らなければ谷へ帰りなさい!!」
  ミト 「ア・・・ウ・・・しかし・・・」
  水煙(みずけむり)を噴き上げて、メーヴェは湖面を滑るように飛んでいった。
  ミト 「サァみんな・・姫さまの言われた通りにするんだ・・・」

「姫さま・・・・」

  腐海の中、ペジテのガンシップが燃えている。さっきの攻撃のとき、被弾して墜落したようである。

腐海に銃声がとどろく。一人の少年がミノネズミの大群に追われていた。ペジテのアスベルである。

アスベルは、深く積み重なった胞子に足をとられながら走る。ミノネズミがアスベルを襲う。銃の引き金を引くが弾が出ない。アスベルはよけたはずみで崖からまっさかさまに落ちていった。下ではヘビケラが巨大な口が開いて待っていた。

間一髪、ナウシカの手がアスベルをキャッチした。メーヴェは腐海の中を飛行していく。そのあとを、ヘビケラが追う。

  アスベル 「君は・・・!?」
  ナウシカ 「あなたは殺しすぎる!・・・・もう、光弾(ひかりだま)も蟲笛(むしぶえ)もきかない!!」
  ヘビケラの長く伸びた尾に引っ掛けられ、メーヴェは失速し、ナウシカとアスベルは腐海の底へ落ちていった。

しばらくして気がつくアスベル。周りを砂が覆っている。

  アスベル 「ツーー!!・・・あっ!流砂だ!!」
270 ナウシカ、アスベルそしてメーヴェ・・みんな静かに流れる砂に埋まっていく・・。

そのころ腐海の上空では、ミトたちがナウシカが出てくるのを待っていた。

  ミト 「もう、二時間になるぞ!蟲がふえるばかりじゃ」
  N 流砂にのみこまれたナウシカ達・・・ナウシカははっと目を覚ましあたりを見回した。化石となった巨木が高く伸び、その枝が天井を覆っていた。その隙間から、太陽の光がもれてくる。ナウシカの目の前には水がさらさらと流れている。
  ナウシカ 「不思議なところ・・・」
  アスベル 「やあ!やっと見つけてきたよ」
  N アスベルがメーヴェを頭の上にかついで帰ってきた。
  アスベル 「気分はどう?」
  ナウシカ 「ここはどこ?」
  アスベル 「まず、お礼を言わせてくれ。ぼくはペジテのアスベルだ!!」

「助けてくれてありがとう」

  ナウシカ 「わたしは風の谷のナウシカ・・・・ここは・・どこ?」
280 アスベル 「アハハハ・・驚くのはあたりまえさ。ぼくらは腐海の底にいるんだよ」
  ナウシカ 「腐海の底!?」
  アスベル 「ホラ、あそこから落ちてきたんだよ・・砂といっしょにね」
  N アスベルは天井にぽっかりあいた穴をさして言った。
  ナウシカ 「!!・・わたしたちマスクをしてない!!」
  アスベル 「そうなんだ、ここの空気は澄んでいるんだよ・・・ぼくも驚いた。腐海の底にこんなところがあるなんてね」

「どうした?・・・ナウシカ、あんまり遠くへ行くなよ」

  ナウシカ 「なんて立派な木・・・・枯れても水をとおしている・・」
  N 頭上から、砂が降ってくる。大きな砂の粒を拾い上げるナウシカ・・砂はもろく簡単に砕け散った。
  ナウシカ 「井戸の底の砂とおんなじ・・・石になった木が砕けて降り積もっているんだわ」
  N ナウシカは砂の上に腹ばいになって砂に耳をつけている。近寄ってのぞきこむアスベル。ナウシカの目に涙の粒が光っていた。
290 アスベル 「ナウシカ・・・・泣いてるの?」
  ナウシカ 「うん・・・・うれしいの」
  N ナウシカとアスベルは巨大な木の株に腰を下ろして話をしている。
  アスベル 「ラステルはぼくのふたごの妹なんだ・・そばにいてやりたかった」
  ナウシカ 「ごめんね・・・話すのが遅れて・・・」
  アスベル 「イヤ・・・・すまなかった。妹をみとってくれた人をぼくは殺してしまうところだった」
  ナウシカ 「ウウン・・」
  アスベル 「そうか・・・・あいつは風の谷にあるのか!!」
  アスベルは確信したようにつぶやいた。

ナウシカにもらったちいさな木の実を食べるアスベル。

  アスベル 「ウッ・・・ウ〜〜〜〜・ハァ・・・不思議な味のする実だねえ・・」
300 ナウシカ 「チコの実というの。とっても栄養があるのよ」
  アスベル 「フ〜〜ン」
  N ナウシカはだまって食べている。アスベルは残ったチコの実を一度に口に入れた。
  アスベル 「味はともかく長靴いっぱい食べたいよ・・・」
  N 水が静かに流れている。アスベルがメーヴェの修理をしている。それを手持ちの小さなランプで照らすナウシカ。その光が水に映っている。

修理も終わり、しばらくして、砂に寝転びナウシカとアスベルが話をしている。

  アスベル 「腐海のうまれたわけかあ・・・・きみは不思議なことを考える人だなあ・・・」
  ナウシカ 「腐海の樹々(きぎ)は人間がよごしたこの世界を綺麗にするためにうまれてきたの。大地の毒をからだにとりこんで・・綺麗な結晶にしてから死んで砂になっていくんだわ・・この地下の空洞はそうしてできたの・・・蟲たちはその森を守っている・・・・」
  アスベル 「だとしたら・・・ぼくらは滅びるしかなさそうだ・・・何千年かかるかわからないのに、瘴気(しょうき)や蟲におびえて生きるのは無理だよ・・・・せめて・・・腐海をこれ以上、広げない方法が必要なんだ」
  ナウシカ 「あなたもクシャナと同じように言うのね・・・」
  アスベル 「ちがう!!ぼくらは巨神兵を戦争に使う気なんかない!!あした、みんなに会えばわかるよ」
310 ナウシカ 「・・・もう、寝ましょ・・・あした・・・たくさん・・・飛ばなきゃ・・・」
  N 寝息を立てはじめるナウシカにアスベルはそっと上着をかけてやる。夜が静かに更けていく。

風車の塔の中で、クロトワの指揮の元、巨神兵の復活が着々と進められていた。

  クロトワ 「・・・・まったく・・見れば見るほどかわいいバケモンだぜ、おめえは!!」

「貧乏軍人のオレですら・・・ひさしくさびついていた野心がうずいてくらァ」

「ケッ!笑ってやがる・・てめえなんざ、この世の終わりまで地下で眠ってりゃよかったんだ!!」

  N クロトワの元に、クシャナを乗せた戦艦がペジテの残党によって襲われ、空中で四散したことが知らされた。その様子を潜入していたユパがじっと見ていた。

一人になったクロトワは巨神兵を見上げてポツリとつぶやいた。

  クロトワ 「うだつのあがらねえ平民出にやっとめぐってきた幸運か・・・?それとも・・破滅の罠か・・・!!」
  N 酸の湖(うみ)にある昔の宇宙船の残骸に、ミトたちを乗せたガンシップ、バージがひそかに帰ってきていた。
  ミト 「わしらだけ、おめおめ戻って・・・」
  ユパ 「いやあ、無事でなによりだった」
  クシャナ 「釈放だと・・!?」
  ユパ 「巨神兵を酸の湖(うみ)深く沈め、本国に帰ってくれぬか?谷に残る兵は少ない!!今、戦うはやさしいが、これ以上の犠牲は無意味だ」
320 クシャナ 「やつには火も水も効かぬ。歩き出すまでは、もはや動かすこともな・・」

「わからぬか!?もはや後戻りはできないのだ」

「巨大な力を他国が持つ恐怖ゆえにわたしはペジテ攻略を命令された・・奴の存在が知られた以上、列国は次々とこの地に大軍を送り込むだろう。お前たちに残された道は一つしかない。巨神兵を復活させ列強の干渉を排し、奴とともに生きることだ」

「見ろ・・」

  N クシャナが左手の甲冑(かっちゅう)をはずした。そこに彼女の手は無かった。
  ユパ 「蟲にか?」
  クシャナ 「わが夫となる者は、さらにおぞましきものを見るだろう・・」

「腐海を焼き、蟲を殺し、人間の世界を取り戻すのに何をためらう!!」

「わが軍がペジテから奪ったように・・奴を奪うがいい・・・」

  ユパ 「巨神兵は復活させん!!」
  N 谷の子供たちが駆け込んできた。残っていた胞子が繁殖し、瘴気(しょうき)を出して森が汚れてきていると言う。

谷の人々は森を守るために胞子を焼く道具を返すようにクロトワに詰め寄った。

  クロトワ 「しかたあるまい・・銃以外は戻してやれ。・・・やれやれ、面倒なことになってきやがったぜ」
  N 森に胞子の汚染は確実に進行していた。木がつぎつぎと枯れ、その葉を落としていく。もはや手のつけようがなかった。
  大ババ 「燃やすしかないよ・・・この森はもうだめじゃ!!手おくれになると谷は腐海にのみこまれてしまう!!」
  N ナウシカとアスベルはをメーヴェに乗ってペジテの町を目指していた。その途中で多くの蟲の死骸を目にした。ナウシカは胸騒ぎを感じた

ペジテの町は廃墟となっていた。

330 アスベル 「センタードームが食い破られるなんて・・・ペジテはもう終わりだ・・トルメキア軍を全滅させたってこれじゃ・・」
  ナウシカ 「全滅させた・・・?どういうことアスベル!?」
  N 上空に飛行艇が飛んでくる。
  ナウシカ 「ブリッグだわ!!」
  アスベル 「仲間の船だ!!おりるぞ!行こう!!」
  N ブリッグから降りてくる人影がある。彼らは作戦第二弾が進行中で、それによって風の谷のトルメキア軍は全滅するだろうと誇らしげにいった。アスベルはそれを聞いて急に苦い顔をして黙り込んでしまった。
  ナウシカ 「全滅って・・何をするの?・・・・教えて!!何があるの!!」

「アスベル!!あなた知ってるんでしょう!!教えて!!」

  アスベル 「蟲に襲わせるんだ・・・」
  ナウシカ 「ペジテを襲わせのもあなたたちなの!?・・・・!!・・・なんて・・・・ひどいことを・・・」
  N 風の谷を蟲たちに襲わせ、巨神兵をとりもどすことが世界を守るためのたった一つの方法なのだと男は言った。
340 ナウシカ 「それで谷の人たちを殺すというわけ!!」

「やめて!!すぐやめて。お願い!!」

  N 走り出した蟲たちはもうとまらない・・もうすべてが遅いのだと男が言った。ナウシカはメーヴェに飛び乗り、舞い上がろうとするが、男たちに押さえ込まれてしまった。
  ナウシカ 「はなして!!いかせてーー!!」

「あなたたちはトルメキアと同じよ!!」

「あなたたちだって井戸の水を飲むでしょう?その水をだれが綺麗にしていると思うの・・・・?湖も水も、人間が毒水にしてしまったのを腐海の樹々が綺麗にしてくれているのよ・・・」

「その森を焼こうというの!?巨神兵なんか掘り起こすからいけないのよ!!」

「アスベル!!みんなに言って!腐海のうまれたわけを!!蟲は世界を守ってるって!!」

「アスベル!!お願い!!」

  N アスベルはとっさに、近くにいた男の銃を奪った。
  アスベル 「その子をいかせてやれ!!ぼくは本気だ。手をはなせ!!ナウシカ!!みんなに知らせろ!!」

「・・・・うっ!」

  N アスベルは男に後ろから頭を殴られ気絶してしまった。

宇宙船の残骸から抜け出したクシャナは、谷のあちこちで繰り広げられる小競り合いを見て怒りをあらわにした。

城ではクロトワが軍の指揮を取っていた。

  クロトワ 「ジタバタしねえで戦車で兵を救出しろっ!」

「やだねえ・・森のひとつやふたつで殺気立ちやがって・・・ペジテの二の舞だぞ・・」

  N 城の入り口にクシャナの姿が見えた。
  クロトワ 「生きてたよ・・・・短けえ夢だったな・・・・」

「殿下!!」

  N 雲海の中をブリッグが飛んでいる。それと平行するようにコルベットが飛んでいた。

ブリッグの中でナウシカは食物倉庫に閉じ込められていた。そこへ、アスベルの母と娘が入ってきた。アスベルの母は、ナウシカを逃がしてくれるという。ナウシカは娘と服を交換し、ペジテの娘の姿に変装した。

350 アスベル 「ナウシカこっちだ!いそげ!!」
  ナウシカ 「みなさん!ありがとう」
  アスベル 「すまない、遅くなっっちまって・・ここから飛べるか!?」
  ナウシカ 「やってみる」
  N ブリッグの横っ腹にある小さなハッチが開けられた。雲の切れ間にコルベットが飛んでいるのが見えた。
  ナウシカ 「コルベット!!」
  N コルベットから機銃掃射が始まった。雲の中へ逃げ込むブリッグ。雲の中は乱気流と電気でブリッグの船体が大きくきしんだ。メキメキと音を立て装甲がはがれていく。

ブリッグは再び雲の外へ出た。コルベットがブリッグにのしかかるように接舷する。コルベットからトルメキア兵たちが乗り込んで来る。ナウシカは隙をついてメーヴェで外へ飛び出した。それに気づいたコルベットがメーヴェを追い機銃を撃ってくる。

逃げるメーヴェ、負うコルベット。その前方に、ミトの操縦するガンシップが飛んでくる。ガンシップの前面砲塔から砲弾を発射!コルベットは直撃を受け大爆発を起こし、地上へと落ちていった。

トルメキア兵の侵入を許したブリッグでは、ペジテの人々が船室に逃げ込み必死にしのいでいた。ブリッグに接近するガンシップ。ユパが単身、ガンシップから身を躍らせてブリッグへ飛び込んで行く。ユパの力強い剣は、トルメキアの兵たちをあっという間に倒していった。

  ユパ 「降伏しろ!コルベットはもはや戻らぬ!」
  ミト 「姫さま無茶だぁ!エンジンが爆発しちまう!」
  ナウシカ 「谷までもてばいい!300まで上げて!」
360 N うなるガンシップのエンジン!青白い炎を吐いて風の谷へ全速力で飛行していく。
  ナウシカ 「神さま・・・!風の神さま!どうかみんなを守って・・」
  N 酸の湖(うみ)にある船の残骸に立てこもる風の谷の人々。対峙する、クシャナ率いるトルメキアの戦車部隊。
  クロトワ 「テコでも動きそうにありませんなぁ・・・」
  クシャナ 「帰りを待っているのだ」
  クロトワ 「帰り?」
  クシャナ 「あの娘がガンシップで戻ると信じている・・・」
  クロトワ 「ガンシップはやっかいですなあ・・・今のうちにひと当てやりますか?」
  クシャナ 「お前は、あの船がなんだか知っているのか?」
  クロトワ 「火の七日間の前に造られたやつでしょ?」

「ウソかホントか知らねえが星まで行ってたとかなんとか・・・えらく硬いから砲も効かねえが・・ナニ・・穴にぶちこめば・・・・」

370 クシャナ 「わたしも待ちたいのだ」
  クロトワ 「へっ?」
  クシャナ 「ほんとうに腐海の深部から生きて戻れるものならな・・・あの娘と一度ゆっくりと話をしたかった・・」
  N クシャナの前に傷だらけの城おじたちが並んで座っている。
  クシャナ 「どうだ?決心はついたか?降伏をすすめに行くなら離してやるぞ・・」
  城おじは、ナウシカが自分の手を見て好きだ、働き者の綺麗な手だと言ってくれるとにこやかに微笑んだ。
  クシャナ 「腐海の毒に冒されながらそれでも腐海とともに生きるというのか?」

「ペジテの二の舞にしたいのか!?」

  クロトワ 「何があったか知らねぇがかわいくなっちゃって、まァ・・・」
  クシャナ 「クロトワ!その者達を離せ!」
  クロトワ 「ハ?・・ほいじゃ待ちますかぁ?」」
380 クシャナ 「兵に食事を取らせろ!一時間後に攻撃を開始する!」
  クロトワ 「ホ・・・・メシね・・・ゆっくり食うことにしますか・・」
  N 風が止まった・・・あたりに不気味な静けさが漂い始めた。
  大ババ 「だれか・・・・だれかわたしを外へ連れ出しておくれ・・・アア・・・」

「ウ・・・アァ・・・・・オォ・・大気が・・・大気が怒りに満ちておる・・・」

  N エンジンを最大出力でふかし酸の湖(うみ)へ急ぐナウシカ。
  ナウシカ 「近い!腐海を切れた!酸の湖(うみ)まで3分!」

「エンジンスロー!雲の下へ降りる」

  ミト 「なんじゃ、この光は!!」
  N ガンシップから下を見るナウシカたち。眼を真っ赤な攻撃色に染めた王蟲の大群が平原を埋め尽くしているのが見えた。王蟲はまっすぐに風の谷を目指していた。
  ミト 「腐海があふれた!風の谷に向かっている・・・」
  ナウシカ 「なぜ・・・!どうやって王蟲を・・・・」

「・・・・・・ハッ!!誰かが群を呼んでる・・ミト!シリウスに向かって飛べ!」

390 ミト 「ハ・・ハイ」
  N ナウシカはガンシップからじっと目を凝らす。
  ナウシカ 「いる!・・・・ミト!照明弾!」

「ヨーイ・・・テェッ!!」

  N 酸の湖(うみ)にポッとオレンジ色の光が広がった。
  ミト 「なんだ?あれは・・・・」
  ナウシカ 「アアッ!!」
  N ペジテのつぼ型飛行艇が光の中に浮かび上がる。飛行艇に王蟲の子が吊り下げられている。王蟲の硬い外皮を穿(うが)って太い杭が打ち込まれており、その傷から青い体液がドクドクと流れ出ていた。
  ナウシカ 「なんてひどいことを・・・あの子を囮にして群を呼び寄せてるんだ」
  ミト 「クソッ!!叩き落してやる!!」
  ナウシカ 「だめよーーーっ!!撃っちゃだめ!ミト、やめてェ!!」
400 N ナウシカの制止を振り切り、ミトがつぼ型飛行艇に機銃を撃とうとするが狙いが定まらない。
  ミト 「なぜじゃ!なぜ撃たせんのじゃ!!」
  ナウシカ 「王蟲の子を殺したら暴走は止まらないわ!!」
  ミト 「どうすればいいんじゃ!このままでは谷は・・・全滅だァ!!」
  ナウシカ 「落ち着いてミト!王蟲の子を群へ返すの・・・やってみる!」
  N ナウシカはガンシップの操縦席の金具をもぎ取ると、メーヴェを繋ぐワイヤーに引っ掛け空中を滑っていった。
  ミト 「何をするんじゃ!姫さま!」
  ナウシカ 「ミトはみんなに知らせて!」
  ミト 「姫さまーーー!!武器も持たずにーー!!アアッ!!」
  N ナウシカはメーヴェにつかまり、ワイヤーを切り離す。

酸の湖(うみ)の対岸で、クシャナたちが照明弾の明かりを確認していた。

410 クシャナ 「ガンシップだと思うか」
  クロトワ 「おそらく・・・」
  N 船の残骸の中から信号弾があがる。
  クロトワ 「救援を求める信号です・・・やはりガンシップですな・・」
  クシャナ 「一時間経った・・・・行こう」
  クロトワ 「待たないんで?」
  クシャナ 「しょせん血塗られた道だ・・・」

「装甲兵ーー前へ!」

  クロトワ 「殿下は中へ・・・」
  クシャナ 「ここでいい・・・」
  N ガンシップが前方から突っ込んでくる。装甲兵が一斉に攻撃を加える。
420 クシャナ 「撃つなーーーっ!!やめろ!やめんか!」
  N クシャナは装甲兵を殴りつける。

ガンシップが勢い余り、機首を砂にもぐりこませるように着地する。

  クシャナ 「この場で待機!発砲するな!」
  N クシャナが戦車を乗り越え、ガンシップへ走って行く。
  クシャナ 「あの娘はどうした!」
  ミト 「王蟲だ!王蟲の群がこっちへ来るぞ!」

「姫さまは暴走をくいとめるためにひとり残られた。戦なんぞしているヒマはない!」

「みんな高い所へ逃げろ!急げーーー!!」

  N 王蟲の赤い光がどんどん近づいてくる。地平線が夕焼けのように真っ赤に染まっていく。
  大ババ 「ババにしっかりつかまっておいで・・・こうなってはもう誰も止められないんじゃ・・・」
  クシャナ 「よいか!できるだけ時間をかせげ!わたしはすぐ戻る!」
  クロトワ 「殿下!、まさか・・あれを!・・・まだ早すぎます!」
430 クシャナ 「今使わずにいつ使うのだ」

「行け!!」

  つぼ型飛行艇から激しい銃撃がメーヴェめがけて続いている。
  ナウシカ 「撃たないで!話を聞いてェー!!」
  ナウシカはメーヴェの上に両手を広げて立ち、空中に身を躍らせる。そのナウシカに機銃が容赦なく撃ちこまれる。肩と右足を弾がかすめ鮮血がほとばしる。ナウシカは、全体重をつぼ型飛行艇に預けて飛び込んだ。バランスを崩して飛行艇が大きく揺らぎ、高度を下げた。王蟲の重みで飛行艇がひっくり返り、ナウシカは砂地に放り出された。
  ナウシカ 「う・・・はあ・・・・・ああ・・・・うう・・・」
  ナウシカは傷ついた体をひきづりながら、王蟲の子に近づいていく。
  ナウシカ 「はぁ・・・怒らないで・・・恐がらなくてもいいの・・わたしは敵じゃないわ・・・」

「ごめん・・ごめんね・・・許してなんて言えないよね・・・ひどすぎるよね・・・・う・・・」

  王蟲の子はゆっくりと前進し始める。必死で押さえようとするナウシカ。ほとばしる王蟲の体液で赤い服が青く染まっていく。前方から怒りで眼を真っ赤に染めた王蟲の大群が近づいてくる。
  ナウシカ 「ああっ!!動いちゃだめ!!体液が出ちゃう!!・・いい子だから動かないで・・」

「だめよ!そんなケガで入ったら・・・!この湖の水はだめだったら!」

「ああ〜〜〜〜〜〜っ!!」

  湖の強酸性の水がナウシカの傷ついた右足を焼いた。悲鳴を上げてナウシカがその場へ倒れこんだ。王蟲の子の眼の色が赤色から青色へ変化した。
440 ナウシカ 「おまえ・・・あぁ・・・・うっ・・・うう・・・う・・・うう・・・」(声を詰まらせて泣く)

「やさしい子・・わたしは大丈夫・・・今、みんなが迎えに来るからね・・・」

「はっ!・・・それて行く・・こっちへ来ない!・王蟲!だめよ!!そっちは谷があるのに!」

「怒りで我を忘れてるんだわ・・・しずめなきゃ谷が・・・!」

  倒れた、つぼ型飛行艇を立て直そうと、ペジテの男たちが格闘している。そこへ飛行艇から外れて飛んだ機関銃を構えて、ナウシカが近づいてきた。
  ナウシカ 「わたし達を運びなさい・・あの子を群に帰します!」

「わたし達を、群の先に降ろすだけでいい・・・運びなさい!」

  戦車隊から王蟲めがけて砲撃が続いている。
  クロトワ 「ビクともしねぇなぁ・・・」
  兵たちはおびえ、クロトワに退却を進言した。
  クロトワ 「バカヤロー!逃げるったって・・おめぇ・・・・どこへ逃げるんだよ・・・」

「・・・な!あああッ、コラッ!逃げんな・・・待て!!・・オ、オオイ・・!」

「殿下が戻るまで踏みとどまれ!!」

「・・・・殿下だ!」

  丘の上にクシャナを乗せた戦車が現れる。それに続いて、巨大な赤銅色(しゃくどういろ)の手がヌッと現れる。巨神兵である。

巨神兵は全身から煙を吐きながら丘をズルズルと登ってくる。上半身が丘の上に現れた。その身体は既に腐り始め、動くたびにズブズブと肉片をあたりに撒き散らしていく。

  クロトワ 「腐ってやがる・・・早過ぎたんだ」
  クシャナ 「焼き払え!!・・・・どうした・・・!それでも世界でもっとも邪悪な一族の末裔か!」
450 巨神兵の口が大きく開かれる。一瞬、あたりが白光に包まれた後、一筋の光が地平線をなぎ払うように照射された。泡立つ大地。ものすごい轟音ともに、地表が盛り上がり、削り取られ、巨大なきのこ雲が空いっぱいに広がった。
  クロトワ 「すげえ・・・・・・世界が燃えちまうわけだぜ・・・」
  しかし王蟲の進撃は止まらない。何万もの数の王蟲が、真っ赤に燃える炎の中を真っ直ぐに向かってくる。
  クシャナ 「なぎ払え!・・・・・・・どうした化物!さっさと撃たんか!」
  巨神兵の口が再び大きく開かれる。巨神兵の身体を覆う皮膚がズブズブととろけて流れだす。エネルギー弾が照射された・・燃え立つ大地。しかし、もはや王蟲の進撃を止めるだけの力はなかった。

巨神兵の腐った皮膚がズルズルと剥がれ落ち、骨格が崩れついに巨神兵はその動きを止めた。

兵たちは恐怖し、その場から次々と逃げ出して行く。

  大ババ 「王蟲の怒りは大地の怒りじゃ・・・あんなものにすがって生き延びて何になろう・・・」
  風の谷の人々が見守る中、つぼ型飛行艇が、王蟲の大群が迫りくる平原の真中へ、王蟲の子とナウシカをおろした。迫る王蟲の前に立ち、じっと前を見詰めるナウシカ。王蟲の勢いは止まらない。ナウシカは空高く突き上げられ、王蟲の群の中へ落ちて行った。王蟲はそのままの勢いでガンシップを踏みしゃぎ、船の残骸に激突していく。その衝撃で、船の艦橋が折れた。

静寂があたりを包みこむ。砂煙(すなけむり)が晴れると、王蟲の脚が止まっていた。赤い攻撃色をしていた王蟲の眼が友愛の色、青色へと変化していく。倒れているナウシカの周りを王蟲が幾重にも取り囲んでいる。

  大ババ 「アア・・・・大地から怒りが消えた・・・」
  ミト 「止まった・・・王蟲が止まったぞ・・」
  大ババ 「身をもって王蟲の怒りを静めてくださったのじゃ・・あの子は谷を守ったのじゃ・・・・」
460 挿入曲11

鳥の人
〔1:52〕

  王蟲から無数の触毛がのびてくる。それは、ナウシカを支え、徐々に空高く押し上げて行った。空からキラキラと金色の光の粒が舞い落ちる。
  ミト 「オオ!」
  クロトワ 「な・・・・!なんだこの光は・・・!」
  大ババ 「オオ・・・なんといういたわりと友愛じゃ・・・王蟲が心を開いておる。」

「子供達よ、わしの盲(めしい)た眼の代わりにようく見ておくれ・・・」

  ナウシカが目を開けた・・・そのそばにキツネリスのテトが寄り添っている。ナウシカはゆっくりと起き上がる。ペジテの服を着たナウシカ。その服は王蟲の血で、青く染まっている。ナウシカは金色に輝く王蟲の触毛の上で軽やかに舞った。

その姿はまるで、金色の草原を(きんいろのくさはら)を歩いているように見えた。

  大ババ 「オオォ・・・・!!」

「その者、青き衣をまといて金色(こんじき)の野に降り立つべし・・・・」

「オオォオ!!・・・・古き言い伝えはまことであった・・・」

  風の谷にメーヴェが戻ってきた。上空をくるくると旋回している。

風の谷に再び風が吹き始めたのだ。

王蟲が去っていく。遠い腐海の彼方へ・・・。

風の谷に再び平和が戻ってきた。これから彼等の復興への道が始まるのだ。

腐海の底にチコの木が芽吹いていた。

468 挿入曲02 ED

はるかな地へ
〔3:53〕

劇終

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