OVA:鋼の錬金術師
『盲目の錬金術師』


カフェのテラスで美味しそうな真赤ないちごクリームパフェをほうばるエド
エドワード・エルリック 「あむっ・・・・!!・・・人体練成に成功した!?」
アルフォンス・エルリック 「ん・・うん・・・噂だけどね・・・」
エドワード・エルリック 「どこのどいつだ!」
アルフォンス・エルリック 「ハンベルガングって家に仕える錬金術師だって」
エドワード・エルリック 「名前は?」
アルフォンス・エルリック 「ジュドウ・・・」
エドワード・エルリック 「ふっ・・・」
ぼやっともやに包まれたような視界の向こうに人影が見える。その人影は息を切らせてこちらへかけてくる。
10 ロザリー 「はぁ、はぁ、はぁ、ジュドウ、今日ね学校で身体測定があったの。クラスの女子の中で一番大きかったのよ」
ジュドウ 「それは、それは・・・大きくなりましたね。ロザリーお嬢様」
奥方 「この子ったらスクールに通い始めてから、いたずらばかり覚えて困るわ。誰に似たのかしら」
ジュドウ 「ははは・・・奥様に似たのならさぞかし美しくなられるでしょう」
マイスナー 「ジュドウ様、ご面会の方が来ていますが、お通ししますか?」
ジュドウ 「私に面会とは珍しい」
マイスナー 「旅の錬金術師だそうですよ」
ジュドウ 「錬金術師・・・是非会ってみたいものですね。その方のお名前は?」
マイスナー 「エドワード・エルリック氏とアルフォンス・エルリック氏です」
物々しい警護の大門をくぐり、エドとアルは敷地の中へ通された。
20 アルフォンス・エルリック 「立派なお屋敷だね、兄さん」
エドワード・エルリック 「錬金術師の2、30人囲っても平気そうだなぁ」
アルフォンス・エルリック 「広さって言う意味?・・・経済的にって言う意味?」
エドワード・エルリック 「両方」
エドは背中に突き刺さる視線を感じて振り返るが、怪しい人影は見えなかった。
エドワード・エルリック 「なんだぁ・・・おれ達が何かした・・・てぇのか?」
アルフォンス・エルリック 「する・・・って思われてるのかも」
エドワード・エルリック 「何をするってんだよ!」
アルフォンス・エルリック 「お・・・ん?」
アルの見下ろした先に少女が立っていた。この屋敷の娘ロザリーだった。
30 アルフォンス・エルリック 「君は?」
ロザリー 「わぁ・・・全身鎧だわ!変人だわ!」
アルフォンス・エルリック 「変人って・・・」
ロザリー 「鎧、よろい、ヨロイ・・・!!」
エドワード・エルリック 「・・・何だ・・・このガキ」
奥方 「ロザリー」
声がするほうをエドが見つめると、前方から奥方が男2人を伴ってやってきた。
ジュドウ 「エドワードさんとアルフォンスさんですね。私がジュドウです」
エドワード・エルリック 「俺がエドワード。あっちでおもちゃになってるのが弟のアルフォンスです」
ジュドウ 「この通り眼が不自由で外に出ないものですから、他の錬金術師の方と話をする機会がなかなか得られません。わざわざ尋ねて来て下さって感謝します」
40 差し出したジュドウの手をエドが握り返す。その手の感触にジュドウが反応した。
エドワード・エルリック 「硬い手でビックしりたかい?」
ジュドウ 「いえ、そういうわけではありません」
エドワード・エルリック 「俺もジュドウさんの噂を聞いて一度じっくりと錬金術の話をしたいと思ったんだ」
ジュドウ 「噂・・・ですか?」
エド゙ワード・エルリック 「永年、このハンベルガング家に尽くしてきたとか、実力は国家錬金術師に匹敵するとか・・・お家存亡の危機をその技術で救ったとか・・・人体練成をやった・・・とか」
ジュドウ 「ふふふ・・・根も葉もない噂ですよ」
エドワード・エルリック 「その噂の中に稀に真実があったりするんでね」
ジュドウ 「うむぅ・・・ロザリーお嬢様は席を外して頂けますか」
奥方 「・・・あっ・・・そうね・・・。ロザリー!」
50 ロザリー 「いやぁ!ヨロイと遊ぶぅ!」
マイスナー 「いけませんお嬢様、お客様は大事なお話が・・・」
駄々をこねるロザリーに執事のマイスナーが手を焼いていた。
エドワード・エルリック 「アルも・・・一緒に行ってやれ・・・」
ロザリー 「本当!?・・・お屋敷の中案内してあげるぅ!」
ロザリーはアルを引っ張り、風のようにかけて行った。その後をマイスナーが追い掛けて行く。
奥方 「ここではなんですので、東屋へ」
東屋、その周りを広大な池がぐるりと取り巻いている。池の中には魚が悠然と泳いでいる。
エドワード・エルリック 「まどろっこしいのは嫌いでね。単刀直入に行こう・・・人体練成、やったのか?やらなかったのか?」
ジュドウ 「聞いてどうします?」
60 エドワード・エルリック 「参考にするだけさ」
ジュドウ 「両の眼を持っていかれましたよ」
エドワード・エルリック 「こっちは左脚と弟」
ジュドウ 「・・・!・・・右手は?」
エドワード・エルリック 「これか?・・・これは弟の魂を練成するのに使った」
ジュドウ 「・・・お仲間ですね」
エドワード・エルリック 「嫌な仲間だけどねぇ・・・」
ジュドウ 「はぁ・・・安心しました」
奥方 「ジュドウ・・・」
ジュドウ 「奥様、大丈夫です。彼は私をどうこうしに来たわけではありません」
70 奥方 「はぁ・・・」
エドワード・エルリック 「本当に俺たちが何かするって思ってたのかよ」
ジュドウ 「さて、そうとわかれば腹を割って話せるというものです。何か他に聞きたいことは?」
エドワード・エルリック 「人体練成に成功したってぇのは本当か!?」
ジュドウ 「・・・あ・・・ははは・・・」
奥方 「・・・あ・・・ははは・・・エドワードさん、あなたはもうその結果を見てますのよ」
エドワード、エルリック 「えっ!?」
奥方 「ロザリー、あの子が練成の結果です」
屋敷の中、ロザリーの目の前にアルの頭が転がっている。息を呑むロザリー
ロザリー 「・・・からっぽ・・・」
80 アルフォンス・エルリック 「あわわわわ・・・怖がらないでロザリー・・・これには深い訳があってね・・・」
ロザリー 「凄い、鎧だけで動いてる」
空っぽのアルの胴体へ頭を突っ込むロザリー、アルはロザリーの突然の行動に驚き慌てた。
アルフォンス・エルリック 「あぁ・・うあぁあああ・・t・・ちょっとぉ!!」
ロザリー 「鎧だけなのにちゃんと考えられるんだ・・・ジュドウが行ってた、考えることができるのは人間だけだって」
アルフォンス・エルリック 「驚かないの?」
ロザリー 「ちょっとビックリしたけど、もっと凄いの見てるし」
アルフォンス・エルリック 「えっ!?」
ロザリー 「そうかぁ・・・それでジュドウの所に・・・なるほど」
アルフォンス・エルリック 「ん?」
90 ロザリー 「ちょっと来て!・・・あなたなら見せてもいいわ。ロザリ−の秘密!」
東屋、ジュドウの話は続いている。
ジュドウ 「私が人体練成を行ってもう3年になります。見ての通り元気に育ってますよ」
エドワード・エルリック 「やっぱ可能なんだ」
ジュドウ 「エドワードさんは失敗してしまったのですか?」
エドワード・エルリック 「え・・・あ・・・ん・・・母親を取り戻そうとして・・・連れの鎧、さっきも言ったけど、あれ、俺の弟なんだ」
ジュドウ 「魂を練成したという・・・」
エドワード・エルリック 「だから。あいつだけでも元に戻したいんだ!・・・頼む!人体練成の方法を教えてくれ!」
ジュドウ 「うむぅ・・・」
奥方 「それはできない相談です」
100 エドワード・エルリック 「どうして!」
奥方 「ジュドウは当家に仕える錬金術師。よって彼の力はこの家の為だけに使われるものです。外部の者に秘術を教えるわけには参りません」
エドワード・エルリック 「・・・そんな・・・」
奥方 「諦めてください。これは亡くなった主人の言葉なのです」
エドワード・エルリック 「う・・ぁ・・・・」
ジュドウ 「主の意向ですから・・・こればかりは・・・」
エドワード・エルリック 「ぁ・・・」
ジュドウ 「力になれなくて申し訳ない・・・それに、これではあの時の練成陣を書いてお見せする事もできませんし・・・」
エドワード・エルリック 「う・・・」
ジュドウ 「あなた方が元の身体に戻れるように祈っています」
110 東屋を繋ぐ橋の上、奥方に付き添われエドが歩いている。
エドワード・エルリック 「・・・あのさ・・・」
奥方 「駄目です」
エドワード・エルリック 『まだ何も言ってねぇよ』
奥方 「エドワードさん」
エドワード・エルリック 「・・・!」
奥方 「人体練成なんておやめなさい」
エドワード・エルリック 「弟を元の身体に戻すと決めたんだ。だからジュドウさんにもう一度!」
奥方 「聞いても無駄です」
エドワード・エルリック 「・・・!・・・無駄な事なんて無い!げんに成功してるじゃ・・・!」
120 奥方 「無駄なのです」
エドワード・エルリック 「・・・!」
奥方はその場に佇み、黙ってエドを見つめた。その眼は憂いと悲しみを湛えているように見えた。
エドワード・エルリック 「・・・わかったよ・・・アル連れて帰るわ・・・」
奥方 「ロザリーと遊んでいらしたのでは」
エドワード・エルリック 「・・・あ、勝手に探すわ・・・いいだろう?」
奥方 「・・・構いません。ですが、2階の部屋の奥だけは入らないように。亡くなった主人との想い出の部屋ですから」
エドワード・エルリック 「へぇ、へぇ・・・」
階段を忍び足でのぼって行くエドの姿があった。広い屋敷にはエドの靴音だけが響き渡っている。
エドワード・エルリック 「奥の部屋だけは入らないようにと・・・言われてさいですかぁ、なんて言ってられるか」
130 ロザリー 「早く早く!」
階段を上りきったところで、突き当りの廊下をロザリーに手を引かれ走るアルの姿を見止めた。
エドワード・エルリック 「アルの奴、どこ行くんだ?」
部屋の扉が重く軋みながら開く。部屋の中へロザリーとアルが入ってくる。ロザリーは部屋の置くに置かれたベッドへ向かって歩いていく。ベッドの周りには薄絹のベールが垂れ下がっている。そのベールをめくってロザリーが呼びかける。
ロザリー 「ロザリーお客様よ」
ベールをめくって中を覗き込んだアルフォンスははっとなった。

部屋一杯の花と人形に囲まれたそれは、部屋の中央に鎮座していたのである。
ロザリー 「これがジュドウの人体練成で戻ってきたロザリー」

「ロザリー元気!」
アルフォンス・エルリック 「・・・こ・・・怖くないの?」
ロザリー 「慣れたわ」
アルフォンス・エルリック 「・・・これがロザリーだと、君は?」
140 ロザリー 「そう、私はね孤児院からもらわれてきた偽者のロザリー。本物のロザリーに似てるからって連れてこられて、ずっと彼女のふりをしているわ」
「本当の名前は、エミって言うの」
アルフォンス・エルリック 「複雑だね」
ロザリー 「でも、お芝居をしていれば温かいご飯と綺麗な服と、優しい家族が約束されてるもの」
「ここは天国よ・・・ロザリーはいつも髪が綺麗で良いわね。絹みたい」
N ロザリーはミイラの髪をくしでとかしながら言った。
アルフォンス・エルリック 「・・・!!!・・・う・・動いたよ!」
ロザリー 「自分だって似たようなものなのに、何を驚いてるのよ」
アルフォンス・エルリック 「い・・・生きてるの?」
ロザリー 「生きてるといえるかどうかはわからない。もうずっとロザリーはこのままよ、でも、この身体の中に居るのが本当にロザリーかどうかは誰にもわからない。もしかすると、彼女ではない何かが居るのかもしれない」
アルフォンス・エルリック 「・・・ほん・・ものだよ・・」
ロザリー 「うん。だから、ここにいるのが本物のロザリーだから、私はこの家の本当の子供にはなれないの」
150 アルフォンス・エルリック 「・・・エミ」
ロザリー 「でも、エミに戻ったらまた孤児院の暗い片隅で木の棒だけをおもちゃに過ごさなければならない」
N 入口の影に佇み、ロザリーの話を聞いているエドワード。その時、奥方の声がする。
奥方 「やはり入りましたね・・・」
エドワード・エルリック 「・・・ぎくぅ!・・おわ!・・・・」」
奥方 「亡くなった主人の言葉は守らねばなりません。でも、あなたにはこれを見て欲しかったんです」
エドワード・エルリック 「・・・だから、わざと行くなと・・・」
N 3年前、ジュドウはロザリーを蘇らせるため、人体練成を試みた。
ジュドウ 「うおぉぉ・・・眼が・・・眼が焼ける・・・・・お・奥様・・・・旦那様・・・ロザリーお嬢様は・・・な・・何も見えない・・・!教えてください・・私の理論は完璧でしたか・・・お嬢様は・・ぐうぅ・・・!」
N (旦那様)
「ジュドウ、安心しなさい。君の練成は完璧だよ。娘は我々の元へ帰ってきた。元の姿のまま・・・」
160 ジュドウ 「おぉ・・・ロザリーお嬢様!」
マイスナー 「ジュドウ様は、先代から当家に使える錬金術師です。研究者と出資者。最初はそれだけの関係だったのですが、いつしか本当の家族のようになりました。それ故に一人娘のロザリー様がお亡くなりになった時の奥様の落胆振りを見ていられなかったのでしょう・・・いいえ、ジュドウ様本人もロザリー様を取り戻したかったのでしょう」
「奥様もロザリー様も、彼にとっては家族なのですから」
アルフォンス・エルリック 「執事さん、あなたも・・・」
マイスナー 「我々使用人全員、彼を騙しているのですよ。そしてこれからも騙し続けるでしょう。それで皆がいつもどおりならそれで良いのです。さあ、お部屋に戻りましょう。ロザリーお嬢様」
ロザリー 「うん・・・バイバイ」
N 屋敷の大門の前で、エドワードとアルフォンスに、軽く手を振るロザリー。
アルフォンス・エルリック 「バイバイ・・・ロザリー」
N 入口の大門が使用人の手によってゆっくりと閉められてゆく。全ては大門の内側にひっそりと閉じ込められようとしていた。
アルフォンス・エルリック 「みんな良い人だね・・・」
169 エドワード・エルリック 「ああ・・・」

「だけど・・・みんな救われねえ・・・」

劇終

inserted by FC2 system