わが青春のアルカディア

わが青春のアルカディア

001 (ファントム・F
ハーロック1世)
「その時、私は雷鳴の轟くなかを、ポートモレスビーからラバウルへ向かっていた。」

「航空探検隊として、世界の空をくまなく征服するのが生涯をかけた夢だった。」

「行く手をはばむこの山は、私がこれから戦いを挑むオーエンスタンレー山脈。その最高峰は5030メートル。スタンレーの魔女と人々に恐れられてきた山だ。」

「私の名はファントム・F・ハーロック一世。そして、この飛行機の名は、アルカディア号。私の血を分かち合った肉親、生死を共にする終生の友だ。」

「燃料を満載した機体は重く、高度を取れない。アルカディア号のエンジンは激しくあえいだ。」

「シリンダーの息の切れそうな音は、年老いた私の心臓の不規則な鼓動に似ていた。」

「私とアルカディア号は飛びぬけられる谷あいを求め、力の限り飛んだ。」

「スタンレーの山々は、冷たく、身じろぎもせず、私とアルカディア号を見降ろしていた。」

「私とアルカディア号は、空の世界に敗北の2字はないと信じて飛びつづけてきた。」

「10分間のガソリンを残して、すべて空中に捨てる。機体を軽くしてこの10分に賭けた。」

「飛べアルカディア!己が信じるもののために戦え!夢は、人がそれを見捨てない限り、消えることはない。」

 

  苦痛に耐えているファントム・F・ハーロック1世。高度計は4000メートルをさしている。

最後の尾根を越えた。その時、彼は見た。越えた尾根のまた向こうに、荒れ狂う稲妻と乱気流を従えたスタンレー山脈の最高峰が堂々と控えているのを。

魔女があざ笑うように見下ろしている。見つめるハーロック1世のその顔にやがて、不屈の笑いが浮かぶ。

  タイトル(N) 「わが青春のアルカディア」
  OP曲 「キャプテンハーロック」歌 水木一郎
  ハーロック 「・・・・夢は終わった・・・・。地球人の住む所は地球しかない。」
  イルミダス地球占領班から第444468基地へ着艦するよう指示が入る。

艦尾の太陽系連邦旗がスルスルとさがり、降伏旗の三角旗があがっていく。

そのまま、デスシャドウ号は地球の夜の海へ降下していく。

眼下に荒涼とした地上を一瞬、忘れさせるような光の海が広がった。

ハーロックはデスシャドウ号の艦橋からじっと見つめている。

そのとき、モニターに雑音の多い切れ切れの声が飛び込んできた。

  女の声(マーヤ) 「こちら、周波数6050・・・・可変動微粒周波を使用・・・」

「きのう沈んだ太陽は・・今朝また昇る・・そして、明日もまた陽は昇ることを信じ・・・・」

「私たちの未来を信じて・・地球の生きとし生けるものよ・こちらは・自由アルカディアの声」

  ハーロック 「・・・・・この声は・・・」
  女の声(マーヤ) 「太陽は燃え、すべてが灰となっても緑はまた甦る・・・。」
010 ハーロック 「マーヤ!」
  女の声(マーヤ) 「空はいまも青く、打ちよせる波の音も永遠に変わらない・・。」

「ここは地球、私たちの永遠のふるさと。」

「かつて人はいいました。夢は・人がそれを見捨てない限り、消えることはない。・・・と。」

「明日のために心の歌を・・泣くことをやめて大地をふみしめよう・・・。」

「私たちの未来のために・・・・。」

  挿入歌 【太陽は死なない】唄 朝比奈マリア
  荒廃した地球に降り立っていくデスシャドウ号。大地はいたるところにクレーター状の大穴があき、市街では鉄の構造物が無数にグニャリと曲がって、海底のコンブ畑のように林立している。

前方に巨大な第444468基地滑走路がみえてくる。

艦尾から接地したデスシャドウ号は大きくバウンドし、乱暴なランディングで突き進み標示ランプを蹴散らし、イルミダス艦隊の駐留地区へ突っ走る。

デスシャドウ号の艦橋の中へイルミダスの憲兵隊が入り、ハーロックを取り囲んだ。

  ゾル 「艦長・・・・ハーロックだな。」

「ここで武装解除だ。銃を渡してもらおう。」

「乱暴な着陸をやったな。」

「この滑走路の状態では仕方ないやり方だが、もうひとつの目的はこの艦を操縦不能にすることだった。」

  ハーロック 「そうだ」
  ゾル 「司令部へ出頭して報告しろ。それで君の任務はすべて終わる。」
  ハーロック 「どこかで会ったか」
  ゾル 「・・・・キャスルメイン星団区の戦いでな。君の船に撃たれて大穴をあけられた」

「手強かったな、君の船は」

  ハーロック 「しかし・・・・結局、我々は負けた」
020 ゾル 「それは君のせいじゃない。長い戦いは終わった。だが君の勇敢さは残る」
  ハーロック 「ありがとうよ。・・・・ところで、名前は」
  ゾル 「トカーガのゾルだ」
  ハーロック 「トカーガ・・あのトカーガ星人だというのか。昔、イルミダスと戦い、敗れた、あの・・・」
  ゾル 「(遮るように)そうだ」
  ハーロックとゾルはタラップを降りて行く。ものものしい警備のイルミダス兵たちの向こう側に黒くそびえる司令部のタワーが見える。
  ゾル 「出頭時間は10時だ」
  ハーロックは司令部と反対方向へと歩いていく。ゾルは顔をこわばらせて後を追った。
  ゾル 「聞こえなかったのか!!司令部へ出頭しろ」
  ハーロック 「10時までには、まだ、2時間ある。行きたいところがあってな」
030 ゾル 「家族に会いに行くのか」
  ハーロック 「俺には家族はない」
  ゾル 「出頭するのは10時だぞ」
  ハーロック 「必ず、戻る。俺が信用できないか」
  ゾル 「いや・・・・。治安が悪い。気をつけることだ。死んで戻らないと俺の責任になる」
  マーヤの声 「こちら自由アルカディアの声。陽は沈みまた昇る。未来を信じない者に未来は来ない・・・」

「いつか、あなたと出合う。いつか、力を合わせて・・いつか、あなたと未来を生きる・・・」

「火を消さないで・・・それがどんなに小さな火でも・・・私達の明日を信じて・・・」

  ダダダッと銃声が響き、ハーロックの前をイルミダス兵が駆け抜けていく。

ハーロックは、無我夢中でイルミダス兵の入っていった、壊れかけたビルの階段を駆け下りていった。

先を行くイルミダス兵を蹴散らし、扉をこじ開け中へ飛び込んでいく。

たった今まで、放送が続けられていたことを示すように、マイクフェーダーはONになったままだった。

テーブルの上に一輪のバラの花を見つけ、ハーロックは手にとり、そっと匂いを嗅いだ。

イルミダス地球占領隊司令部の総司令官室では、ゾルが入り口近くで大時計を見上げている。

奥では、司令官ゼーダとその副官ムリグソンが書類を見ている。

  ゼーダ 「実戦英雄章を受けたほどの男なら、使えるかもしれないな。」
  ムリグソン 「はっ!」
  ゾルはいらいらと時計を見つめた。9時59分である。・・・10時になった。
040 ゼーダ 「地球の男を買いかぶりすぎていたようだな、ゾル」
 

入口のドアがギーっと開くと、ドアの向こうにハーロックが立っていた。

  ハーロック 「来たぞ」
  ゾル 「こちらはイルミダス地球占領隊司令官ゼーダ閣下。同じくムリグソン副官だ」
  ハーロック 「私はハーロック。デスシャドウ号の艦長だ」

「それ以外、何も言うことは無い」

  ムリグソン 「ふざけるな!たかが負け犬が!」
  ムリグソンはいきなりハーロックの制服に手をかけ、ボタンをひきちぎった。

パラッとハーロックの胸が開く。

  ムリグソン 「捕虜は誰でもこういう扱いを受けるのだ」
  ムリグソンはさらに、黒い襟章に手をやるが、ハーロックはその手をつかみねじあげた。
  ムリグソン 「ム・・ムムム・・」
050 ゼーダ 「はなしてやれ、ハーロック」
  ゼーダはハーロックに近づき、ハーロックのフライトバックから取り出した古い革表紙の本を渡した。
  ゼーダ 「なかなか面白い本だったが・・」

「こういう精神論では我々に勝てない。別の勝つ手段を考えるべきではなかったかな」

  ムリグソン 「我々は地球占領以来、多くの人間のデータを収集した。コンピューターの分析によれば、地球人はすぐに新しい環境に順応する」

「つまり、昨日まで敵だとわめいていた我々に今日は尻尾を振ってついてくると言うわけだ」

  ハーロック 「地球人はそれほど腰抜けではない」
  ラ・ミーメ 「イルミダス占領隊協力内閣首相トライター女史です」
  トライター 「どうも、遅くなりました」
  ゼーダ 「トライター首相、またしても、バラの花一味を逮捕したようですね」
  トライター 「いえ・・・・次には必ず逮捕し、処刑しますわ・・」
  ゼーダ 「私の指示は自由アルカディアの声の主が誰であるかをつきとめるということです」

「それさえわかれば、利用の仕方もあるというもの・・・」

060 トライター 「あっ!・・この男は・・・ハ・・ハーロック!!とても危険な男です」

「・・・・では、私は失礼して早速手配を・・・」

  ゼーダ 「・・・節操のない女だ」
  ムリグソン 「ところで、ハーロック。総司令官は君の戦歴を検討された結果、もし君が望むなら、イルミダス軍で使ってやってもよいとおっしゃっておられる」
  ハーロック 「たくさんだ」
  ゼーダ 「・・・・そうか。・・・・強情だな君は。・・・わかった」
  ムリグソン 「用は終わった。食券を受け取り、どこへなりと失せろ!もう、お前のすることは何もない。飛ぶことなど、永久に出来はしないぞ。わかったか!」
  ハーロックは扉のほうへ歩いて行く。ラ・ミーメがさっと立ち上がり食券をハーロックににぎらせる。
  ラ・ミーメ 「食券です。短気を起こさないで、食べられるときには食べてください。地球の食糧は今、底をついています」
  食堂・・ここはもはや飲み屋といった感じである。

二階席はイルミダス幹部将校席、一階はイルミダス一等兵士席、一段さがった半地階が地球人の席となっている。

ハーロックは自動販売機のボタンを押し、粗末な肉料理をトレーに乗せて地球人席へ座った。

ハーロックはその肉らしきものを口にい入れるが、思わず吐きそうになった。

ふと、目を上げた先に異様な風体の小男がいた。

黒マントに丸いメガネ、破れ帽子の下はもじゃもじゃの頭髪。トチローである。

彼は、ただ、黙々と食べている。この状況を悲しんでいる風でも、地団太踏んでいる風でもない。

最後の肉を食べ終わるとトチローはゆっくりと立ち上がり、一升瓶を片手にハーロックの横へ来ると、一升瓶をドン!とテーブルに置いた。

  トチロー 「(低く)・・・死ぬなよ」
070 みつめあう二人、一瞬にして、互いの痛みがわかった。トチローはハーロックの肩に手を置き出ていった。
  ハーロック 「お前に同情していたのに・・」
  入り口付近の階段下にいた将校がさっと足を出した。

トチローは前につんのめって倒れた。その視界の中に骨付き肉が入ってきた。

トチローはその肉を拾おうとするが、将校が骨付き肉を踏みつける。

必死になって抜き取ろうとするトチロー。

やっとの思いで骨付き肉を抜き取ると、そのあおりで将校がひっくり返った。

逆上した将校がトチローに殴りかかろうとする。

その時、ハーロックの腕が将校の顔面を捕らえた。

店の中はそれが起爆剤となり、イルミダス、地球人の区別なく大乱闘となっていく。

  トチロー 「こうなりゃムチャクチャだ。みんな死ね〜〜」

「ハハハ。実に愉快だ。俺の名はトチロー。只今より、逃げる」

  ハーロック 「俺も、行くぞ」
  基地空港近く、朝もやの中から破壊された建物や、放射チューブ帯が次第に明らかになってくる。

パトロールカーが通っていく。物陰に隠れるハーロックとトチロー。

  ハーロック 「・・・おまえ・・・何で、あんな乞食みたいな真似をしたんだ」
  トチロー 「一人だけの反乱ってやつだな」
  ハーロック 「反乱?」
  トチロー 「そうさ」
080 ハーロック 「あんなことで反乱になるものか・・。武器も何もなしに・・」
  トチロー 「武器がなきゃ、何もできんのか・・・。武器があればおまえも反乱するのか」
  ハーロック 「武器?そんなものはどこにもない」
  トチロー 「フフフ・・・どんな世界にもヤミ屋というのはある・・・。こんなのだって・・」
  トチローは懐から2丁、旧式の大型拳銃を取り出した。
  ハーロック 「えらい時代ものだな」
  トチロー 「無いよりはましだ」
  かすかに音がし、ハーロックは身構えた。

一丁の銃をトチローに渡す。

朝もやの中、イルミダス兵らしき影が4、5人近づいてくる。

ハーロックとトチローは立ち上がり拳銃の引き金を引く・・が、悲しいかな弾丸が出なかった。

敵の撃ったエネルギー弾に2人はのけぞって倒れた。

憲兵がハーロックとトチローを護送車へ収容する。

それを、やや離れたエアカーの中から見ているゾルの姿があった。

ゾルはおもむろにエアカーのラジオのスイッチを入れた。

自由アルカディアの声が流れてくる。

  マーヤの声 「こちら、自由アルカディアの声。今日は可変動微流周波、7050でお送りします・・・。昨日沈んだ太陽は、けさ、また昇る」

「私たちの未来を信じて・・・・」

  記憶遺伝子再生装置が低い唸りを上げている。

室内がゆっくりと明るくなってくる。

ハーロックとトチローは、怪奇な座席とも、手術台ともつかぬものに固定されていた。

目の前の巨大なパネルに、二つのラインが赤く光り、それが時々、一つになって白い光となる。

090 ゾル 「これは君たちの細胞のもつ遺伝子の記憶部分を、二人分同時に分析器にかけたところだ。おおよそ、3000年分の記憶が一分で分析される」
  ハーロック 「それがどうした」
  トチロー 「拷問か、これは?」
  ゾル 「君たちには共通の記憶遺伝子がある。それが一冊の本でつながっている」
  ハーロック 「一冊は俺のだ。・・同じ本じゃないか」
  トチロー 「あの『わが青春のアルカディア』をもっているとは・・お前は何者だ」
  ハーロック 「それはこっちが聞きたいよ」
  ゾル 「この二つのラインが時々交じりあっているのがわかるか。この火花を散らす部分が共通の記憶遺伝子なのだ」
  ハーロック 「何のことだ」
  ゾル 「君たち二人は遠い先祖の代に、全く同じ経験をし、それが代々、共通の記憶遺伝子として、互いの家系の中に受け継がれてきているのだ」
100 ハーロック 「おまえと?」
  トチロー 「俺があ?」
  ゾル 「そうだ。君たちは親戚でもない。だが、共通体験による共通記憶を持つ。いわば同志なのだ」
「その記憶を映像再生して見せてやろう」
  再現過去  
  ハーロックU 「よ〜し、燃料補給のため、アウトバーンに着陸する」
  先頭を切って降下していくファントム・F・ハーロック2世。

乱暴な着地でアウトバーンに降りる同時に左脚が折れて吹っ飛んだ。

機体が半回転し、ガードレールを突き破って、車線の外の草地を横滑りしていく。

コクピットの天蓋が吹っ飛び、岩に片翼をひっかけ、もんどりうってやっと停まった。

ハーロック2世は動かない。しばらくしてゆっくりと顔を上げた。

  ハーロックU 「くそ!・・・私がやるとはな!!」
  大山敏郎 「何してる!早くしないと爆発するぞ!!」

「何をしている!!」

  ハーロックU 「これだけははずして行かなければな」
110 大山敏郎 「レビC12D・・・・・」
  ハーロックU 「これは俺の眼だ。バトル・オブ・ブリテンでも、東部戦線でも、サハラの上空でもいつも、俺の眼だった」
  その時、機体の後部から火が燃え上がり、徐々にコクピットに迫ってきた。
  ハーロックU 「逃げろ!危ない!」
  大山敏郎 「お前の眼を守る」
  二人は必死に照準器をはずしていく。その後ろから容赦なく炎が迫る。

やっとはずせた照準器を手に2人は必死に逃げる。

間髪を入れず、機体が爆発、炎上した。

黒煙が流れていき、地に伏せていた2人がゆっくりと立ち上がる。

  大山敏郎 「愛機があんなことになって残念だな」
  ハーロックU 「ああ・・・・今度ばかりは後がない。交替機が底をついているんだ」

「助けてくれてありがとうよ。おまえは日本人か?」

  大山敏郎 「ああ、技術交換で来た。光学機械メーカーの設計者だ。名は大山敏郎」
  ハーロックU 「俺はファントム・F・ハーロックU世」
120 大山敏郎 「そうか、それでわかったぞ。おまえはこの本を書いたハーロックの・・・」
  ハーロックU 「これは親父が書いた本だ」
  大山敏郎 「やはりな・・・・『わが青春のアルカディア』・・・この精神は男にしかわからん」
  ハーロックU 「・・・・まあな」
  大山敏郎 「だが、ファントム・F・ハーロック1世の息子が何で鉄十字の飛行機に乗っている?」
  ハーロックU 「・・・ドイツ人だからな・・。家賃を払っているようなもんだ」
  大山敏郎 「くだらん。お前の親父は民間航空家だったから偉大だった。」
  ハーロックU 「君はサムライの・・・・」
  大山敏郎 「おやじは農夫だ。軍人やサムライは・・」
  その時、切り裂くような音が上空に響き、ME163機が失速し落ちて炎上した。
130 大山敏郎 「世界最初の有人ロケットだ」
  ハーロックU 「あれも燃料が尽きたか」
  大山敏郎 「神々のたそがれだな。まさに」
  ハーロックU 「だが、俺の戦いはまだ終わりじゃない」
  オンボロのメッサーシュミット機がアウトバーン上で離陸を待っていた。

ハーロックは、おもむろに機体に付いていた照準器をはずして放り投げた。

  大山敏郎 「アアーーッ」

「もったいないことを!!」

「世の中には、無用のものなんか、ひとつもないんだ」

  ハーロックU 「お前はそれに用があったのか」
  大山敏郎 「そうさ、新しい照準器の開発が俺の仕事だ」

「大事に運んでいた俺のレビは、お前の乱暴な着陸のときに壊れてしまった」

  ハーロックU 「それはすまなかった。だが、俺の眼はこれひとつだからな」
  大山敏郎 「俺はこれよりもっと優れた照準器を作るつもりだ。」

「星の世界に行くときにも通用するような、電子計算機を組み込んだ、自動修正追尾式のレフレクターサイトをな」

「日本が負ける前に完成させる」

140 ハーロックU 「お前は日本が負けると思っているのか」
  大山敏郎 「時間の問題だ。ドイツもな・・・。だが、俺は俺の仕事を最後までやりとげる」
  ハーロックU 「俺も俺の戦いをつづける。・・・・お互い虚しい気もするが・・・・」
  大山敏郎 「しかし、どうせやるなら、もっと、先の見通しの明るい仕事がやりたかったよな。月へ行くとかな」
  ハーロックU 「いつか、あそこを飛ぶときもあるさ。親父も言ったように、夢は人がそれを見捨てない限り、消えはしない」
  薄い昼の月が出ている。

地上スレスレに飛来するタイフーン爆撃機が地上を攻撃し、上昇していく。アウトバーンのメッサーシュミット機を見つけるや、猛然と進撃を開始した。

整備兵がエ・ナーシャを回すと、ブルブルとプロペラが回り出した。

ハーロックはコックピットのフードを閉めようと下を見たとき、敏郎がまだ同じ場所にたたずんでいた。

  ハーロックU 「トチロー!どうした!早く行け!」
  大山敏郎 「もう、どこにも行き場はないさ」
  ハーロックU 「補給大隊と、デスバーデンに逃げろ!」
  大山敏郎 「向こうにはソ連軍が来てるらしい。どっちへ行っても無駄だ」

「せめてスイスまだ行ければな・・・。研究も続けられる」

150 ハーロックは敏郎をじっとみつめた。上空に砲弾が飛来し近くで炸裂する。

ハーロックは、コクピットから飛び降りると敏郎の手を引っ張り機体の無線点検口へ連れて行く。

そして蓋をはずすと、やにわに、敏郎の体を中へ押し込み蓋を閉めた。

  大山敏郎 「何をする」
  ハーロックU 「狭いが我慢するんだ」
  大山敏郎 「イテェー。暗くて何もみえんぞ」
  ハーロックU 「そこには防弾板がない。やられても俺を恨むな」
  滑走して上昇するメッサーシュミット機。後方から敵の砲弾が迫ってくる。
  ハーロックU 「気をつけろ!上から来るぞ!」
  猛然とイギリス軍のスピットファイア機が突っ込み攻撃を仕掛けてくる。

ハーロック機は機体を左にそらせて避けるが機体にブスブスと被弾し穴があく。

ハーロック機は背面飛行から水平に戻りスピットファイア機に反撃していく。

レビC12Dに狙いを定めるハーロックU世。

ゲージのセンターにスピットファイア機が入る。

機銃が火を吹いた。

スピットファイア機は燃え上がり急降下すると、爆発した。

  ハーロックU 「トチロー。大丈夫か」
  大山敏郎 「ああ、おかげで外がよく見えるようになった。・・・横から来るぞ!」
160 ハーロックU 「来たか!」

「俺の眼。・・・このC12Dにとらえられて逃げ切った奴は、いまだかつて一機もない」

「くらえ!」

  機銃発射!スピットファイア機は炎上し落ちていった。急上昇するハーロック機。

ハーロックは昇降舵をしきりに動かすが、昇降舵の手応えが軽くなったように感じ、無線点検口のなかの敏郎に言った。

  ハーロックU 「ン?おかしい・・・」

「トチロー!昇降舵のワイヤーが切れかけてないか!」

  大山敏郎 「(小さい声で)何ともないよぉ」
  ハーロックU 「・・・・そうか」

「レビC12D・・俺の眼よ・・・。何か言ってくれ。・・・もう・・俺たちだけだ」

「・・・・・そうか・・・・何も言いたくないか」

「そうか・・・・・スイスへ・・・・」

「・・・・戦線離脱して・・・・スイスへ・・」

「燃料は空に近い・・もって、あと、10分か」

「トチロー、日本へ帰りたいか」

  大山敏郎 「平和になったらな。お前もか。ハーロック」
  ハーロックU 「そうだ・・・俺の帰るところはアルカディア・・・・俺の青春が・・・永遠に緑の野を駆けているところ・・」

「俺の一族は旅の終わりにはいつも、ふるさとを想うならわしだ。古代ゲルマン海賊のふるさとにして、古代ギリシャの伝説の楽園、アルカディアにたとえられる森と湖の街、北ドイツのハイリンゲンシュタットをな・・・」

  遂に燃料が無くなった・・プロペラが今にも止まりそうだった。

・・そしてついにプロペラは止まった。グライダーのように滑空しながら高度を下げて行くハーロック機。

前方にアルプスの山と小さな村と教会の屋根が見える。

  ハーロックU 「トチロー!スイスだぞ!」

「・・・スイスまで、あと500メートル。胴体着陸して滑っていくしかない」

「トチロー!スイスまで、あと50・・・・30・・・」

  ハーロック機は胴体着陸をし、草を吹き飛ばしながら一気にスイス領へ向かって滑って行く。

突然、ドン!と前のめりになった機体が大きく傾き、小川に突っ込んで逆立ちするような格好で停まった。

170 ハーロックU 「トチロー!川の向こうは中立国スイスだ。誰にも邪魔されずに研究が続けられる。飛び降りて走れ」

「どうした、トチロー!!ぐずぐずするな」

  無線点検口の蓋をとり、中をのぞいたハーロックは愕然となった。

切れた昇降舵のワイヤーを自分の体にまきつけて結び、血まみれになって気絶している敏郎の姿があった。ハーロックは思わず、弾かれたように、敏郎の身体を引きずり出した。

  ハーロックU 「トチロー!!」

「お前が・・・切れたワイヤーを・・・この体で・・・手応えが軽くなった・・・のか!!」

「すまん!!トチロー!気がつかなかった!!」

  ハーロックの頬を止めどなく涙が流れる。ハーロックはひしと敏郎を抱きしめた。
  大山敏郎 「・・・・死んだわけじゃない。手が・・・ちぎれかかってるだけだ」
  ハーロックは敏郎のポケットの中の照準器を見た。粉々に割れてもはや使用に耐えなかった。

ハーロックは敏郎をその場に横たえると、コクピットへ飛び込み照準器をとりはずしはじめた。

  大山敏郎 「誰かくる」
  ハーロックU 「ドイツ領内に入ってきたフランスのレジスタンスの連中だ。心配するな。絶対におまえはスイスへ逃がす」
  ハーロックははずしたC12Dを抱えて、コクピットを飛び降り、傷だらけの敏郎を背負った。
  ハーロックU 「さあ、行こう!川を渡れば平和の国だ」
180 川の中へ入っていくハーロック。

レジスタンスの男たちが銃を撃ちながら丘をかけおりてくる。

銃声が轟く。グラッとなるハーロック。

だが、そのまま対岸まで渡り敏郎を草むらに寝かせた。

  ハーロックU 「トチロー。これを持っていけ」
  大山敏郎 「これは!」
  ハーロックU 「俺のレビC12Dだ。お前にやる」
  大山敏郎 「だが、これは・・・」
  ハーロックU 「信じられる本当の男になら・・・・本当の友だちになら・・・眼でも心臓でもくれてやるさ。トチロー」
  大山敏郎 「ハーロック・・」
  ハーロックU 「じゃあな。トチロー。俺は戻る」
  大山敏郎 「ハーロック!何を言う!戻るな。こっちへあがれ!」
  ハーロックU 「俺は安全地帯へ逃げこむわけには行かない。・・・海賊はやったことには責任をとる」
190 ハーロックはゆっくりと川を戻って行く。

血が川を赤く染めていく。

再び銃声が轟く。

ハーロックは倒れそうになりながら、歯をくいしばって耐え、ドイツ領のほうへ一歩一歩戻って行く。

  大山敏郎 「ハーロック!戻れ!戻ってこい!!」
  ハーロックU 「トチロー!親父の本の言葉を忘れるな。夢は・・・人がそれを見捨てない限り、消えることはない」
  銃声が轟く・・。ハーロックはよろけながら、懸命に踏ん張っている。川は血で真っ赤に染まって行く。
  大山敏郎 「ハーロック!」
  ハーロックU 「くだらない戦争の終わりに、真の友を得た。・・・違う時代に・・・出会いたかったぞ。トチロー」
  大山敏郎 「死ぬなよ!!死ぬんじゃないぞ、ハーロック!!」
  ハーロックは、もはや気力だけで川を渡っている。真っ赤に染まった川・・血まみれになって岸辺を這う敏郎・・。
  大山敏郎 「ハーロック!!俺の子孫の血の続く限り、お前との友情は・・・忘れない。夢はつなげていくぞ!」
  再現過去終了  
200 N 小高い丘の上、眼下には破壊された市街が見える。

その向こうには海が広がる。今しも大きな朝日が昇ってくる。

  トチロー 「一千年も昔に・・・俺とお前の先祖がなあ・・・」
  ハーロック 「ゾルは一体、何故、この本を俺たちに返すと言ったんだ」
  トチロー 「イルミダスにとって、有利なデータにはならんのにな」
  トライター 「ハーロック、おめでとう」

[あなたには反乱の意志があると心配していたけれど、私の思い過ごしだったようだわ」

「ゾルの報告では、あなたのデータ分析は完璧に白で、何ら問題点はないそうだわ」

  ゼーダ 「君はちょっとはずしてくれ。ハーロック君に大事な話がある」
  トチローはチラッとハーロックを見ると、やむなく立ち上がり帽子をかぶると丘を降りていった。
  トライター 「ハーロック、あなたに今一度、地球への忠誠を誓ってもらわなくてはならないわ」
  ハーロック 「俺はいつも黙々と戦ってきた。だが、それはその時の地球によりけりだ」
  トライター 「いいわ、そこでだけれど・・」

「私達はトカーガに義勇軍を派遣することに決定したのよ」

210 ハーロック 「義勇軍を・・・・トカーガにかい・・・」
  トライター 「その部隊を輸送する役目をあなたに頼みたいの」
  ハーロック 「何のための義勇軍だ」

「何のために地球人がトカーガへ行かなければならない」

  トライター 「あなたはこれまで地球に忠誠を誓ってきたといった・・。結構ね。私もそうよ」

「ここにあなたの母親と野良犬がいる。今のあなたは母親か、野良犬か、どちらかを殺さなくてはならない」

  ハーロック 「・・・・・。地球が母で、トカーガが野良犬だというのか・・・。」
  トライター 「そうよ、イルミダスにとってトカーガの役目は終わったのよ」
  ハーロク 「トカーガを絶滅させるというのか!抹殺するのか!」

「一体、誰がその星を無用だと決めるんだ。誰にとって、無用なんだ!」

「生きている者にはすべて生きる価値があるんだ!」

「なのに、トカーガを滅ぼす役目を地球人が負うというのか!地球人のこの手でトカーガを!!・・あんたはクズだ」

  トライター 「黙りなさい!!」

「義勇軍を派遣してイルミダスに協力すれば、地球の安全は永久に保証されるのよ!」

「あなたは私のことをクズだというけれど、では、他の星を助けて、この地球を滅ぼすことは、クズのすることじゃないの」

  突如、上空に切り裂くような爆音が轟いた。

上空に炎の尾を引きながら急降下してくる美しい中型宇宙船があった。

市街では多くの人たちが上空を見上げている。

それは宇宙の密貿易船、エメラルダス号だった。

山の台地、そこは砂漠のように何もない砂の平原だった。

宇宙船クイーン・エメラルダス号は猛烈な接地で大砂塵を巻き上げ、岩陰に停止した。

異常な焼けただれ方を見せている船体。船尾に人影が現れる。美しい女だった。

赤いコートに白いコスチューム。腰に重力サーベル。長い髪が風になびく。

  挿入歌 【エメラルダスのテーマ】
220 エメラルダス 「私はエメラルダス。宇宙自由貿易人。登録ナンバー88475」
  夕刻、トチローが山の台地をとぼとぼと歩いている。砂塵が舞う。

クイーン・エメラルダス号の前に立ち尽くしているエメラルダス。

コートを脱いだエメラルダスの身体は豊満だと知れる。

その胸元が大きく開いている。

トチーローはその姿にクラッとなった。

  エメラルダス 「あなたは誰?」
  トチロー 「トチロー。正しくは大山敏郎三十四世」
  エメラルダス 「何か用?」
  トチロー 「友達を探している。まさか、こんなところにはいないだろうが・・・」
  エメラルダス 「友達?」
  トチロー 「ハーロック。元太陽系連邦艦隊の黒襟組だった男だ」
  エメラルダス 「(驚く)ハーロック!?」
  トチロー 「それにしても、異常な焼け方だなあ」
230 エメラルダス 「プロミネンスの火の河を渡りそこねたの」
  トチロー 「・・・・あの宇宙のスタンレーの魔女といわれる・・・・」
  エメラルダス 「・・・・ええ」
  クイーンエメラルダス号のエンジンルーム内。

外見からは想像もできないほどの新鋭機械が並んでいる。

  エメラルダス 「あそこは巨大な熱エネルギーの他に、生体反応を吸い寄せる超重力が働いている。それを知らずに大火傷したわ」
  トチロー 「フーン。実にすごい材料を使っている。宇宙の密貿易とうのはそんなに儲かるものかね」
  エメラルダス 「私はちゃんと許可証をもった宇宙自由貿易人。どの陣営にも組せず、どの陣営とも敵対しない宇宙の自由人」
  エメラルダスはその豊満な胸をはって答える。
  トチロー 「スミマセン・・」
  トカーガ部隊兵舎内、ゾルを中心に粗末な夕食をとっているトカーガ兵達がいる。

そこへ、ラ・ミーメが慌てた様子で飛び込んできた。

240 ラ・ミーメ 「・・・ゾル(絶句する)」
  ゾル 「どうした、ラミーメ」

「ここにいいるのは危険だ」

  ラ・ミーメ 「わかっているわ。でも・・・・・」
  ゾル 「でも・・・どうした?」
  ラ・ミーメ 「総司令部宛の極秘暗号電を読んだわ」

「トカーガが・・・・・・(言葉に詰まる)」

  ゾル 「トカーガがどうした」
  ラ・ミーメ 「(泣き声になって)トカーガが・・・・・・」
  ゾルの顔がこわばっている。その時、自由アルカディアの声がモニタから流れる。
  マーヤの声 「苦しみがどんなに大きくとも、それは、明日の出会いを・・・より美しくするための前ぶれなのだと・・・・絶望の誘惑に負けないでください。夜明けのあのすがすがしさを・・・その風を・・・忘れないで」

「・・・・・共に手をとって駆け抜けた、あの日の野原いっぱいにあふれた自由を・・・思いかえしてください」

「こちらは自由アルカディアの声です。周波数8050・・・・」

  低空飛行していた偵察車が急降下してくる。

市街地区を歩いていたハーロックははっとして前方を見た。

四方八方の路地から警備兵が集まってきていた。

偵察車から出てきたイルミダス兵の指示によって、前方に見えるクレーターへ突入していく。

クレーターへ潜入するハーロック。

攻撃してくるイルミダス警備兵へ応戦しながら、地下放送局へ近づいて行く。

アナブースから逃れようとして物陰に隠れる人影があった。

その時、ハーロックをサーチライトが照らし出した。

250 マーヤ 「ハーロック!」
  ハーロック 「マーヤ!危ない!かくれるんだ!」
  狙撃兵のエネルギー銃がマーヤを狙う。ハーロックは叫びながら立ち上がった。

狙撃兵の撃ったエネルギー弾がハーロックの右目を襲う。

右眼をおさえたハーロックが後ろへのけぞった。弾着が衣服をちぎる。

  マーヤ 「ハーロック!」
  ハーロック 「マーヤ!」
  マーヤ 「ハーロック!」

「だめ、それ以上、来ないで」

  ハーロック 「マーヤ!」
  マーヤ 「ここまできてくれただけで・・・どんなに嬉しいか・・・・でも・・・早く、逃げて」
  ハーロック 「君を見捨てて逃げることはできない」
  マーヤ 「だめ!来てはだめ!」

「(必死に)死んでは何にもならないわ。ハーロック、生きるのよ!・・・生きていれば・・生きてさえいれば・・きっといつか会える・・・きっと・・・会える」

「ハーロック!」

「来ないで、ハーロック!」

「来ないで!お願い!」

260 ハーロック 「マーヤ!」
  銃声が響いた。のけぞるハーロック。

その時、手榴弾が投げ込まれ閃光と煙に包まれて、辺りは何も見えなくなった。

山の大地、焚き火が赤々と燃えている。

マーヤの歌が聞こえる。エメラルダスがコーヒーを沸かしながらラジオを聞いているのだった。

霧の中から黒い影がゆらゆらと近づいて来た。

  エメラルダス 「ハーロック!ハーロックね」

「久し振りね」

  ハーロック 「トチローという男がこなかったか」
  トチロー 「おお!やっと来たな!」
  エメラルダス 「(あきれて)どこに隠れていたの、今まで」
  トチロー 「なに、あんたの船の修理をしていただけさ」

「これひとつ、部品がないから、完全には直らないが、まず通常の飛行には支障がない」

  ハーロック お前があの船を直したというのか」
  トチロー 「信じないのか」
  ハーロック 「いや・・・じゃ・・・あれは飛べるのか」
270 トチロー 「飛べる」

「どうした。そんな所にいないで、こっちに来いよ。コーヒーがあるぜ」

  ハーロックが突然、ばったりと倒れ伏してしまう。仰天するトチローとエメラルダス。
  トチロー 「ハーロック!!どうした!」
  マーヤの声 「こちら、自由アルカディアの声・・・・。ここでいつもと違ったお話をします」

「人が人として最も美しいのは、他人の痛みを自分の痛みとして感じているときだと・・・ある人は言いました。最も醜いのは・・・他人を踏みつけにして自分を立てようとする時だと・・・・」

「また、ある人は言いました。人間は、もともと、人間として生まれるものではない。人間になっていくのだと・・・・」

「そして、人間はこうありたいと願い、行動したものになっていく・・・行動することが・・・すべてなのだと・・・明日、あなたが、起ちあがることを・・・祈ります」

  ラジオの中から銃声が響く。ハッとして起き上がろうとするハーロック。
  トチロー 「捕まったのかな・・・・」
  エメラルダス 「・・・・私にはこの人が見える・・・・。触れたら、壊れてしまいそうな優しい姿の奥に炎のようなマグマを抱いてるひと・・。今の放送は・・・誰かへの・・・個人的なメッセージ・・・」

「・・・・危険を承知で。呼びかけてきたのよ」

  ハーロック 「エメラルダス」

「君の・・・君の船を奪わせてくれ」

  トチロー 「何を言う!」
  ハーロック 「俺は・・・・地球を脱出する」
280 トチロー 「何!」
  ゾル 「そうはいかない」
  3人を取り囲むように影が現れた。銃を構えているトカーガ兵達だった。

その中心にゾルがいた。

  ハーロック 「お前って奴は!!・・・」

「どこまで腐ってるんだ!それほど、イルミダスの犬になりさがりたいのか!」

  ラ・ミーメ 「やめて!」

「ゾルはあなたを逮捕しに来たのではない」

「ゾルはこの船を奪いに来た」

「皆は・・・トカーガへ帰ろうとしている」

  ゾル 「ラ・ミーメ。やめろ。彼らに言うべきことではない」
  ラ・ミーメ 「・・・あたしの星は・・・・・イルミダスに消されて・・・原子に戻った」

「難民船から見た、星の消える一瞬の悲しみは・・・一日も忘れたことはないわ」

「同じ思いをトカーガ人が、今しようとしている」

「今、ゾルたちが脱出すれば、トカーガが報復を受ける。それでも、母なる星の最期を・・・黙ってみていられない」

「滅ぶなら、肉親たちと一緒にトカーガで滅びたい」

「その脱出用の船として、この船を奪いに来たのです」

「いつかは地球にも訪れる運命。ここは・・・黙って、ゾルたちを行かせてあげて」

  ハーロック 「心ないことを言った。許してくれ」

「この船は君たちのものだ。・・エメラルダスさえ、承知ならな」

  イルミダス地球占領隊総司令部、ラ・ミーメのいないデスク脇をムリグソンが急ぎ足で入っていった。
  ムリグソン 「全軍を非常配備につけました」
290 ゼーダ 「これまでの自由アルカディアの声はむしろ、地球人の勤労意欲を高めるのに効果ありと思ってきた。しかし・・・・」
  ムリグソン 「そうです。今日のは明らかに決起の呼びかけです。トカーガのことを知っている者が内通したとしか思えない内容です」

「ラ・ミーメとしか思えません」

  ゼーダ 「ま、心配するほどのことはなかろう。決起したところで、奴らはどこへも行けない。この大地をはいまわるゴキブリ同然だ」
  再びこちらは山の台地。
  エメラルダス 「この船はトチローが修理してくれなければ、捨てるしかなかった船だわ。使いなさい。」
  トチロー 「まて」

「この船を使えば、どう言い訳しようとエメラルダスは宇宙の自由貿易人の資格を永久に失ってしまう」

「また、ゾルの出発と同時に、明日を待たずトカーガは攻撃されるだろう。罪もない人々が多数死ぬことになる」

「別の船で行こう」

「ハーロック!ゾルの代わりに俺たちがトカーガへ行こう」

「・・・・俺は待っていた・・・ずっと待っていたんだ」

「こじきのような真似をしながら・・・・待っていたんだよ」

「俺の・・俺の宇宙船を・・・動かす日を・・・」

  ハーロック 「・・・・俺の宇宙船だと!?」
  トチロー 「俺の船を託するに足りる船長を・・・さがしていたんだ」
  ハーロック 「そんな船・・・どこにある」
  トチロー 「ヒヒヒ・・・・あるんだ。あるんだよ」

「ヒヒヒ・・・・ヒヒヒヒヒ・・・」

300 ギルダ 「ゾル。どう?このお方の船で・・・このお方達の力をおかりして・・・・」
  ゾル 「いや、これはトカーガの問題だ」

「その船を俺たちに貸してくれ」

  トチロー 「滅びるための船ではない」

「船は・・・俺だ。俺そのものだ。生きるための船だ」

  ラ・ミーメ 「ゾル。あなたの代わりにあたしが行きます」

「だから、ハーロックとトチローにトカーガへ行ってくれるように頼んで」

「その代わり、あなたはイルミダスに忠誠を尽くすふりをして、地球人を守るのよ。・・・自由アルカディアの声を守るのよ」

「イルミダスは強大過ぎる敵よ。・・・・見えない方法で・・・内部から・・・・バクテリアのように食いつぶすしか手がないわ。だから・・・・」

  ゾル 「・・・・俺が地球にいるバクテリアになるのか」
  ハーロック 「そうだ。ゾル、そして俺たちが、トカーガにいるバクテリアになろう」
  ギルダ 「ゾル。私がトカーガ人の代表としてその船に乗っていく。何もかも、この人たち任せにはしない。だから・・・」
  ゾル 「くくく・・。俺は・・・犬だ・・・・。一族の命乞いをする為の・・・・犬だ・・・・。死ぬまで、イルミダスの手先となって戦う犬だ」

「星に残った人々は・・・再起の日を信じて歯を食いしばっている。俺たちがいつか、助けに戻ってくることを心待ちにして、息をひそめている」

「・・・・・目をつぶると、俺には見える。俺のまだ幼い弟たちが、食料もロクにないアバラ家で妹たちをかばいながら・・・俺の帰る日を祈っている姿が・・生きて帰れと祈っている小さな手が・・・」

「トカーガへ行ってくれ。たのむ!」

  エメラルダス 「さあ、トカーガの未来のために・・そして真の勇士、トカーガのゾルの為に!!・・ハーロックとトチローとラ・ミーメの熱い心の為に!!」
  ハーロック 「エメラルダスの為に・・・」
310 ゾル 「ゴーラム」
  ラ・ミーメ 「心を許した友と乾杯する時のトカーガの祈りの言葉・・。われら、血で結ばれた同志のゆくえに幸あれ・・・」
  ハーロク 「ゴーラム!!」
  トチロー 「ゴーラム!!」
  上空を悠然と飛ぶクイーンエメラルダス号。

その様子を司令部の窓からゼーダ、ムリグソン、トライターが見ている。

  ゼーダ 「あの船は陽動作戦だ。面白い。どこまでやれるか見てやろう」
  そこは下水道に続く空間である。床にマンホールの穴があり、長い階段が続いている。
  ゾル 「ここまでしか送らないぞ」
  そこへ地下放送のメンバーがかけ込んでくる。ハーロックに差し出される包み。その上に、マーヤが授けたバラの花が一輪乗っていた。
包みにはハーロックの旅だちのために、マーヤが傷ついた身体をおして縫ったものだという。
  トチロー 「行くぞ。ハーロック」

「ハーロック!」

320 地の底まで続くかと思えるほど、暗く巨大な地下ドックがある。

扉から入ってきたトチロー達が、壁際のキャットウォークを抜けて、ゴンドラへの階段を降りる。

ゴンドラに乗り込み果てしなく降下していく。底の方に黒々と横たわる宇宙船の姿が見えた。

  ハーロック 「・・・・これは・・・・」
  トチロー 「遠い祖先からの夢を俺なりに満たした俺の船だ」

「この船の名は・・・・アルカディア号」

  ハーロック 「・・・・・アルカディア・・・」
  トチロー 「これが俺たちの船だ!!」
  ハーロック 「・・・・アルカディア・・・・われわれの船!!」

「これを・・おまえが造ったのか」

  トチロー 「そうだ。歴史上の技術的遺産を受けついで造ったこの船は、俺の分身だ・・・ハーロック」

「この船は、お前と俺の夢を果たす船だ」

  みつめあう二人。

ハーロックは艦橋の主砲の方に視線を移した。

2段構え3連発主砲。艦首にはどくろのマークが。それは船腹にも描かれていた。

ハーロックはマーヤからの包みを開けた。中からドクロの黒いコスチュームが出てきた。

  ハーロック 「これを・・・マーヤが・・・縫ったというのか・・・傷ついた身で・・・・この海賊の服を・・・」
  もうひとつの包みからは巨大なドクロの旗が出てきた。

巨大なドクロの旗は4人掛りで広げなければならないほどの広さだった。

それは床一面に広がった。

330 トチロー 「・・・・ここに託された想い・・・・マーヤも乗せていこう!」
  ハーロック 「マーヤは残る・・・・。地球のために・・・。そういう人だ」
  トチロー 「しかし・・・」
  ハーロック 「・・・この旗を掲げて・・・俺は・・・行く」
  イルミダス地球占領総司令部
  ムリグソン 「地球人反乱部隊はほぼ、鎮圧されつつあります」

「しかし、ハーロック、トチロー、ラ・ミーメの姿は見当たりません」

  ゼーダ 「どのみち、袋のねずみだ」
  突如、大音響がして室内が激しくゆれた。

地下秘密ドックの中でアルカディア号の艦首が徐々にせり上がっていく。

地下ドックに一斉にライトが点き船の全容が明らかになっていく。

  トチロー 「艦内、全機構、異常なし!エネルギー正常!」
  ギルダ 「エンジン内圧力上昇。定速回転1800!」
340 スロットルをにぎりしめているトチロー。艦橋全体が振動しながらせりあがってくる。

ゆっくりと舵輪に手を伸ばすハーロック。メーター、パネルが次々と点灯し作動し始める。

  トチロー 「始動エネルギー伝達正常!全回路シールド排除!システムへの動力回路セイフティ完了!」

「シリンダー内振動数毎秒3億6000万・・・すべて正常!・・・推力伝導管閉鎖弁解除・・・人工重力発生開始・・生存システム作動開始」

「コスモレーダー、タイムレーダー、入力ON!スロットル微速前進」

  艦首のドクロマークがいよいよせりあがる。後方で金色の閃光が凄まじく湧き上がった。
  トチロー 「推力全開!」
  ハーロック 「アルカディア号!発進!!」
  岩盤にヒビが入る。

ブースターの噴射と共に周りの岩が粉々に吹っ飛ぶ。

アルカディア号はズンズンとせりあがり地下ドックの天井を突き抜けて行く。

地上では滑走路に凄まじいヒビが走る。その裂け目にヌッとマストが出る。

それから砲門、そして艦橋、ドクロのマークが地上にその姿を見せる。

アルカディア号がその全容を現した。

  ゼーダ 「何だ!あれは!」
  マーヤ 「ハーロックの出発を見送りたいのです。行かせてください」

「組織は守らなければならない。私は一人で行きます」

  上昇していくアルカディア号の前をクイーンエメラルダス号が交叉する。

その艦橋からエメラルダスが別れの挨拶を送ってくる。

上昇していくアルカディア号を枯れ木にすがりながらマーヤが見送っている。

胸の傷が痛み、ガックリと膝をついた。

付き添っていた地下放送局員が走りよろうとしたとき、カチッと音がした。

周りをイルミダス警備兵が取り囲んでいた。

成層圏をアルカディア号は進んでいる。

  トチロー 「イルミダスの特別電波だ。パネルチェンジ」

「あーー!!」

「(うめくように)エメラルダス・・・」

350 「パネルにY字架に磔になっているエメラルダスとマーヤの姿が映し出されていた。
  ラ・ミーメ 「マーヤ!」
  トライター 「地球時間、明朝6時までに、あなた達が地球に戻り、投降しない限り、この二人は公開処刑されるわ」
  トチロー 「くそう!」
  トライター 「二度とこのような反乱が起こらないよう、処刑は銃殺刑をもって、とり行われるわ」
  トチロー 「くそ!」
  ラ・ミーメ 「・・・・戻りましょう。地球へ。二人を犠牲にすることはできないわ」
  ゼーダ 「この処刑は必ず、地球人の反発を呼ぶ」

「宇宙船は戻ってこなかった。彼らは二人を見捨てた。・・・そう宣伝するだけで充分ではないのか」

  ムリグソン 「それは逆です。みせしめてやらなければ奴らはつけあがる一方です」
  トライター 「もし、処刑を中止するなら、私は今後、地球人を治めていく自信はありません」
360 二つのY字架の後ろに急造の塀がある。

その上にカラスが無数にとまっている。

銃殺隊が行進してくる。

憲兵隊は集まった群衆に銃口を突きつけている。

  トチロー 「奴ら、処刑をやる気だぞ」
  ムリグンン 「とうとう、奴らは戻ってこなかったな。お前たちは見捨てられたのだ」
  トライター 「この処刑の様子は、一部始終、宇宙の彼らに送られているわ」

「どう?彼らに最後の頼みを言ってみたら。どうぞ、戻ってきてくださいって」

  エメラルダス 「この人も私も、口が裂けても、その言葉は言わない。ハーロックたちも戻って来はしない」
  ムリグソン 「結局、奴らは自分の生命が可愛いだけの臆病者なのだ」
  エメラルダス 「あなたは本当の勇者を知らない。本当の地球の男の恐ろしさを知らない哀れなエイリアン」
  カッとなったムリグソンは、いきなり、エメラルダスの顔を二度・・三度・・殴りつける。

ムリグソンは銃殺隊にうなずきその場を離れた。銃殺隊隊長の手があがる。

  トチロー 「ハーロック!」
  隊長の手がまさに振り下ろされようとしたその時、銃声が響き、隊長はのけぞって倒れた。

カラスがいっせいに舞い上がる。

ワッと、ときの声が上がり、ゾルを先頭にしたトカーガ部隊が銃を乱射しながら突っ込んでくる。

370 ムリグソン 「ゾル!」
  トライター 「撃てえ!撃てええ!!」
  ゾル 「進め!進め!二人を取り戻せ!」
  トチロー 「地球人の決起だ。ゾルが先頭に立って!」
  ゼーダ 「このツケは・・・高いものにつく」
  ゼーダはエアカーに乗りその場を去っていった。
  ムリグソン 「怯むな!怯むな!」
  ムリグソンは銃を構え、エメラルダスとマーヤを狙い撃つ。

一発目、エネルギー弾がマーヤの身体を貫いた。

エメラルダスは倒れ掛かるマーヤを抱きとめる。

二発目がマーヤを抱きしめたエメラルダスの顔面をかすめた。

エメラルダスの頬にサッと血の筋が走る。

ゾルは後退するムリグソンを激しく追撃した。そしてとうとうムリグソンを追い詰めた。

しかし、背後からエネルギー弾がゾルの背中を撃ちぬいた。

その場にのけぞり倒れるゾル・・・。背後にはトライターが銃を構えて立っていた。

ゾルは必死の面持ちで顔を上げて空に大きく手を伸ばした。

  ゾル 「さらば・・・・・友よ・・・・。約束を果たせなくてすまん」
  ゾルはガクッと・・息絶えた。
380 挿入歌  〔男たちのバラード〕
  ハーロック 「トチロー・・・」

「旗をあげよう。・・・・俺たちの旗を・・・・」

  トチロー 「・・・・俺たちの・・・・」
  ハーロック 「そうだ。俺たちと、屈することを知らないすべての人間たちの胸に広がる旗を・・あげるのだ」

「わが青春のアルカディア号、これより、トカーガ星へ向かう。発進!」

  本艦隊より地球占領隊増員のため、地球へ向かうと通信が入る。
  ゼーダ 「・・・増援だと・・・たかが一艦の反乱のために・・・・」

「ムリグソン」

  ムリグソン 「はい」
  ゼーダ 「ハーロックたちは必ず帰ってくる。その時、あの男と、どう対決するか、今から考えておけ。心の準備をしかとしておくことだ」
  ムリグソン 「・・・・は」
  地下放送秘密アジト。ベッドに横たわるマーヤ。隣のベッドにはエメラルダスがいる。
390 エメラルダス 「・・・・マーヤ」
  マーヤ 「・・・・・エメラルダス・・・」

「・・・・ゆるして・・・。私は奴隷となったハーロックはみたくなかった。・・・だから・・・脱出を・・よびかけた・・・。そのために、ゾルが死に、あなたが・・・」

「その美しい顔に生涯のこる傷を受け、・・多くの人たちが・・傷つき、捕らえられた。みんな・・私の放送から起こったこと・・・。私は・・・処刑されるべきだったわ」

  エメラルダス 「それはちがう・・・。あなたの放送がなくても、・・・遅かれ、早かれ、地球の人々も・・ゾルも・・私も・・こうしたわ。ハーロックも、トチローも、ラ・ミーメも同じ道を選んだはずよ」

「人を永久に閉じ込めておける檻など、ないのだから・・それに・・・」

「ハーロックは、もう一度、地球へ戻ってくる。明日を生きぬく戦いのために、必ず、もう一度戻ってくる」

  マーヤ 「・・・でも・・・未来が・・・戦いによってしか、開けないなんて・・・悲しいことだわ」
  エメラルダス 「・・・・そうね・・・。でも、じっとしていてつかめないものなら・・・戦って・・勝ち取るしか・・ないのよ」
  宇宙空間を行くアルカディア号。前方に星が見えてくる。
  トチロー 「ハーロック、トカーガ星だ」
  ギルダ 「いや、あれはトカーガの月セラスだわ」
  ハーロック 「トカーガ星はあの月の向こうだな」
  トチロー 「・・・いやな星の色だなあ」
400 ラ・ミーメ 「ゾルから聞いていたトカーガ星は緑の豊かな星だったのに・・・」
  ギルダ 「・・・星が・・・トカーガの星が変わってしまった」

「奴らだわ!きっと、イルミダスの奴らの仕業にちがいない。畜生!」

  ハーロック 「地表の様子からみると、トカーガは既に死滅させられたかもしれない・・・・とにかく降りてみよう」

「ラ・ミーメ。探索ボートの用意だ」

  ラ・ミーメ 「はい」
  トチロー 「俺も行く」
  ハーロック 「いや、トチローは残ってくれ。この状態では、何が起こるかわからない。残ってコンピュータによる地表探査を頼む」
  空中に止まったアルカディア号からロケット・アンカーが飛び出し、地表に打ち込まれる。

ハッチが開き、小型探索機三機が飛び出して行き、地表へ着地する。

  ラ・ミーメ 「みんな吹き飛んでいる・・・生命反応はひとつもないわ・・・終わりよ、トカーガは」
  ハーロック 「なんてむごい事を・・」

「最後の一人まで・・力の限り、戦ったんだ・・・・」

「・・・これじゃ、ゾルの弟や妹を探しようがないな」

  ラ・ミーメ 「・・・・冥福を祈るしかないわ」

「あっ!トリが・・」

410 ハーロック 「ハゲタカだけが生き残っているのか」
  ゾルニイサン・・・トカーガニカエレ!!トカーガヲタスケテ!!トリは何度も繰り返す。

ハーロックたちは、地表に散らばる遺体を集めていた。

木で組まれたやぐらに遺体が積み上げられた。

  ハーロック 「せめて、昔、山男たちが死者を葬ったように、この人たちを葬りたい。この美しい心を野ざらしにはできない」
  トチロー 「ハーロック!ラ・ミーメ!急げ!その塔の下に核融合エネルギー爆弾が埋めてある!」

「聞こえるか!早く、引き上げるんだ!」

「ハーロック、ラ・ミーメ、急いで着艦せよ。核融合エネルギー地雷が間もなく、その塔の下で爆発する。後方にはイルミダス艦隊が迫っている」

  ハーロックとラ・ミーメを乗せた探索機がアルカディア号に収容された。
  ハーロック 「アルカディア号、発進!!」

「全速離脱!」

  脱出するアルカディア号の後方で、トカーガ星が爆発した。

閃光が広がりアルカディア号を包む。

そして静かに閃光が消える。後にはトカーガ星が消えた闇だけが残っている。

アルカディア号の現在位置と太陽系の中間に、二重太陽ベスベラスがあり、その間をまたいで火の河プロミネンスがある。

  トチロー 「このまま進めば、イルミダス艦隊と衝突だ」
  ハーロック 「ふりきれるか」
  トチロー 「進路を変えないと無理だ。しかし、変えるとしたら、プロミネンスの火の河を突破するしかない」
420 ハーロック 「宇宙のスタンレーの魔女か」
  トチロー 「そうだ。二重太陽ベスベラスにかかる5つの炎の河だ。クイーン・エメラルダス号もやられた宇宙最大の難所だ」
  ハーロック 「よし、遠い祖先が試みたように俺も宇宙のスタンレーの魔女に挑んでみるか」
  二つの太陽の間を流れる凄まじい炎の河を、遠く点となったアルカディア号が進んでくる。

ぐんぐんと怯むことなく進んでくると炎の中へと突っ込んで行った。

炎が延びて船腹にあたり炸裂する。砲台を、艦橋を、炎が襲ってくる。

  トチロー 「この船の耐熱装置はクイーン・エメラルダス号より優れている。だが、エメラルダスの話では、この炎の河には、生物の生体反応を吸い寄せる妙な磁場が働いているそうだ」

「推力70%減。降下速度プラス4・・・」

「ぐんぐん吸い寄せられていく」

「俺たちの生体反応が奴らの磁場を荒れ狂わせてるんだ!」

  ハーロック 「魔女だ!魔女が笑っている!」
  磁場を狂わせ、荒れ狂うプロミネンス。

必死に隙間を抜けようともがくアルカディア号。

だが、どんどんと吸い寄せられて行く。

  ギルダ 「みんな、よく聞いて!私たちは今、プロミネンスの火の河の中にいるわ。私たちの生体反応が、火の河の生体反応を狂わせているのよ」

「・・・・・ハーロックたちは縁もゆかりもないトカーガの為に、命を張って闘ってくれたわ。・・・ハーロックたちの恩に報いる。・・私たちの務めはそれをおいて他にないわ!」

  トチロー 「推力80%減!降下速度プラス10!すごい降下率だ!やられるぞ!」
  ハーロック 「トチロー!エンジン最大!出力全開!」
430 トチロー 「エンジン最大!出力全開!」

「しめた!推力があがってきたぞ!」

  艦首が徐々に上がって行く。アルカディア号は炎の河を渡っていく。
  トチロー 「ハーロック!勝ったぞ!スタンレーの魔女に・・・」
  ラ・ミーメが入ってきた。

その沈んだ様子を見たハーロックとトチローははっとなり、艦橋を飛び出して行く。

無人の部屋に、ギルダの銃とヘルメットが置かれていた。

ハーロックとトチローは再び通路を走っていく。

ガラス越しにエアロックが開いていて、外の炎の河が見えた。

茫然と立ちすくむハーロックとトチロー。

ラ・ミーメがそっと近づく。

  ラ・ミーメ 「磁場を狂わせる生体反応を消すために・・・皆は・・」
  トチロー 「飛び降りたというのか・・・この炎の河に・・・・・」
  アルカディア号が進んでいく。土星を越え・・木星を通過し・・やがて地球が見えてきた。
  ムリグソン 「何!ハーロックが戻ってくるというのか!・・・この地球に・・・」

「全基地に発令!砲撃用意!」

  ゼーダ 「待て!このまま地球に帰還させるのだ」
  ムリグソン 「何故ですか。撃ち落しましょう。たかが一隻」
440 ゼーダ 「たかが一隻で戻ってくる船をイルミダスが総がかりで撃ち落してみろ、再び地球人が反乱を起こしてしまう」
  ハーロック 「こちらアルカディア号、乗員ハーロック、トチロー、ラ・ミーメそれと、トリ1羽」

「第444468基地に着艦を希望する」

  ゼーダ 「イルミダス地球占領隊司令官ゼーダ。着艦を許可する。ただし、第444468基地空港は未だ使用不可能。よって、空港東方の砂漠地帯へ着陸せよ」
  ハーロック 「了解。配慮に感謝する」
  ムリグソン 「司令官、やはり、迎撃すべきです」
  ゼーダ 「彼らは自ら着陸を求めてきたのだ。過酷な運命しか持っていないこの地球に、敢えて戻ろうとする者を撃ち落すようなことは・・私はしない」

「彼らの精神の崇高さは騎士の扱いを受けるに充分だ」

  エメラルダス 「マーヤ、ハーロックたちが戻ってくるの」

「堂々とゼーダに着陸許可を要請してきたそうよ」

  マーヤ 「・・・・地球に戻れば・・・また・・・あの人は辛い思いをする・・・・」
  エメラルダス 「それでも戻ってくる・・・ハーロックはそういう男だわ」

「・・・今度、ハーロックたちが地球を発つ時には・・一緒に行きましょう」

「あなたはもう充分に地球に尽くしたわ」

  降下してくるアルカディア号の周りをイルミダスの警備機が飛んでいる。

砂漠に着陸していくアルカディア号。そこは、処刑場後であった。

450 マーヤの声 「こちら、自由アルカディアの声・・・」
  ハーロック 「マーヤ!」
  マーヤの声 「新しい周波数をお知らせします。8390・・・・8390・・・こちら自由アルカディアの声・・」

花を背に砂漠へ行きましょう。花を手に、希望を出迎えましょう」

  ハーロックはハッチから降り、ゼーダの前に進んだ。
  ハーロック 「ゾルに会わせてもらいたい」
  ゼーダは丘の上にある墓標を指差した。

失神するラ・ミーメをトチローが抱きとめる。

ハーロックはじっと墓標を見つめて言った。

  ハーロック 「誰がゾルを殺した」
  ゼーダ 「・・・私だ」
  マーヤ 「どうしても行くの」
  エメラルダス 「ええ・・・・あなたは・・・・」

「・・・・ハーロックに会わなくて・・・・いいの」

460 マーヤ 「・・・ええ・・・今の私には・果たさなければならないことがあるわ」

「それを投げ出したら・・私は・・・私でなくなるから・・・」

  エメラルダス 「・・・・わかったわ・・・じゃ」
  マーヤ 「(耐え切れず)エメラルダス!」
  エメラルダス 「・・・・・わかった・・・。伝えるわ。きっと・・・・・」
  エメラルダスは出ていった。

マーヤの眼に涙が浮かぶ。エメラルダスを追うようにドアまで行ってすがりつき、ノブをにぎりしめ、声をしのばせて泣いた。

ドアの外ではエメラルダスがドアにもたれたまま唇をかみ締めている。

  ハーロック 「ゾル・・約束どおり、帰ってきた・・・お前の妹ミラを連れてきた・・・。だが、遅すぎた・・許してくれ・・・」

「ゾル、俺は決してお前の死を・・・無駄にはしない」

  ムリグソン 「・・・・死んだ男にただそれだけを言うためにわざわざ戻ってきたのか。これだけの大軍が待ちうける中を・・・」
  トライター 「バカとしか言いようがないわね」
  ハーロック 「お前たちにはわからないのか・・・・わからなければそれでいい」
  トライター 「それで、あなたは気持ちがいいかもしれないけれど、地球は大いに迷惑するのよ」

「今の地球はイルミダスとの協力関係を保つ道を選んでいるわ。一部の馬鹿が反乱を企てたりするけれど、それもすぐ鎮まるわ」

「これからも、よろず平和にいきたいのよ。あなたのような危険分子は地球の方針に合わないわ」

「従って、地球政府はあなた達に地球から永久追放を宣言するわ」

470 トチロー 「何だと!」
  トライター 「もしあなた達が地球に残るというのなら、私たちはあなた達と戦わなければならないわ」
  ハーロック 「戦う!!・・・・俺たちと・・・」
  トチロー 「俺たちは、この眼でトカーガの最後を見てきた。地球と同じように占領され、イルミダスに戦争協力してきたのに絶滅させられた星の悲惨な終末を見てきた」

「母なる星を失い、種族を残すことさえできなくなった人々の底知れぬ絶望を・・・見てきた。・・・その俺たちと戦うのか」

  トライター 「そういう考え方が、既に危険なのよ。あなた達は地球の敵よ!」
  ハーロック 「・・・・・地球の敵か・・・」

「よかろう。・・・俺達を追放するということなら出て行こう」

  トチロー 「ハーロック!」
  ハーロック 「これからはあの旗の下、星の海が我々のふるさとだ。・・・・俺達と共に行く者はいないか?いれば乗せていくぞ」
  シーンと静まりかえりだれも言葉を発しない。誇らしげなトライターとムリグソン。
  エメラルダス 「みんな!」
480 トチロー 「エメラルダス!」
  エメラルダスがマーヤを抱いて、しずしずと進んでくると、エメラルダスはそっとマーヤをおろした。
  エメラルダス 「汚れたブタとなってまで、地球にしがみついて生きることはない」
  トチロー 「エメラルダス・・」
  エメラルダス 「ゾルを後ろから撃ったトライターの卑劣さは許さない」

「命を大切に考えないお前たちのすべての空恐ろしさ・・・忘れない」

  トライター 「わ・・・私は・・・」
  ハーロック 「言い訳をするな!それ以上に卑劣な行為はないのだからな」
  マーヤが携帯用放送機のマイクを取り、静かに語りかける。
  マーヤ 「・・・・こちら自由アルカディアの声・・・私は・・マーヤ。地球の皆さん・・・・いつまでも・・・あなたがたに・・・呼びかけていきたいと思っていました。・・・・いつまでも・・・一緒に・・・歌いつづけていきたいと・・思っていました」

「でも・・・もう・・・続けられなく・・・なりました・・・許してください・・・これが、最後の自由アルカディアの声です・・・・」

  ハーロック 「マーヤ」
490 マーヤ 「(必死に)こちらは・・周波数・・・60・・・・」
  ハーロック 「マーヤ・・・もういいんだ・・・・もういいんだ・・・」
  マーヤ 「ハーロック、私は信じていた・・・。あなたはきっと帰ってくると・・・たとえ死んだ友との約束でも・・・必ず・・守る・・・そういう人だと・・・・」
  ハーロック 「もういいんだ・・・・。一緒に行こうあの星の海へ・・・マーヤ」
  マーヤ 「・・・・ずっと夢を見つづけてきたわ。あなたと駆けたあの霧のハイリゲンシュタットの森・・・」

「同じように・・・・星の海を・・・・・・あなたと・・・」

  トチロー 「・・・・マーヤ・・・・」
  ハーロック 「マーヤ!マーヤ!」

「もっと話したいことがあった!もっと聞きたいことがあった!」

  マーヤは眠るように息絶えていた・・。ハーロックは耐え切れず、マーヤに頬ずりをする。群集も誰もがじっとその様子を見守っている。
  トチロー 「(うめくように)地球の人々よ。君らに明日を信じることを訴え続けた純なる魂は今、逝った」

「そしてまた地球政府は今、俺たちをこの地球から永久に追放しようとしている」

「この眼でトカーガの終末を見、地球に同じ道を歩ませたくないと願う俺たちまで追放し君たちは、これからどんな道を歩むというのだ」

「このマーヤの声を少しでも大事に考えてくれるなら・・・」

  ハーロック 「もういい。トチロー」

「よし!あの旗のもと、俺たちと共に行くというものは受け入れるぞ」

「残る道を選ぶのもひとつの生き方。旅立ちを選ぶのも、ひとつの生き方。君たちは今、完全に自由だ。選べ!そして、生きよ!」

500 大ドクロ旗がはためく。

ハーロックはくるっときびすを返すとアルカディア号の方へ歩き出した。

地球人群集の中からはじかれたように人が走りだす。

1人、10人、50人・・人が続く。雪崩現象が起こっていた。

銃殺隊が制止しようとゾルの棺に近づいた。

  ハーロック 「汚らしい手で触れるな!!それは俺の親友だ」
  ハッチを昇っていくハーロックたちを口惜しげに見つめていたムリグソンが、いきなり銃を抜いた。

エメラルダスはハーロックたちをかばうように走り出すとムリグソンに言った。

  エメラルダス 「卑劣漢!」
  ゼーダ 「部下が卑劣漢と呼ばれた事は私が卑劣漢と呼ばれた事だ」

「私にも誇りがある。無事に地球から立ち去りたければ、この私を倒してからにしろ」

  ハーロック 「決闘か!」
  ゼーダ 「そうだ。戦闘空間の場所は私が選ぶ」

「古来、決闘は一対一だ。誰にも邪魔させぬ」

  ハーロック 「わかった!!」
  ムリグソン 「司令官、私はこんなやり方には反対です」
  ゼーダ 「お前は私に反対した。私をさしおいて銃を抜いた。その始末は自分でつけろ」
510 ゼーダはそう言うと去っていった。

ムリグソンはハーロックを狙いながらも、歯の根の合わないほどガタガタ震えている。

ムリグソンの指が引き金を引く。

次の瞬間、眉間を打ち抜かれたムリグソンがゆっくりと倒れた。

タラップの上に銃を構えて仁王立ちのハーロックの姿があった。

  挿入歌  〔ハーロックのバラード〕
  マーヤの声 「今、自分の旗をひるがえしていくあなた・・・いつか・・・また、あなたが帰る日までさようなら・・・私は信じます。どれほど、遠く離れようと、あなたが決してこの地球を忘れはしないということを・・・」

「あなたの旗の下に旅に出るあなたをひきとめることは誰にもできない。さようなら、でもどんなときにも夢と希望を失わず明日を信じていた・・・そういうあなたと語り合った日々のあったことを私は誇りに思います」

「忘れません。いつまでも・・・・あなたの未来があなたの信じるとおりのものであるように・・私はこの大地の上で祈ります」

「さようなら、私のハーロック。・・・・生きてください。どこまでも・・・生きてください。生きることの尊さを・・忘れないでください。私にはみえる。あなたの胸の中で・・・未来を信じる赤い火が燃えているのを・・・」

「友を裏切らない男の火が燃えているのが・・・私にはみえる・・・」

「そういうあなたが私は好き・・私はあなたの胸の中で・・・・その火のひとつとなる・・・いつまでも・・燃える・・・」

  エメラルダスの声 「みなさい、ハーロック。この船の赤いドクロの旗を」

「これはマーヤの血。マーヤの白いドレスを染めた血で描かれた海賊のしるし。自由を求めるすべての人々の血の旗印」

  トチロー 「マーヤこそ、永遠の恋人だった・・」
  エメラルダス 「そう。愛する人には鎖をつけない・・誰もが憧れ、好きになる人・・・」
  N 小さくなって行く地球。

上昇していくアルカディア号とクイーンエメラルダス号。

それを追ってくる一隻の船がある。それは、ゼーダの旗艦スターザット号である。

  トチロー 「ワレニツヅケか・・。すごい船だ。さすがイルミダスの旗艦だぜ」
  ゼーダ 「ハーロック」

「私は君の中にデータなどでははかれない真の地球人を見てきた・・・。同じようにトチローの中に・・」

「そして・・・マーヤの中に・・・」

「彼女は気の毒なことをした」

「だから、君とは地球占領隊の司令官としてではなく・・・サムライとして雌雄を決したいものだと、ずっと思いつづけてきた」

「・・・・と言えば、きれいごとすぎる・・・今だから・・・白状するが・・・私も何度・・・イルミダスの旗でなく自分自身の旗の下に、自分の信じる者のためにだけ戦いたいと考えたことか・・・。私には出来なかった。・・・考えるだけで・・君のようには出来なかった。・・・・だから!!君をうらやましいと思う反面、ひどく憎みもするのだ」

「私に出来なかったことをやりとげようとしてる君をね。だからこの勝負は容赦はしない・・・」

  トチロー 「イルミダス母星艦隊、総数624隻、大機動部隊が接近中だ」

「ゼーダはイルミダスの母星艦隊の来る空間と反対の方向に俺たちを引っ張り出そうとしている」

520 ハーロック 「スターザット号へ相対接近!距離500!」
  トチロー 「了解。相対接近、距離500!」
  ハーロック 「総員!戦闘用意!・・・・速度第2戦速!・・・各砲塔、戦闘態勢につけ!!」
  両艦とも引かず互いの方向へ突進する。

二つの船の距離がぐんぐん縮んでいく。

  ハーロック 「反動ブレーキ開け!速度落とせ!」
  トチロー 「了解!第3戦速まで減速度」
  ゼーダ 「左舷6段砲列、全射撃用意!・・・発砲間隔0.1秒!!・・・発砲まで、あと10秒」
  トチロー 「相対速度12万8千・・・高度差ゼロ」

「主砲追尾速度同調・・・発砲まであと10秒」

「8・7・6・5・4・3・2・1」

  ゼーダ 「撃て!!」
  ハーロック 「撃て!!」
530 スターザットの舷砲がエネルーギー弾を発射!それと同じくアルカディア号の主砲が火を吹いた。

第1主砲、第2主砲、粒子ビーム砲を発射する。

すれ違う両艦の間に閃光と轟音が充満し、小さな破片が双方から飛び散る。

  ハーロック 「被弾及び損傷個所を知らせろ」
  ミーメ 「右舷魚雷発射口損傷!!」
  トチロー 「機関室付近、損傷!」

「第16船倉と格納庫の後部もやられた」

  ハーロック 「取り舵、反転180度!」
  ゼーダ 「減速280、おも舵いっぱい」

「相対速度6000ガメル、上下角ヴェカオクターブ!!発射ロクバルス前・・・速度同調!右舷砲列!」

「撃て!!」

  ハーロック 「撃て!!」
  両艦一斉に攻撃を開始する。

アルカディア号からのエネルギー弾の帯がスターザット号の船腹に命中、同時にアルカディア号の船腹にもエネルギー弾が命中し貫通する。

両艦とも片側に傾きながらすれ違う。共に右舷に爆煙の尾を激しく引いている。

  ハーロック 「トチロー、大丈夫か!?」
  トチロー 「俺は大丈夫だけど・・・自動照準器が・・・・」

「照準器・・・・そうだ!」

540 ゼーダ 「外部胴体の搭乗員は3分以内に中央胴体に集まれ!」

「くりかえす。外部胴体の搭乗員は3分以内に中央胴体に集まれ!」

  ハーロック 「手動の標準器?」
  トチロー 「ここにあるんだ!!」
  ハーロック 「その箱の中に?照準器が!?」
  トチロー 「ほら」
  ハーロック 「それは・・・・」
  トチロー 「そうだ。お前の遠い先祖が俺の先祖にくれたレビC12Dだ!!」
  ハーロック 「これが・・俺とお前の先祖を結びつけた・・・・眼か・・・」
  トチロー 「よし、急ごう」
  ハーロック 「来るぞ!トチロー!」
550 トチロー 「了解。そのまま、直進しろ!!」
  ゼーダ 「第1第3船体、切り離せ!」

「戦速倍増!」

  ラ・ミーメ 「ゼーダの中央船体はほとんど無傷・・・・」
  ハーロック 「トチロー、気をつけろ!」
  トチロー 「くそう、手が震えてきた」
  ハーロック 「トチロー!!一点集中攻撃だぞ!!今だ!!」
  トチロー 「くらえ!!」
  トチローの手がレバーの先端についている発射ボタンをひっぱたくように押す。

主砲発射!スターザット号も応戦してくる。

すさまじい砲撃戦となった。
アルカディア号は一点を集中攻撃している。

ドテッ腹に一発エネルギー弾を食らってのけぞるアルカディア号。

しかしなおも一点を狙い撃ちする。

ボタンを押しつづけているトチロー。

  ハーロック 「怯むな!トチロー!撃ちつづけるんだ」
  主砲も、粒子ビーム砲も砲塔が回る限り、攻撃点を一点に絞り込む。

遂に、スターザット号のドテッ腹に穴が開き、エネルギー弾は機関部を貫通し、コンピュータルームを貫通し誘爆する。

さらに司令塔にまでおよび、炎は艦橋へ突進する。

アルカディア号のほうもスターザット号から撃ち出されたエネルギー弾が船体を貫通しキャビンが穴だらけになる。

560 ハーロック 「大丈夫か、トチロー!?」
  トチロー 「まだ、生きてるけどな・・・だけど、もう一回、来られたら・・・どうなるか・・・」
  ハーロック 「・・・・ゼーダはまたアルカディア号の正面へ回りこむ気だ」
  トチロー 「もう一回、来られたら・・・保証のかぎりでは・・・・」

「まっすぐ、突っ込んでくるぞ!!」

  ハーロック 「ゼーダは勇者だ。・・・昔の地球にああいう男がたくさん、いた」
  ゼーダ 「ハーロック・・・・地獄で会ったら・・・共に親友として酒を飲もう!!・・・それまでお前は死なずに、お前の夢をはたせ!生きて必ず、夢をはたせ!!」

「さらばだ」

  トチロー 「正面衝突だ」

「しかたがない。撃つぞ!!」

  ハーロック 「トチロー、撃つな!」
  トチロー 「し、しかし・・・・」

「まにあわないぞ!!」

  もはや、火の玉となったスターザット号が真正面からアルカディア号に迫る。

トチローの悲鳴にも似た叫び、まさに、衝突!・・その寸前、スターザット号が大爆発する。

一瞬、アルカディア号もその爆発の中に飲み込まれる。

閃光と爆煙と轟音が支配する。

爆煙が延びて、その先端を破るようにアルカディア号の機首がでてくる。

やがて、ゆっくりと全容を現す。

570 ハーロック 「さらば、ゼーダ・・・地獄で会おう」
  エメラルダス 「ハーロック」

「ゼーダはわざと私たちを脱出しやすい位置へ導いてくれた。・・・・今、反転して加速すれば、イルミダス艦隊は追いつけないわ」

「私たちは、自由の海を自由に生きるために、遠い昔から辛い戦いを強いられてきたわ」

「そして今、やっと新しい旗の下、出発の時を迎えた」

「ゼーダも言ったわ。生き抜いて夢を果たせと・・・・」

「マーヤもそう言った。・・・・ハーロック、あなたも知っているはず。勇気にはふたつあることを」

「戦う勇気と、明日のために戦いを避けて生き延びる勇気と・・・」

  ハーロック 「・・・これは、俺たちの門出だ。門出は誇りに満ちたものであるべきだ。門出の旗を汚すことはできない。どう思う?トチロー」
  トチロー 「敵に後ろを見せたまま、自由の海にでたくはねえ」
  エメラルダス 「戦うのなら・・勝って生きのびるしかないわね」
  ハーロック 「海賊には海賊の生き方がある。これが俺たちだ!!総員、配置につけ!!」

「両舷全速!!移乗戦闘用意!!奴らの旗艦に乗り込むぞ!!」

  戦闘が開始された。

イルミダス艦隊の前衛が突っ込んでくる。

エネルギー弾が雨あられのように飛んでくる。

しかし、その弾道がことごとくカーブしそれて行く。

  トチロー 「ハーロック。この船の周囲の重力場と次元波が異常をきたしている」
  ハーロック 「異常を?」
  トチロー 「眼で見れば正確に見えるが、機械では相手の位置が正確にはつかめないんだ」
580 ハーロック 「ゼーダ艦の爆発だ。・・・彼の艦の強力なエンジンの爆発が、この空間を捻じ曲げているんだ。・・・すると・・・ゼーダは俺たちを守るために・・わざと・・・」

「よし!中央突破!!旗艦へ乗り込むぞ!!」

  トチローのレビC12Dに完全に捕捉されるイルミダス艦。

アルカディア号のエネルギー弾がイルミダス旗艦の艦橋をぶちぬいた。

イルミダス旗艦の横っ腹へ接舷するアルカディア号。

アンカーチューブを打ち込みその大きく開いた穴からハーロックは艦橋へと進む。

  ハーロック 「俺たちの戦いにルールは無い。これが海賊の戦い方だ」

「二度と俺の旗のひるがえる場所に近寄るな」

「機関オーバーブースト、レッドライン75000!!全速離脱!!」

  旗艦を失ったイルミダス艦隊の動きが乱れる。

その時、旗艦が大爆発を起こし次々と誘爆して行く。

イルミダス艦隊の壮絶な最後であった。

そこはグリーンの霧がたちこめる静寂の世界。

その月の空間にアルカディア号とクイーンエメラルダス号が停船している。

霧が深く2艦を包んでいる。

  エメラルダス 「ああ・・・トリケラトプスの霧がくる!」
  ハーロック 「大宇宙をつかさどる天地宇宙の真理よ、わが友ゾルとその妹ミラを・・・今、あなたの腕にゆだねる・・・。ゾルとミラに永遠の安らぎを・・・・」
  トチロー 「・・・さらば・・・友よ・・・」

「・・・打ち出すぞ・・・・ハーロック・・・」

  白い透明な棺に納められたマーヤの遺体。

ドクロの旗に包まれたその遺体の胸に赤いバラの花が一輪ささげてある。

トチローの手が、ゆっくりと、レバーを引いた。

棺は静かにトリケラトプスの海へ発射されていく。

ハーロックはサーベルを抜き、顔の前でささげる。

  ハーロック 「遠く、時の輪の接するところで・・・また、会おう・・・さようなら・・マーヤ・・・星の海で命尽きるまで・・俺は忘れはしない・・・」
  トチロー 「星の海よ・・・われらのかけがえのない愛する人を・・・・今、あなたにささげる」

「正義がこの海を治めていることを信じて・・」

590 ハーロック 「我々は決して何も祈りはしない。二度と他人の旗の下に戦うことはしない。我々は、己が信じるものの為にだけ、我々の旗の下にだけ、生涯をかけて戦いつづける・・・俺の旗の下に・・・」

「わが青春のアルカディア号!発進!」

  エメラルダス 「クイーン・エメラルダス号!発進!!」
  アルカディア号のパネルに廃墟の地球が映り、地上の一角で演説をしているトライターの姿が映った。
  トライター 「全地球市民の皆さん、無法者は去りました。私たちはイルミダスと力を併せ再びこの地球に楽園を築こうではありませんか・・」
  ハーロック 「おろか者よ!その小さな世界で満足して、せいぜい踊るがいい・・・・俺たちの世界はこの全宇宙だ・・」
  前方に広がる星の海。

アルカディア号とクイーン・エメラルダス号、二つの船はそれぞれ2方向へ分かれて行く。

どこまでもどこまでも離れ、その空間が広がっていく。

  ハーロック 「俺の旗の下で、俺は・・・自由に生きる」
597 ED 〔俺たちの船出〕 唄 水木一郎

ー完ー

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