天空の城ラピュタ

挿入曲・歌 天空の城ラピュタ サウンドトラック
        飛行石の謎より

001 夜の雲海を、ドクロのマークをつけた飛行船が飛んでいる。船の先に突き出た物見台から下を覗いている一団がいる。見やる先に、一機の客船が飛んでいた。一団のボスらしき女が無気味に笑った。船内が慌しくなり艦尾から羽虫型の小型飛行艇フラップターが3機飛び出してきた。

3機のフラップターは月を背に静かに客船へ近づいていく。

窓の内側に少女の姿が見える。少女が窓の外を飛ぶフラップターを見つけた。一団のボスは窓の少女へ、ニタリと笑うといきなり船めがけてガス弾を発砲してきた。

船の防戦用小窓から中へ飛び込む襲撃者たち。船内を駆け巡り発砲を繰り返し、少女の居る部屋へと近づいてくる。

少女のいた部屋の外では、黒眼鏡の男たちが銃を片手に応戦していた。

  ムスカ 「くいとめろ!」
  男は部下たちに言いつけると部屋の中へするりと入り、ドアを閉めた。
  ムスカ 「君は床にふせていたまえ!!」
  男はカバンに似せた通信機を取り出すと無電を打ち始めた。男の背後から少女がワインのビンを振り上げ思いっきり後頭部を殴った。ワインのビンが砕け散る。

部屋の外では、ますます銃撃戦が激しくなってきていた。

少女は仰向けに倒れた男の内ポケットから、ペンダントを取り出すと自分の首へ掛けた。ペンダントには大きな青色の石がついていた。

  ドーラ 「何をぐずぐずしてるんだい!!サッサと蹴破らないかい!!」
  激しくドアをたたく音が響く。少女は窓を開けると、船の外へ出た。間髪を入れずドアが蹴破られ、襲撃者が部屋の中へ入ってくる。

少女は窓枠に両手の指をかけ必死に隠れている。・・しかし、姿をすぐに見つけられてしまった。

  ドーラ 「はやく捕まえるんだよ!!」

「あれだ、あの石だよ!!早く隣の部屋へ!!」

「飛行石だよ!!」

  少女の指はすでに限界に達していた。指から力が抜ける。少女の体が船から滑るように離れ、そのまま雲海の中へと落ちていった。
010 ドーラ 「しまったァ!飛行石が・・・・」
  天空の城 ラピュタ
  挿入曲OP

空から降ってきた少女

〔2:27〕

  少女は雲海を突き抜け、まっさかさまに落下している。突然、少女の胸のペンダントがポオッっと光を発し、次の瞬間、まばゆいばかりに光り輝くと、青い光が少女を包み込んだ。すると、少女の体が水平に浮かび、まるで、海の波にたゆたうように、ゆっくりと揺れながら下へ落ちていった。

小さな鉱山町の一角で、少年パズーは残業の為の晩御飯を買い、仕事場である鉱山へ向かった。その道すがら、パズーの目に、ある光景が飛び込んできた。空から青く光り輝くものが降ってきたのだ。

  パズー 「・・・なんだろう」

「・・・・・人だ!!」

  挿入曲02‐01

スラッグ渓谷の朝01

〔0:48〕

  パズーは、巨大な口を地上へ開けた坑道の入り口に突き出した板の先に立つと、空から降りてきた少女を抱きとめた。少女の体重がパズーの両手にずしりとかかった。
  パズー 「・・・わあっ・・・」

「クックックックッ、ヌッヌッヌッヌッ・・・ウウウウ・・・・」(懸命にこらえる)

  N パズーは少女を落とさないように力をこめて抱き上げ、ようやく足場のしっかりした板の上におろすことができた。
  パズー 「ハアハアハア・・・」
  N その時、鉱山の底から親方の怒鳴り声が響いた。
020 親方 「パズーーッ!!」

「そこで何してやがる!飯はどうした?」

  パズー 「親方!!・・・そ、空から女の子が!!」
  N 蒸気が噴き出し、急に親方の表情が険しくなる。パズーも慌てて鉱山の底へ降りていく。
  パズー 「親方!空から女の子が!」
  親方 「クソッ!ボロエンジンめ!!」
  パズー 「親方!空から女の子が!」
  親方 「二番のバルブを閉めろ!!」
  パズー 「ハイ」
  親方 「アチチ・・・パズー、レンチよこせ」
  パズー 「ハイ」
030 N 終業のベルが鳴る。エンジンの修理で親方は忙しそうである。
  親方 「手がはなせねえ!!おまえやれい!!」
  パズー 「エッ」
  親方 「下の連中を待たすんじゃねえ」
  パズー 「ハイッ」
  親方 「落ち着いてやりゃできる」
  N パズーが、エレベーターのレバーの操作をはじめる。天井にある巨大な滑車が音を立てて回り始める。エレベーターが地下から上がってくる。滑車の回転が上がる。その様子を見つめるパズー。手元がおろそかになる。
  親方 「ブレーキだ!!」
  パズー 「ハッ!!」
  N エレベーターから、ぞろぞろと人が降りてくる。しかし人々の顔はさえない。うまく鉱脈に掘り当たらないらしい。
040 親方 「ボイラーの火を落とせ。残業は無しだ。こう不景気じゃひあがっちまう」

「パズー、そのオンボロに油差しとけよ」

  パズー 「ハーイ・・」
  薄い霧に覆われている谷あいの鉱山町に朝が訪れた。パズーはむくりと起き上がると、自分のベッドで眠っている少女を確認し、天窓から家の外へ出た。外から鳩小屋の窓を開け、鳩を外へ出してやり、朝のトランペットを一吹きする。谷あいにトランペットの音が響き渡った。
  挿入曲02‐03

スラッグ渓谷の朝03

〔1:01〕

  N 少女が目を覚まし、家の天窓から顔をのぞかせる。パズーの飼っている鳩が少女のそばをすり抜ける。
  シータ 「キャッ!!」
  パズー 「ハハハハ・・・やあ、気分はどう?」
  N たくさんの鳩がパズーの周りに群れ飛んでいる。
  パズー 「ワッ・・コラ・・まてったら・・・」

「ぼくはパズー。この小屋で一人暮しをしてるんだ」

「吹き終わったらあげる決まりなんだ」

  N パズーは少女の手にたくさんのパンくずを渡した。鳩たちが少女の手の周りに群がり、手の中のパンくずをついばんだ。少女はそれを見ながら嬉しそうに笑っている。
050 パズー 「フフ・・安心した。どうやら人間みたいだ。さっきまで、ひょっとすると天使じゃないかって心配してたんだ」
  シータ 「ありがとう、助けてくれて。わたし、シータっていうの」
  パズー 「シータ・・・いい名前だね」

「驚いちゃった。空から降りてくるんだもの」

  シータ 「そうだわ・・・わたし、どうして助かったのかしら・・・飛行船から落ちたのに・・・」
  パズー 「覚えてないの?」
  シータ 「ウン・・・」
  パズー 「フーン・・」

「ネッ、それちょっと見せてくれる?」

  N パズーはシータの首にかかっているペンダントを指さしていった。
  シータ 「これ?」
  パズー 「うん」
060 シータ  「わたしの家に古くから伝わるものなの・・・」
  パズー 「きれいな石だね」

「チョット・・」

  N パズーは持っていたトランペットをシータに渡し、ペンダントを首から下げると、おどけながら屋根の端まで歩いていった。そして、いきなり両手を広げ、屋根から飛び降りた。

大きな音がした。シータは慌てて屋根から下をのぞきこむ。パズーは階下の天井を突き破って、家の中へ落ちていた。シータは急いで屋根伝いにジャンプし、パズーの落ちた穴をのぞきこんだ。

パズーの手がしっかりと穴の周りのレンガを掴んでいた。パズーの顔が穴からのぞく。

  パズー 「へへ・・・やっぱり、このせいじゃなかったみたいだ・・」
  パズーはシータのペンダントをさしだした。
  パズー 「わあっ!!」
  N 掴んでいたレンガが崩れ、パズーは部屋の中へ落ちた。心配したシータが穴から中へおりようとする。

シータが穴から落ちてきた。

  シータ 「キャッ!!」

「・・・・・パズー・・しっかり・・大丈夫?」

  パズー 「うん、シータは?」
  シータ 「平気、ごめん。痛かった?」
  パズー 「ううん・・僕の頭は、親方のゲンコツより固いんだ」
  シータ 「マア・・フフフ・・・」
070 パズー  「ハハハハハ・・」

「・・そうだ、ポットかけっぱなしだった。お腹、減ってるだろ。ご飯にしよう。」

「あそこで顔洗えるよ。タオルもあるから」

  N パズーはあわてて階段を駆け上がりながらシータに言った。
  シータ 「ありがとう!!」
  N シータは木の骨組みだけの鳥の形のグライダーの脇を抜けて、水道を探す。ふと、壁にかかった一枚の白黒写真が目にとまった。写真のタイトルを読む。
  シータ 「ラピュタ・・・・」
  N ジュージューと音を立て、フライパンの上で目玉焼きが焼けている。
  パズー 「シータ!!・・・シータ、まだァ?」
  N 階段の上からのぞくパズー。シータがじっとラピュタの写真の前にたたずんでいた。
  パズー 「それ、父さんが飛行船から撮った写真なんだ」

「ラピュタっていう空に浮いている島だよ」

  シータ 「空に浮いている島?」
080 パズー 「うん、伝説と言われてたけど・・・僕の父さんは見たんだ!!」

「ガリバー旅行記でスウィフトがラピュタのこと書いてるけど、あれはただの空想なんだ」

「これは父さんが描いた想像図!!」

  N パズーは本の挿絵を指差していった。
  パズー 「今はもう誰も住んでない宮殿にたくさんの財宝が眠っているんだって」

「・・・・でも、誰も信じなかった・・・。父さんは詐欺師あつかいされて死んじゃった」

  N パズーの手から模型飛行機が飛んだ。ぱたぱたと羽を上下に羽ばたかせて、グライダーの上にとまった。
  パズー 「けど、僕の父さんは嘘つきじゃないよ」

「今、本物を作ってるんだ。きっと僕がラピュタを見つけてみせる・・」

  N 窓の外から見える高台に一台の車が止まった。その車には昨夜の襲撃者たちが乗っていた。
  パズー 「オートモーヴィルだ、珍しいな!!」
  シータ 「あの人たち海賊よ」
  パズー 「エッ!?」
  シータ 「飛行船を襲った人たちだわ!!」
090 パズー  「シータを狙ってるの?」
  シータ 「さあ・・・・」
  パズー 「早く、こっちへ!!」
  N 海賊団の男がパズーの家に近づく。勢いよくパズーが戸を開け、男の子に変装したシータとともに飛び出した。
  パズー 「おはよ!!」
  ルイ 「よお!!まちな!!」
  パズー 「何??急いでるんだから早く!!」
  ルイ 「女の子がこのへんにこなかったか?」
  パズー 「昨日、来たかな。親方んとこのチビのマッジが!!」
  ルイ 「くそ!!いっちまえ!!」
100 パズー 「バイ!!」
  N パズーとシータはその場から一目散に走り去った。
  パズー 「やっぱりシータをねらってるんだ」
  N 家の中からシータの着ていた服が見つかった。
  ルイ 「化けてたのか!?・・おまえはママに知らせろ!!」
  N 街では、海賊団がシータの行方を聞きまわっていた。
  親方 「見かけねえなあ・・・」
  シャルル 「かわいい子でね。黒い髪のオサゲをしとるんだ」
  パズー 「親方ーー!!」
  シャルル 「ん?」

「ちょうどあのくらいの年頃でさ・・・」

110 N 前から走ってくるパズーとシータを見て男が言った。

目の前でシータが石につまづき、前へつんのめった。その拍子に帽子が脱げた。帽子の下からシータの黒髪のおさげが現れた。慌てるパズーとシータ。後ろからさっきの男が追いかけてきた。

  ルイ 「アニキーー!!そいつだァ!!」
  パズー 「あいつら海賊だ!この子を狙ってるんだ」
  親方 「それ以上よるんじゃねえ!」
  シャルル 「わたしてもらおう」
  親方 「帰んな、ここにゃ貧乏人しかいねえ」
  N 親方と海賊ドーラの3人の息子、ルイ、シャルル、アンリがにらみ合う。

その隙に親方のおかみさんがパズーとシータをそっと裏口から逃がしてくれた。

  シャルル 「どうしてもどかねえか」
  親方 「男ならゲンコツで通れ」
  シャルル 「おもしれえ」
120 ルイ 「兄ちゃん、やっちゃえ」
  N シャルルが力をこめると、胸の筋肉がもりもりと盛り上がり、ボタンがはじけとび、たくましい胸板が現れた。

親方も負けじと力をこめる。バリバリと服がはじけとぶ。

  ルイ 「スゲエ・・・・」
  N 両者、激しい殴り合いが始まった。皆、その喧嘩を楽しそうに見ている。やがてそのけんかを見ていた男たちも巻き込んで、大乱闘となっていった。その様子をドーラが遠く高台のオートモーヴィルの上から望遠鏡でのぞいていた。

ドーラがのぞく望遠鏡がすっと上へ滑り、トロッコ列車の線路の上を走る二人の姿を捉えた。

  ドーラ 「わたしを・・・だませると思うのかい?追うんだ!!」
  N 走ってくるトロッコ列車の前に飛び出し両手を広げるパズー。
  パズー 「乗って!!いいぞ!!」
  機関手 「パズー、仕事さぼってデートか?」
  パズー 「悪漢に追われてるんだ」
  機関手 「・・・・ン?」
130 パズー  「ドーラ一家だよ・・・」
  機関手 「海賊かよ、オイ」
  パズー 「隣の町まで乗せて。警察に行く」
  機関手 「わかった、釜焚き手伝え!!」
  パズー 「うん」
  N 大乱闘の続いている中へ、オートモーヴィルが突っ込んでくる。
  ルイ 「ママ!!」
  ドーラ 「この馬鹿息子ども、サッサとお乗り!!」
  ルイ 「エ・・・!?だって女の子はあそこに・・・」
  ドーラ 「裏口からとっくに逃げたよ」

「出しな」

140 N 車が急発進する。車めがけて街の男たちから、傘、机、バケツ、鉢植え等々、あらゆるものが投げつけられる。ドーラは慌てず手榴弾を投げつける。爆発が起こり火柱が上がる。その隙にオートモーヴィルは走り去って行った。向かうはシータの乗ったトロッコ列車である。
  機関手 「パズー!きおったぞ」
  パズー 「おじさん、もっとスピードでない?」
  機関手 「だいぶ年寄りだからなァ」
  N 走る列車の後を猛スピードで追いかけるドーラたち。どんどん差が縮まっていく。
  機関手 「蒸気を上げろ、追いつかれるぞ!!」
  パズー 「シータ、こっちへ!!」

「釜焚きたのむ!!」

  N パズーはシータを列車の中へ呼び寄せ、入れ替わりに外へ出ると、列車とトロッコをつなぐ連結器の金具をはずした。トロッコのスピードが急速に落ち、後ろに迫るオートモーヴィルに激突した。
  ドーラ 「負けるな!」
  N オートモーヴィールも勢いを込めてトロッコを押し戻す。
150 シータ 「パズー!!」
  パズー 「くそお!!」
  ドーラ 「押せ!!押しまくれ!!」
  N パズーはトロッコのブレーキを回している。

オートモーヴィルからトロッコをわたってシャルルとルイがパズーに飛び掛った。大きく体を伸ばした直後、シータの投げた釜焚き用のスコップが二人の顔面にめり込んだ。

ギギギギ・・と、きしみながらトロッコのブレーキが作動した。停止するトロッコ。パズーは軽やかに列車へ飛び移る。

  ドーラ 「逃がしゃしないよ!」

「グズグズしないでこいつを谷底へ捨てるんだ!!」

  シャルル 「エッ!?」
  機関手 「ワッハハハハ・・・それっ、突っ走れ!!」
  N トロッコが架橋から谷底へ落とされる。谷底へ落ちたトロッコは大音響とともに砂煙を上げて粉々に砕け散る。橋の上で、ドーラたちが力いっぱいトロッコの片側を持ち上げ谷底へ落としていた。
  ドーラ 「おまち!!」
  N ドーラが空をにらむ。上空を偵察用飛行機が飛んでいる。
160 シャルル  「奴らだ、ママ・・・どうしよう・・」
  ドーラ 「このまま引き下がれるかい。すぐ出発だ!!」
  N 渓谷を抜けるトロッコ列車。トロッコを切り離したため、軽快に煙をはきながら走ってくる。その前方をさえぎる物があった。
  機関手 「こりゃ、おったまげた・・軍隊のおでましだ」
  N トロッコ列車の行く手をさえぎっていたのは、装甲列車だった。列車につけられた砲塔が不気味に光っている。
  機関手 「オーイ、この子達を保護してやってくれ。海賊どもに追われとるんだ」
  N 装甲列車の脇の小さな入口が開いて、中から兵隊と黒眼鏡の男がおりてきた。それを見てはっとするシータ。
  パズー 「シータ・・・?」
  シータ 「さよなら・・」
  N シータは、いきなり逃げ出した。それを見て慌てて黒眼鏡の男が追いかける。パズーは黒眼鏡の男の足を引っ掛け転倒させると、シータの後を追った。
170 パズー  「シータ!!」
  N シータの足が止まった。逃げる方向の前からドーラたちが乗ったオートモーヴィルが走ってきたのだ。
  シャルル 「装甲列車だ!!」
  ドーラ 「かまうもんかつっこめーーーっ!!」
  パズー 「シータ、いったいどうしたんだ!!」
  シータ 「きちゃだめ!!」
  N 後方から轟音一発。装甲列車が砲撃した。
  挿入曲03‐02

愉快なケンカ02

〔0:37〕

  N 装甲列車から撃ち出される砲弾がドーラたちの近くに被弾する。ドーラは銃で列車のポイント切り替え器を狙う。見事命中し、ポイントが切り替わる。ドーラたちはスピードを上げて逃げる。続けて2発目、3発目と装甲列車から、たてつづけに砲撃が繰り返される。砲弾をかいくぐるようにドーラたちは逃げる。

やがて、砲撃で壊れた橋脚が重さに耐え切れず、メリメリと悲鳴を上げながら崩れていく。ドーラたちのオートモーヴィルが崩れかかった橋を渡りきる。

パズーはシータを抱え、左手で崩れた橋にしがみついていた。もろく崩れた橋は、パズーとシータの体重を支えきれない。

  シャルル 「落ちるぞ!!」
180 ドーラ 「静かに、よーく、見てな!!」
  パズー 「クク・・・・」
  N パズーの握っていた橋の枕木が折れた。パズーとシータはまっさかさまに橋から落ちていった。
  ドーラ 「オオー・・・・」
  挿入曲04‐01

ゴンドアの思い出01

〔0:39〕

  N ドーラが歓声を上げる。

シータとパズーを青白い光が渦を巻くように包み込んでいる。二人の体はふわりと宙に浮いていた。

  パズー 「浮いてる!!」
  ドーラ 「見な!!飛行石の力だよ!!」
  パズー 「やっぱりその石の力なんだ!!・・すごいや!!」

「大丈夫、このまま底までいこう」

  N 二人は手をつなぎゆっくりと静かに、鉱山の穴の中へと降りていく。
  ドーラ 「スゴイ!!ほしい〜〜〜〜!!」

「すばらしい!!必ず手に入れてやる!!」

190 N 鉱山の底深くへと降り立ったシータとパズー。だんだんと飛行石の光が弱まっていく。
  シータ 「消えてく・・・」
  パズー 「ワーッ・・待ってくれ・・」
  N パズーは慌ててランタンに火を入れる。あたりがオレンジ色に染まった。
  パズー 「シータが降りて来た時もそうだったよ・・・」

「入口があんなに小さいや・・・」

  シータ 「ひどい目にあってないかしら・・親方さんや機関手さんたち・・」
  パズー 「大丈夫。鉱山の男はそんなにやわじゃないよ。サッ、行こう。出口を探さなきゃ」

「このあたりは大昔から鉱山があったんで穴だらけなんだ・・・・・」

  N しばらくさ迷った後、パズーとシータは岩に腰を下ろし遅い朝食を食べていた。パンと目玉焼きである。
  シータ 「うれしい・・おなかペコペコだったの」
  パズー 「あと、リンゴが一個にアメ玉が二つ・・・」
200 シータ 「まあ・・・パズーのカバンて魔法のカバンみたいね。何でも出てくるもの」
  N シータはふるさとでの出来事を話している。
  パズー 「ゴンドア・・・?ズーッと北の山奥だね」
  シータ 「エエ・・・・わたし、父も母も死んじゃったけど、家と畑を残してくれたので何とか一人でやってたの・・」
  N のどかな山間の村、ゴンドア。そこで一人で生活していたシータの元に、黒眼鏡の男たちがやってきたのである。
  パズー 「・・・・!?・・その黒眼鏡たちにさらわれてきたの?」
  シータ 「ええ・・・」
  パズー 「さっきの男もそのひとり?」
  N コクリとうなずくシータ。
  パズー 「何者だろう・・軍隊と一緒にいるなんて・・・・」

「ドーラも、黒眼鏡もその石を狙ってるんだね」

210 シータ 「でも、この石に不思議な力があるなんて、わたしちっとも知らなかった」

「ずーっと昔から家に伝わってきたもので、母が死ぬ時わたしにくれたの・・・。決して他人に渡したり、見せたりしちゃいけないって・・・」

  パズー 「フーン・・・ぼくらは二人とも親無しなんだね」
  シータ 「ごめんね、わたしのせいでパズーを酷い目にあわせて・・」
  パズー 「ううん・・君が空から降りてきた時、ドキドキしたんだ」

「きっと素敵な事が始まったんだって・・・・」

  N ザクザクと小石を踏みしめる音がする。パズーはシータを守るように立ち上がった。ランタンの光をかざす。目の前に一人の老人が現れた。
  ポムじいさん 「小鬼だ・・・小鬼がおる・・」
  パズー 「ポムじいさん!!」

「大丈夫、とてもいい人だよ。」

「ポムじいさん、道に迷っちゃったんだ!」

  ポムじいさん 「ハテ・・・・パズーに良く似た小鬼だ・・・おまけに女の子の小鬼までおるわい」
  パズー 「ぼくたち海賊に追われてるんだ」
  ポムじいさん 「ホオ・・・・」
220 パズー 「軍隊にも追われてるんだ」
  ポムじいさん 「ホオ・・・・」

「ホッホッホッ、そりゃ豪気だなァ・・・」

  N パズーとシータは、ポムじいさんに連れられて、彼のテント小屋までやってきた。
  ポムじいさん 「さっ、おあがり」
  シータ 「ありがとう」

「おじいさん、ズーッと地下で暮らしているの?」

  ポムじいさん 「ホッホッホッ、まさかのォ・・・」

「ゆうべから石たちが妙にざわめきおってナァ・・・こういう時に下におるのは好きだがの」

  パズー 「岩がざわめくの・・・・・?」
  ポムじいさん 「ホッホッホッ、石たちの声は小さいのでナァ・・・」
  N ポムじいさんがランタンの灯りを吹き消した。あたりが真っ暗になる。すると、しばらくしてほのかに、地表の石たちが青白い光を放ち始めたのである。
  シータ 「・・・・・・まあ・・・」
230 パズー 「すごい・・・」
  シータ 「パズー上を見て」
  パズー 「ワアッ」
  N 真っ暗な空間に、石たちの青白い光がまたたき、まるで満天にかがやく星座を見るようだった。
  パズー 「さっきまで、ただの岩だったのに・・・」
  シータ 「きれい・・」
  ポムじいさん 「どれ、見せてやるかな」
  ポムじいさんは、石を拾うと、それを金づちで叩いて割った。その断面にポオッと青白い光が浮かび、しばらくするとその光は消えてしまった。
  シータ 「消えちゃった」
  ポムじいさん 「このあたりの岩には飛行石が含まれているんだよ」
240 パズー 「飛行石・・・?」
  ポムじいさんは、再び石を割り、断面の光を見せる。
  ポムじいさん 「このとおり、空気に触れるとすぐに、ただの石になってしまうがの・・・」
  シータは胸に温(ぬく)もりを感じて、ペンダントを取り出した。
  シータ 「光ってる・・・」
  ポムじいさん 「こりゃ、たまげた!!あんたそりゃ飛行石の結晶じゃ・・・」

「わしも見るのは初めてじゃ・・・・・・・・どおりで石たちが騒ぐわけだ・・!!」

  シータ 「この石には不思議な力があるんです」
  ポムじいさん 「・・・その昔、ラピュタ人(びと)だけが結晶する技を持っていたと聞いたがなァ・・・」
  シータ 「ラピュタ人(びと)・・・・・」
  ポムじいさん 「そいで、デーッカイ島を、空に浮かばしたとナァ・・・・・」
250 パズー 「ラピュタは本当にあったんだね。シータ!!やっぱりあるんだよ」
  シータ 「おじいさん、その島は今もあるんでしょうか」
  パズー 「ポムじいさん?」
  ポムじいさん 「す・・すまんが、その石をしまってくれんか・・・わしには強すぎる・・」
  シータ 「ハ・・・・ハイ」
  パズー 「どうしたの・・じいさん?」
  ポムじいさん 「オ・・・ン・・・・・・ウム」
  再び、ポムじいさんによってランタンに火が灯される。
  ポムじいさん 「フーッ・・・」

「わしのじいさんが言うとったよ・・・」

「岩たちがざわめくのは、鉱山(やま)の上にラピュタが来てるからだとな」

  パズー 「そうか・・・その時、空に昇ればラピュタを見つけられるんだ!!」

「シータ、父さんはうそつきじゃなかったんだ!!」

260 ポムじいさん 「・・・・ナァ・・女の子さん・・・・・その・・・・・」
  シータ 「ハイ」
  ポムじいさん 「わしは石ばかり相手に暮らしてきたから、ようわかるんじゃが。力のある石は、人を幸せにもするが不幸を招くことも、ようあることなんじゃ・・・」
  シータ 「ハイ」
  ポムじいさん 「まして、その石は人が手で作り出したもの・・・その・・・・気になってのォ・・・・・」
  パズー 「そんなことないよ!!その石はもう二度もシータを助けてくれたじゃないか!!」

「すごいぞ!!ラピュタは本当にあるんだ」

  N パズーとシータはポムじいさんの導きで、小さくあいた横穴の鉱道の出口にいた。
  パズー 「大丈夫だよ、行こう」
  シータ 「ありがとう、おじいさん」
  ポムじいさん 「きいつけてな・・」
270 N 地上へ出たパズーとシータ。空の青さに目を細めた。
  パズー 「ワァッすごい雲」

「あの雲の峰の向こうに見たこともない島が浮かんでいるんだ・・・」

「!!やるぞ!!きっとラピュタを見つけてやる!!」

  N 意気揚揚のパズーに比べ、どこか暗い表情のシータが言った。
  シータ 「パズー・・・」
  パズー 「ン・・・・・?」
  シータ 「わたし・・・・まだ言ってないことがあるの・・・」

「わたしの家に古い秘密の名前があってね・・・この石を受け継ぐとき・・その名前もわたし継いだの・・」

「私の継いだ名はリュシータ・・・」

「リュシータ・トエル・ウル・・・ラピュタ・・・・・」

  パズー 「ラピュタ・・・・そ、それじゃ・・・・・」
  N その時、偵察用飛行機が二人めがけて舞い降りてきた。
  パズー 「軍隊だ!!走れシータ」
  挿入曲04‐03

ゴンドアの思い出03

〔0:41〕

280 N パズーとシータは突然舞い降りた飛行機の兵士たちの手によって捕らえられてしまった。

ここは軍の要塞島である。

  将軍 「手ぬるい!!あんな小娘、締め上げればすぐ口を割るわい!!」
  ムスカ 「制服さんの悪い癖だ。事を急ぐと元も子もなくしますよ、閣下」
  将軍 「フン!!初めから部隊が出動すれば、ドーラごときに出し抜かれずに済んだのだ」
  ムスカ 「閣下が不用意に打たれた暗号を解読されたのです」
  将軍 「ナニッ!?」
  ムスカ 「これは、わたしの機関の仕事です。閣下は兵隊を必要なときに動かしてくださればよろしい」
  将軍 「ムスカ!!わしがラピュタ探索の指揮官だぞ・・忘れるな!!」
  ムスカ 「もちろん、わたしが政府の密命を受けていることもお忘れなく」
  N ムスカは部屋を出ていく。口元がニヤリと笑っていた。
290 将軍 「クソ〜ッ・・特務の青二才が!!」
  N ここはシータが捕らえられている部屋。そこへズカズカとムスカが入ってくる。
  ムスカ 「よく眠れたかな」
  シータ 「パズーは!?パズーに会わせて!!」
  ムスカ 「はやりの服は嫌いですか」

「彼なら安心したまえ。あの石頭は、わたしのより頑丈だ」

「きたまえ、ぜひ見てもらいたいものがある」

  N ムスカはシータをエレベーターに乗せ、地下にある秘密の格納庫へ向かった。
  ムスカ 「入りたまえ」
  N ムスカが部屋の明かりをつけると、部屋の中央には、壊れたロボットが横たわっていた。
  シータ 「これは・・・・」
  ムスカ 「すさまじい破壊力を持つロボットの兵隊だよ」

「こいつが空から降ってこなければ、誰もラピュタを信じはしなかったろう・・・」

「こいつは地上で作られたものではない。この身体が金属なのか粘土なのか、それすら我々の科学ではわからないんだ」

「ここを見てくれ・・・怯える事はない、こいつは初めから死んでいる」

「ここだ」

300 N ムスカは横たわるロボットの胸についている紋章を指差した。驚くシータ。
  ムスカ 同じ印(しるし)が君の家の古い暖炉にあった」

「この石にもね・・・・」

  N ムスカが、シータから取り上げたペンダントを右手にぶら下げる。
  ムスカ 「この石は、君の手にある時しか働かない。石は持ち主を守り、いつの日にか天空のラピュタへ帰る時の道しるべとして君に受け継がれたんだ」
  シータ 「そんな!!わたし何にも知りません!!」

「石が欲しいならあげます!!・・・・わたしたちをほっておいて・・・・」

  ムスカ 「君はラピュタを宝島かなんぞのように考えているのかね・・・・」

「ラピュタはかつて、恐るべき科学力で天空にあり、全地上を支配した恐怖の帝国だったのだ!!」

「そんなものが、まだ空中にさ迷っているとしたら、平和にとって、どれほど危険なことか君にもわかるだろう」

「わたしに協力して欲しい。飛行石にラピュタの位置をしめさせる、呪文か何かを君は知っているはずだ」

  シータ 「本当に知らないんです・・・・パズーに会わせて・・」
  ムスカ 「わたしは手荒なことはしたくないが、あの少年の運命は君が握っているんだ」

「君が協力してくれるなら、あの少年を自由の身にしてやれるんだ」

「リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ・・・」

  シータ 「・・・・・!!・・・どうしてそれを・・・・」
  ムスカ 「ウルはラピュタ語で王、トエルは真(まこと)・・・・君はラピュタ王室の正統な後継者、リュシータ王女だ・・」
310 N パズーが閉じ込められた小さな石組の独房に、ムスカがシータを伴って入ってくる。互いに思わず駆け寄るパズーとシータ。
  パズー 「シータ!!」
  シータ 「パズー!怪我は!?」
  パズー 「大丈夫だ。君は!?酷い事されなかった!?」
  ムスカ 「パズー君。君をすっかり誤解していた。許してくれたまえ」

「君がこの方を海賊から守るために、奮戦してくれたとは知らなかったんだ」

  パズー 「シータ・・・いったい・・」
  シータ 「パズー、お願いがあるの。ラピュタのこと忘れて」
  パズー 「何だって!?」
  ムスカ 「ラピュタの調査は、シータさんの協力で軍が極秘におこなうことになったんだよ」

「君の気持ちはわかるが、どうか手を引いてほしい」

  パズー 「シータ本当?・・・だって・・・・」
320 シータ 「ごめんなさい、いろいろ迷惑かけて・・ありがとう、パズーのこと忘れない・・・・」
  パズー 「まさかシータ・・・約束したじゃないか・・」
  シータ 「サヨナラ・・・」
  N シータが部屋を出て行く。追いかけようとするパズーをムスカが取り押さえる。
  パズー 「シータ!!まってシータ!!」
  ムスカ 「君も男なら、ききわけたまえ!!」
  パズー 「シータ!!」
  N 頑丈な木製の扉が無情にも閉じられ、重たい音が辺りの空気を振るわせた。ただ、ぼうぜんとするばかりのパズーだった。
  ムスカ 「これはわずかだが、心ばかりのお礼だ・・とっておきたまえ」
  N ムスカはパズーの手に金貨3枚を握らせると、その場を立ち去った。

失意のうちに軍の要塞本部から立ち去るパズー。窓からじっと見つめるシータ。後ろに立つムスカがシータの首にペンダントをかけている。

330 ムスカ 「思い出したまえ、この石を働かせる言葉を・・・約束さえはたせば、君も自由になれる・・・・・」
  N ムスカは部屋を出て行く。一人残る傷心のシータ。ただ、小さな肩を震わせて泣くばかりだった。
  挿入曲05

失意のパズー

〔1:46〕

  N 一人寂しく家に帰ったパズーを待っていたものは・・・ドーラたちだった。
  パズー 「ワアッ!何をする」
  ルイ 「騒ぐんじゃねえ」
  ドーラ 「ちょっと借りてるよ。ボーヤ」
  パズー 「でていけ!!ここは僕の家だぞ!!」
  ドーラ 「偉そうな口をきくんじゃないよ。娘っ子一人守れない小僧っ子が・・・」
  ルイ 「こいつ金貨なんか持ってら!!」
340 ドーラ 「やれやれ、娘を金で売ったのかい」
  パズー 「ちがう!!そんなことするもんか!!」
  ドーラ 「その金で手を引けって言われたんだろうが・・・」
  パズー 「シータがそうしろって言ったんだ!!・・・・・・・だから・・・・・・・・」
  ドーラ 「・・で、いじけてノコノコ帰ってきたわけかい・・」

「それでもお前・・男かい!!エッ!?」

  パズー 「威張るな!!お前たちだってシータを狙ってるじゃないか!!」
  ドーラ 「当たり前さね。海賊が財宝を狙って、どこが悪い!!」

「おかしいのはあいつらだ・・なぜ、娘をさらったりするんだい・・・」

「お前、あいつらが、あの娘を生かしておくと思うのかい」

「シータがそう言った?・・バーカ、お前を助けるために脅かされてやったに決まってるじゃないか」

  シャルル 「よくわかるね、ママ」
  ドーラ 「だてに女を50年やってるんじゃないよ。泣かせるじゃないか、男を助けるためのつれないしぐさ・・」

「あたしの若い頃にそっくりだよ。お前たちも嫁にするなら、ああいう子にしな」

  シャルル 「へっ!?」
350 ルイ 「ママのようになるの・・・・あの子」
  その時、無電機のベルがけたたましくなった。ドーラは受信機にとびつくとその打電音に耳をそばだてた。
  ドーラ 「暗号を変えたって無駄だよ・・・・!!」

「・・・・飛行戦艦を呼び寄せたな・・・・・娘を乗せて出発するんだ。急がないと手が出せなくなる・・・」

「出かけるよ!いつまで食べてるんだい!!」

  パズー 「シータをさらいに行くの?」
  ルイ 「娘はいらねえ・・飛行石さ」
  パズー 「石だけじゃ駄目だ!!あの石はシータが持たないと働かないんだ!!」

「おばさん!僕を仲間にいれてくれないか!?」

「シータを助けたいんだ!」

  ドーラ 「甘ったれるんじゃないよ。そういうことは自分の力でやるもんだ」
  パズー 「そうさ、僕が馬鹿じゃなくて力があれば守ってやれたんだ。ラピュタの宝なんかいらない。お願いだ」
  ルイ 「ウホーッ、泣かせるぅ・・・・・」
  ドーラ 「おだまり!!」
360 ドーラがじっとパズーを見つめる。何かを推し量っているようである。
  ドーラ 「二度とここへは帰れなくなるよ!!」
  パズー 「わかってる」
  ドーラ 「・・・そのほうが娘が言うことを聞くかもしれないね・・・・」(小声で)

「覚悟の上だね!!」

  パズー 「うん!!」
  ドーラは腰の剣を抜きパズーの戒めを切った。
  ドーラ 「40秒でしたくしな」
  パズーは壁にかかった風防グラスをかぶる。外ではドーラたちがフラップラーのエンジンを作動させていた。
  ドーラ 「こいつをベルトにつなぎな!!」
  ドーラがフラップラーから伸びる固定ベルトをパズーに渡す。
370 ドーラ 「お前たちは本船でお待ち!!」
  フラップラーの羽が唸りをあげて上下に高速で羽ばたく。上空へ飛び立つと噴射ノズルから炎を噴出し一気に加速する。

シータが閉じ込められている軍の要塞島には、巨大な飛行戦艦ゴリアテが上空に飛来していた。

  将軍 「素晴らしい艦だ」

「ムスカ、娘は白状したか?」

  ムスカ 「もう少し時間が要ります」
  将軍 「構わん!!空中でタップリ締め上げてやれ!」

「夜明けとともに娘を乗せて出発だ」

  フラップラーが超低空飛行で草原を突き抜けていく。空が白み始め、東の空がうっすらと明るくなってきている。
  ドーラ 「グズグズしてると夜が明けちまうよ!!」
  囚われのシータ・・ふと、頭の中に昔聞いた、ある言葉が浮かび上がってくる。それはシータのおばあさんが教えてくれたおまじないだった。「われを救(たす)けよ、光よ、よみがえれ」という意味である。シータは無意識に、その言葉を口にした。
  シータ 「リテ・ラトバリタ・ウルス・・・・アリアロス・バル・ネトリール」
  突然、胸の飛行石から光が渦となって溢れ出した。それは質量をもち、部屋全体を震わせた。そこへムスカが入ってくる。
380 ムスカ 「素晴らしい・・・・古文書にあったとおりだ・・・この光こそ聖なる光だ・・・」
  シータ 「聖なる光・・・・?」
  ムスカが飛行石に手を伸ばす。しかしムスカは、はじかれたように手を引っ込めた。その光はムスカを拒絶したのである。
  ムスカ 「どんな呪文だ!教えろ、その言葉を!!」
  地下の秘密格納庫の中では、飛行石の光に呼応するように、残骸と化していたロボット兵が無気味な音を立て動き始めていた。

ロボット兵は光に導かれるように、進路を邪魔する物を目から破壊光線を発射し、その全てを破壊して、真っ直ぐに突き進んでくる。地下は火の海と化していった。

  ムスカ 「ロボットか!」

「・・・・ここへ来る気か・・・・」

  地下と地上を遮断する、ぶ厚い鋼鉄のドアが閉じられる。しかし、ロボット兵の撃ち出す破壊光線は、それをものともせず、溶解し、前進してくる。ムスカは隣にいるシータの飛行石の光を見て、はっと気がついた。
  ムスカ 「そうか!!その光だ!!聖なる光でロボットの封印が解けたのだ。ラピュタへの道がひらけた!!」

「来い!!」

  シータ 「イヤーーーッ!!」
  ロボット兵は炎の中、長く伸びた腕を翼に変化させ飛び上がって来る。しかし、片方の腕が途中からちぎれているため、うまく飛行することができず、要塞の内部の壁に激突を繰り返しながら、シータめがけて向かってくる。シータは要塞島の屋上へ出た。

飛行石が再び、光を発した。それは一本の細い光の線となり、はるかかなた、空の一方向へ向けて放たれた。

390 シータ 「空を指してる・・・」
  ムスカ 「あの光の指す方向にラピュタがあるのだ」

「まだか!!早くしろ」

  ムスカは手下に電話線の切断を急がせていた。将軍は、上空のゴリアテと交信している。
  将軍 「爆薬を使う!?バカモノ!要塞をふっ飛ばす気か!!」
  ムスカの手下によって電話線が切られた。ゴリアテの通信が途絶える。
  将軍 「ン!?モシモシ、モシモシ・・オイどうした!!」
  ムスカ 「わたしはムスカ大佐だ。ロボットにより通信回路が破壊された。緊急事態につき、わたしが臨時に指揮を取る」

「ロボットは東の塔の少女を狙っている。姿をあらわした瞬間をしとめろ」

「砲弾から信管を抜け。少女を傷つけるな」

  塔の天井を突き破ってロボット兵が現れた。ロボット兵は、シータに向かって静かに手を差し伸べる。

その時、砲弾がロボット兵の胸に炸裂する。ロボット兵の胸がいびつにゆがむ。その衝撃で、ロボット兵は倒れ、シータも弾き飛ばされ、首のペンダントが外れてとんだ。

かけよる兵士たち。そのときロボット兵の顔の中央のランプが明滅した。ロボット兵は壊れていなかった。むくっと起き上がると眼から破壊光線を出し、辺りのものを次々と吹き飛ばしていく。腕の中にはシータがいだかれている。

フラップラーが要塞島へ近づいてくる。

  ドーラ 「どうしたんだい!まるで戦だよ!」
  パズー 「行こう!おばさん!」
400 ドーラ 「船長とお呼び!!シャルル!もっと低く飛びな」
  ロボット兵の腕の中で、シータは目を覚ました。業火に包まれた辺りの様子に驚く。顔を上げるとロボット兵が破壊光線を撃っている。
  シータ 「やめて!!もうやめて!!」

「・・・お願い・・・・」

  ルイ 「ママーッ!ゴリアテが動き始めたァ!!」
  ドーラ 「このままいくと、あいつの弾幕に飛び込んじまう。出直しだ!」
  パズー 「あそこだ!シータがいる」
  ドーラ 「ナニッ!どこだって!?」
  パズー 「小さな塔の上にいる!!」
  ドーラ 「女は度胸だ!!お前たち援護しな!!」
  フラップラーは一層激しく羽をはばたかせ、炎の中へ突っ込んでいく。
410 挿入曲06‐01

ロボット兵01

〔1:34〕 

  炎の中にシータとロボット兵がいた。
  パズー 「シータ!!シータ、いま行く!!」
  シータ 「パズー!!」
  パズー 「おばさん、もっと寄せて!!」
  フラップラーの羽が要塞の壁に触れグラグラとゆれる。体勢を立て直すため、一度、シータから離れた。
  シータ 「パズー!!」
  シータはロボット兵から飛び降りようとするが腕につかまれて身動きできなかった。
  シータ 「アッ!!離して!!」
  ロボット兵はシータの命令に従い、シータを塔の壁の上に降ろすと手を離した。

上空のゴリアテから、地上のロボット兵めがけて主砲が撃ち込まれた。爆炎が沸きあがる。次々と主砲が撃ちこまれる。

420 パズー 「シータ!!」
  爆風で吹き飛ばされた壁の一部が、ドーラの頭を直撃した。気絶し、その体をだらりと空中へ垂らすドーラ。フラップラーは操縦不能になり、海面へ落ちていく。
  シータ 「パズー!!!」
  海面すれすれで、パズーがフラップラーのスロットルを引く。水柱(みずばしら)を立て、海面を驀進する。

ドーラが意識を取り戻した。一気に垂直上昇し上空へ飛び上がる。

  ドーラ 「最後のチャンスだ。すり抜けながらかっさらえ!」
  パズー 「ハイ!」
  塔の上にシータが立っている。パズーの姿を見つけシータが叫ぶ。
  シータ 「パズーー!!」
  パズー 「いくよ!!よーし!!」
  パズーはフラップラーの取っ手に足を引っ掛けて体を逆さまに乗り出し、両手を広げシータめがけて飛んでいく。
430 ムスカ 「どけ!!しまった!!」
  パズー 「シータァッ!!」
  パズーの両手がしっかりとシータを抱きとめる。シータの両腕もしっかりとパズーを抱きしめる。そのまま、フラップラーは空高く飛んでいった。
  挿入曲06‐02

ロボット兵02

〔0:56〕

  ムスカ 「クソッ!ゴリアテ、何をしている!!・・・あっ!!・・・煙幕か・・・・」
  将軍 「ムスカ!ロボットはどうした!!」
  ムスカ 「ロボットは破壊しました。娘はあそこです」
  将軍 「ナニッ!?」
  ムスカの指差す方には、ドーラたちの張った色とりどりの煙幕が流れていた。
  将軍 「何をぼやぼやしとる。火を消せ!!追跡隊を組織しろ!!」
440 要塞の残骸の中から、ムスカがペンダントを拾い上げる。手の中で飛行石が光っている。
  ムスカ 「聖なる光を失わない・・・・ラピュタの位置を示している・・・・」

「将軍に伝えろ。予定通りラピュタへ出発すると」

  真っ青な空、湧き上がる雲。どこまでも続く緑の草原を、眼下に見ながらフラップラーが飛んでいる。パズーの腕の中でシータが泣いている。
  ルイ 「イイナ・・・」
  シャルル 「・・・信じられるか?あの娘が、ママみたいになるんだぞ」
  ドーラ 「お前の谷だ。まったくとんでもないムダ足だったよ」
  パズー 「ね・・・・」(小声で、シータに確認する)

「おばさん、僕たちを船に乗せてください」

  ドーラ 「船長といいな!!飛行石を持たないお前たちを乗せて、何の得があるんだい」
  シータ 「ラピュタの本当の姿を、この目で確かめたいんです」
  ドーラ 「フン!宝はいらないとか、ラピュタの正体を確かめたいとか・・海賊船に乗るには動機が不純だよ」
450 ルイ 「ママーーッ、連れてくのォ」
  ドーラ 「変なまねをしたら、直ぐ海に叩き込むからね!!」
  パズー 「ウン!!」
  ルイ 「ヤッター!!掃除洗濯しなくて済むぞ!!皿洗いもだ!!」
  シャルル 「イモの皮むきもな!!」
  ルイ 「ヤッホ〜〜〜〜!」
  シャルル 「お前、プディング作れるか?」
  シータ 「ええ・・・・・」
  ルイ 「俺、ミンスミートパイ好きなんだ!!」
  ドーラの息子たちが嬉しそうに次々と近づいてくる。
460 ドーラ 「いい加減にしな!!・・・まったくいつまでたっても子供なんだから・・・・」
  フラップラーは丁度、パズーの家の上空を飛行していた。じっと見つめるパズーとシータ。やがて、雲の影にその姿は隠れていった。
  ほっと一息・・

しちゃだめよ。


前半終了・・折り返しです。
  N 岩陰に隠されていた飛行船タイガーモス号が、フラップラーを迎えるため姿をあらわした。飛行船の船尾のハッチが開き、フラップラーが次々と飛び込んでいく。
  ドーラ 「降りな!!」
  N フラップラーから降りるパズーとシータ。足が床にめり込んだ。
  パズー 「布(きれ)だ!!この船、布(きれ)が貼ってある」
  ドーラ 「壊すんじゃないよ」
  ルイ 「グズグズしねえで!!狭いんだから」
  船の渡り廊下に出るパズーとシータ。進行方向から吹き抜ける風に飛ばされそうになり、慌てて手すりをつかむ。機首の方からドーラが叫んだ。
470 ドーラ 「早くしな、こっちだよ!!グズは嫌いだよ!!」
  ルイ 「おまえはこっちだ」
  パズーは船尾の機関室へ連れて行かれた。
  シータ 「パズー!!」
  ドーラ 「とって食いやしないよ。おいで!!」
  ルイ 「遊びに来たんじゃねえぞ」
  機関室では、たくさんの歯車がゆっくりと力強く回っている。
  パズー 「凄いエンジンだね」
  ルイ 「どこへ行っちまったのかな・・じいさん!!じいさん!!」
  床下からぬっと姿をあらわす老技師。
480 ルイ 「じいさん、欲しがってた助手だよ」
  老技師 「でけえ声出すな。聞こえとるわい」
  老技師は再び床下へ消えると、指だけ出して手招きする。
  ルイ 「行けよ・・・ママより怖いんだ。気をつけろ」
  老技師 「狭くて手が入らん」
  パズー 「このパッキンだね」
  老技師 「名前は?」
  パズー 「パズー」
  機首では、ドーラがラピュタの位置を地図で測っていた。
  ドーラ 「ほとんど真東だね。飛行石が指した方向は・・・間違いないだろうね」
490 シータ 「わたしのいた塔から日の出が見えました。今は最後の草刈の季節だから・・・」

「日の出は真東よりちょっと南へ動いています。光は日の出た丘の左端を指したから・・・」

  ドーラ 「いい答えだ。わたしらはゴリアテの風上にいるんだ。貿易風をつかまえれば・・」

「風力が10・・・・と。・・なんとかなりそうだ」

  ドーラが伝声管をつかんで、船内に一斉に命令を伝える。
  ドーラ 「みんなよーくお聞き!!ゴリアテはすでにラピュタへ出発した!!本船はこれより追跡を開始する」

「風をつかまえれば、明日には接触できるはずだ!!やつを最初に見つけたものに金貨10枚を出すよ」

「ラピュタがどんな島だろうが、まっとうな海賊をなぐさめてくれる財宝くらいあるはずだ」

「さあ!みんな、しっかり稼ぎな!!」

「進路98!速力40!!」

  色めきたつ乗組員たち。飛行船は順調に航海を続けている。
  ドーラ 「そのなりじゃ、何もできやしないねえ・・・これを着な!!」
  シータが服を着替える。次に連れて行かれたのは船の中の調理場だった。汚れ放題の、その調理場に目を丸くするシータ。
  ドーラ 「食事は一日に五回だよ。水は節約するんだよ!」
  ドーラは戸を開けて出ようとする。戸に張り付いていた男たちがバタバタと中へ倒れこんできた。その顔はみな、ばつが悪そうににやけていた。
  ドーラ 「このバカども!!さっさと仕事をしないかい!!」
500 調理場を見違えるほどきれいに整理し、シータは一生懸命、食事を作っていた。そこへルイが入ってくる。
  シータ 「ごめんなさい、ご飯まだなんです」
  ルイ 「へへへ・・・」
  シータ 「飛行船の台所って初めてで・・・・あの何か?・・・・」
  ルイ 「イイ・・・・・」
  シータ 「エ・・・・」
  ルイ 「イヤイヤ・・暇だからなんか手伝おうかなァ・・・・って」
  シータ 「まあ、ありがとう。じゃ、そのお皿しまってくださる!?」
  ルイ 「おやすい・・ご・・・!!」
  調理場の角で、すでに一番手が芋の皮をむいていた。
510 ルイ 「お・・おめえ・・さっき腹がいてえって・・・」
  シャルル 「おれ暇なんだ、なんか手伝・・・・」
  狭い調理場は男たちであふれかえってしまった。

ドーラの部屋では、老技師とドーラがチェスをしながら話している。

  老技師 「ドーラも変わったねえ・・ゴリアテ何ぞに手を出すとはよ・・・勝ち目はねえぜ・・・」
  ドーラ 「フン!ラピュタの島だ、無理もするさ」
  老技師 「へへ・・・確かにいい子だよ。あの二人は」
  ドーラ 「何がいいたいのさ、このクソジジイ・・・」
  老技師 「カタギに肩入れしても尊敬はしてくれねえぜ!!」
  ドーラ 「何だって!!」
  老技師 「イヤ・・・・・ホラ・・・王手だな・・・」
520 夜の見張りに立つパズー。それを見つけたシータがそっと抜け出し後を追う。パズーは飛行船の最上部の小さな見張台へもぐりこんだ。シータが船外の階段をのぼってくる。慌てて手を差し伸べるパズー。
  パズー 「シータ!!」
  シータ 「ああ、怖かった・・・・」

「わあっ!!・・き・れ・い・・・・・」

  挿入曲11

月光の雲海

〔0:44〕

  パズー 「眠れないの?」
  シータ 「ウン・・・・・」
  パズー 「シータは後ろを見張って・・」
  シータ 「うん・・・・・パズー・・」
  パズー 「ん?」
  シータ 「わたし怖くてたまらないの・・・・・」

「本当はラピュタなんか、ちっとも行きたくない。ゴリアテなんか見つからなければいいのにって思ってるの・・・」

530 パズー 「じゃ・・・」
  シータ 「ウウン・・光のさした方向は本当・・・でも・・・」
  パズー 「あのロボットのこと・・・かわいそうだったね・・・」
  シータ 「・・・・・・うん。おばあさんに教わったおまじないで、あんなことがおこるなんて・・・」

「わたし、他にもたくさん、おまじないを教わったわ。物探しや、病気を治すのや・・・絶対使っちゃいけない言葉だってあるの・・・」

  パズー 「使っちゃいけない言葉・・・?」
  シータ 「滅びのまじない・・・良いまじないに力を与えるには、悪い言葉も知らなければいけないって・・・でも決して使うなって・・・・教わった時、怖くて眠れなかった・・・」

「あの石は、外へ出しちゃいけないものだったのよ・・・だからいつも暖炉の穴に隠してあって、結婚式にしかつけなかったんだわ」

「母さんも、お婆さんも、お婆さんのお婆さんもみんなそうしてきたんだもの・・・あんな石、早く捨ててしまえばよかった・・・」

  パズー 「違うよ。あの石のおかげで、ぼくはシータに会えたんだもの」

「石を捨てたってラピュタは無くならないよ。飛行機械がどんどん進歩してるから、いつか誰かに見つかっちゃう」

「まだ、どうしたらいいかわからないけど、本当にラピュタが恐ろしい島なら、ムスカみたいな連中に渡しちゃいけないんだ・・・それに・・」

「今、逃げ出したらズーッと追われることになっちゃうもの」

  シータ 「でも・・・・・わたしのためにパズーを海賊にしたくない・・・」
  パズー 「ぼくは海賊にはならないよ」

「ドーラだってわかってくれるさ。あの人みかけよりいい人だもの・・・」

「全部片付いたら、きっとゴンドアへ送ってあげる・・・見たいんだ、シータの生まれた古い家や谷やヤクたちを・・・」

  シータ 「ああ・・パズー・・・」
540 パズー 「何だ、あれ!!・・・船の下、ほら、あれ!!」

「ゴリアテだ!真下にいるぞ!!」

  ドーラ 「おもかじ!逃げるよ!!」
  雲海を突き抜けて、ゴリアテが浮上してきた。四方へサーチライトを照らし、その光の輪の中に浮かび上がったタイガーモス号めがけて砲撃を開始する。

タイガーモス号が雲の中へもぐり込む。ゴリアテはそのまま、雲海の中へ消えていった。

  将軍 「ムスカ!なぜ追わん!逃がすと厄介だぞ!!」
  ムスカ 「雲の中ではムダ骨ですよ・・・・手は打ちます、どうせやつらは遠くへは逃げません!!」

「航海はきわめて順調ですよ・・」

  雲の中。タイガーモス号の機首ではドーラが伝声管をつかんでしゃべっている。
  ドーラ 「予想より進路が北だった」

「パズー時間がない。よく聞きな!!」

「ゴリアテにふりきられたらおしまいだ。おまえは目が良い、見張台だけ雲から出して追跡する」

  パズー 「どうすればいいの?」
  ドーラ 「その見張台は凧になる。中にハンドルがあるだろう」
  パズー 「あった!!」
550 ドーラ 「時計回しにまわし、フックがかかったら、上のハンドルを回せば翼が開く!!」

「開いたらワイヤーをはりな!操縦は身体で覚えるんだ!!」

「シータ、そこにいるね!!」

  シータ 「はい!!」
  ドーラ 「おまえは戻っておいで!!」
  シータ 「なぜ?」
  ドーラ 「なぜって・・お前は女の子だよ!!」
  シータ 「あらっ、おばさまも女よ!!それに、わたし山育ちで眼はいいの」
  パズー 「シータ!!」
  シータ 「お願い!!・・パズーもそうしろって!!」
  ドーラ 「ハハハハハ・・あがったら伝声管は使えないよ。中に電話があるから・・」
  いきなり電話が鳴る。受話器を取るドーラ。
560 シータ 「電話ってこれね、おばさま!!」
  パズー 「ハイ、やってみます、あげてください!!」
  ドーラ 「いくよ!!」
  見張台に繋がるワイヤーがするすると伸び、凧になって雲の上へと舞いあがっていく。
  シータ 「いないね・・」
  パズー 「雲の中へもぐってるんだ」
  ドーラ 「油断するんじゃないよ・・前にいるとは限らないよ」
  パズー 「はい!!」
  突然、風にあおられて凧が大きく回転する。
  パズー 「しっかりつかまって!!」
570 ドーラ 「どうしたんだい!!」
  パズー 「突風です、大丈夫!!・・ちょっとあおられただけです・・・ハイ!!見張りを続けます。」

「こわい?」

  シータ 「ううん・・」
  パズー 「やりかたがわかってきたよ・・・少し荒れそうだ・・」

「シータ、ぼくのカバンからひもを出して、そいつでぼくとシータをしばって・・・」

  シータ 「ハイ!」
  ルイ 「水銀柱がドンドンさがってるよ・・ママ・・・・・」
  ドーラ 「ついてないね、こんな時にシケるなんて・・・夜明けまでは?」
  ルイ 「あと一時間!!」
  パズー 「夜が明ける!!」
  シータ 「パズーおかしいわ・・夜明けが横から来るなんて・・・・」
580 パズー 「そうか!!ぼくらは東へ進んでいるはずなんだ!!ブリッジ!!」
  ドーラ 「エッ!!北へ向かってるって!?」
  ルイ 「コンパスは東を指してるよ!!」
  ドーラ 「風が変わったんだ、流されて進路が狂っちまった!!」
  パズー 「見て!あれ!!」
  ドーラ 「どうしたんだい、ゴリアテかい!?」
  パズー 「雲です、ものすごく大きな・・・」
  シャルル 「雲!?」
  シータ 「こっちへ近づいてくるわ!!」
  挿入曲12

破滅への予兆02

〔0:56〕

590 パズー 「空の城だ・・・・」
  ドーラ 「そいつは低気圧の中心だ!!」

「風に船をたてな!全速力!!引きずり込まれるよ!!」

  凧は、大風に翻弄され右へ左へと大きく旋回する。
  パズー 「どんどん引き寄られてます」
  ドーラ 「ふんばりな、収容はできない!!」
  シャルル 「舵が動かねえ!!」
  ドーラ 「いつものクソ力はどうしたんだい!!」
  老技師 「ドーラ、エンジンが燃えちまうよ!!」
  ドーラ 「泣き言なんか聞きたかないね!何とかしな!!」

「雲から出るよ!!」

  パズー 「シータ、海だ!!」
600 ドーラ 「竜の巣!!」
  パズー 「竜の巣!?・・これが・・・!?」
  巨大な雲の渦が、どんどん近づいてくる。
  パズー 「父さんの言ったとおり、向こうは逆に風が吹いてる!!」
  ドーラ 「すぐそこに、風の壁があるよ!!」
  シャルル 「オフクロ、駄目だ、吸い込まれる」
  ドーラ 「男が簡単にあきらめるんじゃないよ」
  パズー 「ブリッジ!!ラピュタはこの中だ!!」
  ドーラ 「何だって!?」
  パズー 「父さんは竜の巣の中でラピュタを見たんだ!!」
610 ドーラ 「バカな!!入ったとたんバラバラにされちまうよ!!」
  シータ 「パズー、あそこ!!」
  パズー 「あっ!!」
  シータの指差す方向に、雲を突き抜けて迫るゴリアテの姿があった。
  ドーラ 「このクソ忙しい時に!!」
  ゴリアテから砲撃が開始された。タイガーモス号は次々と被弾し、炎上していく。
  パズー 「いこう、おばさん!!父さんの行った道だ、父さんは帰ってきたよ!!」
  ドーラ 「よーし、行こう、竜の巣へ!!」
  ゴリアテの砲撃の的になっているタイガーモス号、炎を吹き上げながら、竜の巣の風の流れに巻き込まれていく。

凧とタイガーモス号を繋いでいたワイヤーが炎と猛烈な風圧に耐え切れず、ついに吹っ飛んだ。ワイヤーが切れた凧は見る間に風にあおられ、竜の巣の中へ吸い込まれていった。

ゴリアテの中では、ムスカが羅針盤の上で、光を照らす飛行石を見つめている。

  ムスカ 「このまま進め!!光は常に雲の渦の中心を指している。ラピュタは嵐の中にいる。」

「聞こえないのか、このまま進むんだ。必ず入り口がある」

620 竜の巣の中、荒れ狂う電撃と横殴りの雨の中、パズーは父の幻影を見た。イナズマがラピュタへの道をしめしていた。

雲を抜ける凧。大地を吹き抜ける風に乗って静かに流されていく。やがて、地表へ近づくと、ゆっくりと着地する。パズーとシータは気を失っている。

やがて、あたりを取り巻いていた雲が、ゆっくりと晴れていった。

  挿入曲12

天空の城ラピュタ01

〔2:55〕

 
  N 雲が晴れ、ラピュタがその全容を現した。

パズーが目を覚ます。花々が咲き乱れるその中にパズーとシータはいた。

  パズー 「シータ・・シータ・・・シータ!!」

「大丈夫?・・・・見て・・・・」

  二人は目の前にそびえたつ、巨大な城に目を見張った。その城の周りは花と木々に覆われている。足元を見ると、その城は雲の上に浮いていた。
  パズー 「やったあ!!」

「ハハハハ・・」

  シータ 「ハハハハハ・・・」
  二人は草むらに寝転び、空を眺めている。
  パズー 「鳥がいる・・・」
  シータ 「みんなどうしたかしら・・・」
630 一体のロボット兵が二人の元へ近づいてくる。
  パズー 「シータの出迎えに・・・」
  シータ 「でも、わたし飛行石もってないわ・・・」
  ロボット兵は墜落した凧を持ち上げようとする。
  パズー 「何をする!!」
  シータ 「まって!!お願い、それを壊さないで。それがないと帰れなくなるの」
  ロボット兵が凧の位置を少しずらした。その下から、鳥の巣が出てきた。
  シータ 「ヒタキの巣だわ!!」

「よかった、卵が割れなくて・・・」

  パズー 「人を怖がらないね」
  ロボット兵の顔の中央にあるランプが何かを伝えるように明滅する。
640 シータ 「おいでって・・・」
  パズー 「言葉がわかるの?」
  ロボット兵に先導されてラピュタの庭園の中を歩いていく。水路の中をのぞき込むパズー。その中には超高層建築の町が水没していた。

先を行くロボット兵の後について、巨大なドーム型の入り口をくぐる二人。建物の中は木々が生い繁り、鬱蒼とした森のようだった。

  パズー 「建物の中のはずなのに・・・」

「シータ、あの空・・・」

  シータ 「エエ・・・」
  壁を透(す)かして青空が見える。
  シータ 「外からは石の壁に見えたのに・・・」
  パズー 「立派な町だったんだ、科学もズーッと進んでいたのに・・どうして・・・
  深く生い繁る木々の中を抜けてしばらく進むと、広い空間へ出た。その中央には、巨大な幹が天井まで伸び、広げた枝がドームいっぱいに生い繁る樹があった。

その樹のそばに、紋章をかたどった墓標があり、その前にロボット兵が立っていた。

  パズー 「お墓だね・・・彫ってある字が読めるといいんだけど」

「花が供えられてある・・・」

650 シータ 「あなたがしてくれてるの・・」

「!!パズー!!」

  パズー 「さっきのロボットじゃない・・・」
  そのロボット兵は草に覆われ、足は大地に根を張ったように草に埋もれていた。
  パズー 「ずーっと前に壊れたんだ・・・」

「きっと園丁(えんてい)のロボットなんだ・・・人がいなくなってからもズーッとここを守ってたんだね」

  前方からロボット兵が歩いてくる。ロボット兵は二人に一輪の花を差し出した。
  シータ 「お墓に供える花を・・・摘んできてくれたの・・ありがとう・・・」
  パズー 「君、一人ぼっちなの?ここにはもう他のロボットはいないのかい!?
  ロボット兵の肩にキツネリスが群れて戯れる。パズーとシータはその様子を見ている。
  パズー 「ちっとも寂しくないみたいだね・・・友達もいるし・・・ヒタキの巣を見回ったりしなきゃならないし」
  城の内部で爆発が起こる。軍が、仕掛けた爆薬を起爆させたのだった。城全体が振動し、森に棲む鳥たちが一斉に騒ぎ始める。

パズーとシータは振動が起こった方へ走っていく。

660 パズー 「裏側は崩れてたんだ」
  城の裏側は永い年月の間に風化して、もろく崩れていた。その一角に、ボロボロのタイガーモス号を係留したゴリアテがとまっていた。
  パズー 「タイガーモス号がやられてる」
  シータ 「おばさまたち、大丈夫かしら」
  パズー 「シータあそこ!!」
  シータ 「アアッ・・みんな捕まってるわ!!」
  パズー 「海賊はすぐ、縛り首だ」
  シータ 「助けなきゃ」
  パズー 「行こう!!」
  ドーラたちがタイガーモス号の前に縛られて一列に並べられている。その前に立つ将軍の元へ兵士がラピュタの財宝の一部を持ってやってきた。ラピュタは伝説のとおり宝の山だった。
670 将軍 「どうだ欲しいか?お前たちには、たっぷり縄をくれてやるワイ!!」

「本国にラピュタ発見を報告したか?」

  ムスカ 「これからです」
  将軍 「せいぜい難しい暗号を組むんだな」
  将軍はそうムスカにうそぶくと、ラピュタの中へ走りこみながら叫んだ。
  将軍 「コラー!!ネコババするなーっ!!」
  ムスカ 「・・・・・バカどもには丁度いい目くらましだ」
  パズーとシータは隠れながら木の根の絡み付く崩れた階段をタイガーモス号へ向かって降りていた。
  シータ 「すごい木の根」
  パズー 「シータは木登り平気だね・・・行けそうだ」
  パズーとシータは階段の崩れて途絶えたところを木の根を伝って降りていく。

途中、窓から中をのぞくと、軍の略奪が始まっていた。ラピュタに残る財宝を根こそぎ奪うかのようだった。

680 パズー 「酷い事するなァ・・・」
  シータ 「あの人たちが上の庭へ行ったら・・・・・・」
  パズー 「・・・・・シータ、飛行石をとりもどそう」

「ここを奴らから守るには、それしかないよ」

「なぜ雲が晴れたのか気になってたんだ・・・こんな風にならなければ奴らは上陸できなかったはずなんだ」

  シータ 「わたしのおまじないのせい・・・」
  パズー 「ムスカの言った封印が解けたってこれなんだよ・・・きっと」

「もうこの城は眠りから覚めてるんだ。嵐に乗って飛行石を持つものを迎えに来たんだよ」

「このままではムスカが王になってしまう。略奪よりもっと酷い事が始まるよ」

  シータ 「でも飛行石を取り戻したって・・わたし、どうしたらよいか・・・・」

「あの言葉・・・・」

  パズー 「あの言葉って・・・・・まさか・・・・だって・・・・」
  頭の上を兵士が捜索しながら歩いていく。パズーとシータは、見つからないように先を急いだ。

タイガーモス号が目の前に見える。タイガーモス号へ行くために柱の下にわずかに残った床の部分へ跳びうつらなければならなかった。

パズーが先に跳んだ。着地と同時に床が崩れた。あわてて柱にしがつくと、柱の石が抜け落ちた。パズーは両手に力をこめてさらによじ登る。シータはハラハラしながら見ている。

  ムスカ 「このあたりだ」
  ムスカが黒眼鏡の男たちを従えて廊下を歩いてきた。手に持つ手帳をたよりに何かを探している。その背後に柱をよじ登るパズーの姿が見える。

ムスカは壁の一角に飛行石をかざすと、何もなかった壁にバックリと入口が開いた。

柱の影からシータが覗く。その時、石がきしむ音がして黒眼鏡の男たちが振り返った。パズーを見つけ、発砲する。シータは思いっきり男に飛び掛った。

690 パズー 「しまった!!」
  ムスカ 「撃つな、捕らえろ!!」
  黒眼鏡の男を制し、シータを追いかける。ムスカの手がシータの、お下げ髪を掴んだ。
  シータ 「アッ!!」
  ムスカ 「これはこれは、王女様ではないか」
  パズー 「シータァ!!!!」
  発砲の音を聞きつけて兵士たちが駆けつけくる。
  ムスカ 「海賊の残りだ、もう一匹、その足元に隠れているぞ」
  パズー 「シータ、待ってろーー!!」
  シータ 「パズー!!」
700 シータは黒眼鏡の男たちに引きずられるように、壁に開いた入口へ連れ込まれた。

ドーラたちは周りが急に慌しくなったのを感じていた。

  ルイ 「パズーたちかな・・・」
  ドーラの尻の下でブオッっという音とともに、砂煙が舞い上がった。みな一斉にドーラを見る。臭い疑惑である。
  ドーラ 「ちがう!!」
  ドーラの足元の石がゴトっとはずれパズーが顔をのぞかせる。
  パズー 「おばさん!!シータが捕まったんだ。ぼくは助けに行く。縄を切るから逃げて」

「うまく逃げてね」

  ドーラ 「コレ!お待ち。持ってきな」
  ドーラの足元から、銃と弾が落ちてくる。
  パズー 「ありがとう」
  ドーラ 「急に男になったねえ・・・」
710 その頃、将軍は財宝の山の前でムスカの造反を知らされていた。
  将軍 「ムスカが無線機を全部ぶっ壊しただと!!・・・青二才め・・本性をあらわしおったな!!」

「兵を集めろ、スパイ狩りだ。抵抗する場合は射殺してかまわん!!」

  城の下部にある半球体の中にムスカたちはいた。
  ムスカ 「ここはラピュタの中枢だ。上の城などガラクタにすぎん」

「ラピュタの科学は全てここに結晶しているのだ・・・・お前たちはここで待て」

  黒眼鏡の男たちを残し、ムスカはシータを連れさらに奥へ通じる入口を開けて中へ入った。
  ムスカ 「ここから先は王族しか入れない聖域なのだ・・・」
  エレベーターを降りた先の部屋には、内部にまで樹の根がびっしりと張っていた。
  ムスカ 「なんだこれは!!木の根がこんなところまで・・・一段落したら全て焼き払ってやる」

「来たまえ、こっちだ」

  ムスカはなおも奥へと進んでいく。
  ムスカ 「クソッ・・・あった!これだ!!」
720 ムスカが飛行石をかざすと目の前の扉が開いた。その部屋の中も背の高い草木が生い繁っていた。ムスカはかき分けながら中央を目指した。中央にある、木の根で取りまかれた部分をはぎとる。そこには正8面体の形をした飛行石が青白い光を放ちながら回っていた。
  ムスカ 「あった!!・・・オオ・・・・見たまえ、この巨大な飛行石を!!これこそラピュタの力の根源なのだ」

「素晴らしい、700年もの間、王の帰りを待っていたのだ」

  シータ 「700年・・・」
  ムスカ 「きみの一族はそんなことも忘れてしまったのかね」

「・・・・黒い石だ!!伝承の通りだ・・・・ヒヒヒヒ・・・読める!!読めるぞ!!」

  シータ 「あなたはいったい誰?」
  ムスカ 「わたしも古い秘密の名前を持ってるんだよ。リュシータ」

「わたしの名は、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ」

「きみの一族と、わたしの一族はもともと一つの王家だったのだ。地上に降りた時、二つに分かれたがね・・・・」

  半球体の外では将軍が指揮を取っている。
  将軍 「爆弾をありったけ仕掛けろ!!」
  ムスカ 「閣下、そんなことをせずとも入れますよ」
  どこからともなくムスカの声が響き渡る。
730 将軍 「ムスカ!どこにいる!?」
  ムスカが手元の黒い石に飛行石をかざして操作する。半球体の外部に7本の巨大な突起物が現れる。
  ムスカ 「サッ・・何をためらうのです。中へお進みください閣下」
  将軍 「エエイ!こい!」
  将軍は兵に命令し、半球体の中へ突入していった。将軍の入ったところは壁の周りが透明の窓になっている半球体の最下部だった。
  将軍 「な・・なんだここは!!ムスカ出て来い」
  ムスカ 「お静かに・・・」
  ムスカとシータの姿を映した立体映像が現れた。
  将軍 「な・・何の真似だ!!」
  ムスカ 「言葉を慎み給え。きみらはラピュタ王の前にいるのだ」
740 将軍 「き・・貴様・・・正気か!!」
  ムスカ 「これから王国の復活を祝って、諸君にラピュタの力をみせてやろうと思ってね」

「見せてあげよう・・・ラピュタのイカズチを!!」

  7本の突起物からイナズマが円を描いて放射される。それは中心に集まり球となって地上へ放たれる。地上から丸く開いた火の傘が上空高く吹き上がってくる。
  ムスカ 「旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ。ラーマヤーナでは、インドラの矢とも伝えているがね」

「全世界は再びラピュタのもとに平伏すことになるだろう・・・・」

  将軍 「素晴らしいムスカ君。きみは英雄だ、大変な功績だ」
  ムスカ 「きみのアホ面には心底うんざりさせられたよ」
  文字盤を操作しようとするムスカの手に飛びつくシータ。
  ムスカ 「ッツ!!・・・こ・・こいつ!!」
  シータ 「みんな逃げて!!・・・アッ!!」
  ムスカ 「死ね!!」
750 ホールの底が抜けた。将軍をはじめ、兵士たちがバラバラと空中へ放り出され落ちていく。
  ムスカ 「ハハハハハハハハ・・・・」
  城の下の半球体の奥で眠っていたロボット兵たちが目を覚まし、ゾロゾロと外へ這い出てきた。
  ドーラ 「あの化け物だ!!」
  ルイ 「いっぱいいるよ・・」
  ドーラ 「みんな逃げるよ!!フラップラーを調べな」
  シャルル 「ママ、飛べるよ!!早く逃げよう!!」
  ドーラ 「静かに!!声をたてるんじゃないよ・・・何をグズグズしとるんだい・・あの二人は!おいてっちまうよ」
  ゴリアテがラピュタを離れていく。
  ムスカ 「わたしをあまり怒らせないほうがいいぞ。とうぶん二人きりでここに住むのだからな」

「フン・・さっさと逃げればいいものを、わたしと戦うつもりか」

760 ゴリアテから、砲撃が始まる。ラピュタから無数のロボット兵が射出され、ゴリアテ目掛けて襲い掛かる。

ゴリアテが火を吹き、爆発する。それを大画面で見つめるムスカ。

  ムスカ 「素晴らしい!!最高のショーだと思わんかね。」

「オオッ!!見ろ!!人がゴミのようだ」

  シータがムスカに飛びつき、右手の飛行石を奪う。ムスカは思いっきりシータを殴り倒した。
  ムスカ 「返したまえ、いい子だから、サア」
  シータ 「お願い!開いて!!」

「アッ!!」

  扉が唐突に開き、シータが前につんのめる。
  ムスカ 「ハハハ、どこへ行こうというのかね」
  シータが走る。パズーもシータを探して走り回る。
  シータ 「ハアハアハアハアハアハア・・・パズーッ!!」
  パズー 「シータ!!」
770 シータ 「ああ、パズー!!」
  パズー 「シータ!!」
  小さく歪んでいびつに開いた扉の向こうにパズーの顔が見える。パズーは銃を構える。
  パズー 「今行く!!クソッ」

「下がって!!」

  シータ 「早くこれを!!ムスカが急いで!!」
  シータが飛行石を差し出す。パズーが腕を伸ばした。シータの指の先に挟んだ飛行石をパズーが掴んだ。
  シータ 「海に捨てて・・・・・」
  穴からヌッと拳銃が差しこまれ、いきなり発砲した。弾が防風グラスに当たってはじけ飛ぶ。
  ムスカ 「その石を大事に持ってろ。娘の命と引き換えだ!!」

「立て!!鬼ごっこは終わりだ」

「終点が玉座の間とは上出来じゃないか。ここへ来い」

  シータ 「これが玉座ですって?ここはお墓よ、あなたとわたしの・・」

「国が滅びたのに王だけ生きてるなんて滑稽だわ。あなたに石は渡さない」

「あなたはここから出ることもできずに、わたしと死ぬのよ」

「今はラピュタがなぜ滅びたのか、わたし良くわかる。ゴンドアの谷の歌にあるもの。」

「土に根をおろし風とともに生きよう、種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう・・・」

「どんなに恐ろしい武器を持っても、沢山の可愛そうなロボットを操っても土から離れて生きられないのよ」

780 ムスカ 「ラピュタは滅びぬ。何度でもよみがえるさ」

「ラピュタの力こそ人類の夢だからだ!!」

  ムスカの銃がシータを狙い撃つ。シータの二つに束ねられたお下げ髪を撃ち落した。シータは気丈に立ったまま身じろぎ一つしない。
  ムスカ 「次は耳だ。ひざまずけ!!命乞いをしろ。小僧から石を取り戻せ!!」
  パズー 「まてーーーっ!!石は隠した。シータを撃ってみろ、石は戻らないぞ!!」
  シータ 「パズー来ちゃだめ!!この人はどうせわたしたちを殺す気よ」
  ムスカ 「小僧、娘の命と引き換えだ。石のありかを言え。それともその大砲でわたしと勝負するかね」
  パズー 「シータと二人きりで話をしたい」
  シータ 「来ちゃだめ!!石を捨てて逃げて!!」
  ムスカ 「三分待ってやる」
  パズーに抱きつくシータ。
790 シータ 「パズー!!」
  パズー 「シータ落ち着いてよく聞くんだ・・・・あの言葉を教えて・・」

「ぼくも一緒に言う・・・・ぼくの左手に手を乗せて・・・」

  パズーが左手をそっと開く。その手には飛行石があった。
  パズー 「おばさんたちの縄は切ったよ・・」
  涙ぐむシータ。パズーの左手にシータの右手が乗せられ二人の手はかたく握られている。

パズーが持っていた銃を放り投げる。ムスカはいぶかそうに見つめている。

パズーとシータの手が前に差し伸べられる。二人は滅びの呪文を唱えた。

  シータ 「バルス!!」
  パズー 「バルス!!」
  手の中の飛行石がまばゆい光を発した。それは目もくらむような強い光となって全てを覆い隠していく。

城の下の半球体を形作っていた石組みがその連結を切り、次々と崩れていく。

  ムスカ 「アアッ・・・目が・・目が・・・・」
   
800 城も、ロボット兵も、ラピュタとともにあるものすべてが崩壊していく。
  シャルル 「オフクロ!崩れるよォ!!」
  ドーラ 「しかたない!脱出!!急ぎな!!」
  ルイ 「早く!!」
  崩れて落下してくる城の瓦礫をかいくぐるようにフラップターが発進する。タイガーモス号は瓦礫とともに地上へ落ちていく。
  ルイ 「ママ見て!!釜の底が抜ける」
  大音響とともに半球体の土台が抜け落ちていく。土と石とロボット兵の残骸が雨のように海へ降っていく。
  ルイ 「シータ、いい子だったのに・・・・」
  ドーラ 「滅びの言葉を使ったんだ。あの子たちは、バカどもからラピュタを守ったんだよ」
  シャルル 「崩れがとまった・・」
810 ラピュタの中央に大きく根を張っていた巨大な樹が上空に浮かんでいる。その樹の、根の中心に抱かれるように青白く光るものがあった。
  ドーラ 「飛行石だ!!とびっきりでかいやつだよ」
  ルイ 「のぼっていく・・・」
  ドーラ 「木だァ・・・・あの木がみんな持ってっちまう気だよ。追うんだ!!・・重い、みんな降りな!!」
  シャルル 「そんなムチャな」
  静かに上昇を続ける樹の根にパズーとシータが引っかかっている。
  パズー 「シータ・・・」
  シータ 「パズー・・・・・」
  パズー 「木の根がぼくたちを守ってくれたんだ」
  シータ 「まあ・・・・・」
820 根を伝い、崩れずに残った庭園をめざすパズーとシータ。途中、根に引っかかった凧をみつけた。
  パズー 「ワイヤーを張れば大丈夫だ」

「いくよ」

  シータ 「エエ」
  パズーが根を思いっきり蹴って、凧を空中へ出す。凧は風にのり大きく旋回して庭園へ近づく。そこには、いつもとかわらない様子で鳥やキツネリスを相手しているロボット兵の姿があった。

凧はラピュタを離れ風に乗って飛んでいく。ラピュタの巨大な樹はどんどん上昇していった。

  ドーラ 「何してるんだい!ちっとも昇らないじゃないか!」
  ルイ 「無理だよ、一杯乗ってるんだもん」
  ドーラの目に、パズーとシータを乗せた凧が近づいてくるのが映って見えた。
  シータ 「おばさま!!」
  ドーラ 「よく生きてたねえ!!」
  パズー 「みんな無事だった!!」
830 老技師 「無事なもんかい、わしのかわいいボロ船が・・・・トホホ・・・」
  ドーラ 「メソメソすんじゃないよ!もっといい船を作りゃいいんだ!!」

「可哀想に・・・髪の毛を切られるほうがよっぽど辛いさ・・・・」

  ドーラがきつくシータを抱擁する。
  シータ 「おばさま・・痛い・・・」
  ドーラ 「ア・・・・・ごめんよ、情けないじゃないか・・・・散々苦労してこれっぱかしさ・・」
  ドーラは胸から5個の宝石を出した。

ルイやシャルルその他一味の面々の指と首にも、宝石をちりばめた指輪や黄金の宝飾が光っていた。

ドーラたちを乗せたフラップラーと、パズーとシータを乗せた凧が、互いの進む方向へ舵をとっていく。

夕日を目指してパズーとシータを乗せた凧が大空を渡っていく。やがて、凧は金色の夕日に照り映える雲の中へ消えていった。

パズーとシータのラピュタ伝説の物語は終わった。

836 挿入14

君を乗せて

〔2:55〕

劇 終

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