JET STREAM
ナレーション:城 達也 版

001 JET STREAM(ジェット・ストリーム)
   
ミスターロンリー
  遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休める時、

はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流は、

限りない宇宙の営みを告げています。

満天の星をいただいて、はてしない光の海を

豊かに流れてゆく風に心を開けば、

きらめく星座の物語も聞こえてくる

夜のしじまの、なんと饒舌なことでしょうか。

光と影の境に消えていったはるか地平線も瞼に浮かんで参ります。

日本航空があなたにお贈りする音楽の定期便、

JET STREAM(ジェット・ストリーム)

みなさまの夜間飛行のおともをいたしますパイロットは、

わたくし 《あなたの名前》 です。

     
  N 『独り言』 いつが夏の終わりか、知るよしもなく、

気づけば、蹌踉(そうろう)と日暮れの秋風の道を・・・。

そんなことがあってから、私は用心深くなって、

日毎(ひごと)、人がコーヒーに入れる砂糖の数まで数えるようにしてきたが、

その為にかえって、恋人の心変わりを、早めたかもしれない。

ロダン美術館の秋の庭に、木の葉を踏みながら、彫刻相手の独り言して、

つまるところ恋は戻らない、灰色の空模様だというのだ。

  BGM  

今日でこそポール・モーリアの代表曲とだれもが認める

有名曲ですが、1974年の発表当時はポール盤を交えての

競作合戦が展開されたものです。

曲はクロード・モルガンが作ったもので、

原曲の「エル・ビンボ」にひっかけて「嘆きのビンボー」なんて

邦題のレコードもありましたっけ。

ほどよいビート、美しいメロディライン、どこからみても

この曲の決定版はポール・モーリアですね。

「オリーブの首飾り」2:34

 

  N 『便り』 夏のプラタナスが、手をいっぱいに広げ、

カルチェの散歩道を飾る頃、

とり残された思いの若者が、

旅先の娘から、優しい手紙を受け取っている。

あれはまだリュクサンブール公園の樹々(きぎ)

灰色の空に黒々とこごえている頃だったが、

ローヌ川の谷を南へ、リオン湾まで

オリーブが実り、糸杉(いとすぎ)が緑の焔(ほのお)を上げる土地へ旅するのだと

娘が頬を染めて話したのだった。

春風に誓った旅の途上に、今、娘はいて、

南仏(なんふつ)のひなた臭い便りに、思いを託している。

出払って、ひと気のないパリの学生下宿の

夏のプラタナスがそよぐ窓辺で、

若者は、カマルグの沼地に水しぶきを上げながら、

白馬に乗って日が暮れる娘の事を考えている。

夕映えの空には、熱いフラミンゴの群れも

舞っているのではないか・・・・と。

  BGM  

1974年の同名のフランス映画の主題曲で、

ピエール・バシュレ&ローブ・ロイの作詞作曲に

なるものです。

ポール・モーリアは、いち早くこの曲をカバーし、

ピエールが歌ったオリジナル曲以上の人気になりました。

どことなく官能的で、どことなく気だるいムード

それでいて嫌味の無い仕上がりが、映画と曲

両面でのヒットになったといえるでしょう。

「エマニエル夫人」2:44

 

  N 『南ドイツの古都』 例えば、南ドイツの古都(こと)で雨。

入口で可憐な鈴をつけたカフェで、

紅茶茶碗(こうちゃじゃわん)を掌(てのひら)に包み、指先を暖めていた夏もあった。

少し曇った窓ガラスごしに黒々と濡れた石畳が見え、

塗り替えて間もない砂糖菓子色の家並(やな)みが、

見捨てられた絵本のように、青ざめていた。

こんなことがあってはならない、と思いながらも、

カフェの客は、私一人で、

次の町へのバスを待つ間(ま)の時間、

何をする気もなく座っていたのだ。

白い前掛けが目に染みる女主人が、降り込められた旅人を、

気の毒そうに、レジの傍(そば)で見ていた。

あの時、ババリアの空の下の、晴れやかな夏をひとつ、

私は、カフェの椅子に、残してきたと思っているのだ。

010 BGM

1952年の同名のフランス映画の主題曲で、音楽を

受け持ったナルシソ・イエペスのギターの響きが、

平和を訴えかけるかのように心を打ちました。

曲はスペイン民謡「愛のロマンス」で、これより先の

41年のアメリカ映画『血と砂』や、この後の69年の

アメリカ映画『クリスマス・ツリー』などでも主題曲として

使われたことがあります。

「禁じられた遊び」2:30

 

  N 『スイス』 それは、虹に飾られた、スイスの、と或る町のことだ。

湖畔の丘に、錆色(さびいろ)の甍(いらか)を積み重ねた、古い町並みがあって、

曲がりくねった石畳の坂道に沿ってくすんだ建物の肌が

心に馴染む滞在であったに違いない。

教会の鐘の音を聞きながら、散歩に出て

湖畔の四阿(あずまや)で、うつらうつらと時を過ごす間には、

谷間の落ち葉が、湖の底に辿りつくように

山々の言葉が、心の底に届きそうに思えたのではないか。

私は、旅人達の土産話を聞くたびに

切ない夢を見ているような気がするのだ。

  BGM

1963年にジョニー・マーサーとヘンリー・マーシーニが

作った曲です。

この曲もアカデミー主題歌候補となり、61年の

『ティファニーで朝食を』の「ムーン・リヴァー」から

「酒とバラの日々」につづいて、3年連続受賞かと

騒がれましたが、惜しくもノミネートどまりでした。

ただ、受賞した「パパは王様」より、こちらのほうが

上という声は今もあります。

「シャレード」2:56

 

  N 『フレンチクォーター』 ガス灯のもとで、ワインを汲みながら

隣のテーブルの、打ち明け話を聞いていた。

優しい男友達に囲まれていることが

人並み以上の幸せと一緒に、

不幸せをもたらすに違いない、とか・・・・

愛する人にj限って、深い間柄にならないものだ、とか・・・。

時に誘惑者の目が澄んでいることがある、といったようなことだ。

痩せて、性的に魅力のとぼしい娘に見えたが、

古いレンガの壁を背にした青白い顔と、真っ赤な唇が、

屋敷の奥でひっそりと咲く花のように思われた。

それから何時間かして、夜明けの川を見た帰り道、

堤防のほとりのカフェに入ると、

隅のテーブルで、あの娘(こ)がただ一人、手紙を書いていた。

四角いドーナツのパウダーシュガーにむせて、

あわてて飲んだ苦いコーヒー。

長い長い手紙を書いている娘(むすめ)を見ながら、

眠りそこねた朝を迎えようと、

カフェが込んでくる時刻まで、

そこに座っていたのだったが・・・・。

 

014 N 音楽の定期便JET STREAM(ジェット・ストリーム)

そろそろお別れの時が近づいてまいりました。

お相手は、わたくし  あなたの名前  でした。

BGM「夢幻飛行」

夜間飛行の、ジェット機の翼に点滅するランプは、

遠ざかるにつれ次第に星のまたたきと区別がつかなくなります。

お聴きいただいております、この音楽が

美しく、あなたの夢に、溶け込んでいきますように。

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