攻殻機動隊−Stand Alone Complex−

 01 「公安9課/SECTION-9」

       属性                   台詞量

素子     ♀  公安9課実働隊長。通称、少佐。  ★★★★☆
バトー    ♂  義眼の怪力無双。         ★★☆☆☆
荒巻     ♂爺 公安9課課長。別名、サル親父。  ★★★★☆
トグサ    ♂  元刑事。妻子有り。        ★★★☆☆
イシカワ   ♂  ヒゲ。電脳戦のプロフェッショナル。★☆☆☆☆
サイトウ   ♂  片目を改造した狙撃手。      ★☆☆☆☆
パズ     ♂  ヤクザでクールな外見の男。    ★☆☆☆☆
ボーマ    ♂  巨漢で義眼。無口。        ☆☆☆☆☆
ドレッド   ♂  ドレッドヘアのテロリスト。    ★★☆☆☆
サムソン   ♂  テロリスト(下記犯人と同一?)  ★☆☆☆☆
外務大臣   ♂爺 エロ議員。山○議員の様な……。  ★★☆☆☆
ロボット芸者 ♀  ロボット。悲鳴のみ。       ☆☆☆☆☆
後援会長   ♂爺 人間。悲鳴のみ(w        ★☆☆☆☆
クボタ    ♂爺 陸上自衛軍幹部。荒巻の同期。   ★★★★☆
警察指揮官  ♂  県警現場指揮官。         ★★★☆☆
警察副官A  ♂  チョビヒゲ。           ★★☆☆☆
警察副官B  ♂  メガネ。             ★☆☆☆☆
犯人     ♂  ロボット芸者を操った。悲鳴のみ(w★☆☆☆☆
退役軍人   ♂爺 好々爺の皮をかぶったハイエナ(w ★★☆☆☆
空港職員   ♂  小心者っぽい。          ★☆☆☆☆
ナレーション    ご迷惑、おかけします。      ★★★★★
001 N

あらゆるネットが眼根(げんこん)を巡らせ
光や電子となった意思を
ある方向に向かわせたとしても
W孤人(こじん)Wが
複合体としてのW個Wになる程には
情報化されていない時代・・・

  N

AD.2030

  N 夜。新浜市外。
ビルの谷間をぬって警察ヘリが2機飛び去る。
屋上に女の影。羽織ったジャケットと髪を風になびかせている。
  ドレッド 「ドレッドからサムソンへ。
外壁と屋上の空調に、睡眠誘発ガス、取り付け終了」
  サムソン 「了解。マルフタフタマルに設定し、合図を待て」
  女の目線の先に、数階分低い隣のビルの屋上。空調施設にとりつき、何処かと電脳通信を交わすドレッドヘアの男がいた。
女、草薙素子は、懐から拳銃を取り出すと安全装置を外し、隣のビルの屋上へと飛び降りた。

着地の衝撃をぐっと腰を落として相殺し、素子は姿勢を低くしたまま男に駆け寄る。男も着地音に気付き、斜な構えで大型拳銃を素子に向けて発砲するが、当たらない。

男が拳銃を構えなおす前に、素子は身を躍らせて宙に飛び、男の左肩に前転蹴りを浴びせた。男の肩を初撃で蹴り潰し、行き掛けの駄賃とばかりに、顔面に放たれた二の蹴りが男の戦意を奪う。
  ドレッド 「うぅっ!! うぐっ、どぅぅぁああーッ!!」
  己の不利を悟った男は、踵を返し、素子から逃亡を図った。
  ドレッド 「とぉぅ!!」
010 義体化により常人離れした膂力(りょりょく)は、男の体を数十メートル離れたビルへと飛び移らせる。だが、着地寸前、狙い定めた素子の拳銃が男を捕らえた。
右足首をズタズタに吹き飛ばされ、堪え切れずに無様に転がる男。
最後の一太刀とばかりにかざした大型拳銃は、素子の足に右手ごと踏み砕かれた。
  ドレッド 「うっぐっ、うぅぁあぁぁーッ!! お前ら警察かぁッ、もはや体制には正義は成し得ないぃぃッ!!」
  素子 「世の中に不満があるなら自分を変えろ」

「それが嫌なら耳と眼を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ。それも嫌ならッ!!」
  素子は男の頭に拳銃を押し付けた。死の恐怖に男は目を閉じ言葉を無くす。
引き金にかけられた素子の指に、力が込められた瞬間、素子の電脳に本部から通信が入る。
  荒巻 「少佐。全員、装備A2(エーツー)で召集をかけろ。場所は8・2のD3(ハチ・ニーのディースリー)」
  素子 「聞いた? バトー」
  バトー 「あぁーッ。聞いてるよォー」
  ビルの下から、9課のヘリが轟音と暴風を撒き散らし、せり上がって来た。
ヘリのドアから身を乗り出す様にしてバトーが立っている。
素子の髪をヘリからの風がかき乱した。
     
  公安9課  SECTION−9
020    
  料亭。

都心の真ん中に茂る木々。塀の周りを囲むパトカー。
交通誘導する警官。
機動隊と制服警官に封鎖された門。揚げられた提灯に近文の文字。


警察の指揮車両の中。

三人の警察現場指揮官が、陸上自衛軍の高官とやりあっている。
  警察指揮官 「納得のいく説明無しに、指揮権を渡すことはできんッ。この事件は警察管轄だッ!!」
  クボタ 「説明する責任は無い。意地を張らずに、我が軍に指揮権を譲りたまえ」
  警察副官B 「そちらこそぉッ!!」
  そこに公安9課課長、荒巻が入って来た。
  荒巻 「つまらん事でもめていて構わん状況か?」
  警察副官B 「あッ!!」
  クボタ 「あ、荒巻ィ」
  警察指揮官 「あぁッ!!」
030 上部組織の長である荒巻に気付いた警察官達は、起立して荒巻に敬礼し、そのまま固まってしまった。
  荒巻 「問題は中の客の方だろう」
  警察指揮官 「ハッ!! 現在、拘束されている客は、外務大臣、そして大臣の秘書官、大臣の後援会長と、北米産業振興会からの来客が二名。芸者ロボットが、大臣達を拘束してから、十七分が、経過したところです」
  警察副官A 「自力で脱出してきた女将の話では、その後、二名の犠牲者が出たかもしれないとの事ですが、現在、料亭内の状況がどうなっているかは、確認できておりません」
  警察官の顔に冷や汗が流れ落ちる。
  荒巻 「犯行声明や要求は?」
  警察副官A 「今のところ、ありません」
  荒巻 「通信封鎖は?」
  クボタ 「ウチでやってる」
  荒巻 「報道管制は?」
040 警察指揮官 「コード・イチヨンを実行して9分、長くは、持ちません」
  荒巻 「本件は今より、公安9課が処理する。そのまま待機しろ」
  警察指揮官、
副官A、B
「「「ハッ!!」」」
  荒巻 「クボタ」
  荒巻は顎で扉を指し、指揮車の外に出ろとクボタに促した。
  指揮車の外。

荒巻は首の補助電脳からケーブルを繰り出すと、無言のままクボタに有線通信を求めた。
クボタは渋々それに応じた。
  荒巻 「軍が介入したい理由は?」
  クボタ 「ウチの関係者が中にいる。それ以上、今は言えん」
  荒巻 「わかった。事情は後で聞く。ワシにまかせろ」
  荒巻は懐から携帯端末を取り出し、コールした。
050 荒巻 「少佐」
  素子 「まだよ」
  素子は料亭内部に向かい、突入準備をしている。
  荒巻 「軍が介入したがってる。背中に用心しろ」
  素子 「ご親切にどうも。バトー!!」
  バトー 「まだ移動中。さっき狙撃隊の通信聞いたら、盗聴ノイズ入ってたのはソレかぁ」
  素子 「トグサ、イシカワッ」
  地下共同構で通信回線を探っているイシカワとトグサ。
  イシカワ 「少佐ァ、回線が多すぎる。特定に二時間はかかりそうだ」
  素子 「トグサ、中庭に出て突入に備えろ」
060 トグサ 「了解ッ」
  トグサはイシカワの肩を叩いて駆け出す。
  素子 「サイトウッ」
  離れたビルの屋上に陣取り、サイトウは狙撃用ライフルを構えている。
  サイトウ 「映像カーテンは中和したが、木が多く、狙撃可能範囲は狭い」
  素子 「パズ、ボーマ」
  警察の封鎖線の外、パズとボーマは車で待機していた。
  パズ 「いつでも」
  素子 「ロボット芸者を操作している奴が近くにいる筈だ。トランスは撃つな? 敵が証拠を消す前にウィルスを送り込む」
  バトー 「少佐ァ。ロボット芸者が、待遇の改善を要求してきたら?」
070 トグサ 「アンタは……」
  バトーのくだらない冗談にトグサは呆れ返り、素子はため息を漏らした。
  素子 「全員そのまま。スタンバイOK!!」
  荒巻 「よぉしッ、行けェッ!!」
  素子 「GOッ!!」
  素子が、トグサが、バトーが走る。走りながら光学迷彩を作動させ、周囲の景色に溶け込んで行く。
     
  料亭内部。

ロボット芸者が人を羽交い絞めにし、ぎりぎりと今にも殺さんばかりに締め上げている。
  後援会長 「あぁぁッ、うぅぅ、はぁぁぁぅ」
  ロボット芸者 「ん? ……アァッ!!」
080 ミシリと足音だけが暗闇から響き、ロボット芸者が異変を察知した瞬間、発砲音と共にロボット芸者の頭が吹き飛んだ。
2体目、3体目と次々に頭蓋と白い血を撒き散らし、ショートした回路が火花を飛ばす。
それでもロボット芸者は人質を締め付けたまま放そうとしない。
  後援会長 「ガァァァッ、うぅぅぅッ、うぅぁあぁッ!!」
  素子 「チィィッ」
  光学迷彩を解除し、姿を現した素子は、動きの止まらぬロボット芸者の背後から頭部全体に銃弾を浴びせ、頭蓋が弾けとんだ首の後ろ、電脳端子に有線で接続した。
電脳を通してロボット芸者の機能を止めると同時に、操っている犯人にウィルスを送り込む。

ロボット芸者は、止まった。
  素子 「ふぅ」
     
  現場から離れたビルの屋上。
  犯人 「グウゥッ!! うぅぅ、あぁッ……」
  素子の放った送り狼が、火花を散らして犯人の装備を焼いた。
犯人は逃走を開始した。
  素子 「パズ、ボーマ。トレーサーウィルスを追跡しろ。バトーは援護を」
090 バトー 「あーぁッ、いー響きだァ」
  光学迷彩のまま離れていくバトー。トグサは自分がロボット芸者を止め切れなかったことに戸惑っている。
  素子 「ボヤっとするなトグサッ!!」

「課長、現場を制圧。人質一名が、緊急医療必要。重度の外傷有り。もう一名は頭部の外傷から、死亡を確認。犯人はバトー達が追跡中」

  荒巻 「よし、大臣以下全員を外に誘導しろ。用心してだ。正面玄関にワゴン4台とテント通路を用意した。警戒態勢B−6(ビーロク)で移動しろ」
  素子 「了解」
  トグサ 「歩けますか、大臣」
  外務大臣 「ぅあぁぁ、ああ、助かったよ。ありがとう」
  トグサに庇われて、外務大臣は外へと歩き出す。途中で私物にしては大きめのバッグを拾い上げる大臣。それを素子はじっと見つめていた。
     
  深夜の街。

夜道を人外の脚力で走りぬける犯人を、パズとボーマが乗った車が追う。
100 パズ 「少佐、標的はサイボーグ。記録と照合中。今のところ該当者無し」
  素子 「何を待っていたのか聞き出すまで殺すな?」
  バトーも徒歩で犯人を追っていた。
  バトー 「ボーマ、もうじき合流するッ!!」
  パズ 「車の前に飛び出すなよ?」
  バトー 「子供かァ俺はッ!!」

「タチコマァッ、付いてきてるかぁッ?!」

     
  車道を走る犯人目掛け、横の植え込みからバトーが飛びついた。
     
  バトー 「フンッ!!」
110 犯人 「ウァゥアァァァァッ!!」
  急ブレーキとハンドル操作で衝突を避けるパズ。
ドアを開けると同時に拳銃を突きつけ、ボーマも続く。

犯人の首を締め上げるバトーの視界に、思考戦車タチコマが滑り込む。
  バトー 「遅ぇぞタチコマぁッ!!」
  タチコマは機械の腕で頭をかく仕草を見せた。
視線を犯人に戻し、さらに首を締め上げるバトー。
  バトー 「観念したかぁ?」
  犯人 「うぅぅぅぅぅ、ウゥーーッ!!」
  一瞬ニヤリと笑った犯人が苦悶の悲鳴を上げ、首筋に火花が散り、煙が上る。
  バトー 「あぁッ?!」
  バトーが男の襟足を確かめると、電脳端子に機械が掛けられ、焼き焦げていた。
  ボーマ 「おーぅ」
120 パズ 「ハァーッ」
  バトー 「やっ、ヤバイかもぉ〜」
     
  9課課長執務室。
AM05:46
2030/04/14

ノックの音が響いた。
  荒巻 「入れ」
  部屋の外に立つ陸上自衛軍士官を横目に、素子が入ってくる。

部屋の中にはソファに座るクボタ。
  荒巻 「話を聞こうか」
  素子が荒巻の前に立ち、荒巻はクボタに促した。
  クボタ 「……ああ。実は、脳にダメージを受けた大臣の秘書官、彼女は私の部下で、大臣の身辺を内偵させていた」
  荒巻 「外務大臣の?」
130 クボタ 「うん。最近、彼の周辺で、市ノ瀬レポートに興味をしめす動きがあってねぇ」
  荒巻 「非常時における外交および軍事的戦術シナリオを、含む方だな?」
  クボタ 「うん。もちろん軍は開示要求を受ければ、それを拒めない。だが、大臣直々の指示という訳でもなかったし、今まではなんとかやり過ごして来た。内偵はいわば、安全確認のための通常業務だった」
  素子 「では、何故秘書官が襲撃を?」
  クボタ 「んぅ? 何かつかみかけたために、消されかけた可能性は、ある」
  荒巻 「大臣の身辺状況は?」
  クボタ 「一通り洗った段階ではシロ、脅迫されている様子も、口座に不審な動きも無い」
  荒巻 「お前らしくもない」
  クボタ 「ウーン。今回はぬかったよ」
  荒巻 「お前がよければこの件、ウチで調べてみようと思うが? どうする?」
140 クボタ 「助かる。だが、お前の経歴に傷がつくようなことはするな。最後は俺が被る」
  クボタは執務室を出て行った。
     
  素子 「で?」
  荒巻 「大臣の身辺をもう一度洗いなおせ。それと、料亭内で何が起きていたのかを徹底的に調べろ」

「ワシは、市ノ瀬レポートと軍の利害関係をもう一度洗いなおす」
  素子 「あ〜らァ、彼、友人じゃなかったの?」
  荒巻 「そうだ!! だからワシが調べる」
     
  取調室。

ロボット芸者を操っていた犯人が椅子に座っている。目を閉じ、おだやかな表情。
それを扉の外からじっと見ているバトー。そこに素子が通りがかる。
  バトー 「自分で記憶を焼き消すたぁ、見上げた根性だ。脳に障害が残っちまうかもしれないってのによぉ」

「おかげで俺は笑いモンだぜ」
150 素子 「ンフフッ」
     
  射撃練習場。

トグサがマテバ9ミリリボルバーを構え、斉射。5発全弾撃ち尽くして、ターゲット裏から光を当てる。10点圏内に全て収まっていた。
  素子 「経費の無駄遣いね」
  トグサ 「ハッ?!」
  素子が通路の手すりに身を乗り出し、薄い笑みを浮かべ、トグサを見ていた。
  素子 「任務のために慌てて射撃練習する位なら、義体化することをオススメするわ」
  トグサ トグサ「それって、俺もサイボーグ化しろってこと?」
  素子 「公私混同を命令で出すほど野暮じゃないわ。今日の射撃にしたって上出来だと思ってるわよぉ? でも、貫通弾が人質に当たりそうだと思ったんなら、その場の判断で応用を利かせなさい。その9ミリ、腰に下げてるんでしょう?」

「(ため息) 何のために貴方を本庁から引き抜いたと思ってるのかしら。落ち込むヒマがあったら、自分の特技で貢献しようと思わない?」
  愛銃に一瞬目を落として考えるトグサ。
160 素子 「あたし達が突入するまでの十数分間、料亭内で何が起きていたのか、徹底的に洗うわよ」
  素子は去っていく。慌ててトグサはバックに銃を放り込み、後を追った。
     
  公園。

サイトウが警護に立ち、周辺をチェックしている。
ベンチに座り書類を読んでいる荒巻。そこに杖をついた老人が歩み寄り、隣のベンチに腰をおろした。
  退役軍人 「お孫さんは元気かね?」
  荒巻 「どう思う?」
  退役軍人 「せっかちだなぁお前さんは……一之瀬レポートは軍の予算に影響しない。君が興味を持つようなモノでもない」
  荒巻 「政、官、どちらの意向だ?」
  退役軍人 「アレで損をする軍人は、アレを知る立場にない。知らないモノは探さない、君の言葉だ」
  荒巻 「相変わらずだな」
170 呆れた口調でため息をつき、荒巻は立ち上がった。
  退役軍人 「近くにエビの美味い店が出来たんだ。寄っていかんか?」
  荒巻 「また今度な」
  歩み去る荒巻の背にイシカワが早歩きで近寄ってくる。
  イシカワ 「少佐がお待ちです」
  荒巻 「ん」
     
  路肩に停められた車の後部座席で、素子が待っていた。
ドアを開け問いかける荒巻。
  荒巻 「何が出た?」
  素子 「事件直後の柳の間の映像。それと、料亭内に設置してあるカメラからも気になる映像よ」
180 荒巻 「ウム」
  シートに腰掛け素子からメディアを受け取る荒巻。携帯端末にメディアを挿し、首の後ろの電脳端子に端末からケーブルをつなぐ。
電脳を介して荒巻の視界に映像が再生された。
  素子 「その男、北米ニュートロン社製の脊椎ユニットを搭載していた筈なのに、つぶれた筐体のパーツを集めても、元の筐体が組みあがらないことが判明」

「次は外務大臣と芸者のトイレ前の映像よ」
  荒巻 「芸者と?」
  素子 「ええ。彼、酔うと時々、芸者と体を取り替えて遊んでいたみたい」

「それは死亡した北米産業の役員よ」
  荒巻 「彼もその遊びに?」
  素子 「そこまでは……。トイレ内の映像は無かったわ」
  映像が早送りされ、女性がトイレの様子を見にやって来る。
  素子 「で、心配になった秘書官が登場」
  トイレの中を覗き込んだ秘書官が、恐怖に怯え後ずさる。
190 素子 「そこね、秘書官が襲われたのは」
  秘書官の背後から飛び掛る芸者ロボット。カメラにノイズが走り、次の瞬間にはトイレの入り口に秘書官が倒れていた。
  荒巻 「ウム……」
  素子 「死亡した北米産業の役員が最初に襲われ、その後に秘書官が襲われたと証言しているもう一人の北米役員の話とは食い違うわ」

「後援会長はかなり酔っていて詳細を覚えていないけど、初めに聞いたのは秘書官の悲鳴だった気がする、と警察では答えている」
  荒巻 「彼女は何を見たのか」
     
  料亭。

立ち入り禁止のテープが張られる中、警備の警官と敬礼を交わすトグサ。
封印のテープをしゃがんで潜り抜け、トイレ前の床に、秘書官の倒れていた跡を注視する。
トイレの中を見回すトグサ。手洗いの姿見を前に、自問する。
  トグサ 「彼女は何を見たのか……」
     
  回想シーン。
200 トグサ 「歩けますか、大臣」
  外務大臣 「ぅあぁぁ、ああ、助かったよ。ありがとう」
  よろめく大臣を支えるトグサ。途中、自力でバッグを持ち上げ、大臣は歩き出す。自力でバッグを……。
  トグサ 「はッ?!」
  電脳を使って記録画像を呼び出すトグサ。事件当時の映像が再生され、北米産業振興会の役員がトイレに入る直前から巻き戻される。バッグを手にトイレに近づく役員。
バッグに焦点を合わせ、クローズアップする。

1.85倍、2.70倍。

バッグは、大臣が持ち去った物と同一だった。
     
  トグサ 「アッ?! 少佐ッ!! 外務大臣の奴、芸者と体を入れ替える趣味があったって、証言ありましたよね?」
  素子 「ええ、それが?」
  トグサ 「大臣は、脳殻を積み替えられたんじゃないでしょうか? 敵の狙いが一之瀬レポートだとしたら……」

「必要なのは外務大臣としての容姿、外見だったのでは?」
  荒巻 「秘書官は大臣が脳殻を積み替えられるのを、見てしまった……」
210 素子 「イシカワッ!!」
  素子が怒鳴り、イシカワは素早く前後を確認すると、車を急発進させた。
  荒巻 「クボタッ!! 荒巻だ。外務大臣のことだが」
  クボタ 「たった今、外務大臣が北米産業振興会の連中と一緒に来て、市ノ瀬レポートを持って行った!! コピー不可の暗号プリントを渡したので、再デジタイズで若干時間稼ぎできるが……」
  荒巻 「外務大臣は今ドコだ?」
  クボタ 「空港に向かっている。北米産業振興会主催のパーティで挨拶をするため、アメリカに飛ぶらしい」
  素子 「バトーッ!! 装備L2(エルツー)で緊急起動、トグサとサイトウを拾ってそのまま空港に向かう」
     
  空港。

ロビー出入り口に、政府差し回しの専用車が3台停まる。
出迎えに走る空港職員。
  空港職員 「大臣、申し訳ありません。専用機が、天候不順で十五分ほど遅れているそうです」
220 外務大臣 「そうか」
     
  空港駐機場。

地上員がニンジンをかざし誘導する中、9課の専用VTOL機が垂直降下する。
  素子 「先に出るわ」
  素子とバトーが空中で飛び降り、地上員の間を走り抜けた。着陸後、サイトーが続き、トグサは荒巻と共に降りた。
     
  VIP用待合ラウンジ。

SPが警護する中、外務大臣が一之瀬レポートを読んでいる。
バーコードで記された文書をスキャンするが、所々でエラーが起きて読み取れない。
データ化できないことに苛立つ外務大臣。
  空港職員 「大臣」
  外務大臣 「ぬぅッ?!」
  苛立ちを隠せぬまま、空港職員に顔を向ける外務大臣。
230 空港職員 「お待たせ、しました……専用機が、到着したそうです」
外務大臣 「うむ」
     
  搭乗口。

搭乗カウンターに向かう外務大臣の背に、荒巻が声を掛ける。
  荒巻 「お待ちください、大臣」
  外務大臣 「ん〜?」

「君かぁ。夕べは助かったよ。一体何の用かね?」
  荒巻 「これを、お届けに参りました」
  荒巻は懐から書類を取り出し、外務大臣に手渡した。
  外務大臣 「何かね? ……病気療養に付き、公務を辞退致します……私がぁッ?! 後任人事とはどういう事だッ!!」
  荒巻 「お読みになった現在、貴方はもう大臣ではありません」
240 外務大臣 「何だとぉッ?! 何の権限でッ!!」
荒巻 「総理、並びに、与党役員会の承認事項です。何でしたらご確認を」

「議員、貴方には昨夜の事件で、スパイ容疑並びに諸外国への政治的亡命の嫌疑も掛けられております。ご同行、願えますかな?」
  外務大臣 「貴様ァッ!! 何様のつもりだぁッ!! ……あぅっ、あぁぁ」
  大臣の胸に、照準用のレーザーポイントが当てられていた。警護のSPが銃を抜こうとする。
  トグサ 「やめろッ!! 守るべき大臣はそいつじゃない」
  トグサがマテバを素早く抜き、外務大臣に突きつけてSPを牽制した。レーザーポイントは光学迷彩により姿を隠した素子達によって、3方から浴びせられている。

気押されて警護を解くSP達。
トグサが外務大臣にマテバを突きつけたまま歩み寄り、外務大臣が携えていたバックを慎重に調べる。

中には延命装置に繋がれた脳殻があった。
  トグサ 「脳殻を確保しましたッ」
  外務大臣 「うぅぅッうッ!!」
  荒巻 「お前が何者なのか、時間を掛けてじっくり訊くことになるだろう」

「連行しろ」
     
250 病院。

後部座席に荒巻を乗せ、車で待っている素子。
視線の先には、クボタと会話する中年の男女。ロボット芸者に襲われた、クボタの部下の両親。

話を終え、両親に一礼してクボタが歩いてくる。
クボタ 「彼女は電脳技術とマイクロマシンで、脳のサポート手術を受けるそうだ。言語野に多少障害が残るそうだが、日常生活に支障はないそうだよ」
  荒巻 「そうか」
  クボタ 「今回の事件、ウチで処理できなかったのは残念だが、礼を言うよ」
  荒巻 「事件直後、お前が踏ん張らなかったら、警察の突入、ロボットを射殺。で、一件落着」

「9課の介入も無く、今頃メディアは外務大臣の亡命スパイ疑惑で持ちきりだったろう」
  クボタ 「しかし、よくあんな短時間で政治家の説得材料や、関係書類を用意できたなぁ」
  荒巻 「備えあれば何とやらさ」
  クボタ 「天候不順など無かったのに、大臣専用機は遅れてくれたしなぁ」
  荒巻 「それが、公安9課だよ」
  クボタの腕を荒巻が軽く二度叩き、車は走り出していった。
260    
  おわり  
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