犬夜叉−鉄砕牙と天生牙−

原作 高橋 留美子

★第1章 殺生丸登場編★


犬夜叉
妖怪の父と人間の母から生まれた半妖の少年。いつも妖怪の力と人間の心の間で揺れている。鉄砕牙を武器にカンと力ずくで戦う。

日暮かごめ
現代からタイムスリップして来た中学3年生。じつは桔梗の生まれ変わり。

殺生丸
犬夜叉の腹違いの兄。純粋な妖怪のため、妖力や身体能力は犬夜叉を上回る。優雅にセンスよく戦い、穴がない。
邪見 殺生丸と行動する家来の妖怪。

冥加
ノミ妖怪。逃げ足が速い。
無女 飢えや戦で子を失った母の無念の魂が寄り固まってできた妖怪

 

001 黒い光の渦へ飛び込むかごめと犬夜叉、光を抜けると目の前に、峻厳な岩肌がそびえたつ山が連なる場所へとでた。そこに、山々と一体と化した、巨大な骸骨が横たわっていた。
  犬夜叉 「おやじ・・・」
  日暮かごめ 「って・・・あの骨が・・・あんたのおとうさん?」
  犬夜叉 「見りゃわかるだろ」
  日暮かごめ 「わかるわけないでしょ、あんな大きい・・」
冥加 「父君は年月を経た大妖怪でしたからな。あれこそが変化(へんげ)を解いた真のお姿・・」

「父君自身の亡骸の中に納められた宝刀・・・殺生丸さまの狙いはそれを奪うことですじゃ」

  殺生丸は、巨大な骸の中にいた。その目の前に一本の錆びた刀が台に突き立っていた。
  殺生丸 「ついにたどり着いたぞ。鉄砕牙・・・」

「父上の骸の胎内に納められし宝刀・・・ひと振りで百匹の妖怪をなぎ倒すという・・牙の剣・・・鉄砕牙」

  邪見 「鉄砕牙は父君の牙から研ぎ出した刀と聞き及びまする。すなわちこれを手にするということは・・父君の妖力を受け継ぐも同じ・・・」
010 殺生丸がゆっくりと右手を鉄砕牙に添え、柄を握った。とたんにバチバチと雷にも似た閃光が走った。殺生丸は刀から手を離した。その手から煙がたち昇っている。
  邪見 「・・ひ・・?抜けない・・・!?」
  殺生丸 「用心深いことよな。結界が張ってある・・・」
  犬夜叉 「殺生丸!」
  殺生丸 「うん?」
  犬夜叉 「まだ決着はついてねえぞ!散魂鉄爪!(さんこんてっそう)」
犬夜叉の爪がうなる。しかし、殺生丸はそんな犬夜叉の攻撃を華麗に優雅にうけながす。
  殺生丸 「どうした犬夜叉。自分の墓穴でも掘りに来たのか?・・それともきさまも・・・父上の牙の剣・・鉄砕牙を抜きに来たのか」
  犬夜叉 「鉄砕牙・・・?」
  冥加 「犬夜叉さま、抜きなされ!」
020 犬夜叉 「冥加じじい」
  冥加 「殺生丸さま、あなたさまには・・鉄砕牙は抜けなかった。そうですな!?」
  殺生丸 「犬夜叉になら抜ける・・・と申すのか」
  冥加 「当然じゃ、父君が犬夜叉さまに墓を託されたのがなによりの証拠」

「さ、犬夜叉さま早く」

  犬夜叉 「けっ、おれはこんなオンボロ刀に興味はねえ!!」

「殺生丸!てめえよくも・・さんざんおれをコケにしてくれたな!」

  殺生丸 「どこを狙っている」
  犬夜叉 「ちっ。この野郎!」
  殺生丸は華麗に宙を舞う。犬夜叉の攻撃は殺生丸にかすることすらできない。
  殺生丸 「ふっ・・あいかわらず攻め方が幼いな」
  冥加 「犬夜叉さま、丸腰では勝てぬ。刀を・・・」
030 犬夜叉 「うるせえ!」
  日暮かごめ 「犬夜叉、抜いちゃいなさいよ!」
  犬夜叉 「かごめ・・・」
  日暮かごめ 「その刀、殺生丸には抜けなかったのよ。それをあんたが易々と抜いたら、殺生丸の面目丸つぶれよ!赤っ恥よ!!」
  犬夜叉 「なるほど・・・そいつはすげえ、嫌がらせだな」
  殺生丸 「抜けるものか」
  犬夜叉 「ふっ・・てめえの吠え面が・・・見たくなったぜ!」
  犬夜叉が鉄砕牙を掴んだ。
  邪見 「ひえっ・・うそっ・・殺生丸さまをはね返した結界が・・犬夜叉を受け入れた!?」
  冥加 「やはり・・鉄砕牙は犬夜叉さまが持つべきものなんじゃ!!」
040 犬夜叉が腕に力をこめる。ゴゴゴゴと地面を震わす音が響く。
  日暮かごめ 「あれ?」
  鉄砕牙はピクリともせず、刺さった台座から動かなかった。
  犬夜叉 「・・・おい」
  邪見 「ぎくぅ・・」
  犬夜叉 「抜・け・ね・え・じ・ゃ・ね・え・か・よ」
  冥加 「なっ・・なぜでしょおおお・・」
  殺生丸 「茶番は終わりだ」

「鉄砕牙はきさまごとき半妖の持つ刀ではない!わが毒爪にて昇華せよ」

「毒華爪!!(どっかそう)」

  殺生丸の爪が触れたところが一瞬に煙となって消えた。
  日暮かごめ 「と・・・溶けた・・」
050 邪見 「ひへへっ・・殺生丸さまご加勢を・・」
  人頭杖を構える邪見の上に、かごめが飛び降り踏み潰す。
  邪見 「ぐえっ」
  日暮かごめ 「小悪党〜〜」
  邪見 「こっ・・この小娘ぇ〜〜〜今度は負けぬ!」
  邪見によって投げつけられるかごめ。鉄砕牙を支えにして立ち上がった。その時犬夜叉は殺生丸に押さえられ、毒華爪の餌食になろうとしていた。
  日暮かごめ 「あっ!犬夜叉・・」
  かごめは鉄砕牙を掴んだまま走り出した。鉄砕牙は何の抵抗もなく台座からスコッと抜けた。唖然とする犬夜叉、殺生丸。そして、抜いたかごめも驚いていた。
  日暮かごめ 「ごめん・・・抜けた・・・」
  邪見 「ばっ・・ばかな・・・犬夜叉はともかく、殺生丸さまにすら抜けなんだ鉄砕牙を・・なぜ人間の小娘が・・」
060 犬夜叉 「よそ見してんじゃねーーっ」
  かごめを見つめる殺生丸に犬夜叉の爪が襲う。しかし、殺生丸の姿は一瞬でかごめの目の前に移動していた。
  殺生丸 「きさま・・・」
  冥加 「もはや犬夜叉さまは眼中にないようで・・命拾いしましたな」
  犬夜叉 「どあほう!」
  殺生丸 「きさま何者だ。なぜ鉄砕牙が抜けた・・?」
  日暮かごめ 「こ・・来ないで・・斬るわよ!」
  犬夜叉 「殺生丸、手を出すな!その女は関係ねえ!!」
  殺生丸 「犬夜叉・・そうもいかんだろう。きさまの連れならなおさらだ」

「わが毒華爪にて消滅せよ」

  殺生丸の放った毒華爪が襲う。巨大な骸の一部がどろどろに溶け落ちる。かごめは溶けた骨の下敷きになった。
070 犬夜叉 「かごめ!」
  殺生丸 「つまらん。ただの女だったのか」
  犬夜叉 「殺生丸ーーー!」
  殺生丸 「うるさい、きさまも消えろ」
  互いに爪を振るい、襲いかかる。わずかに早く犬夜叉の爪が殺生丸の防具を断ち割った。
  邪見 「な、なんで、さっきまでかすりもしなかったのに」
  殺生丸 「どうした犬夜叉。たかが人間の女のことで・・・」
  犬夜叉 「てめえ・・・次は腹わた引きずりだしてやる」

『ばかやろう・・・だからついてくるなと言ったんだ・・つまらねえ死に方しやがっ・・・・』

  犬夜叉が溶けた骨に埋もれたかごめを見やったその時、わずかに突き出ていた鉄砕牙がゆっくりと動くのが見えた。
  日暮かごめ 「ぷはっ、死ぬかと思った」
080 犬夜叉 「なっ・・・」
  日暮かごめ 「あんた!あたしまで本気でやったわね。たっぷり反省させてやるから。覚悟しなさいよ」

「はい」

  犬夜叉 「あ」
  かごめは犬夜叉に鉄砕牙を手渡した。
  日暮かごめ 「なんか、この刀すごいみたい。がんばってね」
  犬夜叉 「おめーー・・・なんでそんなにピンピンしてんだよ」
  殺生丸 「そうか・・・刀の結界に守られたのか・・」
  冥加 「犬夜叉さま、ためらうことはない。殺生丸さまのお体にて、鉄砕牙の試し斬りなさいませ」
  殺生丸 「ふっ、ようもほざいた・・・きさまごとき半妖に鉄砕牙が使いこなせるかどうか・・・この殺生丸が見届けてくれるわ」
  殺生丸の言葉が終わるやいなや、端正な殺生丸の口が耳元まで割け、牙が生えてきた。殺生丸は巨大な化け犬へ変化(へんげ)した
090 日暮かごめ 「ば・・化けた・・」
  犬夜叉 「けっ、本性あらわしやがった」

「刀のサビにしてやらあ!」

  犬夜叉は高く飛び上がると殺生丸の頭に鉄砕牙を振り下ろした。
  犬夜叉 「なっ・・・はっ、はね返された!?」

「おいっ、冥加じじいっ、どうなってんだ」

  冥加 「はいっ!?」
  犬夜叉 「斬れるどころかタンコブもできねーじゃねーかよ」
  冥加 「あうう・・とっ・・とにかく犬夜叉さま、この刀は父君の形見!刀の妖力を信じなさtれ。ゆめゆめ手放してはなりませんぞ」

「ではっ、これにてご免!」

  犬夜叉 「てめえっ!」

『ちっ・・ちくしょう・・どうすれば斬れるんだ!?』

  殺生丸の前足が犬夜叉を襲う。鉄砕牙を一閃させる。
  日暮かごめ 「がんばって犬夜叉。今の一発効いてるわよー」
100 犬夜叉 「あのな、全然効いてねーんだよ」
  日暮かごめ 「だって・・・それあんたの刀なんでしょう!?あたしは信じてるからね、あんたの力」
  犬夜叉 「けっ、いいのかよ、そんな能天気なこと言ってて。おれは頑丈だからいーけどよ、このままじゃおめーは死ぬかもな」
  日暮かごめ 「やっぱり・・・ダメなの?」
  かごめの両眼にうっすらと涙が浮かんでくる。
  犬夜叉 『お・・・おれが泣かしたのか・・』

「なっ、泣くなーっ」

  日暮かごめ 「笑えっての!?」
  犬夜叉 「やかましい!おれがおまえを守るっつってんだ」
  日暮かごめ 「へ・・・?」
  犬夜叉 「そこで見物してな」

『来やがれ』

110 変化(へんげ)した殺生丸の不気味な顔が犬夜叉をにらみつける。犬夜叉は、鉄砕牙を構えて仁王立ちしている。
  犬夜叉 「ん・・・鉄砕牙が脈打っている・・・・!?」

「聞こえる・・・鉄砕牙の鼓動が・・・」

  日暮かごめ 『さっきの・・聞き違いじゃないわよね・・・』

『犬夜叉・・・乱暴だけど・・・殺生丸とはなにかが違う・・』

  邪見 「殺生丸さまー。犬夜叉ごとき半妖なんぞ頭から食ってしまいなされ〜〜」

「おぐぅ・・」

  かごめの投げた溶けた骨の塊が、邪見を押しつぶした。
  日暮かごめ 「負けないわよっ」

『がんばって犬夜叉』

  犬夜叉 「この感じ・・・さっきまでとは全然違う!」

「いける!!」

  犬夜叉は鉄砕牙を振り上げ、殺生丸に斬りかかる。鉄砕牙が巨大な刀身に変化した。鉄砕牙は殺生丸の左腕を切り落とした。
  犬夜叉 「これは・・・・牙!?」
  日暮かごめ 「あれが・・・鉄砕牙の本当の姿!?」
120 倒れうずくまる殺生丸に犬夜叉は近づいていく。殺生丸は大きく口を開けると犬夜叉めがけて食いついてきた。
  犬夜叉 「殺生丸!これで終わりだ!!」
  犬夜叉は鉄砕牙を大きく横一文字になぎ払った。鉄砕牙は殺生丸の胸を切り裂いた。殺生丸は大きく咆哮し、骸の外へ落ちていった。
  邪見 「せ・・殺生丸さまっ、お待ちくださ〜〜い」
  日暮かごめ 「やったあ、犬夜叉!」
  犬夜叉 「ふっ・・ふふふふふ・・・ありがたいぜおやじ・・・いい形見残してれたじゃねえか・・」
  冥加 「いや〜〜、さすが犬夜叉さま。この冥加、犬夜叉さまを信じておりましたぞ」
  犬夜叉 「逃げたろおまえ」
  犬夜叉の指が冥加じじいをつぶす。・・・ぶちっと音がする。

里に戻った犬夜叉たち。冥加じじいが鉄砕牙が抜けたわけをかごめに話している。

  冥加 「わしが思うに・・・かごめが人間だったからこそ抜けたのではないかと思うのじゃ。もともと鉄砕牙は犬夜叉さまの父君が、人間である母君の身を守るために作った妖刀なのじゃ」

「すなわち、人間をいつくしみ、守る心がなければ使えぬ刀・・・」

130 日暮かごめ 「そうか・・それであの時、刀が反応して・・・」
  冥加 「もとより、人間に対し慈悲の心を一切持たぬ殺生丸さまには、鉄砕牙を使えるはずがなかったのじゃ」
  木の枝に犬夜叉が座っている。右手には鉄砕牙を握っている。
  犬夜叉 「なんでえこれ・・またもとのボロ刀に戻っちまった」
  日暮かごめ 「犬夜叉ー」
  犬夜叉 「ん?」
  日暮かごめ 「教えてあげようか、鉄砕牙の使い方」
  犬夜叉 「ほお」
  日暮かごめ 「ねえ、これからも、その刀であたしのことしっかり守れる?」
  犬夜叉 「はあ?・・なにうわごと言ってんだおめーーー、熱でもあんのか?」
140 日暮かごめ 「おれは一生おまえを守るっていったでしょー!?」
  犬夜叉 「言ってねーだろ一生なんて」

「いいか、かごめ。おれはいずれ本物の妖怪になるんだぜ。これさえあれば、四魂の玉なんぞあっという間に集められる。おめーなんぞ守るために使ってたまるかよ」

  日暮かごめ 「おすわり!」

「もしかするといいやつかもしれないと思ったあたしがバカだった」

  犬夜叉 「待てっ・・・使い方け・・・」
  冥加 「犬夜叉さま・・性格をお直しくだされ・・・・」
145 殺生丸との戦いに辛くも勝利し、鉄砕牙を手にした犬夜叉。人間をいつくしみ、守る心がなければ使えぬ鉄砕牙を持つことの意味とはいったい・・・しかし、四魂のかけらを探す旅はまだ始まったばかり。かけらを狙う妖怪たちとの戦いは続く。

その2 劇 終

★第1章 殺生丸登場編★ 劇終

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