JIN-仁-完結編 【第十一話】

JIN−仁ー 完結編 主題歌

野風・未来とそっくりな女
勝・辰五郎・野口(現代)
恭太郎・杉田(現代) 栄・喜市(少年)・茜・博美(現代)
佐分利・西郷・良順
龍馬・福田・多紀・山田
ナレーション・榊原・救急隊士の声・章義隊士・官軍の兵
 仁友堂・間 前回より
野風 「元の世へお戻りになられることでありんすか?」
「……もちろん、願うことしかできぬ手ではございますが、それより他は」
野風 「いずれにせよ、お二人には時がないということでありんすな」
「……」
野風 「先生にお気持ちはお伝えに?」
「先生は今、私どもに持てるだけの医療技術を伝えようとしておられます。それだけで私には、もう十分にございます」
野風 「……咲様」
(何とか笑って)……」
 橘家・間 (夜)
恭太郎 「私がフランスへ留学でございますか」
「おう。徳川から何人か行かせようって話になってさ。推してやるから、お前さん行ってきちゃどうだい?」
恭太郎 「願ってもないお話でございます (が)
「お前がいくら悔やんだって、あいつは帰って来ねぇんだ」
恭太郎 「!」
「前を向けよ。恭太郎」
恭太郎 「……」
 江戸城・間
(まずい、と)……」
西郷 「謀反の企てちいう噂もごわんどん」
「とんでもねぇ。あ、ありゃあ、江戸の市中取締をやらせてる連中でさ」
西郷 「……そいなら、徳川が認めた市中取締隊じゃちいうこつごわんどな」
「……お。おうよ!」
 医学所・間
「合津若松に行くって、どうしてですか?」
良順 「会津に旧幕軍が集まり、戦が始まるようです。私は徳川様の録を食(は)む医者。いかな世になろうと、最後までお供するつもりです」
「……」
良順 「今日は先生にひとつお願いがございます」
「何ですか?」
良順 「今後江戸で何か事が起こった場合、南方先生に医学所へのお指図をお願いしたいのです」
「! 何かって、戦ってことですか?」
良順 「徳川の者は先の世への望みを失っております。その思いが火を噴こうと何の不思議もございませぬ」
「……あの、私、そういう時、一番、イロイロ間違っちゃいそうな気がするんですけど」
良順 (笑って)……ではその間違った道を、お指図ください」
「……はぁ」
 大吉屋前の道〜大吉屋
辰五郎 「間違った指図を出せたぁ。松本先生も粋だねぇ」
「何を考えてらっしゃるのか」
辰五郎 「先生はしがらみが少ねぇからな」
「しがらみ……」
辰五郎 「松本先生も俺もしがらみだらけだ。何か事を決めるときにはまず考えちまう。これは徳川様にとってどうかってよ。けど、でっけえ目で見てそれが正しいかどうかは分かんねぇわな」
「……そうなんですかねぇ」
章義隊士1の声 「おーい!きんぎれ取ったぞ!」
ナレーション 見ると、大吉屋の前で章義隊士たちが官軍の一人の兵士を乱暴に押し、転ばせる。
彰義隊の連中は「きんぎれ」を振りかざしながら、去って行く。
仁は官軍の兵士に駆け寄っていく。
「大丈夫ですか?」
官軍の兵士 (きんぎれを取られたところを押さえて)覚えておれ」
ナレーション 官軍の兵士は、仁をはねのけ、去って行った。
茜は、ため息をつきながら、いざこざで落とされたらしきあんどーなつを片付ける。
「今のは」
喜市 「彰義隊の連中が官軍の侍に嫌がらせしてたんだよ」
「(一緒にあんどーなつを拾いながら)彰義隊?」
(ため息)最期まで上様をお守りしようって寛永寺に立てこもってるお侍たちだよ。官軍さんの左腕についてる錦裂(きんぎれ)取って嫌がらせするのが流行ってるみたいでさ」
「きんぎれ?」
喜市 「天子様の軍って印を左腕にくっつけてんだよ」
「……」
辰五郎 「褒められたこっちゃねえけど。おさまりつかねぇんだろうなぁ彰義隊は」
「……」
辰五郎 「先生も大丈夫かい?あんまり具合よさそうには見えねぇけど」
(ごまかして笑って)大丈夫ですよ。ちょっと忙しいだけで……」
仁(ナレ) 《確か》
 
仁(ナレ) 《幕末から明治にかけて、あちこちで不満を持った武士が反乱を起こしたって学校で教えられた覚えがある》
 小高い丘 (夕)
仁(ナレ) (ポツリと)江戸時代、終わるんだなぁ》
ナレーション と、そのとき、かすかな頭痛を感じる。
(いたた)……」
仁(ナレ) 《そして、多分、俺も終わっていくんだろう》
ナレーション 仁の脳裏に非常階段でもみ合った包帯男の姿が浮かび上がる。
仁(ナレ) 《あの患者のことは何となく分かったけど》
ナレーション 脳裏に龍馬の声が響く。
龍馬の声 『戻るぜよ!あん世界へ!』
仁(ナレ) 《分からないことも山程ある》
《俺がここに来た意味も分からないまま終わるんだろうか》
(ポツリと)まぁ、人生ってそんなもんか……」
 小高い丘 (夕)
仁(ナレ) 《ここで終わりを迎えるとして、最後に俺が出来る事はなんだろう》
 仁友堂・間 (夜)
ナレーション 食事をしている仁。
あげだし豆腐の器を手にするが、落としてしまう。
「!す、すいません」
(冗談で)この器は生きていたのやもしれませぬ」
(恐縮し)すみません」
ナレーション と、見ると、その咲の後姿がなぜか野風のそれと重なって見えた。
「?野風、さん?」
「?……」
「あ!すみません!今、咲さんが野風さんに見えて」
「え!?」
「多分、岩(がん)のせいだと思うんですけど(と、バツ悪そうに笑う)
「……先生のお指図の元、皆で手術をすることはできぬのでございますか?」
「私の岩(がん)を摘出するためには、バイポーラー(電気メス)という道具がどうしても必要で。これはねぇ。どうにも(と、笑う)
「こんな時に無理にお笑いにならないでくださいませ!」
「……(困ったなと)あー、えっと。江戸の人たちって笑うのが上手じゃないですか。私も見習いたいなぁって思ってるんですけど。うまくいってないってことですよね……」
「……(真剣に)元の世にお戻りになられる方法はないのでございますか?」
(目を上げ)?……」
ナレーション 咲が切羽詰った顔で仁を見つめていた。
「……」
(ちょっとうろたえつつ)あの、まぁ、その、行ったり来たり自分で出来るんだったら、とっくにやってるっていうか。それ、すごい便利ですよね」
(いらいらと)……」
(ふざけて)パパッと戻して直してもらって、ここにない薬、取って戻ってきたりしてねぇ」
(怒っている)……」
「……すいません」
(怒りと哀しみと)先生は助かりたくないのでございますか?」
「……そりゃ、助かりたいですよ。でも、できないことを考えて嘆くよりは、できることをやって笑ってたいっていうか」
(それでも受け入れがたく)……」
(元気づけようと)そんな顔してたって、何にもよくならないですよ!咲さん」
(受け入れるしかなく)……はい」
 橘家・仏間 (夜)
ナレーション 恭太郎は仏壇をじっと見つめている。その脳裏に榊原の声が蘇る。
榊原 『我らは決して新政府など認めぬ。最後の一兵になろうとも抵抗するつもりだ。上野で待つ』
 仁友堂・間 (夜)
ナレーション 仁が仁友堂の壁に掛けられた『国のため道のため』と書かれた額を見つめている。
(見つめていて)医者が最後に出来ること……」
 仁友堂・間 (日替わり)朝
ナレーション 穏やかな朝がやってくる。
仁は前に立ち、皆に説明をしている。
(説明の最後)ということなので、皆さん、よろしくお願いします」
一同 (呆然と)……」
(呆然と)……」
佐分利 (呆然かつ慌てて)それは先生がお亡くなりになったら、腑分けせいってことですよね?」
(真摯に明るく)はい、ですから当分、脳の構造や働きと脳腫瘍についての集中講義をします。その最後の仕上げとして、私が死んだら実物を見て欲しいんです」
一同 (受け止めきれず)……」
「知り合いの身体を切るというのはいい気持ちはしないと思いますけど」
佐分利 「ちょっと待ってください!そんなん(私ら)
「仁友堂にはお金がありません!」
「……」
「ペニシリンをお金に変えることもできなかったし、皆さんに医者としての地位を約束することもできません」
「……」
「私が皆さんに残せるのは知識だけです」
一同 「……」
「だったら、出来るだけのものを残したいんです」
「……」
「この脳も腫瘍も役に立てたいというか、役に立てて欲しいというか」
「……」
「私の死を皆さんの手でできるだけ意味のあるものにして欲しいんです」
「……」
(だめ押しで)私がそうして欲しいんです」
ナレーション 一同はただじっと固唾を飲んで仁の言葉を聞いている。と、そこに咲の凛とした声が響く。
「はい」
一同 「!」
(咲を見て)……」
(まっすぐ見て、笑って)はい」
「……」
 仁友堂・間 (日替わり)
ナレーション 仁友堂の医者たちを前に、脳について講義をしている仁。座っている。
(脳腫瘍の説明をしている)私の場合、おそらく、この脳の松果体いうところから脳室内にかけて岩(がん)があります。出る症状としてはまず頭痛、噴出性の嘔吐」
佐分利 (手を挙げ)先生。脳の岩の起こす頭痛っちゅうのはただの頭痛とどう違うんでっか?教えてもらえると、診立てがしやすいんですけど」
(ポツリと)そうか。CTスキャンもないもんな」
佐分利 「? し、しーてぃー」
(ごまかすように笑って)何でもありません。そうですね牽引(けんいん)性頭痛というか、キリキリという感じというか」
ナレーション その時、頭痛がある意味タイムリーに仁を襲った。
「……」
一同 「……」
「脳をねじられて吐きそうになる感じですかね」
 仁友堂・仁の部屋 (夕)
ナレーション 布団から半身起している仁。咲が仁の介添えをしている。そのかたわらに勝がやってきている。
(ずいぶんと具合が悪そうなので)大丈夫なのかい?先生?」
「ちょっと疲れが出たみたいで。勝先生こそ、また何か胃の府が痛むことでも」
「彰義隊の奴らが官軍とあちこちでもめやがってよ」
「あ。見ましたよ。きんぎれとか言うの取ってるの」
「のらりくらりとごまかしてたんだがよ。このままじゃ、そろそろ戦になっちまうよ」
「……」
「戦わずして負けは認められんってとこだろうがよぉ」
「……勝先生」
「すまねぇ。こんな話に来たんじゃねぇんだよ。あのよ、実は恭太郎のことなんだけどよ」
「兄が、何か?」
「官費留学の話を持ってったんだけどさ」
「!それ、すごい話じゃないですか」
「だろ、なのに考えさせてくれってそればっかりでよ。まったく、何考えてんだか」
(心配で)……」
「明日、朝一番に恭太郎さんのところに行ってきますよ」
「! 先生、私が参りますゆえ」
(笑って)私も恭太郎さんとちゃんと話したい事があるんです」
「……」
 橘家・間 (夜)
ナレーション 恭太郎が食事をし、栄が給仕をしている。栄は恭太郎によそった茶碗を差し出しつつ話しかける。
「今日はよく食べられますね」
恭太郎 (演技で驚いたように)何ゆえか今日は格別においしゅうございます。まあ、これは咲の方が上でございますが」
ナレーション 恭太郎があげだし豆腐を栄に差し出す。
(ちょっとむっとして)左様でございますか」
恭太郎 「そろそろ、咲に敷居をまたぐことを許してやってはいかがですか」
「私は戻るななどとは一言も言っておりませぬ。向こうが勝手に戻って来ぬだけで」
恭太郎 「しかし、咲の身になれば、『許す』と言われぬば戻りにくいでしょうなぁ」
「……考えておきましょう」
恭太郎 (笑って)お願いします」
 橘家・栄の部屋 (夜中)
ナレーション 恭太郎がふすまの影から栄の寝顔を見つめている。
恭太郎 「行って参ります」
 江戸の町中・道
ナレーション 砲撃の音にうろたえたり不安であったり、ざわめいている町の人たち。
その中を佐分利と咲。杖をつきながら仁がやってくる。
仁・咲 (気にして)……」
佐分利 「急ぎましょう」
 橘家・門前の道
ナレーション 道の向こうから仁と咲、佐分利がやってくる。
すると、門の前でポツンと立っている栄のうしろ姿が見える。
(緊張し)……」
「何かあったんですか。栄さん?」
(力なく振り向く)……」
(何とか気丈に)恭太郎が上野に参ったようでございます」
ナレーション 栄が仁に文(ふみ)を渡す。
仁は慌てて開き、佐分利、咲も横から覗き込んだ。
恭太郎の声 『私はわけあって、あるお方を死においやりました』
『そのお方は私の何倍も生きる価値のあるお方でございました』

『かような私を恩のある先生方は責める事もせず、ただ前を向けとおっしゃってくださいます』
『ですが、将来のあるお方の命を奪っておきながら、のうのうと己の道を開いて行くことを己に許す事ができませぬ』

『くだらぬ私がただひとつ誇れることがあるとするならば、それは最期まで徳川の家臣として、忠節を尽くしたいということのみでございます』

『母上。お育ていただき、かたじけのうございます』
『橘 恭太郎』
「……誇れること」
ナレーション 咲が思わず走り出そうとしたその背に栄の声がかぶさる。
(かぶせて)行ってはなりませぬ!咲!」
「恭太郎は悩みぬいた末、この道を選んだのです。お前にも分かるでしょう。徳川様と共にという気持ちは」
(振り返って)兄上は生きねばなりませぬ」
「……」
「……」
「尊いお方を死に追いやったというならこそ、傷つこうと泥にまみれようと、はいつくばって生きねば(なりませぬ!)
(咲の言葉を食って、つかみかかり)行かないでおくれ!咲!」
「……」
(絞り出すように)後生です……。行かないでおくれ。お前まで」
(栄の本音に打たれ)……母上」
(すがるようにみつめ)……」
(受け止めた上で)咲は兄上と戻ってまいります。必ず!」
「!」
(笑って)その時はどうか門をくぐらせてくださいませ」
「……」
ナレーション と、ふと栄の手がゆるむ。
咲は、栄の手を振りほどき駆け出して行く。
「咲さん!」
佐分利 「私が行ってきます!」
「お願いします」
「……栄さん」
(咲が去った方を見たまま)恥をさらそうが生きる事こそ是。これからはそのような世になるのでしょうか」
「……」
「私共が信じてきた道は、間違いだったのでしょうか」
「そうは思いませんけど……。恭太郎さんは一つだけ大間違いをしていると思います」
「?……」
(笑って、うなずいて)……恭太郎さんの誇れるべきことは」
 仁友堂・受付
ナレーション 雨に濡れ、仁がひどい顔で倒れこむ。すると慌てて山田と福田が飛び出してくる。
福田 「先生!大丈夫ですか!?」
「上野で戦争が始まったみたいです。野戦の治療所を設置したいんで、医学所にも声をかけてください!」
 上野・山中
ナレーション 鳴り響く砲撃の音
大砲に撃たれて次々と倒れていく彰義隊士たち。
大砲の音が響く中、咲と佐分利が恭太郎の姿を探し回っている。すると、刀を持ったまま彰義隊士たちが死んでいるところに出くわした。
(ぎゅっと気を引きしめ)兄上!兄上!」
佐分利 (近づきすぎるので、肩をぐっとつかみ)咲さん!これ以上無理でっせ!」
ナレーション その時、恭太郎が走っているのが見える。
「兄上!」
ナレーション 恭太郎が足を止め、声のする方を見た。
(泣きそうな顔で)……」
恭太郎 「……(呆然と)咲」
「兄上!」
ナレーション 咲が恭太郎へ向かって走り出した。すると咲が何かにはじかれたように倒れこみ、くぼみに転がり落ちていく。
佐分利 (駆け寄って)咲さん!大丈夫でっか!咲さん!」
ナレーション 咲の左腕には銃弾が入り込み、かつ、激しくすりむけていた。
「流れ玉にあたったようでございます」
恭太郎 (あまりのことに呆然と)……咲」
(痛みに耐えながら)兄上。咲は甘えてばかりでございました」
恭太郎 「!」
「己のことばかり囚われ、兄上のお気持ちを思いやることもせず」
(痛みに耐えながらも笑って)これからはご恩返しをしとうございます。ですから、どうかお戻りいただけませぬか」
恭太郎 「……私には、もう生きる値打ちなど」
佐分利 「死ぬんやったら南方先生に断ってからやろ!助けてもろうた命ですけど捨ててええですかって!ちゃいますか!」
恭太郎 「!」
ナレーション 恭太郎は葛藤し、しばらく考えていたが、ばっと咲を背負うと山を降り始めた。途中、八木と横松が傷ついた隊士たちを助け起しているとこに出くわした。南方の野戦治療所が直ぐ近くにあるという。
 治療所・中
ナレーション 山田、福田そして医学所の医師たちが運ばれてきた負傷者の治療に当たっている。その一角で仁は勝につかまっている。
「先生、医学所まで呼んじゃ困るんだよ。これじゃあ、徳川は彰義隊を認めたことになっちまうだろ」
(笑って)でも、私たちは医者ですから。あ、官軍の方も来られたら治し(ますよ)」
「そういう話じゃねぇんだよ!」
多紀の声 「医者は医の道を歩くのみ」
ナレーション 仁と勝が振り向くと、多紀が弟子たちを連れて立っていた。
多紀 「治まらぬものを治めるのが政(まつりごと)の道であろう」
(ぐっと詰まり)……」
「多紀先生」
多紀 「南方殿。我らは鉄砲傷も縫えぬ。しかし、役に立てることがないわけでもなかろう!」
「ありがとうございます」
多紀 (うなずき、さっさと)玄孝!」
福田 (脂汗をかき)は、はい!」
多紀 「我らに指図をせよ!」
ナレーション そういうと怪我人のいる中へさっさと入ってしまう。
(少し微笑んで)……」
「ったくよぉ……」
(呆れて笑って)好きなようにやりやがれ!(愛を込めて)バカ医者が」
ナレーション 勝は治療所を出て行った。
それと入れ替わりに佐分利と恭太郎が駆け込んでくる。
佐分利 「南方先生!」
(咲のことはまだ見えず、うれしくて)恭太郎さん」
ナレーション 申し訳なさそうな恭太郎の顔を見つめ、その背中に担がれる咲を見つけた。
「!咲さん!早く!寝台に!」
ナレーション 恭太郎は咲を空いている寝台の上に寝かせる。見ると咲は左腕を撃たれ、激しくすりむいていた。
(見て)……左上腕部に銃創。腕の外側に擦過傷」
恭太郎 「先生。咲は」
(痛みに耐えながらも笑って)大丈夫です。死に至るような傷ではございませぬ。左様でございますよね。先生」
「!……あ、はい。それは」
ナレーション ふと周りを見ると、自分より明らかに大変な患者がおり、医師たちが慌ただしく働いている。治療道具を持ってきた佐分利が消毒を始めようとするが。
「自分でやりますので、他の方を」
ナレーション 右腕で自分の傷を消毒し始めた。
佐分利 「私がやりますって」
「人手の足りぬ場。せめて足手まといにはなりとうございませぬ」
「……」
ナレーション 仁はじっと自分の手を見つめている。その手の感触に嫌な予感を感じていた。
佐分利 「先生。大丈夫でっか」
「はい」
ナレーション 恭太郎に腕を押さえられている咲。仁はメスを手にするが、うまく持てない。
震える手でメスを入れようとするがどうしても手が震えてメスがうまく使えない。
(目を閉じ、しばらくして目を開け、メスを置き)佐分利先生、お願いします」
佐分利 「あ!はい!」
(バツ悪そうに、ため息)すいません、咲さん」
「あ、私は大丈夫ですから、他の方のところへ」
「……(気を取り直し)じゃ、よろしくお願いします」
佐分利 「ほな、摘出しまっせ」
「はい。お願いします」
ナレーション 左上腕部にメスが入れられる。咲の顔が苦痛に耐えている。
佐分利 「痛みますか?」
(仁の去って行った方を見て)いえ、先生のお心に比べれば」
ナレーション 医学所の一角で手を見つめている。
(悔しくて)……くそ」
ナレーション その時、頭痛と共に龍馬の声が聞こえた。
龍馬の声 『口八丁、手八丁ぜよ。先生』
(痛みに耐えながら)……え?」
龍馬の声 『手が動かんかったら、口を動かせばえい』
「え?龍馬さん!』
ナレーション しかしもう龍馬の声は聞こえない。頭痛も嘘のように治まっていた。
「何だったんだ……」
ナレーション 治療所の隅っこで横たわっている咲と付き添っている恭太郎。
重傷者のかたわらで山田に懸命に仁が指示をしている。
立ち働く蘭方の医者たちと多紀。本道の医者たち。その姿を咲は感慨深く見つめていた。
恭太郎 「どうかしたのか」
「夢を見ているようでございます」
恭太郎 「?……」
「蘭方の医師と本道の医師が共に手を取り合い、治療にあたるなど」
「こんな日が来るなど」
恭太郎 (改めてじっと見て)……共に手を取り合い」
ナレーション 仁が指示を出しに治療所の外に出てくる。すると水を運んで来た恭太郎と鉢合わせをする。
「……」
恭太郎 (バツ悪そうに)実は二度も遺書を書きました」
「こんな格好のつかぬ男もおりますまい」
「初めて逢った時、恭太郎さん、何て言ったか覚えていますか?」
恭太郎 「?……」
「恭太郎さんはあのとき、橘家を守る為に死ぬ訳にはいかないって、私にそう言ったんです」
恭太郎 (忘れていて)そう、でしたか」
「恭太郎さんはずっとそうなんですよ」
「恭太郎さんが命懸けで守ってきたのは徳川じゃない。橘の家なんじゃないですか?」
恭太郎 「……」
ナレーション そこに、治療された傷を押して榊原が出て来た。
榊原 (恭太郎を見つけ)橘、戻るぞ」
恭太郎 「……」
「!(と、近寄り)戻ってください。まだ動い(ては)」
榊原 「邪魔立てするな!」
「……」
榊原 「橘。徳川の死に様を見せつけてやろうぞ」
恭太郎 「……私の誇りは徳川の為に死ぬことではございませぬ」
「!」
恭太郎 「ここで水を運びます」
ナレーション 榊原は恭太郎の胸を刀の柄で打った。恭太郎は胸をつかれ、うっと膝をつく。
榊原 「腰抜けが」
ナレーション 榊原はそう言い捨てるとその場を後にした。
「大丈夫ですか。恭太郎さん」
恭太郎 「……腰抜けでございます」
ナレーション 恭太郎は少し笑ってみせた。
仁(ナレ) 《命知らずな男たちは、拾った命を再び捨てに行った》

《俺たちは捨てに行く為の命を延々と拾い続けた》


《冷静に見れば、この治療は意味のないものだったかもしれない。きっと、みんな分かっていた》
《だけど、誰一人として、『やめよう』とは言い出さなかった》
《それが、俺たち医者の誇りだったから》

《そして、戦はたった1日で終わり》
《官軍による残党狩りが始まった》
 仁友堂・診察室
ナレーション 包帯をほどき、自分の腕を咲は見ていた。と、そこへ仁が入ってきた。
「咲さん。直りはどうですか。診せてもらえますか」
(さりげなく袖で腕を隠し)あ、順調でございます。ペニシリンもよく効いておりますので」
「包帯巻き直すの手伝います」
「あ、自分でやりますので大丈夫です」
「やりますよ」
(仁の言葉を食って)あの、それより少しおうかがいしたいのですが」
福田(OFF) 「南方先生!お願いいたします!」
(福田に返事)はい (咲に)あ、何ですか。咲さん」
(笑って)たいしたことではございませぬので。お早く」
「じゃあ、後で」
ナレーション 仁は咲を残し出て行く。先はもう一度自分の腕を見る。するとそこは緑色に膿んでいた。
(不安だが、笑って)直ってきている証でございますよね」
 勝邸・間
ナレーション 恭太郎が龍馬の『船中九策』が書かれた書状を見ている。
「南方先生が。龍の字に見えたのかい?」
恭太郎 「闘うのではなく、共に手を取り合い、新しい世を目指す。お二人が目指されていたのは畑は違えど同じことだったのではないかと」
「……ふ〜ん、そうかい」
恭太郎 「……」
「生きてるってなぁ、ありがてぇなぁ。恭太郎」
恭太郎 「はい」
(笑って)……」
 仁友堂・手術室
ナレーション 入院している怪我人たちの治療が続けられている。その中で咲が器具を集めて回っている。咲は青白い顔で脂汗をかいている。
「咲さん。休んでた方がいいんじゃないですか」
(小さく笑って)できる事はさせて下さい。こちらも消毒しますね」
「でも熱でもあるんじゃ」
ナレーション と、その時、仁はふいに吐き気に襲われる。慌てて口を押さえ表へ飛び出していく。
佐分利 「!先生!(と、追いかけていく)
ナレーション 冷汗をかきながら、心配そうに見ていたが、その視界が不意にぼやけた。
 仁友堂・庭に面している廊下
ナレーション 仁は桶の中に嘔吐をしている。佐分利が手ぬぐいを差し出しつつ言った。
佐分利 「脳腫瘍による噴出性嘔吐、ですか」
(何とか笑って)……正解です」
ナレーション 続いて頭痛に襲われ、併せて龍馬の声がした。
「!」
龍馬の声 『先生」
「龍馬さん?」
佐分利 「は?」
「……」
龍馬の声 『ここじゃあ。先生。頭ん中じゃ』
(痛み)頭の中?」
龍馬の声 『ワシが話すと痛むかえ。ほいたら』
ナレーション 仁は痛みつつも、周囲を見渡してみるが誰もいなかった。
佐分利 (信じられず見て)今の幻聴、いうやつでっか?」
「……多分、正解です」
佐分利 「ほんまにどうにもならんのでっか?」
「どうにかなるんなら、佐分利先生に手術してもらってますよ」
佐分利 「……」
ナレーション 痛みが一息つき、ほっとしたそこに、佐分利の声が聞こえてくる。
佐分利 (悔しさと哀しさをにじませ)私は何で……こんなヤブなんでしょう」
「?……」
佐分利 「一番助けたい人には、結局、何もでけへん」
(情けなく)もう!死なんとってくださいよ。先生」
「……佐分利先生はすごい医者になると思いますよ」
「私は自分がヤブだと気づいたのは、たった6年前だったんです」
「それに比べたら、佐分利先生はびっくりするくらい早いです。佐分利先生は大丈夫です」
佐分利 (たまらなくなり)……南方先生」
ナレーション その時、手術室の方から音がする。それと同時に福田の咲を呼ぶ声が悲痛に聞こえた。
福田の声 「大丈夫ですか!?咲さん!」
 仁友堂・咲の部屋 (夕)
ナレーション 布団に寝かされている咲。周囲には仁、山田、福田、佐分利が集まっている。
仁は包帯のとられた咲の腕を見た。その患部は緑色にただれていた。
(しまった、と)……これ……咲さん」
山田 (固唾を呑み)ペニシリンの量を増やした方がよろしいでしょうか」
「咲さんが感染しているのはおそらく緑膿菌という細菌です。この菌にペニシリンは効きません」
佐分利 「効く薬は作れへんのですか!?ペニシリンの時みたいに」
「……残念ながら、私の力では」
一同 「……」
(気を取り直し)でも、自然回復が望めない感染症ではないんです。咲さんの体力を戻し、免疫力を高める努力をしましょう。福田先生、薬をお願いします」
福田 「はい!」
ナレーション 福田は部屋を出て行った。熱にうかされる咲を見つめて山田が心配そうに言った。
山田 「忙しいところ、心配をかけまいとされておったのでしょうな」
(咲を見たまま)……はい」
ナレーション その夜、仁は咲の看病をしている。高熱のため額に浮いた汗を仁が優しくふいた。
(見ていて)申し訳ございませぬ。忙しい時にこのような」
「!私こそ、気がつかなくてホントすみません」
「いえ、私が言えばよかったんです。膿が出つくせば治るものと思っておりまして(手ぬぐいを洗おうとする)あ、私が」
「咲さん。それがダメなんです。ちゃんと休まないから免疫力が落ちて、菌に負けちゃうんです」
(笑って)菌ごときに負けては、母に叱られますね」
仁(ナレ) 《だけど、咲さんの容態は好転せず》

《このままでは敗血症ショックを起こし、死に至りかねない状態になっていた》
ナレーション 床についている咲をじっと見つめ、仁は思った。
『ホスミシンでもあればなぁ』
 橘家・間
山田 「本来ならば、南方先生がお伝えに参るべきなのでしょうが」
恭太郎 「先生もお悪いのですか」
山田 「良くはござりませぬ」
「……」
山田 「我々もできる限りの治療はしておりますが、できますれば、奥方様に咲様を一度見舞っていただければ」
「……私は会いませぬ。どうか恭太郎一人で」
恭太郎 「!母上!」
「あの子にお伝えくださいませ。約束通り、己の足で戻ってきなさいと」
恭太郎 「母上。咲の病はひとえに私のせいでございます。何卒一緒に見舞っては(いただけないでしょうか)
「私が参れば、咲は己が死ぬやもしれぬと悟りましょう!それは咲の気力を奪うやも知れぬではありませんか!」
恭太郎・山田 「!」
「……(と、声の震えを押し殺し)南方先生にお伝えくださいませ」

「咲をよろしくと」
ナレーション 栄は山田に深々と頭を下げた。
 仁友堂・咲の部屋
ナレーション 咲の看病をしている蒼白な面持ちの仁。震える手で脈を取っている。咲は眠っている。
(寝顔を見つめ)……(ふと)……意外に」
ナレーション 咲がふっと笑い、続いて一筋の涙を流した。
「? 咲さん?」
「!……え」

「あ……。あ、夢を見ておりまして」
「夢?」
「熱にうかされ、ふと、目が覚めると先生がどこにもおられぬのです。私は仁友堂を探すのですけれど、どこにもおられず」

「それで、未来にお戻りになったんだと思って。あぁ、よかったと思ったところ。目覚めると先生のお顔が見えて」
「よかった?」
「お戻りになれば、先生の岩(がん)は治せるではないですか」
ナレーション 熱が辛く、咲は天井を仰いだ。仁が咲を見つめる。
(身体を起こしながら)大人しくしておりますので、どうぞ他の方(の治療)
ナレーション その瞬間、仁にふっと抱きしめられる。抱きしめた仁の手はもうあまり力が入れることが出来ない。
「先生」
ナレーション 咲の耳に仁の声が響く。その声は震えを押し殺そうとする明るい声だった。
「咲さんの寝てる顔見てたら、彰義隊の皆さんのことを思い出したんです」
(聞いて)彰義隊を……?」
「あの人たちはただ切羽詰っただけじゃなくて、意外に明るい気持ちもあったのかなって」
「もし、かけがえのないものがなくなってしまうのなら」

「一緒になくなるのが一番幸せだって」
「そんな風にも、思ったんじゃないかって」
(何とか言葉を見つけ)医者がそのようなことを言ってどうするのですか」
「……はい」
ナレーション けれど、咲は一筋の涙を流し、うれしそうに仁に聞いた。
「どうするのでございますか?」
ナレーション 咲の手が、仁の身体を抱きしめ返そうとする。
と、その時、廊下から小瓶が転がるような音がする。仁の脳裏にふっと、よぎる映像があった。

階段から落ちてくる小瓶。それを拾う仁。
「!あの時」

「あの時の……ホスミシンだったんじゃ」
ナレーション 薬を拾って、仁はポケットにそれをしまった。
「……もしかしたら、どこかに」
「先生?」
「咲さん。ちょっと待っててください」
「?……」
「すぐ、すぐ戻ってきます!絶対に治しますから!」
「あ、はい」
(急ぎながらも笑って)じゃ、行ってきます!」
「はい!」
ナレーション 咲の手を覆うように握っていた仁の震える手が離れる。咲は離れた手を見つめ、仁の出て行った方を見つけた。
咲は仁の言葉を信じて笑って見送っていた。
 仁友堂・手術室
ナレーション 治療にてきぱきと動いている仁友堂の面々。そこへ仁が慌てて入ってくる。
(慌てて)あの。すいません。私咲さんを助けることのできる薬を持ってたかもしれないんです」
福田 「も、持って、らっしゃったとは?」
「! とにかく、持ってて、落としたかもしれないんです。6年も前なんでちゃんと効くかどうかは分からないんですけど(この期におよんでもちゃんと言い訳)あ、でも、何で持ってたかは覚えてなく(て)
福田 「そのようなことはどうでもよろしい!何という薬でございますか!」
「!……ホ、ホスミシンという薬です!」
恭太郎 「どこに落としたのでございますか!」
「……えっと」
 橘家・仏間 (夕)
ナレーション 橘家の仏壇の前で栄が手を合わせて娘、咲の病気治癒を願っている。そこへ恭太郎が駆け戻ってくる。
「どうか、咲を」
恭太郎 「母上!さ、咲を助ける薬が我が家にあるやもしれぬのです!」
「!」
恭太郎 「初めて会ったとき、先生がお持ちになってたかもしれぬと」
ナレーション あまりのタイミングに、栄は仏壇を見つめて呆然となった。
恭太郎 「母上!」
(立ち上がり)探すのです!恭太郎!」
 林の中 (夜)
ナレーション 仁と恭太郎が、月明かりの下、林の中で草を掻き分け薬を探している。
(鬼気迫る顔で)……」
恭太郎 「ここは初めて会ったあたりでございますな」
「あの時に戻り、自分に言ってやりたいです。何があっても上野には行くなと」
「……私も、戻りたいです」
ナレーション そこに頭痛と共に龍馬の声が響いた。
龍馬の声 『戻るぜよ。先生』
(痛みに耐えながら)!」
龍馬の声 『「咲さんを助けたくば戻れ」ち、先生の頭の中におるやつが言うちょるがじゃ』
「……え?」
「……あれがって」
龍馬の声 『先生はどこから来たがじゃち』
「!どこからって、東京の」
恭太郎 (いぶかしく)先生!?」
「東京の……」
ナレーション 仁の脳裏に平成の東京の風景が走馬灯のようにかけめぐる。ふっと、記憶が蘇る。
救急隊員の声 「錦糸公園内で倒れているところを発見しました」
ナレーション 病院の廊下で看護師長の博美に患者の容態を説明されている仁
博美 「患者は錦糸公園に倒れていたそうです」
「……入口と出口は違う……」
恭太郎 「入口と出口?」
(聞こえておらず)恭太郎さん!錦糸町ってどっちですか?」
恭太郎 (覚えがなく)錦糸掘なら、あちらで」
ナレーション 恭太郎が指差す方向へ仁がよろよろと走り始める。
 錦糸堀周辺・暗い木立 (夜)
ナレーション 恭太郎に肩をかりながら、仁たちは錦糸堀辺りへやってきた。
恭太郎 「先生。入口と出口とは何のことで」
ナレーション 恭太郎の言葉など耳に聞こえない様子で、焦ってあたりを見回す仁。
龍馬の声 『この先じゃ、先生』
ナレーション 頭痛を感じながらも龍馬の声に導かれるまま、進んでいく。と、斜め前方から男に声をかけられる。
官軍の兵 「何をしておる!」
恭太郎 「官軍の残党狩りです。先生、逃げましょう」
龍馬の声 『急ぐぜよ。先生!』
ナレーション 仁は決心し、前に居る官軍の兵士の間を突っ切っていく。
恭太郎 「!先生!」
官軍の兵 (刀を抜き、仁に向け)おい!止まれ!」
「止まれというておろうが!」
ナレーション 官軍の兵の刀が仁に振り下ろされる。よけるものの額を切られる。仁は額を押さえ、よろめいた。そこへ恭太郎が割って入る。
恭太郎 「先生!お逃げください!早く!」
(額を押さえ)……急がないと」
ナレーション 仁は額から血を流し、よろめきながら進んでいく。
(荒い息の中)……咲さん」
ナレーション 仁はよろけてその場に崩れ落ちる。それでもはいつくばりながらも進んでいく。
「待ってて、くださいよ。絶対に治しますから」
 林の先の崖 (夜)
ナレーション はいつくばっている仁の手が、崖のようなところにかかる。
(感じ)……ここ」
龍馬の声 『戻るぜよ!先生! 』
『戻るぜよ。あん世界へ!』
ナレーション 仁は決心し手にぐっと力を込める。仁の身体は崖下へとまっさかさまへ落ちていく。
肩で息をしながら、恭太郎が逃げてくる。着物のあちこちが斬られて破れている。恭太郎が足元にきらりと光るモノを見つけ、それを手に取り空を見上げた。
 神田川 (夜)
ナレーション 街灯が落ちて川面がきらめいている。
救急車がサイレンを鳴らしながら走りこんでくる。
救急隊員の声 「錦糸公園内で倒れていたところを発見しました。性別は男性!」
 仁の夢・浜
ナレーション 仁は夢を見ていた。
浜辺に龍馬と座ってふたりで酒を飲んでいる。
龍馬 (ふと、何かを感じたように)ほいたらのぅ。先生」
ナレーション つっと、立ち上がり、海の中にじゃぶじゃぶと入って行く。
(笑いながら)竜馬さん!ちょっと、どこ行くんですか!?」
龍馬 「先生はいつかワシらんのことを忘れるぜよ!」
「!え?」
龍馬 「けんど、悲しまんでえい。ワシらはずっと先生と共におるぜよ」
「……」
龍馬 「見えんでも、聞こえんでも、おるぜよ。いつの日も先生と共に」
「……龍馬さん」
ナレーション 龍馬は笑って沖の方へ去って行く。
「龍馬さん。どこ行くんですか!?ちょっと、龍馬さん!」
 東都大学付属病院 手術室・ICU・薬品庫・病理学研究室
ナレーション 皿の上に取り置かれる胎児様腫瘍。手術をされている仁

手術が終わりICUに寝かされている仁
もう一人の仁 「何かあったらすぐ連絡してください」
ナレーション 寝ている仁がうっすらと目を開け起き上がると薬品庫へと忍び込む。そこでホスミシンを数個手にいる。
(ポケットにつっこみ、ふと)……あのときと、同じほうがいいか」
ナレーション 救急医療用のパッキンを手に入れ、続いて病理学研究室へ侵入し胎児様腫瘍の標本を手にしようとする。
そこにドアが開き、もう一人の仁が入ってくる。仁はふっと、物陰に隠れる。もう一人の仁は胎児様腫瘍の標本の前でため息をつく。その時、パッとドアが開き野口が叫ぶ。
野口 「例の患者がいなくなりました!」
ナレーション 続いて2人が出て行く気配を聞いて仁は物陰からでると、胎児様腫瘍の標本を手に取る。
(胎児に)1868年の5月20日、戻してくれよ」
ナレーション 胎児様腫瘍の標本を抱え仁はよろよろと廊下を歩いている。
仁(ナレ) 《これで俺は戻れるんだろうか》
 東都大学付属病院・非常階段 (夜)
ナレーション 仁はよろよろと非常階段を上っていく。が、ホスミシンを一つ落としてしまった。ポケットを確認すると、まだ数個残っていた。仁は構わず進んでいく。
仁(ナレ) 《それともまた、同じ事が繰り返されるんだろうか》
ナレーション 遠くから、階下に誰かが駆けつけてくるような音がする。仁は前を向き、よろめきながらも歩いていく。
仁(ナレ) 《いや、戻るんだ。今度は俺が絶対に》
ナレーション 仁は術後の痛みにその場にうずくまってしまう。そこへもう一人の仁が駆け寄ってくる。
もう一人の仁 「戻ってください。まだ安静にしていないと危険です」

「どうしてこんなことをしたんです!何か訳が」
ナレーション もう一人の仁が、救急医療用パッキンと標本に気づく。
もう一人の仁 「どうして……これを」
ナレーション もう一人の仁、突然頭痛に襲われ、仁の服をつかんだまま、膝を折ってしゃがみ込む。
その時、龍馬の声が頭に響く。
龍馬の声 『戻るぜよ。戻るぜよ。あん世界へ』
「……」
もう一人の仁 「え」
ナレーション 仁は、身体ごともう一人の仁にぶつける。
もう一人の仁 「待ちなさい!ちょっと!待って!」
ナレーション 胎児様腫瘍の標本をもぎ取られ、もう一人の仁は標本に手を伸ばした拍子にバランスを崩し非常階段を転がり落ちていく。
仁の目に映る誰もいない非常階段。膝をつき、眼下を流れ行く神田川をみつめている。
(息も絶え絶えに)咲さん……。すみませ…」
ナレーション 仁はふと意識を失い、その場に倒れ伏した。
 東都大学付属病院・病室
ナレーション 仁が病室のベッドに寝ている。そこへ、医師と看護師が入ってくる。
杉田 「お、目、覚めたか」
(身を起こしつつ)杉田……」
杉田 「お前さ、何で錦糸町の公園なんかで頭割って倒れてたんだよ。親父狩りにでもあったのか?」
「え……」
杉田 「しかも調べたら脳腫瘍もあってさ」
「あのさ……俺、着物だったよな」
博美 「?普通のお洋服だしたけど?」
「え!?あ、あのさ、俺から取った脳腫瘍って胎児様腫瘍だったよな」
杉田 (笑ってしまって)何言ってんだよ。普通の良性腫瘍だよ」
ナレーション 仁は杉田の言葉に動揺し混乱していた。出て行こうする杉田を呼び止める。
「!あ、俺の手術をしたのは誰なんだ」
杉田 「俺だよ。今度何かおごれ」
「……」
仁(ナレ) 《その後、何人かに同じ事を尋ねて見たが、答えは同じだった》
《俺が俺に手術されたという事実はあの胎児様腫瘍と共に消えていた》

《そして、ここにいるはずの未来もまた》
《どうやら、俺の帰ってきた世界は俺のかつていた世界とは少し違うようだった》
《これは俺が歴史を変えた結果なのか》
 東都大学付属病院・非常階段・踊り場
ナレーション もう一人の仁が消えた非常階段を見つめている。
仁(ナレ) 《それとも、俺が関わった日々はすべて修正されているんだろうか。この数日間のように》
(ポツリと)どうなってんだよ」
ナレーション そこへ野口が煙草を吸いに下から昇ってくる。
(見て)野口」
野口 (慌てて隠し)あ、南方先生・腫瘍きれいに取れてよかったですね」
(野口をじっと見て)……(思いつき)あのさ。俺、入院している間に小説書こうかと思ってんだけど」
野口 「は!?」
「まあ、聞けよ。一人の医者がさ、江戸時代にタイムスリップするって話なんだけど……」

「どうだ?」
野口 「医者が自分に手術されるってのがなあ。この人2人いるってことになっちゃうじゃないですか」
「一緒に考えてくれよ」
野口 「え・なんで俺が!?」
「患者の患者のメンタルケアだよ」
 東都大学付属病院・カンファレスルーム
ナレーション いい年の男2人がくだらないことを真剣になっている。仁はまだ点滴をつけて座っている。ホワイトボードに書かれた図を示しながら、野口が説明している。
野口 (真剣に)僕の考えた結果はですね。この世界は実は一つじゃなくて、こう地層みたいになってて、似てるんだけどちょっとづつ違う世界がいっぱいあるんですよ」
(ポツリと)やっぱりパラレルワールドか」
野口 「主人公の医者はもともとこのAの世界で生きてたんですよ。医者はこのAって世界の幕末にタイムスリップしたと思ってるんですけど、実はこっちのBって世界の幕末に行ってたんですよ」
「……」
野口 「で、Bの世界でいきていたもう一人の自分に手術されて、今度はここのBの世界の医者がCno幕末に行くことにすりゃいいじゃないですかね」
「なるほどなぁ」
野口 (書き加えながら)CはDに行ってDはEに行って無限にループするって仕組みはどうでしょう。ただし江戸に行くのは必ず2009年の10月11日で、戻ってくるのは1868年の5月30日ってことで」
「なるほど。頭の中にいた胎児様腫瘍はどう考える?」
野口 「バニシングツインってことでどうでようかね」
「なるほどなぁ」
「もともと2つあった受精卵の一つがいつのまにか吸収されて消えるやつだよな」
野口 「そうです。消えた方の組織が残った方の身体の一部に取り込まれる現象は10万人に1人の割合で起こりますし。この医者の場合はそれを頭の中に抱えこんだまま成長して、それが癌化したってことにするのはどうですか」
「なるほどなぁ。じゃ、坂本龍馬の声は」
野口 「なるほどなるほどってちょっとは自分で考えたらどうですか?」
「!俺は俺で考えてるよ。でもお前の考えを聞いたうえでベストな選択を(だな)
野口 (ため息一つ)例えばですよ。実際に心臓移植された人が、手術後にドナーに好みや性格が近いものになってたって症例もあるじゃないですか」
「この男の場合は龍馬から血とか脳漿とか何らかの細胞を浴びてその人格がこの頭の中の胎児と一体化したってことでいいんじゃないですか?」
「……浴びたわ」
野口 「じゃあ、そういうことで」
「……この医者はさ、結局、歴史を変えたのかな」
野口 「は?」
(図を指し示しながら)いやさ、彼はBってパラレルワールドに行ったんだろ。だったら、この歴史はもともと彼が知ってる歴史とは違うものだったのかもしれないだろ。ってことはさ、俺は結局何もしなったってことになるのかな」
野口 「俺?」
「!いや、何でもない」
 東都大学付属病院・屋上
ナレーション 仁は屋上の柵にもたれかかり、夕日に染まった東京の街をみる。
「龍馬さん、そういうことだったんですかね」
「見てくださいよ。これが未来の江戸ですよ」
「吉原は確かあっちの方ですよ。もう、ないですけどね!」

「ないですけどね・・・・・・」
ナレーション かつて仁は江戸に龍馬と共にいた。
「じゃあ、龍馬さん。また、明日」
龍馬 「おう、明日じゃ!」
ナレーション 今は1人ポツンと立っている仁の後姿は寂しそうに震えていた。
仁(ナレ) 《ずっと、避けていたけれど、もう、限界だった》
《ちゃんと確かめよう。咲さんがどうなったのか》
 図書館
ナレーション 仁は図書館で医学史の書物をひいていた。
仁(ナレ) 《俺が生きてきたあの日々がどうなったのか》

《ペニシリンはイギリスのフレミングによって1928年に発見された》
《日本では既に土着的に生産されていた》

《ペニシリンを土着的な方法で開発し、それを通じ、古来の本道と江戸期に入ってきた西洋医学医が融合させ、日本独自の和洋折衷の医療を作り上げた》

《当時医学会の反逆児とみなされた、彼らの医療結社は》
「仁友堂……」
ナレーション ページをめくると、佐分利、山田、福田、八木、横松の晩年の写真が並んでいた。
(うれしくて)……みんな、ちゃんと……」
仁(ナレ) 《だけど》

《いくら調べても、そこにない物が2つあった。俺の名前と、橘咲という名前だった》
 別の道
ナレーション 息を切らしながら仁が道を走ってくる。
(息を切らし)……確か、このへん」
ナレーション 道の一角に「橘医院」という小さな病院を見つけた。
「……これってことは」
ナレーション 反対側からこちらに向かってくる足音がした。陣は振り向いて息を呑んだ。こちらに歩いてくる女性のそれが未来そっくりだった。
未来そっくりの女 「(若干いぶかしく)ウチに何かご用ですか?」
「ウチ?」
未来そっくりの女 「あ、ここウチなんで」
「あ、あの、えと。ここのご先祖に橘咲さんって方がいたと思うんですけど」
未来そっくりの女 「!(と、探るように見て)いましたけど」
「少しお話を聞かせてもらえませんか!時間はとらせませんから!お願いします!」
未来そっくりの女 (なぜか仁を静かに見つめ)……いいですよ。どうぞ」
 橘医院・客間
ナレーション 橘医院の客間に通された仁に未来そっくりの女がお茶を出している。
(どうしても見てしまって)……あの、お医者さんなんですか?」
未来そっくりの女 「そのつもりで医学部に入ったんですけど、結局は医学史の方を」
「医学史を」
未来そっくりの女 「実際は予備校の教師で食べてるんですけどね。ま、病院は弟が継いでくれてるんで」
「あの、何で医学史に」
未来そっくりの女 (聞こえてない振りで)……さっきおっしゃってた橘咲は明治維新の後、実家を改造して、ここに橘医院を開いた人ですけど。それはご存知で」
「!咲さん!生きてたんですか?」
未来そっくりの女 「え?」
「……いや、あ、気にしないでください」
未来そっくりの女 「明治初期の女医なんて相当珍しかった思うんですけど。咲はあまり注目されてないんですよね。小児科や産科が主だったみたいでいろいろ知っている産婆さん、みたいな感じで当時は見られてたようですし」
ナレーション 女は「あ、これだ」と一枚の写真を仁に渡した。そこには晩年の咲が写っていた。笑っている人の良さそうなおばあちゃんだった。
未来そっくりの女 「長生きしたみたいですよ。一度、生死の境をさまよったみたいですけど。奇跡的に助かって」
「奇跡的に?」
未来そっくりの女 「兄の恭太郎が林の中でガラス瓶に入った妙な薬を拾ったそうです」
「それを一か八で咲にあげたら治っちゃって、日本昔話みたいでしょう」
「!……あの、その薬って、薬だけ拾ったんですか?その、誰かが持ってきたとか」
未来そっくりの女 「恭太郎の晩年の回顧録では薬だけしか出てきませんけど」
「橘咲さんに深く関わった医者はいないんですか?」
未来そっくりの女 「仁友堂の佐分利祐輔とか山田純庵とかは交流があったようです」
ナレーション 女は仁に整理した写真の束をまとめて渡す。咲が仁友堂の医者達と撮ったものがあるが、仁が写っているものは無かった。
仁(ナレ) 《そこに俺が写っているものはなかった。ということは、もう一人の俺とは別にホスミシンだけがあの時点に落下してくれたということなんだろうか」
ナレーション 女は写真を見る仁を観察している。仁は写真の束を繰りながら、と、一枚の写真のところで、ふと、手を止めた。それは龍馬の写真だった。
「!……これ」
未来そっくりの女 「恭太郎は坂本龍馬と縁があったようなんです」
「……」
未来そっくりの女 「恭太郎は龍馬の船中九策の、皆が等しく適切な医療を受けられる「保険」なる制度を作る事っていうところに感銘を受けて、その実現に走り回った人なんですよ」
「!(思わず)恭太郎さんが!?」
未来そっくりの女 「?」
「!いえ。あ、そうなんですか」
未来そっくりの女 「日本の国民医療費負担がもっとも低いのは、龍馬の精神が受けつがれてきたおかげかもしれませんよね」
ナレーション 仁は改めて竜馬の写真を見つめた。かつてその隣には自分が写っていた写真だった。
未来そっくりの女 「それ、ホントは隣に誰かいたみたいじゃないですか?」
(感情を押し殺し、ごまかすように)……確かに、言われてみればそうですね」
ナレーション そして、仁が最後の一枚の写真を見た。それは橘家の家族写真だった。膝に可愛らしい少女を乗せている咲、傍らに栄と恭太郎も写っている。
「……この子は?」
未来そっくりの女 「咲の娘です」
「……」
未来そっくりの女 「あ、でも、養女ですよ」
「!養、女?」
未来そっくりの女 「咲が友人の子を引き取ったんです。亡くなられたご両親の意向もあったようで、確か名前が裏に」
「……あんじゅ」
未来そっくりの女 「咲はずっと一人だったようですよ」
「……そう、ですか」
仁(ナレ) 《言葉が見つからなかった》
《咲さんと野風さんが起こしてくれたこの奇跡に》
《俺は、何の言葉も見つけられなかった》
 橘医院・前
ナレーション 橘医院の前、別れ際、未来そっくりな女に見送られている。
「色々、ありがとうございました」
未来そっくりの女 「あの……揚げ出し豆腐はお好きですか?」
「!……あ、はい」
ナレーション 女は仁にすっと袱紗(ふくさ)の包みを出した。
未来そっくりの女 「ずっとあなたを待ってた気がします」
「え!?」
未来そっくりの女 (笑って)変な意味じゃないですよ。とにかく、読んでみてください。私が医学史に進んでしまった原点なんです」
(受け取り)はい」
未来そっくりの女 「じゃあ」
ナレーション 女はくるっと向きを変え去って行く。
(後姿を見て)あの!」
「名前、教えてもらえますか?」
未来そっくりの女 (笑って)橘未来(たちばな みき)です」
「!」
ナレーション 未来は会釈をして、去って行った。
「……未来さん」
 公園 (夕)
ナレーション 仁は階段に腰をおろし、袱紗を開くと、中には古びた紙が折り畳まれている。開くと、それは咲の字だった。
出だしは「丸丸先生へ」と書かれていた。
「丸丸先生?」
咲の声 『先生。お元気でいらっしゃるいでしょうか』
『おかしな書き出しでございますこと、深くお詫び申し上げます』

『実は感染症から一命を取り留めた後、どうしても先生の名が思い出せず』
『先生方に確かめたところ、仁友堂にはそのような先生などおいでにならず、ここは私たちが起こした治療所だと言われました』

『何かがおかしい、そう思いながらも』
『私もまた、次第にそのように思うようになりました』
『夢でも見ていたのであろうと』

『なれど、ある日のこと』
『見たことも無い奇妙な銅の丸い板を見つけたのでございます』
『その板を見ているうちに、私はおぼろげに思い出しました』

『……
(ポツリと)先生』
『ここには先生と呼ばれたお方がいたことを』

『そのお方は』
『揚げ出し豆腐がお好きであったこと』
『涙もろいお方であったこと』
『神のごとき手を持ち』
『なれど決して神などではなく』
『迷い傷つき、お心を砕かれ、ひたすら懸命に治療にあたられる』

『「仁」をお持ちの「人」であったこと』
『私はそのお方に』

『この世で一番美しい夕日をいただきましたことを思い出しました』
『もう名もお顔も思い出せぬそのお方に』
『恋をしておりましたことを』

『なれど、きっとこのままでは』
『私はいつかすべてを忘れてしまう。この涙の理由
(わけ)までも失ってしまう』
『なぜか耳に残っている「修正力」という言葉』
『私はこの思い出をなきものとされてしまう気がいたしました』

『ならば……と、筆を取った次第でございます。私がこの出来事に抗
(あらが)う事はひとつ』
『この思いを記すことでございます』

『〇〇先生。改めてここに書き留めさせていただきます。橘咲は』

『先生をお慕い申しておりました』
『橘咲』
ナレーション 仁の目に涙が滲み、その文字がぼやけ、そして落ちる涙で文字が滲んでいく。
(笑って)私もですよ。咲さん……私も」

「お慕い申しておりました」
仁(ナレ) 《この思いをいつまでも忘れまいと思った。けれど、俺の記憶もまた》
 東都大学不足病院・屋上 (夜明け前)
ナレーション 東都大学付属病院の屋上。仁は夜明け前の空を見ている。
仁(ナレ) 《ずべての時の狭間に消えていくかもしれない。歴史の修正力によって》
龍馬の声 『ワシらはおるぜよ』

『見えんでも、聞こえんでも、いつの日も先生と共に』
仁(ナレ) 《それでも、俺はもう忘れることはないだろう。この日の美しさを》
《当たり前のこの世界は》
《誰もが戦い、もがき苦しみ、命を落とし、勝ち取ってきた無数の奇跡で編み上げられていることを》
《俺は忘れないだろう。そして、更なる光を与えよう》

《今度は俺が未来のために》
《この手で》
 東都大学不足病院・カンファレンスルーム (数ヵ月後)
ナレーション 数ヵ月後、東都大学付属病院。杉田と共に仁がカンファレンスをしている。
野口 「次に昨夜、救急搬送されてきた女性ですが」
ナレーション 仁が手元の資料を繰ると、「橘未来」という名前があった。
野口 「検査の結果、やっかいなことが判明しました。脳に腫瘍があり、しかも脳幹部に食い込んでいます」
「その患者、俺に執刀させてくれ」
 東都大学不足病院・手術室
ナレーション 手術台の上で麻酔にかかって眠っている未来。見つめる仁。
「始めます!」

劇 終

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