ミッドナイトチェーサー

ミッドナイトチェイサー

暗闇　深夜（くらやみしんや）	男	職業：探偵推定年齢　25歳　彫りの深い顔立ちと甘い声を持つ。　しかし、深夜は女性が大の苦手である。深夜は何故かサングラスをはずさない。彼の瞳は「ジャッジメント・アイ」と言い、その瞳に凝視されると誰もがその本性をさらけ出すという。
御神渡　悠（おみわたりゆう）	女	職業：押しかけ助手推定年齢　22歳　一見女性と見違えるほど、女性っぽいニューハーフ。その美女ぶりは外見、内面とも抜群である。　深夜がそういう趣味がある訳ではない事は強調しておかねばならない。悠のその甲斐甲斐しさは、女性以上である。悠は念動力（サイコキネシス）をもつ超能力者である。
布袋　大黒（ほていだいこく）	男	職業：土御門署（つちみかどしょ）の警部補推定年齢：48歳　未婚。名前は福々しいが、万年警部補。昇進の気は更々ないスケベな不良中年である。　深夜の探偵事務所に入り浸っている。深夜と悠の秘密の能力を理解しており、良き理解者・協力者でもある。
神楽　舞（かぐらまい）	女	職業：警部　大黒の上司推定年齢：25歳　キャリア組のエリートではあるが、気さくな可愛い女性である。深夜を密かに慕っているが、いつも大黒に茶化され顔を真っ赤にしている。その、洞察力、推理力は抜群である。
ダーラ	女	魍魎、喰人華
男Ｂ		俗に言うやられ役
ナレーション	不問

暗闇　深夜御神渡　悠布袋　大黒神楽　舞ダーラ男Ｂナレーション

第２話　闇夜に咲いた毒の花

001	Ｎ	土御門署、捜査第１課。自分の机の前で舞はぼうっと前を見つめている。傍を通りかかった大黒が手をひらひらさせるが舞の視角には入っていないようだった。
002	神楽　舞	「・・・知らなかった・・この世界に別の顔があるなんて・・・。」
003	Ｎ	舞は昨夜、深夜とともに経験した、夜の世界を思い出していた。深夜の煌々ときらめく黄金色の瞳の前に、男たちの姿がみるみる異形のものへと変貌していった。
004	男Ｂ	「ぐ・・ぐぐぐぐぐ・・・。」
005	暗闇　深夜	「そ～ら、震えが来て、偽りの自分の姿を保っている事が出来なくなっただろ。」
006	神楽　舞	「な･･何・・なんなの！バ･･バケモノに変わっていく・・。」
007	暗闇　深夜	「これがこいつらの本性さ。深くて暗い常闇の常夜界に巣食うバケモノが、明るいこの世界の光に誘われて、ふらふらとさまよいでてきてるのさ。」
008	男Ｂ	「ぐぐぐ・・・まさか・・この世界に、審判者が居たとは・・。」
009	暗闇　深夜	「俺は、別におまえ達を裁くためにここに居るわけじゃない。」
010	男Ｂ	「ならば・・なぜ、俺達にジャッジメント・アイを向けたんだ・・・。」
011	暗闇　深夜	「おまえ達が隠し事するからだ。」
012	男Ｂ	「ぐるる・・隠し事？・・人間を食ってる奴の事か・・。」
013	暗闇　深夜	「そうだ、お前の顔は知ってると言ってるぞ。」
014	男Ｂ	「ぐふふ・・ぐへへへへ・・・・。」
015	神楽　舞	「･･笑ってるの・・・？」
016	暗闇　深夜	「建物の影に隠れてろ。反吐が飛び散るぞ。」
017	神楽　舞	「えっ！」
018	Ｎ	その時、男が口からドバッと、粘々した液体を吐き出した。深夜は軽く飛び下がると体を捻ってかわした。行き場を失った吐しゃ物が舞の頭上から降りかかる。
019	神楽　舞	「きゃっ！・・な･･なあにィ～～これ～～～・・いやぁ・・べとべとぉ～～。」
020	暗闇　深夜	「早く隠れてろといっただろ。・・クリーニングしても落ちないぞ。臭いは１週間はのかないぞ。」
021	神楽　舞	「えぇ・・うそぉ～～！もっと早く言ってよ～～。」
022	暗闇　深夜	「まぁ、でも、安心しただろ。バケモノたって、奴らのできるのはその臭い吐しゃ物を吐き出す事くらいだ。」
023	Ｎ	深夜がサングラスをかけ、舞を見て笑った。
024	神楽　舞	「それを教えるために・・わざと・・？」
025	男Ｂ	「くそおぉ・・・。」
026	暗闇　深夜	「さて、奥の手をさらけ出してはもう、凄むことも出来ないだろう。正直に言え。」
027	男Ｂ	「・・・わ・・わかった・・などと言うわけないだろう！！」
028	Ｎ	男は後ろ足を縮めると高く跳躍した。手の爪が１０センチくらいに伸び、上空から深夜に向かって飛び掛る。
029	暗闇　深夜	「バカな奴だ・・死に急ぐことも無いだろうに・・。」
030	Ｎ	深夜が右腕を男に向けた。深夜の手のひらにぽっかりと穴が開く。その穴の中から強烈な光が伸び、その光の矢は男の体を貫いた。
031	男Ｂ	「ぐぁえへ！」
032	Ｎ	男の体は光の粒となって拡散していった。深夜は次に残った４人の男たちの方向に向き直った。
033	暗闇　深夜	「どうする？正直に話すか？」
034	Ｎ	男たちはまるで首振り人形のようにコクコクと頭を何度も縦に振った。
035	暗闇　深夜	「素直だ。」
036	Ｎ	土御門署、屋上。舞がベンチに腰を下ろして空を眺めている。そこへ大黒がやってきた。
037	布袋　大黒	「あ、いたいた。どうしたんですか？今朝からぼ～～っとして。課長が睨んでましたよ。」
038	神楽　舞	「え・・うそ・・・！」
039	布袋　大黒	「嘘ですよ。・・・昨日、夜の街へ出たらしいっすねえ。・・・クンクン・・そういえば・・なんか臭いますねぇ・・。」
040	神楽　舞	「・・・やっぱり・・まだ、臭うんだぁ・・・。」
041	布袋　大黒	「ゲロ･･かけられたんですな・・。」
042	神楽　舞	「どうしてそれを・・！・・・・もしかして布袋さんもかけられた事があるの？？」
043	布袋　大黒	「へへへ・・・奴らの常套手段ですからねえ。」
044	神楽　舞	「そうなんだぁ・・布袋さんって、私が知らないところで命を盾に頑張ってたのね・・。」
045	布袋　大黒	「いやぁ・・命をかけてるわけじゃないですけどねぇ・・なんかワクワクするんですよ。あいつと居るとね。」
046	神楽　舞	「暗闇さん？」
047	布袋　大黒	「ええ、年甲斐もなくね・・。」
048	神楽　舞	「そうね・・私も、昨日・・なんだかワクワクしてくる自分が居るのを感じてたわ。」
049	布袋　大黒	「へへへ・・ところで、連続猟奇事件の犯人ですがね・・、昨日、手がかりは掴めましたか？」
050	神楽　舞	「ええ・・それなんだけど・・何かわかったら連絡するって、暗闇さんに言われたんだけど・・まだ、連絡が無くって・・。」
051	布袋　大黒	「ほぉ・・それで今日一日、ぼ～～～っとしてたんですな？」
052	神楽　舞	「ち・・違うわよ・・。それとこれとは別よ・・。」
053	Ｎ	舞が顔を真っ赤にして強く否定した。しかし、その仕草は、恋に百戦錬磨の大黒には『私、あの人が好き～だ～～い好き・・』と大きな声で言っているのと同じだった。
054	布袋　大黒	「ほぉ～～～～っつ・・ふ～～ん・・。」
055	神楽　舞	「な・・なに？布袋さん・・な・・なんなの？」
056	布袋　大黒	「いやぁ・・以外と初心（うぶ）ですなぁ・・・もしかして・・まだ処・・じ・・・ぐぇ！」
057	Ｎ	舞が大黒の頬をパシ～ンっと張った。舞が顔を真っ赤にし、形のいい眉を逆立てて怒っている。
058	神楽　舞	「ばか！！」
059	布袋　大黒	「へへへ・・・・。」
060	Ｎ	その時、波飛沫音次郎の演歌が大音響で鳴り始めた。あいかわらず大黒は出ようとしない。しばらくして曲がすべて終了した。
061	布袋　大黒	「はい、もしもし。布袋ですが？」
062	御神渡　悠	「スケベでエッチでエロの大黒さ～～ん。やっほ～～～。」
063	布袋　大黒	「あなたのおかけになった電話番号は現在使われておりません。この電話番号はイクイク～イヤイヤ～イイジャンカ～～です。」
064	御神渡　悠	「アウアウ、ウフウフ、イヤ～～ン・・じゃございませんの？」
065	布袋　大黒	「・・・とも言いますなあ・・もう一回言って？」
066	御神渡　悠	「ば～～か。いつまでも大黒さんのエログロ話に付き合ってる暇は無いの。」
067	布袋　大黒	「最初に振ったのはお前じゃないか。」
068	御神渡　悠	「深夜からの伝言よ。いい、これは舞さんには絶対言わないでよ。」
069	布袋　大黒	「えっ・・・！？」
070	Ｎ	舞が大黒の携帯の反対側から耳を近づけて聞いていた。
071	布袋　大黒	「あ・・・・あぁ・・・俺は言わないからな・・う～～ん・・絶景・・・い・・いや・・・絶対・・・。」
072	Ｎ	大黒はあぶら汗を額に浮かべながら、横目で舞を見ていた・・その視線は舞の胸元に開いた胸の谷間に注がれていた。
073	御神渡　悠	「この猟奇事件の犯人・・・魔空（まくう）の殺人鬼と呼ばれてる、たちの悪い魍魎（もうりょう）らしいの。」
074	布袋　大黒	「・・死ぬかもしれないってことか？」
075	御神渡　悠	「下手すればね・・。」
076	布袋　大黒	「俺達には手を出すなと？」
077	御神渡　悠	「深夜はそう言ってた。」
078	布袋　大黒	「・・言ってた？・・・あいつは・・もう･･行ったのか？」
079	Ｎ	その時、舞が大黒の携帯を奪い取ると、通話口で叫んでいた。
080	神楽　舞	「悠さん！暗闇さんはそこへ行ったの！教えて！お願い！！」
081	御神渡　悠	「え・・あ・！舞さん！！・・え～～、どうしてそこに！！・・・聞いてたの？？」
082	神楽　舞	「暗闇さんはどこ行ったの！教えて！警察官として命の危険にさらされようとしている一般人をほおって置くわけに行かないわ！」
083	御神渡　悠	「舞さん・・。ごめん！」
084	神楽　舞	「あ・・悠さん！悠さん！！・・・・・切れたわ・・。」
085	布袋　大黒	「・・・どうします？」
086	神楽　舞	「行くわよ！暗闇探偵事務所へ！」
087	布袋　大黒	「そう言うと思ってましたよ！行きましょう！」
088	Ｎ	昼なお暗い廃ビルにコツコツと乾いた靴音が響く。深夜がひとり、歩いている。じめじめと湿った空気が身体にまとわりき、肌がじっとりと湿ってくる。ビルの最上階、コンクリート肌がむき出しのフロア－の一角に蠢くものがいた。
089	暗闇　深夜	「見つけたぜ。喰人華ダーラ！」
090	Ｎ	ダーラと呼ばれたその物は、くるりと向きをかえ、深夜に向き直った。深紅の唇が毒々しい、女だった。
091	ダーラ	「お前か・・わたしのまわりをうろちょろ嗅ぎ回っていた奴は。」
092	暗闇　深夜	「知ってたのか。ならば話も早い。」
093	ダーラ	「ふん、死に急ぐか・・。」
094	Ｎ	突然、女の喉から胸にかけて四つに割れてめくれあがった。めくれあがった肉の内側には無数の尖った牙が並んでいた。その形はまるで真っ赤な花びらが開いたようだった。まさに毒の花びらであった。
095	暗闇　深夜	「その大きな口で人間を喰ってたのか・・。」
096	ダーラ	「恐れをなしたか？ここへ来たのが運の尽き。お前も他の人間同様、喰ってやる。」
097	暗闇　深夜	「俺を喰う？・・はははは・・・俺を喰うか？・・面白い、喰ってみろ。」
098	ダーラ	「な･･なんだと！？」
099	暗闇　深夜	「いいから、来いよ。俺を喰うんだろ？」
100	ダーラ	「・・・お前は誰だ・・・私の姿を見ても恐れもせず、それどころか私を挑発するお前は・・・。」
101	暗闇　深夜	「ふむ・・知りたいか？知ったらお前はどうしても俺を喰わなければならなくなる。」
102	ダーラ	「なに！？」
103	暗闇　深夜	「お前が助かる道はただひとつ。それは、俺を喰って逃げる事だ。」
104	Ｎ	深夜がサングラスを外す。そのとたん、薄暗かったビルの中が、まるでサーチライトを照らしたかのように明るくなった。その光にダーラは怯んだ。
105	ダーラ	「お・・まえは・・・審判者・・・くうううう・・・何故お前が、この世界に居るの・・。」
106	暗闇　深夜	「まあ、いろいろあってね。さあ、ダーラ、どうする？」
107	ダーラ	「闇の世界の私と同じ住人であるお前が・・・なぜ、私を裁く・・。」
108	暗闇　深夜	「それが・・俺の逃れられない定めだからさ・・・・同属を裁くことを宿命付けられたのさ・・。」
109	N	深夜の瞳に悲しみの色が浮かぶ。
110	ダーラ	「お前に宿命付けた者は誰なの・・？」
111	暗闇　深夜	「ははは・・俺自身さ。」
112	ダーラ	「・・・どういう意味だ？」
113	暗闇　深夜	「もうひとりの自分・・俺のふたつ身に分かれた・・・片割れ・・。」
114	ダーラ	「なんだと・・では私は・・・同じ者に・・焚き付けられ・・裁かれると言うわけか・・・ただ私を翻弄しているだけなのか・・。」
115	暗闇　深夜	「闇の世界は存在してはならない世界なのさ・・なぜなら俺が作り上げた妄想の世界だからな・・。」
116	ダーラ	「な･･なんだと・・・私達を作り上げたのがお前だと・・・。」
117	暗闇　深夜	「ああ・・だから・・そんな世界はあってはいけないのさ・・・。」
118	ダーラ	「認めぬ・・・そのような戯言・・・私は自分で考え・・自分で行動し・・自分でこうしてこの場所に立っている・・私は生きているのだ・・。」
119	暗闇　深夜	「生きてはいない・・生きているように感じているだけだ・・。おまえ達に魂は無い・・・。」
120	ダーラ	「世迷いごとを言うな！！」
121	Ｎ	ダーラが四つに裂けた大きな口から強酸性の唾液を吐き出した。ビシャっと、さっきまで深夜が立っていた場所へ降り注いだ。コンクリートがブスブスと溶け大きな穴が開いた。深夜は右手の手のひらから白光の剣を伸ばし、身構えている。
122	暗闇　深夜	「・・・消えろ・・常闇の彼方へ・・。」
123	ダーラ	「死なん・・ただでは死なん・・・私がお前の生み出したものであるのならば・・・その私が、この世界で人間達を殺す事はお前にとって死にも堪えがたい苦痛だろう・・。」
124	暗闇　深夜	「ゆるさない・・・そんな事は、絶対ゆるさない・・。」
125	ダーラ	「ほほほほほ・・いい思い付きだろう・・審判者・・・。」
126	Ｎ	深夜が右手を振るう。それに遅れて光の剣が伸び、ダーラの体を真っ二つに切り裂いた。ダーラはにやりと笑って深夜に手を伸ばした。
127	ダーラ	「くふふふふ・・・ほほほほほ・・・・阻止は出来ぬ・・・お前に私達を阻止する事は出来ぬ・・・・。」
128	暗闇　深夜	「・・お前！まさか！！最初から仕掛けていたのか・・・・！！」
129	ダーラ	「魍魎界に通じる道をこの世界のどこかに開けた・・・もはや、この世界と魍魎界の隔ては無くなった・・。幾千幾万の魍魎たちがこの世界へ侵攻してくるだろう・・・。お前にそれを防ぐ事ができるか・・・？ふふふ・・ほほほほ・・ははははは・・」
130	Ｎ	ダーラが高笑いとともに光の粒となって消えていった。あとには呆然と立ち尽くす深夜の姿があった。
131	Ｎ	魍魎界・そこから大挙して押し寄せてくるバケモノたちに、深夜はどう立ち向かっていくのであろうか・・。そして、この世界はいったい・・・。次回は『激震！魍魎門に立つ』どうぞお楽しみに。

つづく